右耳

 

「ワトスン、おい、ワトスン、起きろ、ワトスン!」

深夜となれば互いの部屋を訪ね合わないというのは、プライバシーを守りあうために最低限必要なことだった。だが、扉が開いたことにも気づかぬほど深く眠っていたワトスンを揺り起こし、この真夜中に何がおかしいのかにやにやと笑うホームズは、人並み以上の明晰な頭脳を持ちながら、昼と夜との区別がつかないにかわいそうな男なのに違いない。

「……なんだ、ホームズ」

寝台に肘をつき、半ば身を起こしたワトスンの眉の間には深い皺が寄っているというのに、すぐ脇へと、弾むようにしてホームズは腰掛けた。

「君は一旦眠ると、すぐそばに砲弾が落ちてきても気づかないのかもしれないな。こんなに呼んでやっと目覚めるなんて、僕は、君の聴覚が心配になるよ」

友人の不機嫌など気にもかけない澄まし顔で、マッチを擦って、ランプに火を灯したホームズは、いきなり体の重みを感じるほど近く、ワトスンへと覆いかぶさってきた。

「おーい、ワトスン君、聞こえているかい?」

左耳のすぐそばで、大声で喚かれて、ワトスンは思い切り顔を顰めた。

「ふざけるのはやめろ、ホームズ!」

ワトスンの身の上の身体は、腕が払うよりも先に、逃げている。

ホームズは、一人、にやにやと楽しげだ。

「よし、よし、どうやら、左は聞こえているようだな」

「耳は正常だ。朝になれば君に起こされなくとも目だって自然に覚める。今は、真夜中なんだぞ、静かにしろ、ホームズ」

「いや、いや、僕は、君のことが心配なんだ、ワトスン君。医者の無養生と言うだろう? 君は患者にはとても注意深い性質だが、自分のことには無頓着だ」

にやりと笑ったホームズの顔に嫌な予感を抱いたワトスンは、ホームズが次に起こす行動を阻もうと腕を突き出していた。しかし、この友人の嫌なところは、普段あれだけ怠惰なくせに、やたらと勘よく、身体を使うことに長けているところだ。

突き出した腕を一纏めに脇へと抱え込まれた悔しさにワトスンの顔が歪んだ時には、もうホームズは、ワトスンを自分の身体で押さえつけるようにして圧し掛かっていた。

体重も、身長もワトスンが勝る。だからこそ、この名探偵のボディーガードとしての役割を時折果たす場面もあるというのに、ワトスンは、ポイントをうまく押さえ込んできているホームズの身体を押し返すことができない。

それを得意げにするホームズをワトスンは強く睨みつけた。だが、勿論、ホームズは、気にしたようすもなかった。それどころか、ますます得意げな笑みを深め、ち、ちっとからかう様に舌を鳴らしてみせさえする。

「ホームズ!」

振り落とそうともがいた医者の両腕を捕えて、寝台へと磔にした探偵は、大きな目を嬉しそうに動かすと、ワトスンの右耳にかぶりついた。

「あー、あー、本日は晴天なり。聞えるかい、ワトスン君?」

ワトスンの鼓膜を破るつもりなのかという程の大声を耳のすぐそばでホームズは出す。

「ホームズ!」

ワトスンは眩暈がするほど頭を振って、寝台の上で暴れた。だが、ホームズは、叱ろうともじゃれ続ける駄犬ように、ワトスンの耳にくらいついて離れない。

「君は、右耳と、左耳の構造がほぼ同じなんだ。実に美しい形をしている。知っていたかい?」

「ふざけるな、ホームズ!」

「よかった。どうやら、右の耳も、ちゃんと聞こえているようだね、ワトスン君」

そこまで、真夜中だということを全く考慮に入れない大声を出していたホームズは、そこで、いきなり声をひそめた。

「実は、ワトスン君、実は、君にちょっとした用事があるんだ」

囁きとともに、べろりと耳の縁を舐められた。

途端に、背中を駆け上がる奇妙な感覚に、ワトスンはぶるりと身体が震えるのを止められなかった。

ワトスンの上に乗り、押さえつけているホームズが、くつくつと笑う。

「実に、面白いね、ワトスン君。君みたいな偉丈夫が、どうしてこんなに耳だけ弱いんだろうね」

もう一度近づいた唇に、ふーっと優しく耳の中へと息を吹きかけられ、ワトスンは真っ赤になった。手首を掴むホームズの手を振り解こうと、唸り声を上げもがく。しかし、ホームズの手は、どうしてこう、こんな時ばかり力強いのかと思う程、手首に食い込み、一本たりとも離れはしない。

