ウサギとカメ

 

ユアンの背中が濡れていた。

うつぶせにしたユアンの背中からのしかかり、開いた股の間に手を入れている男は、優しい声ばかりを出す。

「ユアン、平気ですか? 気持ちが悪くない?」

ユアンは、握り込まれた睾丸と、陰茎を緩く扱かれるのに、腰が揺れていた。

きっと先走りで、男の手は濡れているはずだ。

気持ちが悪くて、こんな風になるはずがない。

それなのに、親身になってユアンの状態ばかりを気にする男が、ユアンにはおかしかった。

ユアンは、首をひねり、男を見上げる。

「平気……」

ユアンの額には、汗で、髪が張り付いていた。

ユアンがつい、あえぎ声の漏れてしまいそうな口元に笑いを浮かべると、ヘイデンがほっとしたように微笑んだ。

ヘイデンの大きな手が、ユアンのペニスを包み込み、少しきつめに握ると、素早く扱いた。

ユアンは、出そうになった声を、見せていた歯の間でかみ殺す。

「……っぅ……ん」

「ユアン、何も言わないから……」

ユアンは、困ったような声をだす若者を、軽く睨んだ。

若造は、年上の矜持というものを、分かっていない。

「大きな声で、いい、って、叫んで欲しい?」

ユアンの声は、少しかすれた。

笑顔も引きつったはずだ。

それを、ユアンは、丸い尻をヘイデンに押しつけ、立ちあがっている彼のものを擦ることで誤魔化した。

ヘイデンの顔が、赤く染まる。

「なんだよ。ヘイデン。この上、俺から、入れてくれって、お願いでもしろってか?」

ユアンは、ヘイデンの硬く高ぶったペニスに、張りのある尻を押しつける。

 

 

ユアン・マクレガーの休日は、忙しい。

遊ぶ相手には事欠かない上、本人も、そうやって誰かと一緒にいることが全く嫌いでなかった。

勿論、一人でいたい時もある。

しかし、大抵の時、ユアンは、大勢でいることの方が好きだった。

だから、貴重な休みといえども、休みであることが相手に知られていれば、ユアンのスケジュールに割り込む相手には、事欠かない。

「なぁ、今日の昼に……」

不機嫌な寝起きを邪魔しないだけの配慮のある電話で、遅い朝に誘いを受けたユアンは、バスローブのまま、ソファーに座り込んでいる最中だった。

昨夜飲んだ酒が、少しばかり頭を重くしていた。

つい、誘いに頷きかけ、ユアンは、昨夜自分が立てた計画を思い出した。

「悪い、今日は、ちょっと……」

ユアンは、微かに痛む頭を撫でながら、申し訳なさそうな声を出した。

電話の向こうは、がやがやと賑わしい。

油がないとか、肉がどうとか騒いでいるところをみると、バーベキューパーティでもしているようだ。

「あっ、そうなのか、じゃぁ、また、今度」

乾杯の声も聞こえていて、うまそうな匂いまでしそうだった。

少しそそられるが、ユアンは、煙草をくわえ、我慢をする。

「ああ、悪いな。また、誘ってくれ」

ユアンは、電話を切り、部屋の中をうろうろと目当てのものを探して横断した。

「あ〜。片付けないと……」

そういう端から、ユアンの足が、何かのパンフレットを踏む。

目立てのものを探すために、脱ぎ捨てたTシャツを右から左へと移した。

山になった雑誌の間から、ユアンは、ペンと、紙を探し出す。

紙は、差し替えになったスクリプトだ。

その裏に、ユアンは、ペンを走らす。

途中、煙草に火を付け、煙に目を眇めながら、ユアンは描き進めた。

「まっ、こんなもん?」

できあがりは、ユアンを満足させたが、他の人間が満足するかは、どうかは微妙なものだった。

それを投げ出し、ユアンは、シャワーを浴びるために、バスローブを脱ぎ散らして行く。

 

