ヘイデン君と、ユアン様 3

 

ガンシャン!と、いう音がして、ミーティングルームに集まっていたその場の皆が驚いて振り返った。

すると、そこには、照れた顔で笑うユアン・マクレガー。

「やっちまった」

ユアンは、もたれ掛かっていたスチール棚から身を起こしながら頭を掻いた。

ソファーから立ちあがり、扉部分のガラスが割れてしまったスチール棚を見に来たプロディーサーは、ユアンを見あげたまま笑った。

「ユアンの体重に負けたか」

ユアンにもたれ掛かられていたガラスは、たわんで、大きくヒビが入っている。

救急箱を取りに行くべきかと、脱いでいた靴に足を入れようとしている女性が聞いた。

「大丈夫なの?ユアンは、怪我してない?」

「俺? 俺は、全く平気だけどね」

ユアンは、肩をすくめて照れ笑いだ。

「そうだな。だが、このガラスの方は、瀕死の重体だ。ユアンのケツ圧に負けたようだ」

すぐさま、ガムテープをと、言う声が掛かる。

「ユアン、とりあえず、ガムテープで補修しておけ。本当にガラスが割れたら困る」

ハプニングに、真剣に行われていたはずの打ち合わせは、すっかり休憩モードに入っていた。

まるで立たされ坊主のように割れたスチール棚の隣に立っているユアンを眺めながら、銘々が口を開く。

「ガラス飛び散らなかったか?」

「しかし、結構簡単に、割れたな」

「いや、ユアンの体重に耐えかねたんだよ。こいつ、誰も頼んでないってのに、ウエイト増やす一方だから」

飛んできたガムテープを受け取ったユアンは、しゃがみこんでテープを切りながら、反論した。

「割れるタイミングだったんだ。俺じゃなくても、きっと割れたに違いないのに、俺がみんなを危険から守るため、わざわざ、ここにもたれ掛かって、この事件を引き受けたんだ」

ユアンは、まず、いくつもテープを切って、正面に座りこんでいるプロデューサーの腕へと遠慮なく貼っていく。

「こら……お前……」

プロデューサーは、ユアンをじろりと睨んだ。

ギャラリーは、楽しげに、ユアンの仕事を覗き込んでいる。

「丁寧に貼れよ。ユアン」

「怪我しないでよ。ユアン」

プロデューサーは、幾つも貼られたテープとユアンを何度も見比べながら、睨んでいた。

「お前……ここに貼って、剥がす時、俺が痛くないとでも思ってるのか?」

「そりゃ、痛いだろ。きっと、綺麗に脱毛できるんじゃねぇの?」

ユアンは、にやりと笑うと、スチールの角にもう一度テープを切ると貼り出した。

プロデューサーは、ユアンの行動にあっけにとられた。

「おい、これは、ただの嫌がらせかよ?」

「そうだよ。人のこと、デブって言うからな」

「だって、お前、今回全然絞ってないじゃないか」

プロデューサーの手が、ちょうどガラスを貼るために背中を向けたユアンの尻を掴んだ。

「確かにこれだと、ケツ圧でガラスくらい、いくな」

尻を揉むプロデューサーの手に、ユアンが眉をしかめた。

眉間に出来た皺は険悪だ。

しかし、それには気付かず笑ったプロデューサーの肩越しに声を掛けるものがいた。

この映画の若き主役、ヘイデン・クリステンセンだ。

「あの……ユアン、代わりに貼りましょうか?」

ユアンの仕事は的確だったが、丁寧とは言い難く、ヘイデンは、プロデューサーに断りを入れ、前を横切ると、ユアンの隣に膝を着いた。

ヘイデンは、こっそりとユアンに耳打ちする。

「どうしたんです? ユアン、腰が痛い?」

「当たり前だ。しんどくって寄りかかってたら、ガシャンだ。お前、責任取って、綺麗に直しとけよ」

ユアンは、言葉の割に、機嫌のいい顔で笑いながら、ヘイデンの髪をかき回した。

ヘイデンは、ユアンが貼ったガムテープの間を綺麗に埋めていく。

その手元にはみんなが注目していた。

「上手いじゃないか。ヘイデン」

「ヘイデンって器用よね。俳優もいいけど、模型作りのチームにも是非欲しい腕前だわ。仕事がとても丁寧」

「それって、俺に対する当て付け?」

ユアンが、割れたガラスを補修するヘイデンの背中に腰を下ろしながら、尋ねた。

ユアンは、若き主役を尻の下に敷いている。

勿論。と、声が返った。

それから、全く反省をみせないユアンに、からかいが掛かった。

「やめろよ。ユアン。ヘイデンまで壊れちまうぞ」

「そうそう。ユアンの尻はすごいんだから」

ユアンは、笑った。

主役に腰掛けたまま、身体を折り曲げると、ヘイデンの顔を覗き込んだ。

ユアンは、ヘイデンの耳元で小さく囁く。

「だってさ。ヘイデン、俺の尻そんなにすごい?」

「……ええ、まぁ、……あの、……なんていうか……」

ヘイデンは、ユアンにまっすぐ見つめられ、返答に詰まった。

なぜなら、そのユアンのすごい尻は、昨夜、ヘイデンの上にのしかかり、気が済むまで暴れていたのだ。

むっちりと丸く、しっとり吸い付く肌の何処までも白い尻は、ヘイデンのペニスをぎっちり噛んで離さなかった。

汗と、ジェルと、精液でぬるぬると滑った柔らかな尻は、何度もヘイデンの腹を打った。

ヘイデンは、ユアンの尻で、天国を見せて貰っていたのだ。

おかげで、今日のヘイデンは、あまり腰に力が入らないし、ユアンだって、腰が痛くて、長時間椅子に座っていられない。

ユアンは、自分の腰を撫でていた。

さっき、ガラスが割れる寸前も、ユアンは同じ行動を取っていた。

ユアンが、疲れたように、だが、なにやら満足げにため息をついた。

「確かに、俺の尻はすごいよな? なっ、ヘイデン」

ユアンは、ヘイデンに耳打ちし、また、ヘイデンの髪をくしゃくしゃにした。

ガムテープによる脱毛を余儀なくされたプロデューサーが眉をしかめながら、テープをめくり始めた。

「ヘイデン、いくら相手が先輩だからって、重いってはっきり言ってやればいいんだからな」

ユアンが、プロデューサーの腕から思い切り、テープを引き剥がす。

「痛てぇ!!」

「それは、かわいそうに」

ユアンの口元には、あまりにも明るい悪魔の笑み。

ヘイデンは、背中にのし掛かる重みを幸福として受け止めていた。

 

 

END