唇も、ワトスンの左耳へとぴたりと寄せられたまま離れない。

「しかも、ワトスン君、君の場合、弱いは、敏感と同意語だ。それも、性的にという意味でだよ。これほど性感的な部分を、堂々と晒したまま日常生活をしている君は、もしかすると、性欲過剰の淫乱性なんじゃないかと僕は心配になる時があるよ。だって、ほら、たったこれだけ、僕が囁いただけで、君は、もう、こんなだ」

だが、ホームズがしていたのは、囁くだけではなかった。言葉の合間には、ワトスンの耳を甘噛みし、湿った舌が耳の付け根をしつこく舐めまわしていた。囁きだって、声よりも耳の中へと吹きかけられた息の方が多かったはずだ。

確かに、ホームズの指摘通り、たったそれだけの刺激でワトスンの下腹部で主人と同じようにやすらかに眠っていたはずのものは、猛々しく熱を滾らせていた。

ワトスン自身、自分がやたらと耳が敏感なことだって知っている。特に、右はだめだ。

しかし、日常生活において、無防備に耳を晒していようと、どれだけの人間が、触れんばかりの距離で話しかけてくるというのだ。親しくとも良識ある人であるなら、そこまでの距離を近づかない。秘密の話をというのなら、ワトスンは左耳を差し出す。わざわざ、右を狙って、まさしく息の吹きかかる距離まで身を詰めてくるのは、ぐいぐいと腰を押し当て、ワトスンの現状をからかうこの男だけだ。

「僕は、若く健康な男だから、刺激を受ければ、これは仕方のないことだ」

「お医者様のおっしゃることは正しいが、味気ない」

せせら笑いながら見降ろしてくるホームズは完全にワトスンを馬鹿にしている。

「ホームズ、真夜中だ。出ていけ」

ワトスンは、自分の上に圧し掛かるホームズを睨み上げ、怒りに声を低めた。

しかし、ワトスンの最悪の友人に、その効き目はなく、それどころか、ホームズは興味津々といったきらきらと輝く目をワトスンに向ける。

「僕を追い出して、それから、君は何をするつもりだ?」

何をするもなにも、嫌というほど、ホームズは腰にワトスンの高ぶりを感じているはずなのだ。

「…………本当に、君という奴は、悪趣味な男だ!」

「ああ、そうだとも、そんなこと、君はとっくに知っているだろう?」

その時、怒るワトスンが、ホームズの身体を振り落とすことに成功したのは、自分のしかけた悪戯の成果が思い通りで調子にのる探偵が、ほんの少し気を緩めたせいだったかもしれなかったが、やはり、それも、探偵の策略の一つだった可能性の方が高かった。

探偵と医者の間には、表向きの友人関係の他に、人には決して公表できない、親密過ぎる関係が、かなり長い間隔をあけながら、しかし、途切れることなく繰り返されていたのだ。

ワトスンが腹を立てるに十分な、ごく身勝手な周期で、極私的な欲求を解消しようと探偵はワトスンの寝室を訪れる。

自分に盛りの時期がきたからといって、それまで知らん顔をしていたホームズに、いきなり迫られても、ワトスンは腹立たしい。それが、眠っていたところを叩き起こされるような真夜中であるのなら、さらに腹も立つ。その上、ベッドにねじ伏せられたホームズが、期待に満ちた目をしてにやついていれば、もう、ワトスンが怒らないでいられる理由などどこにもなかった。

