足フェチ
「それを、どうするの?」
グレイスミスは、足元に蹲る同僚の記者に聞いた。ポール・エイヴリーは、その気の強そうな目をそらしてしまう。だが、エイヴリーは、最早半裸で、前を勃たせたズボンのボタンも外れ、ジッパーは半ば開いている。それに対する、グレイスミスはといえば、エイヴリーに脱がされた靴下だけが足りないだけだ。
ねじ曲がった功名心でゾディアック事件へと執着する記者が、グレイスミスを連れ込んだのは、新聞社からさほど遠くないモーテルだった。壁紙の一部が破れ、そこから色の剥げた下の模様が見えている。だが、社の休憩室や、会議室でできない会話を交わすために、エイヴリーがここへグレイスミスを呼んだわけではないのは、今の記者の格好をみてもわかることだ。
エイヴリーは、鍵でモーテルのドアを開けるなり、グレイスミスをベッドに座らせ、その足に身体を摺り寄せた。気位の高い記者は、自分で眼鏡を外し、だが、うっとりと目を潤ませたまま、ジーンズに包まれたグレイスミスの太股に額ずくように唇を寄せた。そのままグレイスミスの両足を抱き込んで、せつなそうに股間を擦り寄せてくる。
脛を擦っていくものは、それが触った最初から少しばかり硬かったが、エイヴリーが後ろ足で立ったまま足へと纏わりつく犬のような、はしたない行為を繰り返すうちに、もっと硬くなっていく。記事を書くために徹夜でもしたのか白かった記者の頬は、色を取り戻していた。濡れた息を吐き出す口が緩く開いて、睫毛を閉じたエイヴリーの顔は、官能にどっぷりと浸ったセクシーさだ。はぁはぁと、息を乱しながら、抱いた膝にシャツの下の胸の尖りを押し付けてくる。
社の中では、グレイスミスに触ることさえ許さない彼らしいセンスの個性的なシャツは、自慰に近い行為に皺が寄っていた。それをエイヴリーは自らボタンを外し、もどかしそうに腕を抜く。エイヴリーの顔が、グレイスミスの腿に埋められ、深く満足そうにエイヴリーは息を吸う。そして、また、下肢を擦りつけ始める。
「足、上げろ」
休憩室にいたエイヴリーには顎で来いと示されただけだったから、これが今日、初めてグレイスミスの聞くエイヴリーの言葉だった。
エイヴリーが膝をつく、最早元の色が怪しい程のカーペットの上から足をあげれば、靴ごとグレイスミスの足を、エイヴリーは胸に抱きしめる。胸の鼓動は早く、靴先に感じられるほど、乳首は硬く勃っている。
潤んだ目でエイヴリーはグレイスミスを見上げると、せわしなく靴を脱がし始めた。靴下を脱がしながら、たまらないといいたげに、エイヴリーの唇がくるぶしへと押し当てられる。
つま先がエイヴリーの唇のすぐ側へと連れ去られ、エイヴリーの口が開けられる。グレイスミスは、おはようと、どこに行くの?の次の言葉をやっとエイヴリーに投げかけた。
「それを、どうするの?」
エイヴリーは、気の強そうな目をそらしてしまった。つま先からほんの一センチのところにある唇は薄く開いたまま震えている。
「ねぇ、何をするの?」
ベッドに腰掛けたままのグレイスミスは、足元のエイヴリーを見下ろす。
そらしていたエイヴリーの目は、いつのまにか、吸い寄せられるようにグレイスミスの足をうっとりと見つめ、口からははぁはぁと忙しげな息が漏れていた。やがて、記者の赤い舌が伸ばされ、抗うことができないと言いたげにグレイスミスの足の指の爪に触れる。生温かなものが触れたと思った一瞬後には、親指も、人差し指も、エイヴリーの口の中に含まれていた。舌よりも口の中のほうが熱かった。社のホープ記者は、大きく口を開けて、グレイスミスの足を舐める。口内の柔らかな粘膜を爪が傷つけそうな気がして、思わず足を引いたグレイスミスから、エイヴリーは、必死に足を取り戻す。
グレイスミスの足の裏も、踵も甲も全てエイヴリーの舌が這っていき、熱い舌が触れて通った後は、空気が触れるとひやりと冷たかった。舐めながら、股間が疼くのか、しきりにエイヴリーは身体を揺すり、たっぷりと肉を付けた太股を擦り合わせている。
「かわいいね」
生温かで、湿る舌で足を舐められるのは、さほど気持ちのいいことでもなかったが、顔中を自分の唾液で汚しながら、足を舐めて興奮に息を乱す敏腕記者を眺めているのは、全く悪くなかった。口に足の指を含んだまま、頬を赤くしたエイヴリーが潤んだ目で見上げてくる。足に執着しているときのエイヴリーは知性を忘れたような顔だ。