ユアンと同じ休日を、部屋で、本を読んで過ごしていたヘイデンは、驚きながらも突然現れた年上の俳優を迎え入れた。

「ハロ〜」

ユアンは、この天気のいい日に、やはり部屋に篭もっていた年下の俳優を笑う。

「遊びに来た」

ユアンは、ヘイデンに案内されるまでもなく、奥へと進んだ。

「いらっしゃい」

ヘイデンの顔には、嬉しそうな笑みがある。

ユアンは、ソファーに座り、テレビを付けた。

ヘイデンは、飲み物のサービスをしようと立ったままだ。

ユアンは、若い男を見上げ、話しかけた。

「なぁ」

そこで、ユアンは、顔を顰めた。

「……これは、昼間だからか?」

ユアンは、出されたものがビールであることに、大げさに不満を唱え、眉をひそめた。

ヘイデンは、ゆっくりとソファーに腰を下ろしながら、顔を顰めたユアンに小さな笑みを浮かべた。

「昨日、飲みに行くってしゃべってませんでした?」

ヘイデンの口調は、柔らかい。

ユアンは、即、返事を返した。

「しゃべってた。なんだ、聞いてたんなら、お前も来ればよかったのに」

ユアンは、もう、ビールに口をつけている。

ヘイデンは、困ったような笑いを浮かべた。

「……だって、俺、殆ど面識ないし」

少し、人見知りなところが、ヘイデンにはある。

ユアンは、にやりと思い出し笑いをした。

そのことで、昨日もこの若い男は、からかわれていたのだ。

 

「なぁ、そう思わないか、ヘイデン」

休憩時間、ユアンへと旅行の話をしていた男が、親しげにヘイデンに話を振った。

ヘイデンは、まごついた顔で、大きく目を見開いた。

「はい?」

突然の問いかけに、顔には何故、俺に?と、大きく書いていた。

ヘイデンは、話に加わらないまでも、行儀良く話を聞いていた。

てっきりノリよく返事を返すとばかり思っていた男は、びっくりしたような顔で、ユアンに目を合わす。

「あれ?」

ユアンも驚いて、ヘイデンを見た。

「あれ? ヘイデン、彼に挨拶してなかったか?」

「あ……あの……」

ユアンの前で、ヘイデンは、どんどんと困った顔になっていった。

実際、ヘイデンは、ユアンの友人だという男の顔を知らなかった。

ユアンの言うとおり、挨拶はしていたのだと思う。

だが、ヘイデンは、皆に助けられている自分は、せめて挨拶くらいはきちんとしなければという緊張のあまり、誰の顔も見えない状態で、挨拶をしていた。

ユアンは、神経質に寄せられたヘイデンの眉をくすりと笑う。

だが、ユアンが何かこのきまじめな年下に何かを言って虐めてやろうとする前に、ユアンの友人が、気さくに助け船を出した。

「ユアン、お前、悪魔みたいに笑ってるぞ。いいんだ。ヘイデン。これだけ人数がいるんだ。覚えきれるわけがない。スタッフにもきちんと挨拶するだけ、お前は上等な男だ」

「……すみません」

ヘイデンの手に持っていた水のボトルの位置が僅かに下がった。

こんなことで緊張している年下がかわいらしくて、ユアンは、大きくヘイデンの背中を叩く。

どんっと、音がしてヘイデンは前のめりになった。

ユアンが大きな口を開けて笑う。

「甘やかすなよ。ダメだって。……ヘイデン、この際だ。きちんと覚えとけよ。こいつは、いつもお前にライト当ててくれてるんだぞ。お前が格好よく映るためには、彼の努力がとても大切だ」

照明スタッフは笑った。

「まぁね。俺の腕次第で、ユアンの格好よさなんて、半減するわけだが。ユアン、彼からは、ライトのせいで俺なんか見えないんだよ。お前みたいに、そうそうスタッフの顔を覚えてる方が珍しい」

「でも、挨拶してたよな?」

ユアンは、意地悪くからかい、ヘイデンの顔を眺める。

友人は、年下を虐めるユアンをたしなめた。

「それはな。ユアン、ヘイデンは、気を遣って、挨拶してくれているんだ。そういや挨拶って言えば……」

照明係は、ふいに笑い出す。

「お前達のことで、スタッフの間で面白い例え話があるんだ。ユアンとヘイデンは、ウサギとカメみたいだなって言われてるの知ってるか?」

「は?」

ユアンは、訳がわからず、大きな口を開け質した。

ヘイデンも、ユアンほどではないが、不思議そうな顔で、男を見る。

「いや、いつも朝、ヘイデンは先にくるだろ? そして、彼は、とても丁寧に挨拶をしながら歩いていく。そのあと、ユアンが飛び込んできて、大きな声であっちこっちに、挨拶しながら、ヘイデンのこと追い越してくよな?」

