ハワイの落書き6

 

*13(チンさんの片思い設定)

 

ベッドの中で寝がえりを打つ。

チンが捕らわれているのは、昼間、自分のすぐ脇に置かれたスティーヴの上着だ。

動きまわる間に、暑くなったんだろうスティーヴは、Tシャツの上に羽織っていたシャツを脱ぐと、コンソールパネルの上に放りだし、結局それは、そのまま今日の業務が終わるまでそこにあった。

経歴の裏取りや、容疑者の足取りを追うよう出された指示のため、ほとんどコンピューターの前から動くことのできなかったチンは、午後中、スティーヴの上着の見張り番のようなものだった。

はぁっと、悩ましくチンは息を吐きだす。

側で一緒に使える情報を拾い上げていたコノが、慌ただしく部屋から出て行き、一人取り残される度、チンは、目の端に映る、それを手にとってみたくてしょうがなかった。邪魔だという振りで、触り脇に退けることは可能だったはずだ。

だが、……やましい気持ちが、チンにそんな簡単なことさえさせなかった。

色はブルーだった。

手にとってみたくて堪らず、何度も視線を向けたそれが、どういう形で置かれていたかだってチンは思い出せる。

触りたかった。出来れば、シャツの中に鼻を埋めて匂いを嗅ぎたかった。

もう、自分がたった一人のベッドの中で、他人の目はなく、縛られるものが何もないんだという思いが、チンに手を股間へと下げさせる。

スェットの中で、硬くなりかけているものを握って、自分がシャツを手に取り、鼻を埋めているところを想像する。

何度もスティーヴが着て来たことのある新しくもないシャツは、まるでサメのように動きを止められないとばかりに、始終動きまわっているスティーヴの汗のにおいをさせているはずだ。

シャツの匂いは嗅げなかったが、一緒に働くスティーヴの体臭を、すぐチンは思い出すことが出来た。

頭の中に思い浮かべたその匂いを、大きく胸へと吸い込めば、握ったペニスにじわりと血が溜まり、チンは寝がえりを打って、うつ伏せになった。

スェットの中で扱きながら、シーツへと高ぶりを擦りつける。

気持ちが良かった。

熱を溜めつつある下腹部を擦りつけるため、熱心に腰を振りながら、スティーヴを閉じた瞼の裏に思い描く。

申し訳ないといつもチンは思う。

せめて、自分がもっとスティーヴに釣り合うだけ、若いか、ハンサムだったらと思うが、きっとそれでも、打ち明ける勇気はない。

自分にできるのは、誰にも見られないようにシーツの中に潜り込んでするみっともないオナニーだけだ。

けれども、先端を擦りつける快感で喉は鳴り、濡れてきたペニスを扱く手の動きは激しくなる。

腰が揺れて、はぁはぁと湿っぽく息が溢れた。

「……スティー、ヴっ……」

こんな喉でかすれた、恥知らずな声で、彼のことを呼んでみたい。

まっすぐに強く、瞳の中を覗きこまれてみたい。

勃起より奥の陰毛の中に垂れた玉袋に触れた。手のひらの中に収めて、優しく揺する。

彼の身体に触りたい。

(……チン……)

彼に名前を呼ばれたい。

髪を掴んで欲しい。

浮かした腰の下でたまるシーツの皺を感じた。けれども、また皺を寄せるために腰を振ってしまう。

スティーヴの大きな身体。

……抱きしめてほしい。

無理な願いだと思う程、胸は切なく疼き、後ろ暗さに、押しつけるようにして擦りつけている性器がドクドクと脈打って熱を溜めこんでいく。

キスしたい。

彼の身体を舌で舐めたい。

ぞわりと快感がわき腹を伝い降り、ぴくぴくと手の中のペニスが揺れる。

スティーヴのが見たかった。

彼の形をいやらしく妄想し、目を潤ませながら、ペニスの先から溢れだしているカウパーを幹全体に塗り広げる。くちゅくちゅとする音に興奮する自分が恥ずかしい。

こんな欲望にとらわれ、彼を汚している自分を突き飛ばし、冷たく見降ろしてほしいと思う。

違う。彼に、優しく身体を撫でてもらいたい。

彼と、セックスがしてみたい。

自分の恥知らずな欲求が嫌だ。

……いっそ、スティーヴに気絶するまで殴られるのでもいい。

 

 

潜っていたシーツから顔を出し、慌ててチンは、ティッシュを何枚も引き出す。

スェットの中に突っ込み、なんとか、事なきを得た。

はぁっと、盛大なため息が漏れる。

もう一度、ティッシュを引き出し、情けなく肩を落としながら、無駄になった精子で汚れたペニスをティッシュで拭う。

少しだけチンは笑った。

「……好きなんだよ、スティーヴ」

 