「満足するまで舐めた?」
もともとバーで女の品定めをする時でも、かならずエイヴリーが最初に目を付けるのはすらりと長い足で、生来そういう嗜好があったのだろう。それが、あるきっかけで、グレイスミスの知ると事となった。
ゾディアック事件の記事の取り上げられ方に、むしゃくしゃして、馬鹿ほど飲んだ晩に、完全に理性を手放していたのは、エイヴリーの方だ。気になっていた男を不器用にでも、ベッドに誘うことができた程度には、グレイスミスは理性を残しており、そして、エイヴリーは、驚きで目を見開くグレイスミスの足に両足を絡みつかせて股間を擦り、そこで射精してしまうほどにふっとんでしまっていた。
抱き込んだ膝に軽く歯を立てたまま、はぁはぁと泣きそうに腰を揺するエイヴリーに、グレイスミスが動揺したことはいうまでもない。
「……それが、好き、なの?」
いつも、澄まして風刺漫画家など見下しきった男が、しきりの足へと頬を摺り寄せている。グレイスミスが精液でぬるりと汚れた足を取り戻そうとすれば、子供のようにしがみついてくる。
「酔っぱらってる?……って、そうだよね。相当酔ってる……のは、わかってる。……そっか、エイヴリーは、そうのが好き、なんだ」
足指をまだ舐め足りないというのに、取り上げようとするグレイスミスを不満そうに見上げてくるエイヴリーの顔を眺め下ろすグレイスミスは、そろそろと思い、記者に怪我をさせないよう気遣いながら、エイヴリーの口の奥へとつま先を押し込んでいった。熱い舌が足の指の付け根に触れ、ぐぅっと、エイヴリーの喉が鳴り、嫌がるように顔を振られる。吐き気が我慢できす、とうとう記者は足を吐き出した。その顔に少し頬笑みかけて、やっと、グレイスミスはエイヴリーの唾液ですっかり濡れてしまった足を取り戻す。
大事なものを取り上げられたエイヴリーは、困惑に瞳を揺らしてグレイスミスを見上げてくる。
「なぁ……おい、足」
自分でも自分の嗜好に、戸惑いがあって、エイヴリー自身、普段ほどはグレイスミスに強く出られない。だが、エイヴリーに、この秘密の趣味を最高に満足させてくれる相手は、グレイスミスしかいなかった。エイヴリーは、普通の足じゃ嫌なのだ。脛が長く、足首が締まっていて、まっすぐに長い指を持っている足が最高なんだと、夢見るような瞳で、エイヴリーはグレイスミスの足を見つめる。
「ジーンズ脱いであげるからさ、エイヴリーが自慰するところをみせて」
足に股間を擦りつけているだけで、いけるエイヴリーはいいが、それだけでは、グレイスミスは満足できなかった。エイヴリーに要求を突き付けることができる機会なんて、こんな時しかない。
エイヴリーはきつく舌打ちしたが、グレイスミスに、それ以上手間をかけさせることなくベルトを抜いて、ジッパーを下げた。言われるよりも先に、もぞもぞと太股の辺りまでスラックスと下着をずらす。もともと、グレイスミスの足に発情し、脱いだ下着には染みができているほど勃起させていたのだ。例え自慰を強要しなくても、グレイスミスの足に擦りつけている間に、いってしまう。
取り出したものを握って水音をさせながら扱き始めたエイヴリーに、強く視線で求められ、グレイスミスもジーンズに手をかけた。
ベッドから軽く腰を上げれば、エイヴリーの目が期待に潤み、グレイスミスはかすかに苦笑する。脱ぎ始めれば、口を閉じることまで忘れて、馬鹿のようにエイヴリーは足ばかりを見つめている。
腿まで下ろしたジーンズを、待たすことなく足首から抜くと、途端にエイヴリーが生足へとしがみついてきた。頬を摺り寄せ、匂いを嗅ぎまわるようにしながら、口づけを繰り返す。
求めるまでもなく、自慰する腕は、懸命に自分のものを扱いていた。にじり寄せた身体を足へと擦りつけ、はぁはぁと息を荒くする。
「な、お前の足に、これを」
だが、それだけでは物足りなくなり、直接擦りつけてもいいかと、エイヴリーは興奮に頬を火照らせていた。
「ダメ」
グレイスミスは拒否した。
「足には好きなだけ触っていいけど、ちゃんとエイヴリーが自分で自慰していくところを見せてくれなきゃ、俺がいけないから」
足に発情したペニスをはしたなく勃たせたまま、エイヴリーは悔しそうに目を吊り上げた。興奮に息を荒げている口の周りは唾液で汚れ、吊り上げた目元が赤い。
