深夜のこと
「したい……」
不意にワトスンの寝室を訪れたホームズは、実に直接的な要求を口にした。
「私たちの間は、そればっかりか?」
気持ちよく温まっていたシーツをめくって、ワトスンは、ベッドに身を起こすと、枕もとの蝋燭に火を灯した。
「温かい会話や、触れ合いだって、あってもいいと思わないか?」
医者は、やっと眠るときになって聞いた、今日初めてのホームズの言葉に、諦めに近い寂しさを感じている。そして、眠気も。
それでも、探偵の我儘になど慣れた医者が、欠伸を噛み殺しながら、身を起こしベッドの端に腰掛ければ、警戒心をありありと浮かべたままホームズは、近づいてきた。
膝の上へと乗ってきたホームズの左側から掬いあげるようにして、ワトスンが唇を塞ぎに行けば、最初、大人しく触れ合うだけの口づけをホームズは受け入れていた。
だが、甘い音を立てて唇が離れると、今度は、ホームズの方が覆いかぶさるようにして襲いかかって来る。頭をきつく抱く彼の指は、ワトスンの頭皮に爪をたて、隙間なく口を覆ったまま舌に貪りついてくる。強引に膝を進めて、腰を挟み込む形で、全身を押さえ込んでくるホームズは、舌をもぎ取ろうとするような強引で性急なキスをする。
懲らしめるつもりで、きつく尻を掴むと、鼻に抜けるかすかなに甘い呻きとともに、更に熱心になってしまった。
追いすがる勢いのホームズを強引にもぎ離し、ワトスンはため息をつく。
「……ホームズ」
だが、情欲にかすんだ瞳を潤ませ、濡れた口元から、はぁはぁと荒い息を吐く思い人を間近に、制止を求めておくことなど、ワトスンにもできることではない。
胸で荒い息をしながら、ホームズは、懸命な自制心を発揮して、ワトスンの言葉を待っている。
だが、ワトスンに出来たのは、キスの形で開いたままのホームズの口を塞ぐことだけだった。
熱い吐息を自分の口の中へと奪う。
「っ、ワトスン……、僕たちには、おしゃべりがっ、……必要、なん、だろうっ?」
キスと、それ以上のことを欲しがっているくせに、こんな時に、会話したがる口は塞いでおくに限る。
「僕は、君の意思を、尊重、しようという、っ、努力を」
「ああ、したとも。してくれたとも、ホームズ。だから、しっ、黙って」
結局、医者は、探偵の思惑どおりとなったのだ。
十分な筋肉を蓄えながら、柔らかな肉質の身体は、手触りがいい。ナイトシャツ越しに腰から尻にかけてのなだらかな曲線を撫で降りていくと、膝の上の重いホームズの尻が焦れるように動く。
シャツの滑らかな表面を撫でる手が、上に向かって、生地越しにもわかるほど、勃ち上がっている小さな胸の尖りを撫でつぶせば、腰の上へと圧し掛かりじわりと熱の伝わる尻は、意識してか、しまいか、ことさら、ワトスンの前へと擦りつけられる。
恥知らずなホームズの乳首を、舌でかわいがる時と同じくらいしつこく指先で弄り続ければ、嫌がるように身を捩るホームズは、まだ、声など上げたくないと、ワトスンの肩を噛んだ。
立てられた歯の痛みに、ぞくりと、ワトスンの腰は痺れた。
「お互いのために、会話と、節度ある触れ合いは、これが終わってからにしよう、ホームズ」
答えを待たず、膝に抱くホームズのシャツの裾を、ワトスンはめくり上げていた。
重く丸く張り出した尻の谷間に指を忍ばせ、小さな窪みをさぐりあてる。
ここを訪れる以上、準備のいい彼のそこが、濡れていないはずはなかった。はたして、窄まるそこはぐしょりと濡れている。指は、柔らかな肉筒の中へとずぶずぶと簡単に埋まっていき、ホームズの口は切なく開けられる。
熱くぬめった肉襞の中を、無遠慮に指で抉り広げれば、ホームズは両腕でワトスンの首にすがった。
少し俯けば、ナイトシャツを盛り上げるホームズの乳首がワトスンの口元にはあって、生地の上から、ワトスンはそれを吸った。生地に唾液の染みが付くほど、吸い上げながら、尻に含ませる指をこそりと一本増やす。
ぎちぎちと、腔口を広げながら潜り込む指に、跳ねるように、膝の上の尻が振られた。
「……んっ、っ!」
指の股が窄まりの縁を擽るほどずぼりと含ませたまま、胸を吸っていると、ホームズがおずおずと窺うように顔を寄せ、キスを求める。
「君が……っ、それを、許して、っくれるなら、僕は、ぜひ、っ、……そうして欲しい、っ」
一瞬、ワトスンは、何を言われたのかわからなかった。
だが、唇を合わせたホームズが長い間、舌を挿し込んでこなくて、ようやく、思い当たった。
「怒ったわけじゃない。ホームズ」
「明日の朝、……っ、必ず、君の、話を、聞くからっ」
それが今の精一杯なのか、ホームズは、柔らかな頬を擦りつけて、触れ合ってみせようとする。
ワトスンは、唾液が顎をつたって落ちていくのも構わず、ホームズの口内を貪ると、手に余るほど大きい尻を両手で掬って持ち上げた。
「じゃあ、明日の朝、必ず」
尻の谷間を左右に割り開くようにすれば、さすがに、その時は、この恥知らずの男も、襟元の白い肌が、真っ赤に染まる。
だが、ホームズは、自分からワトスンのシャツの裾をめくり、切っ先の上へと位置を定めて、ゆるゆると腰を落としていく。そして、甘く鳴く。
「ホームズ、自分で動けるだろう?」
だが、ほんの3、4度、腰を上下させてだけで、あっと、声を上げると、ホームズは、ぎゅっと、腔口を締め、前を爆ぜさせ、ナイトシャツの裾を汚してしまった。それは、あまりにあっけなく、ワトスンがホームズの動きに、息を合わせる間もない間のことだ。ワトスンの肩へと顔を埋めて、ひくひくと身体を震わせている男は、やっと息が落ち着き始めても、首へとしがみついたまま顔を上げることができずにいる。
ワトスンは、ホームズの背中をあやすように、ポンポンと叩いた。
脱力に重みを増した身体を膝の上へと抱いたまま、ワトスンは、ホームズの髪へと頬を摺り寄せた。
「君の気分が落ち着くまで、このまま抱きしめていてもいいかな、ホームズ?」
そして、結局、探偵も、医者の思い通りになったのだ。
END