(終)

 

 

*14(できてるダノチン設定)

 

昼休みに本部で一緒にランチを食べた。

男二人して、パンにかぶりつき、毎日合わせている顔だから、特にしゃべることもなく、10分かからず、もう二人して食後のコーヒーを飲んでいる。

「んー、俺さぁ、やっぱ、デザートが欲しいわ」

席を立ちかけたダニーに、チンは、冷蔵庫の中に入っていたのは、コノのゼリーだけだったはずじゃ?と、顔を顰めたが、立ち上がる振りをしただけで、ダニーはすぐに椅子に戻ると、にやりと笑って手を伸ばしてくる。

啜っているコーヒーのマグを持っている手と反対の手を取られた。そのまま指先にちゅっと音を立てて唇を押し当てられる。

「なぁ、チン、今晩、俺んちに来ないか?」

昼間の本部だぞと呆れる前に、ダニーが大きく口を開く。

そして、いやらしく流し目をくれたかと思うと、指をべろりと舐め上げられた。そのままダニーは、じっとチンへと視線を当てたまま、中指を一本丸ごと口の中へと含んでしまう。

舐められ、吸い上げられて、チンは慌てて手を引き戻そうとした。

「なんで?」

肘を掴んで放さないダニーが、チンの中指の爪の形を濡れた舌で丁寧になぞりながら、聞く。

「……やめろって」

「あんた、さっきしつこいくらい手を拭いてたから、きれいだろ?」

そういうことではなく、というのは、二人ともわかっていた。

ダニーは、もう一度指を生温く濡れた口の中へと咥え込み、やわらかな舌で指の内側を舐めながら、少しきつめに吸い上げる。

しつこく関節の曲がりを舐めてくる露骨な舌の動きが、何を想像させたいのかなんて、フェラチオ以外にあり得なかった。

ダニーが指の股を舐める。ぺちゃぺちゃと子猫のように。

「して欲しくなっちゃった?」 

色気たっぷりの意地の悪い顔で、ダニーは、またチンの中指に指フェラを始める。

温かな口の奥に深く咥え込まれ、繰り返し吸われれば、チンの頬には赤みが差してしまう。

「アレ、俺にしゃぶられてる時みたいにさ、指、あんたの好きなように動かしてみなよ」

咥えられて思わず腰を突き出してしまっている時より、大胆にチンは指をダニーの口へと突き入れた。

意趣返しのつもりだった。

しかし、チンが強引に出し入れする指を、ダニーは肉厚の舌で包み込み、少し苦しげにした色っぽい顔を前後させて熱心に唇を窄め扱く。

チンの指を根元までべちゃべちゃに濡らして喉を鳴らす音に、チンの方がごくりと唾を飲み込んでしまった。

ダニーは、にやりと色気たっぷりに笑って、今度は指の先ばかりを舐め回す。爪と指の間をほじるようにいやらしく舐められた。

そうして、チンを十分に焦らすと、また、本物のアレをフェラしている時のように、舌を絡みつかせ、ぬるりと口に含んでいく。おしゃぶりしながら、口を開く。

「なに? その、物欲しそうな、やらしい顔は? ほんとにしてほしいんだったら、今晩、俺んちに来たら? チン?」

「……行く」

 

「なぁ、俺にもコーヒー……?」

部屋の中に入って来たスティーヴが、首をひねる。

「ハーイ、ボス。今晩、俺たち用事ができたから、残業はなしの方向でヨロシク!」

勝ち誇ったように陽気なダニーはさておき、なぜか酷く申し訳なさそうにしたチンにまで少し頭を下げられ、スティーヴは怪訝に思いながらも、おうっと頷いた。

 

(終)

 

 

*15(なんか、なんとなく続いてるぽい三角関係のの続き?)

 

抱枕代わりにお前の恋人を一晩貸してくれは、さすがに厚顔なダニーにも言えなかったが、眠れないイライラは限界に来ていた。

「なぁ、スティーヴの今日の出張が泊まりなのは聞いてるだろ? あんたんちに俺のこと泊めてくれ」

一応、家主の留守宅にその恋人を引っ張り込むは、前回で懲りていて、ダニーは、これでも縄張り意識の強いスティーヴに遠慮を示した提案をしたつもりだった。だが、真面目に仕事をしているチンの耳元でこっそり頼むと、驚いたように振り返られてしまった。

「ダメか?」

「……ああ、また寝られない訳か」

「そ。そうなんだよ。じゃ、ま、よろしく頼むな」

 

同性の恋人のいるチンに一緒に寝てくれなんていう頼み事をして、断る間も与えず、強引に押し切った自分もずいぶんな人間だと思っていたが、チンはその上をいく酷い奴だとダニーは、いっそスティーヴを哀れに思っている最中だ。