「でも、舐めていいよ」
足を広げたグレイスミスが甘い餌を投げると、途端に、エイヴリーは、吸い寄せられるように、まず膝へと口を寄せた。濡れた舌が、膝小僧を舐め周り、次第に脛を下へと降りて行く。グレイスミスはくすぐったさを耐えるのに大変だ。文句を言いたげだった口は、もうそんな憎らしげな様子を忘れ、夢中になって舌を伸ばす。ぴちゃぴちゃと子猫がミルクを舐めるような音が止まらない。エイヴリーが自分のペニスを扱く水音も伴奏する。
グレイスミスは、そんなエイヴリーの姿を見ながら、下着の中に手を入れ、自分のものを扱き始めた。足に執着する人は、足首を舐めるために、カーペットの汚れにも構わず、寝そべってしまっている。足を舐めるために丸めた身体の下腹では、せわしなく上下する手の中からはみ出す反り返ったものが、先端からとろとろと涎を垂らしていた。
エイヴリーは、自分が今、どれほど卑猥な状態なのか、まるで気にもかけず、赤い舌を伸ばして、グレイスミスの甲を舐め続けている。
「っ、ぁ、あっ、……あ!」
「っ、ぁ、いきそう……だ」
びくびくと大きな尻を震わせるエイヴリーは、クライマックスにご褒美を欲しがり、すっかり濡れた目でグレイスミスを見上げてきた。記者は、生の足に、直接それを擦りつけたいのだ。
興奮に荒い息を吐く口を開けたまま、エイヴリーは強請っていた。
だが、グレイスミスは、横に首を振った。エイヴリーの目が悔しげに潤む。
それでも、エイヴリーは、結局我慢できず、舐めているだけで、身体の色をピンクに染めて、いってしまった。
エイヴリーの手を汚した精液が、カーペットの上にどろり飛び散る。得体のしれない染みの間に、また、ひとつ、汚れが増えた。
射精後もびくびくと身体を震わせながら、息を喘がせ、エイヴリーは、顔を伏せたグレイスミスの足の上から離れようとしない。
次第に力を失っていくエイヴリーのペニスを眺めながら、グレイスミスは、足の上の顔をカーペットの上へとそっと落とした。痛くもなかったはずなのに、不満げにエイヴリーは目を上げる。ジェイクは手招きした。
「これを舐めて。そうしたら、足でそれを踏んであげる」
くしゃくしゃに髪を乱した人気記者は、ごくりと喉を鳴らした。
目の前に突きつけられているものは、勃起したペニスだ。傲慢な記者は、普段、グレイスミスを見下し、馬鹿にしきっていた。だが、それを舐めるために、エイヴリーは口を開ける。
熱い口内の粘膜が、グレイスミスのペニスを包んだ。
エイヴリーの腰は、萎え、先端から精液の滴りを零すペニスを、グレイスミスの足に踏んでもらうため、突き出されている。グレイスミスは足裏でエイヴリーのペニスを踏んだ。
萎えたものを足の裏で踏まれているだけだというのに、エイヴリーは目を閉じ、せつない甘い鼻声を高く聞かせる。興奮で、また肌がピンクに染まり始めていた。ぐりぐりと踏むと、頬は汗でしっとりと濡れだす。だが、足で踏まれる興奮に身を捩るくせに、記者の舌は怠惰だ。
「俺のにサービスしない気なら、やめる」
足に掛けた体重をグレイスミスが僅かに抜くと、エイヴリーは、咥えているものに、強く吸いつき始めた。両手の指が口から漏れ出す唾液で濡れるのも構わず、硬く勃起した幹を握って扱き、肉厚の舌がペニスの先端を包んで、頭を激しく上下させる。グレイスミスは、もっと深くエイヴリーのペニスを踏んでやった。
「んっ!……んんっ!」
足の裏に感じるものは、硬さを取り戻し始めている。
生の足で、ペニスを踏まれることに、「んぅ……っぅ、んっ」と、色っぽい鼻声を聞かせるエイヴリーの口の中に、グレイスミスは射精した。
エイヴリーは、くちゃくちゃとガムを噛んでいる。
助手席に座った風刺漫画家などいないも同然の態度だ。
社は近くだというのに、取材先に回るというエイヴリーは、バス停でグレイスミスを下ろした。
「またな」
ほんの一瞬、振り返り、引きつった笑顔をエイヴリーは浮かべる。
「うん。また」
グレイスミスは柔らかく笑い返した。秘密で会うために、目配せしてくるのは、必ずエイヴリーの方だ。
この傲慢で気位の高い記者が、我慢できなくなる時を、ただ、グレイスミスは待てばよかった。
「じゃぁ、エイヴリー、車の運転に、気をつけて」
END