ハワイの落書き8

 

*16

 

スティーヴと同じ位眠りの浅いチンが、目ざましの音にも目覚めないことに、スティーヴは満足した。閉じられたままの瞼をゆっくりと堪能するまで眺め、それから、擽るように頬に触る。嫌だ、まだ眠いんだと振られる首には思わず笑みが漏れる。

こんなチンをみることができるのは、月のうちにそうあることじゃなかった。

「チン、起きろよ」

眠気に重たく瞼が震えている。

「ん」

返事は返すが、チンの目は開かない。

もう一度スティーヴが手を伸ばし、頬に触れると、目を瞑ったままのチンの両腕がゆるゆると伸びて、スティーヴの肩を撫でそのまま首へと回された。眠そうに擦り寄せられる額と、宥めるようなキスだ。まだ寝かせてくれとチンは頼んでいる。また眠りに落ちようとしている髪を撫で、スティーヴもチンの額へとキスし返す。

「普段のあんたなら、もうとっくに起きてる時間なんだけどな」

「スティーヴ……」

優しく名前を呼んではきたものの、まだ眠りの中にある、やわらかな身体を腕の中に抱きしめ直し、スティーヴはうとうととする恋人の身体を撫で降りていく。

この身体は昨夜、とても正直だった。

大抵の時、チンはスティーヴのためにセックスに応えるのだが、昨夜、スティーヴは、そんな慎み深いチンの身体に隠された衝動を暴きだすことに成功した。

昨夜を思いだし、にやつきながら、スティーヴは寝息を立てる薄く開いた唇に口付ける。眠る唇は、キスに応えない。だが、スティーヴはしつこく唇を押し当て続ける。しばらくすると、チンが、ううっと呻いた。

「おはよう」

「……スティーヴ」

眠そうに潤んだ目をなんとか開け、口元に苦笑を刻んだチンが、面白がるようになかなか目覚めない恋人の様子を見つめているスティーヴへと、甘えるように自分から口付けてくる。一度唇が離れても、また口付けてくる。それも、繰り返し、繰り返し。こんなチンはとても珍しい。スティーヴがする朝のキスに応じはするものの、チンのキスはそっけない。朝の準備が優先だ。

たっぷり満足するまでした昨夜のセックスの余韻と疲れで思考を鈍らせたチンは、今度スティーヴからキスしても、唇を尖らせ応えてくる。かわいらしい態度の恋人が、しっかりと目を覚まし、正気に返ってしまう前に、スティーヴはあやしかけるようにキスを続けながら、恋人の身体を撫でていた不埒な手をするりとスェットの前へと潜り込ませ、柔らかな布地の中でくたりと眠っている温かなペニスを手の中に握り込んだ。

手の中に包み込んだものをくちゅくちゅと弄るとチンが少し困ったような上目づかいでスティーヴを見上げる。

「もう勃たないかもしれない」

照れ臭そうにした目元が色っぽい。

「俺のは勃つから安心しろ」

強気のスティーヴをくすくすとチンが笑う。

チンは眠気でガードを緩め、朝の準備を始めなければならないことを思い出せないでいるようだが、実際、この気持ちのいいシーツの中でゆっくりしていられるのは後20分程度だ。

スティーヴは手の中の項垂れた柔らかなものを弄ると、後ろに垂れた袋を軽く撫で、少しチンに足を開かせると、そのもっと奥へと手を伸ばした。

朝の時間のない時だ。指で触れ、スティーヴの欲望を受け入れてくれる気持ちのいい窄まりが、昨夜の名残を残してまだ緩んだままなのを確かめると、チンがスティーヴを気遣い、扱こうかや、ゴムを付けるよなどの言葉を口にする前に、さっさと自分のものにゴムを嵌め、その上からジェルを塗りたくる。

「いいか?」

うつ伏せに転がし、尻を掴んでいきりたつ股間の前へと引き寄せると、昨夜の興奮を覚えているチンは、俯いたままだったが、僅かな期待まで覗かせ、頷いた。

挿入までの短い時間を待つ決まり悪げにした所在なさげな頬に赤みが差している。

羞恥の強いロックが曖昧な今なら、スティーヴは行儀のいいチンをもう一度、昨日の高みに近いところまで押し上げる自信があった。

普段よりも口を開き気味にした窄まりにペニスの先を宛がい、一気に押し入る。

中は、散々蹂躙された昨晩の名残を残して、厚ぼったい濡れ肉が熱をもって、めりめりと腫れ肉を割り入るスティーヴの硬く長い肉棒を圧迫した。

チンの尻が、腹底にかかる重い圧迫から逃げようとするように前へと浮き上がり、勿論、スティーヴは張り出した腰骨を掴んで自分の獰猛な屹立の前へと引き戻した。

チンはそわそわと落ち着かない様子で前へと逃げようとばかりしているが、濡れそぼる肉の奥を穿つ広がった傘へとかかる力は、昨夜初めてチンの内部を犯した時に比べれば、手ぬるい物だ。そのまま腰を突き出し、熱くぬるつく肉襞の深部を抉った。

チンが喉の奥で音を弾けさせ、背をのけ反らせる。

そのまま続けざまに突きあげると、腰はビクビクと震え、中の肉がスティーヴを捕えようとするかのようにうねる。

「ぁ、ぁっ、んぁ!」

深い掘削の強い衝撃を嫌がり、チンが懸命に首を振る。

「あんたのペースに合わせて欲しいのか?」

硬い肉棒を咥え込む肉穴は赤い口を大きく開いてうまそうに締め上げ頬張っていたが、スティーヴはチンの望みを叶え、緩く腰を突き上げる。

ついでに、スティーヴが持ち上げていた尻を手放すと、途端に、腰を落とした犬這いになったチンは、生ぬるく芯をもつ自分のペニスを突き上げられるのに合わせてシーツへと擦りつけ始める。