ワトスンは、ホームズの鼻に触るほど、間近まで顔を近づけた。

医者は、獰猛な唸りを上げたがり、ひくつく口に無理に笑みを浮かべる。

「ホームズ、君のちょっとした用事という奴が、やっと僕にもわかったよ」

「なんだ、やっとかい、君は本当に察しの悪い男だな」

軽蔑の眼差しで見上げるホームズは、ワトスンの努力を無駄だと挑発した。実に憎らしい態度だったが、そうくることは、ワトスンにも読めていた。だから、殊更ワトスンは、冷静を装い、いっそ突き離した医師としての態度で、身体の下に敷き込んだホームズを見下ろした。

「僕の耳に過度の刺激を与えた君は、僕のものが機能するのかどうか確かめたかったようだが、それは、裏返せば、君のものが正常に機能するのかどうか、心配だという不安の表れに違いない。なるほど、君も若いとばかりは言えない年に差し掛かってきている」

「なんだって?」

医者から気に障る指摘をされ、顰められたホームズの眉間に寄るのは、深い皺だ。

「君は、あまりに使っていなくて、自分のものが勃つかどうか不安になったんだな。不安のあまりいてもたってもいられなくなって、こんな真夜中だというのに、君は僕に診察してもらいたくなった」

「ちょっと待ってくれ、ワトスン、君は誤解している。いや、君は察しが悪すぎる。僕は、君と、その、……しばらくしていなかったあの行為をしようと……」

「真夜中というのは、ちょっと迷惑だが、……いや、気にしなくてもいいホームズ、大事な友人の危機だ……なんて、言うわけないだろ、ホームズ! 君の魂胆など、勿論わかっている。しつこく耳を攻めさえすれば、僕のが勃つからといって、僕そのものまで君の思い通りにはならないってことを、一度君にはしっかり教えないといけないようだ」

 

ワトスンの寝台に夜這いをかけているホームズがそれを必要とする回数は、ワトスンが求めるよりも、ごくわずかではあったが、確かに、ホームズはその行為に快感を覚える性質だった。

ちなみに、その行為とは、法律で禁じられ、そして、宗教においても、禁忌とされる。

つまりは、ホームズは、ワトスンの灼熱のもので、尻の中を突かれたり、掻き回されたりするのが好きなのだ。

「君は何をする気だ、ワトスン!」

「何って、君の大好きなことだ、ホームズ」

「……本当に?」

だから、ホームズが寝台に潜り込んでくれば、必ず二人の行為は、そこまでいきつき、ワトスンは、それまで溜めこまされていたフラストレーションもあって、ぬるついたホームズの尻の穴を、思いの様にぐちゃぐちゃと突きあげ、結果として、全ては、快感に喘ぐ探偵の思い通りとなっていた。

そして、今、疑い深くワトスンを見上げるホームズが、今夜、執拗に右耳へと狙いを定めてきたころからも、ワトスンを手早くその気にさせ、それをしようと望んでいたのは、わかりきったことだった。

身体に負担がかかるというのに、ホームズは、オーラルだけでは満足しない。

例え、ワトスンが口でしてやったとしても、射精後、自分から尻を擦り寄せてくる。

ワトスンは、夜着の下へと手を潜らせ、下着の中へと黙々と手を進ませた。

落ち着かない瞬きを繰り返しながら、じっとワトスンを見上げるホームズは、悋気を隠さない友人の態度に、どんな手酷いことをされるのかと不安を抱いてはいるようだが、直接肌に触れた手を拒むことはしなかった。それどころか、しおらしげに、腰を上げてワトスンの手が下着を下げるのまで手伝おうとする。

普段と比べて、探偵の鼓動が早かった。

だが、ワトスンが手の中に握り込んだペニスは、ホームズよって、弱い右耳へと刺激を受けたワトスンのもの比べ、まだ硬さに芯がなかった。

「君は、本当にやる気があるのか? それとも、やはりこれは精力の減退の表れか?」

医者からの意地の悪い指摘に、ホームズはむっと顔を顰めた。

「僕は、君のように恥知らずというわけじゃないというだけのことだ」

 