「ああ、こいつがのろまだから」

ユアンは、彼の例えを飲み込んで大きく笑った。

そして、ヘイデンに、お前、カメみたいにのろまだよな。と、ユアンは同意を求める。

しかし、ヘイデンは、返事に困ったように、曖昧な笑みを浮かべた。

ヘイデンは、その物語のラストを知っていた。

果たして、名優ユアンをウサギと言ってしまっていいものか。

「えっと、あの……」

ヘイデンの笑みを受けて、友人は、にやりと笑う。

彼も、勿論、物語のラストを知っていた。

だが、スタッフたちが、ユアンをウサギだと言うのには、そのかわいらしい外見と、瞬発力の良さだということも十分に分かっていた。

ユアンの友人は、やはり、ユアンと同じように口が悪かった。

「ユアン、あんまりヘイデンをからかってると、そのうちお前、キャリアでヘイデンに追い越されるぞ。……うさぎちゃん」

からかう男に、ユアンは、耳の上で手をひらひらとさせ、イスの上で跳ねて見せた。

「あり得ないね。こいつ、本当にのろまだから、なっ、ヘイデン」

こういうやりとりが、昨日あったのだ。

 

 

ユアンは、ヘイデンに、自分が書いてきた紙を開いて見せた。

「何?」

いきなり見せられた紙の上は、多分、ユアンが作ったモノらしいボードゲームがあって、ヘイデンは困惑した。

「これは? ユアン?」

ユアンは、自分の部屋だというのに、遠慮がちなカナダ人に、ダイスを渡した。

この部屋はユアンの部屋に比べれば、随分綺麗に管理されている。

「一緒にやろうぜ? ヘイデン」

ユアンは、ヘイデンを誘った。

「これのルールは?」

ヘイデンは、いきなり出されたゲームに対する説明を求めもせず、ユアンの誘いに応じた。

手の中のダイスを振りながら、紙に書かれた注意書きを拾い読みしている。

こういうヘイデンの素直なところが、ユアンは、とても好きだった。

ユアンは、紙の上を指さした。

「ヘイデン、ルールは、極簡単だ。ダイスの目が出た分だけ、お前が、曲がりくねった道のほうを進む。そして、俺は、こっちの道、このまっすぐな道で、ゴールまで一直線。昨日、俺たちのことウサギとカメみたいだって言ってただろう? だから、それに合わせて、ゲームを作ってみた」

ユアンの作ったゲームは明らかに不公平だった。

ユアンと、ヘイデンでは、ゴールまでの、升目の数が、全く違う。

いくら、ウサギとカメとはいえ、これではまるでヘイデンに勝ち目はなかった。

さすがに、ヘイデンが、不満を唱える。

「ユアンの方が、ずっと升目がすくないじゃん。ずるいなぁ。ダイスを振る数は、一緒?」

それでも、ヘイデンは、先輩の作ってきたゲームを降りる気がないようだった。

このゲームの公平を探し、ユアンに尋ねる。

ユアンは、にやりと笑って、ダイスを取り上げる振りで、ヘイデンの手を握った。

「一緒。……だけどな。ヘイデン。俺の方の升目と、お前のが交わるところに、注意書きがあるだろう?」

ユアンに手を握られ、ヘイデンの目にとまどいがある。

ユアンは、指を絡めた。

もし、ここで、手を引っ込めでもしたら、ユアンは、ヘイデンを殴ってやるつもりだった。

ヘイデンは、しきりと握られた手を気にしている。

「あるけど……」

しかし、ヘイデンは、手を取り戻そうとはしなかった。

ユアンはおりこうなヘイデンを促した。

「読める?」

ヘイデンの声には、困惑がにじみ出している。

「……休憩」

「そう、ヘイデン、そこを通りかかったら、ウサギちゃんの俺は、どの目が出ようが、強制的に休憩する。でな、ヘイデン、のろまなカメのお前が通りかかるまで待ってるってわけだ。そしてだな」

ユアンは、絡んだ指ばかりを気にして、手に汗までかき始めた年下の男の目をのぞき込んだ。

ヘイデンは、困ったように視線を逸らそうとする。

ユアンは、きらきらと光る大きな目の威力で、ヘイデンをそこに釘付けにした。

「ヘイデン、もし、お前が俺の止まっている升目にちょうど止まったとしたら、俺と一緒にご休憩だ。ベッドで、一時間くらい? ……どうだよ? お前ったら、前のセックス以来、全く手が出せずにいるみたいだから、このユアン様から、誘ってやってるんだ」

ユアンは、面白そうに笑いながら、唇をなめてみせた。

挑発するつもり満々の舌は、いやらしくユアンの唇を光らせた。

「ヘイデン。このゲーム、受けて立つよな?」

「ユアン!」

ヘイデンは、顔を赤くしながら、引きつった。

「やるだろ? ヘイデン、お前、インポだって、告白するってのなら、ゲーム降りるの許してやるぜ?」

 