なんとチンが手作りしてくれた夕食を一緒に楽しく食べ、仲良くテレビなんかを見ている間に、恋人からかかって来た携帯を取ったチンは、唇へと指を立て、しーっと悪戯めいて笑うと、電話口に出たのだ。

「ああ、平気だ。今日は特に何もなかったよ。2、3件、あんたに電話は入ってたけど、特に緊急の用件はなかった。メモが机に残してある」

保護欲の強いと言えば聞こえがいいが、自分が懐に抱え込んだものに対して、過干渉気味のところのあるスティーヴが、やはり自分が不在中の恋人に電話を入れて来た。

しかし、それに対するチンの態度が酷い。

「そういえば、急だけど、明日コノが休みたいって言ってた。特になんの予定もなかったから、OKしといた。……勿論、家だよ。なんでだよ。そんな、ダニーから電話なんてかかってきてないし、勿論、あんたの不在中に、あんたの家になんて行ってない」

確かに、マクギャレットの質問が的を外しているのだが、ダニーを目の前にして、完璧にシラを切って穏やかに笑っているチンには、黙っていろと示されなくても、ダニーは唖然としすぎて言葉もでない。

「ビールを買い足した方がいいか? ん? なに? カマけてるわけか? だから、俺はあんたんちにいないから、あんたんちの冷蔵庫の中に、いま、何本ビールが入ってるかなんて知るわけないだろ?」

チンは心配症の上司兼恋人に涼やかに笑いかけている。疑い深い、年下の恋人であるマクギャレットを軽く嗜める真似までする。そして、宥める。

「ああ、わかったって。電話がかかってきても出ないよ。あんたんちにも勿論行かない。あんたのベッドにも潜り込まない。これでいいか?」

チンに声に出して約束させたことで気が済んだのか、すっかり騙されているマクギャレットは電話を切った。

でも、チンは、ダニーとケリー家のベッドで一緒に寝る予定だ。

「……すげぇな、あんた……」

熟練めいた魔性の操縦術に、ダニーは思わずぶるりと身震いする。

チンは、平然と笑っている。

「なにが? スティーヴにはほんとのことしか言ってないだろ? それともダニー、スティーヴとまた揉めたいのか?」

 

「確かにさぁ、こないだスティーヴのベッドであんたと寝てるとこに踏み込まれたせいで、悪夢ふたたびとか嫌だし、俺がこっちに来たいって言ったんだけどさぁ」

まだお子様時間だったが、眠れないでいたダニーが少しでも長く睡眠時間を確保するため、さっさと潜り込んだシーツの中で、ダニーはさっきからぐちゃぐちゃとチンに絡んでいる。

「……ダニー」

後ろ手に手を伸ばして、手を繋いでくれているものの、もう、うるさいとチンはダニーに背中を向けてしまった。

「俺さぁ、あんたとスティーヴって、スティーヴが一方的にわがまま言ってんのかと思ってたんだけど、絶対にちがうね。俺、初めてスティーヴのことをかわいそうとか、思っちまったよ」

「……ダニー、お前が、スティーヴに同情的なのはもう充分わかったから」

だが、まだ、ダニーの口は閉じられない。

「なんつうの? 世の男どもは、こうやってころっと騙されながら、幸せに生きてるわけだって、もうその現場を見ちゃって、怖ぇのなんのって……」

絡み続けるダニーは、大げさにぶるりと身を震わす。

「はいはい。俺が悪かったよ。ダニー・ウィリアムズ君の純情を踏みつけたんだろ? ……そろそろ寝れば? いつもは殆ど寝られないんだろう? ダニー、お前が今手を繋いでるのは、お前のかわいいグレースなんだ。スティーヴもそう立て続けに泊まりの出張なんてないぞ?」

しかし、チンの声は穏やかだ。

チンが相手にしないせいで、もうダニーも絡みがいがなくなったのか、灯りが消え、眠るばかりの部屋の中は、二人分の呼吸音だけになった。

背向けていたチンが、ゆっくりと寝がえりをうち、もっと楽に手を繋いだままで眠れるよう姿勢を変える。

もうマクギャレットも電話をかけてこない。

すぐ側にある体温や、繋いだ手の温みは、眠りのためにダニーがずっと欲しかったものだ。

チンの呼吸は穏やかだ。

 

目を瞑ったまま長く努力した後、しかし、ダニーははぁっと、大きくため息を吐きだした。

眠りかけているチンの頬を突いて起こす。

チンの目がゆっくりと開き、二人は目があった。

「なぁ、……俺さぁ、あんたとマクギャレットが寝てても、俺たちの友情には何の関係もないと思ってんだけどね…………問題発生っていうか、……なぁ、チン、俺の勃ってんだけどさぁ、……なんでだと思う?」

 

(終)