身体を二つに折って、ワトスンの手から逃れようともがくホームズの股間は、ぬるぬると零れ出している先走りが、つるりと丸い敏感な先端のすべりを更によくしている。

「やめろ、ワトスン、やめろ。やめるんだ」

「なぜ?」

ワトスンに長期の禁欲を強いるホームズだが、彼にだって欲求がないというわけではない。

同じだけの期間、いや、下手をすると、ワトスンが取る自己処理という手段すら、しない可能性のある怠惰な彼は、もっと欲求を溜めている可能性が大きかった。そんなホームズが、どだい快感に長く耐えることなど無理だった。

「なぜ、やめる必要がある、ホームズ? 君は気持ちがいいんだろう?」

「嫌だ。僕は、こんな風にしたいわけじゃないんだ。それは君もわかっているはずだ!」

いつも必ずホームズの手の上で転がされることに腹を立てていた医者は、どれだけ懇願されようと探偵の尻の中には、指すらも触れていなかったのだ。

隙間なく身体を包み込むように、背中から抱き込むワトスンは、濡れそぼつホームズのペニスをしっかり握って扱きながら、先ほどされていたようにしつこく探偵の耳の付け根を舐めまわしている。嫌がってホームズは首を竦めていた。しかし、ワトスンが力強く抱きしめているため、遠くへ逃げることはかなわない。

懸命にもがくホームズの尻の谷間には、岩のように硬いワトスンのものも、まるで威嚇するがごとく、押し当てられていた。

だが、押し当てられているだけだ。どれだけねだっても、それは、与えられない。

「僕がしたいのは、こんなことじゃない。もっと、その、……君はわかっているはずだ。君のもので!」

ワトスンの手の動きを阻もうともがきながら、またホームズは懇願を繰り返した。

しかし、ワトスンの手は、きつく前を扱くばかりで取り合わない。

下腹に渦巻き、時に激しくせりあがりそうになる熱いものに、ホームズの腰はガクガクと震え始めている。

「僕のもので、どうするって? 僕のもので、君の尻の中をめちゃくちゃに擦り上げられながら、いきたい? 尻の穴に、僕のものを嵌めたいっていうのか、ホームズ? でも、もう君には無理だろう?」

ワトスンは、意地を張る探偵の耳を甘く噛んだ。濡れた瞳をせつなげに揺らすホームズの腰へとついた肉は、切羽詰まった欲求にぶるぶると震えている。

「君は、僕にきたない言葉を使わせたいのか? それが、ワトスン、君の欲望をそそる? 全くの俗物だ!」

「そうだとも、そんなのとっくに君にわかっていたことだろう? どうして欲しいんだ、ホームズ?」

熱をもった硬いものは、尻の間を擦りあげ、焦らすばかりで、ホームズの飢えを煽りたてている。

「君の強大なものを、僕は尻に嵌めて欲しいんだ、ワトスン!」

「僕は、君のものが欲しい!」

濡れた目で振りかえったホームズは、噛みつくようにして、ワトスンに口づけてきた。

むさぼるようなホームズの口づけに、ワトスンは熱心に応えた。

しかし、絡んでいた舌が離れると、この医者は、じっとホームズの目を見つめ、冷たく告げた。

「駄目だ。ホームズ」

 

ホームズは、ワトスンの大きな手で擦られる刺激に、もう射精を我慢することができなくて、唇から獰猛な唸り声を上げつつ、懸命に射精をこらえていた。だが、禁欲期間の長いホームズには、所詮勝てる余地のない戦いだった。

ホームズは、はっ、はっと短く息を吐き出し、下腹を疼かせる快感を少しでも逃がそうとしている。

ワトスンの手によってぬるぬるなったものを揺らして、腰をくねらせる探偵は、それでも、どうにかワトスンの気を変えようと、硬いそこへと尻を押し当ててきた。

だが、ワトスンは反対に、ホームズの腰を引き寄せ、ホームズの欲しているものの、硬さと大きさを更に知らしめた。そして、そこに、押し当てたまま、挿入を真似てぐっ、ぐっと腰を揺する。

渇望を覚えている場所への刺激に、たまらなげにホームズの喉が鳴った。

「ワトスン! 意地の悪い真似はやめろ! 僕はそれで気持ちよくなりたいんだ。君だって入れたいはずだ!」

「ああ、君の気持ちのいい穴の中に僕だって入れたいよ、ホームズ。だが、君が欲しがっているから、今日は入れない」

「なんて君は嫌な奴だ!」

「そんなの君は知ってることだろう?」

 