 

ヘイデンは、少し背中を丸めるようにして、ダイスを振りながら、ソファーでふんぞり返っているユアンの機嫌を一生懸命取ろうとしていた。

「ユアン、俺のこと、怒ってる?」

ユアンは、とっくにゲームの半分の地点、つまりは、休憩の升目に自分の身代わりであるライターを置いていた。

ヘイデンは、ユアンを待たせていると、一生懸命ダイスを振っている。

しかし、ユアンは、自分の升目の軽く5倍は、カメヘイデンのために升目を用意しており、なかなか、前に進まない。

そのうえ、ヘイデンの升目にだけは、二マス戻るだとか、スタートまで戻るだとか、トラップが幾つも仕掛けられていた。

ユアンは、退屈そうに、ヘイデンを見ていた。

「ほら、ヘイデン、もっと大きい数をだせよ。さっきから、一か、二ばっかりだぜ?」

「ああ、うん。ごめん」

ヘイデンは、焦って、ダイスを振る。

しかし、なかなか大きな目が出ない。

おまけに、進んだ升目の注意書きは、三、戻るだ。

「ほんと、カメだね。お前」

ユアンは、大きなあくびをした。

このゲームを作ったはずの人間は、つまらなそうにソファーの上でまるまる。

「ヘイデン。俺が本当に寝ちまう前に、ご休憩ポイントまで来いよ? そこをずるして通り抜けようとでもしたら、俺がお前のこと食っちまうぞ?」

ユアンは、もう一度あくびをして、そう言った。

ヘイデンが、情けない目をして、ユアンを見る。

「……ユアン」

ユアンは、口を尖らせた。

「なんだよ。俺ってば、そんなにまずかったか?」

ユアンの不機嫌は本物で、ヘイデンは慌てた。

「違うよ。ユアン、そうじゃなくって、ユアン、セックスした後、すごく怒っただろう? だから、俺……」

ヘイデンは、強くなるユアンの眼差しに、語尾を濁した。

ユアンは、ヘイデンを睨み付けた。

「なんだよ。お前のこと、軽くけっ飛ばして、煙草ふかしながら、ちょっと黙り込んだだけだろ?」

ヘイデンは小さな声で反論する。

「……一時間は黙り込んで……」

「ちょっと、だろ?」

ユアンは、決めつけた。

むっつりとしたユアンは、ヘイデンを睨み付けながら文句を言う。

「ケツが痛かったんだ。おまけにあんなことした後だぞ、黙り込みたくもなる」

ヘイデンは、情けなく眉を寄せた。

「……ユアン、だから、泣くほど辛いことなんて、やる必要がないって……」

ヘイデンの気遣いは、大きな声によって遮られた。

「誰が泣いた!!」

ユアンは、真っ赤だ。

「俺は、泣いたりなんかしてない。あれは、埃が目に入ったんだ。俺は、絶対に泣いたりしてない!」

ユアンは、あの時、痛みと、恥ずかしさと、けれども、ヘイデンのためにも絶対にやり遂げたいという気持ちがごちゃごちゃになり、わけがわからなかった。

大きな声でわめいた。

多分、ヘイデンを打ちもした。

「嫌だ。やめろ!」と、叫んだすぐ後には、ヘイデンの髪を掴んで、続けろと脅した。

間違いなく、泣いた。

だが、泣くつもりなど、ユアンにはなかったのだ。

もっとスマートに、もっと大人の態度で、ヘイデンを受け入れられるとばかり思っていた。

それなのに、身も世もなくヘイデンにしがみつき、最後には、髪を撫でられ、何度もキスをされた。

あれは、ユアンにとって、羞恥の極みだ。

ユアンは、ソファーから立ちあがり、ヘイデンを叱りつけた。

「ヘイデン、 お前、俺のいる升目まできたら、強制的にベッドまで来い。ずるするなよ。ちゃんと升目まで進んで、俺のとこまで来い!」

ユアンは、一度だけ入ったことのあるヘイデンのベッドルームへずかずかと入り込んだ。

 