「気持ちがいいのか?」

「……ん」

チンはうっとりと目を閉じ、薄く口を開いている。

「あんたに、合わせてやるのは少しだけだぞ」

前に回した手で、スティーヴがチンの勃起を扱いてやると、次第にそれは芯を硬くし始め、潤んだ目でチンが振り返る。

「……意地悪だな」

「ふん。気持ちがいいくせに」

また深いグラインドを再開すると、今度、チンは自分から肉の硬い尻を押し付けてきた。スティーヴが腰を動かす度、チンの喉が鳴る。

ジェルの助けもあり、ずるずるとスティーヴの硬直を飲み込む緩穴は、深く突き挿し抉るたび、きゅっ、きゅっと奥でスティーヴを健気に締めつける。

蕩けた肉襞を捏ねるようにして、硬い肉棹を動かせば、チンが胸を波打たせて喘きだした。

引き抜いた勃起の先がヌルっと熱肉の谷間に埋まり込むや、蠢く肉襞が吸いつき、絞りあげる。

スティーヴは、引き締まったチンの腹を撫で、持ち上げると、蕩けた肉穴の底に腰を叩き込むようにして突きまくった。

「うっ……ああ……いいっ」

剛直に擦りあげられる快感に、中の肉が痙攣し、スティーヴを頬張る肉の輪がびくびくと収縮する。

「うっ……ううん……あっ……」

高ぶったチンのペニスが突き上げの度に、腹の下でビクビクと揺れる。

「ス、スティーヴ……っ」

「ん?」

急に慌てだし、前へと逃げようとするチンの柔腰を、大きな手で掴み直し、スティーヴは引き寄せた。

「ぁうっ! ……ダメ、だ、っ……出るっ」

火照らせた顔を情けなく歪め、チンが掴んだ手を緩めてくれるようスティーヴに縋る。

ああと、スティーヴは、チンのものへとゴムを嵌めていないのに思い当たった。シーツを汚すことを心配しているのかと、手で覆ってやれば、もっと激しくチンは首を振る。

「……違う……、出したら、……出そうで……」

言いにくそうに唇が何度も噛まれ、困惑に情けなく寄った眉が、晩の間に下腹部に重く溜まった尿を漏らすことを心配しているのだとわかって、スティーヴは思わず苦笑した。

「そんなにいいのか?」

赤い目元を覗き込むと、チンは嫌だとシーツへと顔を押しつける。

「違っ!」

尻だけがこんもりと盛り上がり、その楽しい眺めに満足しながら、スティーヴはゆっくりと腰を使った。

「イった後まで緩んじまいそうな位、いいんだろ?」

シーツの中から怨みがましく睨みつけてくる目ににやりと笑って、チンの尻を抱えたまま、スティーヴは後ろへといざりベッドから足を下ろす。

硬い尻には、そそり立つ硬直を嵌めたままだから、勿論、チンもベッドから引き擦り下ろされることになる。ベッドの上に、シーツを掴んでいた手だけを残して、突然、床へと落とされたチンは、具合のいい高さまで持ち上げられた尻を、思う様に串刺しにされ、シーツを強く握りしめ大きな声を上げた。

「スティーヴ!……スティーヴっ!」

「ここでなら、後始末はしてやるから、安心しろ」

フローリングの床は、ベッドの上よりよほど安定が良く、スティーヴも、好きなようにねっとりと柔軟な肉襞の中を堪能することができた。

数度、ぬちゃぬちゃと湿った音を立てている部分を深く挿し貫くと、シーツをきつく掴んだチンがガクガクと身体を震わせた。

セクシーに浮き出た肩甲骨をきゅっと背中の真ん中に寄せ、腰を突き出すようにして身を反らせる。いきながら腰をよじるのに、スティーヴももっていかれそうになった。

喉元で短い呻きを漏らしていたチンが、はぁっと大きく息を吐くと、脱力する。ぬるぬるのアソコが緩むのに、スティーヴもやっとほっと息が付ける。

残念なことに、チンの慎み深さは、スティーヴに新しい楽しみ方を与えなかった。

赤く、色気を漂わせた眦に涙をたっぷりと溜めて、チンが見上げてくる。まだ胸を喘がせるチンの唇は薄く開いたままだ。

「……頼むから、もうイってくれ」

「すげぇ、あんたの中、気持ちよくて、ずっとここにいたい気分だけど?」

ほとんど残りのなかったタンクからさらに絞りだされて、チンは大分正気にもどってしまったらしい。

それでも、乱れたままの髪と頬の赤さが、いつもとは違う色気を匂わせている。

「スティーヴ!」

「はいはい。今朝はチンが気持ち良ければ、それで俺も満足だからな」

言葉の通り、ずるりと硬い肉棹をチンの中から引き抜くと、手早く扱いて、スティーヴはゴムの中へと射精した。呆気にとられたように、チンは目を見開いたままスティーヴを見上げている。

「ん? 朝の準備がそろそろしたくなる時間だろ?」

「……そうだけど」

「俺にキスしたくなったか?」

驚くほど、くしゃりとチンが笑み崩れた。

「あんたが、屈んでくれたら、キスしたいよ」

せがまれて、スティーヴはチンの脇へと両手をついた。

覆いかぶさるようにして唇を重ねる。

唇が離れると、チンが照れ臭そうに額をスティーヴの肩に埋めた。

肩口に額を摺り寄せる。

「おはよう。スティーヴ」

スティーヴも笑った。

「おはよう。チン」

 

(終)