 

 

事、人体に関していえば、ワトスンが専門だ。ロンドン一有名な探偵も、この分野においては、ワトスンに助言を求めるほどだ。

手淫だけで射精するのを拒み、噛んだ唇に穴が開くほど、歯を食いしばって意地を張るホームズのせいで、医者はとうとう一本の指を、ホームズの体内へと与えることになってしまったが、その指が、狭く肉厚な筒の中で鉤型にくいっと曲げられると、あっけなく、ホームズのペニスは精液を噴射していた。

自分で舐めた指を医者が、尻肉を割り、硬く皺をよせた窄まりへと中指を埋めてから、それは、10秒たらずの間に起きたことだ。

激しい快感に、びくびくと身体を痙攣させるホームズは、ワトスンから与えられた唯一の指を、しっかりと締めつけながら、背を弓なりに逸らして、狼のように吠えた。

「あーーー!」

途中、息が詰まったのか、ひゅっ、ひゅっと喉から苦しそうな息を吐き出すと、激しくせき込み、探偵はそのままベッドに倒れ込む。

「ホームズ、君は、忙しい男だな」

いまだ、強く指を噛む、濡れた肉の間から、ずぼりと中指を引き抜いたワトスンは、げんなりとした顔をした。

しりきりと腰をくねらせ、わななく湿肉で、指を締めつけてきていたホームズのクライマックスには、思わずワトスンをぞくりとさせるような色気があったのだ。それが、今は、後戯へと続くはずの甘さを吹き飛ばすほどの勢いで、げほげほと咳き込んでいる。

ホームズがむくりと顔を起こした。

「君が、意地の悪い、真似をするからだ……!」

いや、医者は、思い直した。濡れそぼった目で睨んできたホームズは、性感を極めたせいで身体に潤みを増し、たっぷりと色気を湛えていた。このままホームズをベッドから突き出す予定の医者は、引き摺られそうになる気持ちを引き締める必要があった。

それが褒められる種類のものであろうなかろうと、自分の欲望を叶えるためならば、しつこいまでの執着心をみせる探偵は、あきらめが悪い。

咳が収まれば、やはり、ホームズは、ワトスンににじり寄ってくる。

「ワトスン君、君の前は、ずいぶんきつそうだ」

「心配は無用だ。ホームズ」

「僕だけだなんて、そんなのは君に悪いだろう?」

「君はそんな殊勝な心根の持ち主じゃないはずだ」

じっとりとワトスンの盛り上がりを見つめるホームズは、もっともらしく提案した。

「じゃぁ、つまらない意地を張っている君がどうしても嫌だっていうんだったら、アナルセックスはやめておくことにしよう。代わりに、ワトスン君、やはり僕だけだなんて、君に申し訳なさすぎるから、僕が君のものに口で奉仕しようじゃないか」

ホームズはにこやかに笑う。だが、これは、卑怯な探偵の手口だった。

まるで心からの申し出のように聞こえる台詞だが、……この探偵は、おそろしくフェラチオが下手なのだ。どれだけやっていようとも、ワトスンを射精に導くことはできず、そのうちには、我慢できなくなったどちらかが、もうその行為に見切りをつけて、結局、ホームズの望むセックスの形へとなだれ込むことになる。

だが、ワトスンは、今日はしないと決めたのだ。

ワトスンは腰の上と屈みこもうとしていたホームズの肩をぐいっと掴んだ。

「ホームズ、君はへたくそだから、遠慮する」

茫然と言った面持ちで、ホームズの口は開かれたままになった

そして、一瞬後、名探偵の頭脳の回線はつながった。

「…………君は、本当に失礼な奴だ。ワトスン!!」

 

 

 

 

精一杯見栄張り、探偵を寝室から立ち退かせた医者は、うなだれ深いため息をついていた。

正直なところ、この医者の股間は、きまぐれな探偵が、与えられなかった欲望を我慢しきれず、一週間もしないうちに、もう一度この部屋を訪れてくれることを、激しく切望していた。

 

 

END