ヘイデンは、そっとドアを開け、ユアンの様子をうかがった。

ユアンは、シーツを被り、丸まってしまっている。

「……ユアン、……寝た?」

ヘイデンは、真面目に、ゲームを進め、そして、ユアンのいいつけ通り、ベッドルームに顔を出した。

ユアンの反応はない。

ヘイデンは、思わず、ひとつため息を落とした。

途端に、ユアンが、がばりと起きあがる。

「何だよ。ヘイデン! それは、なんのため息だ! 遅いんだよ、お前は! 俺がどのくらい待っていたかと!」

ユアンは、いつ、ヘイデンがやってくるかと、ドキドキと胸が鳴り、いっその事、最初から引きずってこれば良かったと後悔していた。

ヘイデンは、困ったように笑う。

「待っててくれたんだ。ありがとう」

ベッドの端に腰掛けたヘイデンは、ユアンに額を寄せた。

少しばかり思い詰めたような表情の年下は、ユアンの瞳をのぞき込む。

「……ヘイデン」

「ユアン……」

ヘイデンが、ユアンの唇に唇を重ねた。

「……ユアン、この前も、そうだったけど、あんまり俺のこと挑発しないでね。俺、ユアンのこと大好きだから、自制が利かなくなる」

ヘイデンは、優しくユアンの唇を吸う。

「ユアンのこと……酷い目に合わせちゃうよ……」

交わされるキスの合間に、ヘイデンの情けない声が混じった。

キスに応えていたユアンが、ヘイデンを押しやった。

「それは、嘘だな。ヘイデン」

ユアンは、ヘイデンを睨み付けた。

顔はとても不機嫌だ。

「お前は、俺とセックスして、幻滅したんだ。そうでなければ、ただの臆病者だ。だが、どっちでもいい。……やる気のない奴なんかのために、時間を割いて損をした」

ユアンは、ベッドから降りようとした。

ユアンは悔しかった。

ゲームまで用意して、ヘイデンを誘ったというのに、ユアンばかりが恥をかいた。

硬い背中を見せるユアンの腕をヘイデンが掴む。

「待って。ユアン、俺って、そんなに信用ない? そんなにのろま? 俺には、ユアンを心配する権利もない?」

ヘイデンは、背中を向けているユアンを強く抱きしめた。

「好きだよ。ユアン。本当に好きなんだ。ただ、俺ばっかりが良い思いをして、ユアンが辛いだけなのが、許せなかったんだ」

ヘイデンは、ユアンをかき口説く。

ヘイデンは、ユアンが愛しいばかりなのだ。

だから、前回、許されたセックスに、思わず飛び付いた。

事後、ユアンの顔色は、最悪だった。

不意に、ユアンが振り向いた。

「じゃぁ、ヘイデン、俺がお前を抱いてやろうか?」

ユアンは、意地の悪い笑みを顔に貼り付けている。

ヘイデンが押し黙った。

しかし、ためらいがちにだが、ヘイデンが頷く。

決死の決心をしたらしい年下の様子に、ユアンは、にいっと、笑った。

慎重なヘイデンにしては、早い結論だ。

ユアンは、自分が愛されていると、確信を持った。

「できもしないことで、悩むな。俺もお前のこと好きなんだよ。だから、それでいいって納得したんだ。じゃぁ、始めようじゃないか」

色気もなにもないユアンの誘いだ。

「ユアン……」

ヘイデンは、くしゃくしゃの顔をして笑った。

「……ユアン、大好きだ」

「おう、俺のも、お前のこと好きだよ。そうとノロマまで、苛つくけどな」

ユアンの方が、先にヘイデンの唇を奪う。

 

大きく股を開いたユアンの腰に、ペニスを埋め、ヘイデンは、額に汗をかいていた。

ユアンは、尻の間に嵌められたものの大きさに、快感よりは、不快感の方を多く感じていた。

尻の穴が、切れそうなほど大きく開かれている。

中を擦りあげる丸太ほどにも感じる大きなものは、突き入れられるたび、内臓を押し上げる。

微かな吐き気が胸にはある。

だが、ヘイデンが、注意深く動くたび、確かに感じる部分はあった。

指で、散々に弄り回され、腫れ上がったようになっているそこは、ヘイデンの動きに、熱いようなものを激しくユアンに与えた。

それをまだ、ユアンは、上手く味わうことができなかった。

だが、苦しい程の熱さに、名前をつければ、きっとそれが快感だ。

証拠に、ユアンのペニスは、勃ったままだった。

ユアンのペニスが、汁を垂らして、ヘイデンの腹を擦っていた。

口からは、意味不明の声が漏れる。

「……んんっ、……あっう……あぁあ!」

ユアンの足は、勝手にヘイデンの尻を引き寄せる。

ヘイデンは、歯を噛みしめた苦いような顔をした。

腰を動かすユアンに、プリーズと求める。

腕が、ユアンを押しとどめた。

「お願いだ。ユアン、もう、動かないで……」

情けないこの声こそ、ユアンが聞きたかったものだった。

ユアンは、ヘイデンを感じさせてやりたい。

彼が、自分の身体に翻弄されるのを見たい。

勿論、ユアンは動きを止めはしなかった。

苦しさの多いセックスであっても、ユアンは、ヘイデンを抱きしめる。

ユアンは、この生真面目で、融通の利かない年下が好きなのだ。

「……キスして、ヘイデン」

「ユアン……ユアン」

焦ったようなヘイデンの舌が、ユアンの口の中を蹂躙する。

ユアンは、ヘイデンの舌を吸い上げ、年下の背中を撫でた。

年下は、背中まで、汗でびっしょり濡れている。

「俺が好き? ヘイデン」

ユアンは、ヘイデンの頬に頬を擦りつけた。

ヘイデンは、何度も頷き、今度もまた、ユアンにプリーズと求めた。

「ごめん。……もう、我慢できない。いってもいい?」

年下の額には、皺が刻まれていた。

歯を噛みしめている。

ユアンは、腹をかきまされる苦痛の終わりに、喜んで頷いた。

「……勿論。ヘイデン」

しかし、年下を虐めるのだけは忘れない。

「お前、カメのくせに、いくだけは早いのな」

ユアンは、情けない顔になったヘイデンを抱きしめ、嫌というほど、頬にキスをする。

「俺のも握って。ヘイデン。俺のことも、いかせてくれるんだろう?」

ヘイデンは、自分の射精を必死に堪えながら、ユアンのペニスを扱いた。

ユアンは、その快感に、大きな声を上げた。

「いいっ!……いいっ! ヘイデン!」

きつく尻を締め上げてくるユアンに、ヘイデンも腰を動かす。

はっきりと快感を感じるペニスと、熱く焼け付くような熱を感じさせる内壁への刺激で、ユアンは、あっけなく頂点を迎えた。

「あっ! あっ! あぁぁあっ!」

ユアンの精液が、ヘイデンの腹を濡らした。

ぴくぴくと震えながら射精するペニスを握りしめたまま、ヘイデンは、ユアンの尻からペニスを引き抜く。

低く呻く、ヘイデンの精液が、ユアンの太腿に掛かった。

ぐったりと、ユアンが、ベッドの中に沈み込む。

肩で息をするヘイデンは、ユアンの顔をのぞき込んだ。

「大丈夫? ユアン」

ユアンは、大きく息を吐き出し、毒づいた。

「ケツん中、まだ、なんか嵌ってるみたいだ。最悪」

ユアンは、くるりとヘイデンに背中を向けた。

自分の方が、先にいってしまったことに、むかついていた。

またもや、セックスが終わるなり、不機嫌になった年上に、困ったヘイデンは、そろそろとベッドを降り、タオルを使って、ユアンの身体をぬぐう。

年下のサービスと当然と受け止めていたユアンは、ヘイデンに命じた。

「それ、終わったら、ゲーム板ここへ持って来いよ」

「えっ?」

「最後まで、やろうぜ? どうせ、俺が勝つけどね」

 

ユアンは、ヘイデンが持ってきたゲームを、尻が痛いと言って、一人ヘイデンにやらせた。

ヘイデンは、真面目にダイスを振って、行きつ戻りつしながら、次第にゴールに近づく。

あと、一マスで、ヘイデンがゴールに到着するという時、ユアンは、ヘイデンの肩越しにゲームをのぞき込んだ。

「俺に、ダイスを貸せ」

勝手に、ヘイデンから、ダイスを取り上げ、投げる。

ユアンの出した目は、六だった。

それは、調度、ユアンがいる休憩ポイントから、ゴールまでの数だった。

ユアンは、雄叫びをあげる。

「見たか!! 俺は、カメになんか、負けないウサギなんだよ!!」

ユアンは、ご丁寧にも持ってきてあったライターを出た目の数だけ動かし、ゴール直前のヘイデンを追い越し、ゴールした。

意地の悪い顔で、ユアンが笑う。

「俺のこと、好きだろ? ヘイデン」

ヘイデンは、その尖った唇にキスをした。

「のろまでも、俺のこと好きでいてくださいね。ユアン」

ウサギとカメはラブラブだ。

 

 

END

 

実は、ものごっつい苦労して書きました。

そして、直しまくりましたが、どうにもなりません。許してください。