ハワイの落書き 4

 

*9

 

スティーヴに呼び出されて家まで言ったら、泳ぐと言う。

「な? 昼飯食ってすぐのこの時間に、あんただって泳ぎにいくのは変だって思うだろう? 何もこの日差しの強いなか泳がなくても、昼寝してればいいと思うだろう? なのに、こいつ!」

「誰もお前にまで付いてきてくれって言ってないだろう、ダニー。お前はお前の好きなようにリビングで寝そべってテレビでも見てればいい」

「だから、何回も言ってるだろう! そうやって人をジジイみたいに言うな!」

庭の垣根を越えるか越えないかという程度のところで、もう揉めている二人は、しかし、しっかり海に向かって足を進めている。

「チン、お前も泳ぐか?」

スティーヴは誘うように聞くが、腹ごなしのために泳ごうとしている元シールズと一緒に海に入るなんて、無謀行為だとチンは知っていた。競泳状態で、何キロ泳がされるか知れたものじゃない。

イエスの答えを期待して見下ろしてきている茶色い目に、穏やかに笑いかける。

「俺は浜で待ってるよ」

「……だよなぁ。チン、それが常識的な判断ってものだ。この体力馬鹿と、一緒になって泳いだりしたら、イルカででもない限り、途中でへたばってライフセイバーの世話になることになっちまう。ファイブオーがそれじゃ、恥ずかしくて、もうこのビーチに来られないぜ」

ダニーは、最初から完全に浜で待つ姿勢だ。

二人きりで残すことが、少し気がかりなのか、スティーヴは少し機嫌悪く眉を潜めたものの、チンがその表情を面白がるように見上げると、肝の据わったところがみせたいのか、くるりと背を向け、先にビーチを目指して歩いて行く。

 

「……暇だね……」

日差しを遮るパラソルの下、特にすることもなく、ダニーとチンは、ただ砂の上に座っているだけだ。

半ば寝そべる形で、肘だけ付き、海を眺めているダニーは、さっきから欠伸を繰り返している。

「暇なら、家に帰っておくか、ダニー?」

チンもナンパを断ったり、間違って飛んでいたビーチボールバレーのボールを投げ返すくらいしかやることがない。

「あんた、どうするんだよ?」

ダニーは、顎が外れそうなほどの大きな欠伸に青い目をたっぷりと潤ませながらチンを見つめ、ごろりと腹這いになった。繰り返し砂を打つ足の甲が退屈そうだ。

「一応、スティーヴのこと待っておくよ。海から上がって誰も待ってないんじゃ、つまらないだろう?」

動き続けていた足が止まった。

「……なんつうか、チン、お前、良妻だよな?」

その系統のことを口にするのは苦手なくせに、わざわざ持ち出したダニーは、返って来る反応がまるで怖いかのようにチンの表情を探りながら過剰に身構えている。

だから、もっときつく返してやろうかと思ったが、チンは手加減してやった。

「だろ?」

あっさりと肯定し、ついでに、惑わすようなセクシーな流し目でダニーを見つめる。

弾けるようにダニーが笑った。

「おい、いい奥さんが他所の男のことそんな風に見ていいのかよ?」

笑っているうちに、スティーヴが海から上がって来た。それでも、優に一時間は泳いでいた。しかし、息も上げず、確かな足取りで近付いてくるスティーヴに、チンは感心し、ついでに呆れる。

「おかえり」

砂に座ったまま見上げ迎えると、髪を掻きあげ、水気を切ったスティーヴは、手渡されたシャツに袖を通した。いきなり何をするのかと思えば、目の前の砂へと膝を付き、チンの足首を掴み上げる。

「な、にを?」

暑いからと、裸足になっていたチンの足の裏の砂を払うと、脱ぎ置いたスニーカーを片足ずつ履かせていく。それも、引き締まった足首を愛しおしむように丁寧に。しかも、その最中に、牽制のつもりなのか、ダニーへとわざとらしく視線を流しじっと重く見つめ続ける。

「おい、ダニー、お前、これから飲みにでも行ってこい」

みんな大人なのだ。恋人の足首を掴んだままのスティーヴが、これからセックスするから、しばらく家を空けろと、要求しているのはすぐわかった。

厚顔にも破廉恥な要求をするスティーヴにダニーは思い切り鼻白んでみせたが、肩を竦めたまま大きく息を吐き出しトレスに対処すると、間借り人らしく、家主の要求にわかったと承諾した。

 

家の中に入るなり、勝手にタンスを開けて出したタオルをスティーヴへと投げつけた。

低い声で宣告する。

「スティーヴ、わかってるだろうけど、しないぞ」

ちょうどタオルは、スティーヴの顔に当たり、勿論それが床に落ちるより前に上手くキャッチした元シールズは、自分のやり方がまずかったことを自覚しているくせに、部屋の入り口に立ったまま不貞腐れた子供のように口を曲げている。

沈黙するスティーヴを置いて、チンはキッチンに行き、水のボトルを取り出し、自分で一口飲み、それをテーブルの上に置いた。

差し出された冷たい水にスティーヴは口を付け、ごくごくと殆ど一気に飲んでしまったが、小言を言われ叱られるのだとわかっているから、まだ、チンの顔を見られずにいる。

「あんなこといったけど、スティーヴは、セックスがしたいわけじゃないだろ、ダニーにさぁ、やったぞと見せつけたいだけだ」

実際、出来ているわけだし、現在スティーヴはダニーと同居中だ。チンはそういうことのあった後、運悪くダニーと出くわすことになったとしても、悪びれたり、隠したりするつもりはないが、見せつけるは、趣味が悪すぎる。

「……お前、帰るつもりか?」

憮然と床を見つめたまま、スティーヴの手が伸び、チンの手首を掴んだ。

一応、反省するということを、チンの恋人は知っている。すまなかったと小さな声が言う。

それから、帰らないでほしいと、懇願もする。

これで、いつもは、州知事から特別に任命されたファイブオーの頼れるボスだ。

手首を掴む手の力は、強すぎないがでも、放しもしない。

俯いたままの高い位置にあるつむじをチンは見上げる。

「これから、お前が昼寝するって言うんだったら、枕にだったらなってやってもいい、スティーヴ」

 

ダニーのベッドでもあるリビングのソファーで、窮屈そうに大きな身体を丸めているスティーヴは、チンの膝枕ですやすや眠っている。

元シールズでもそれなりに一時間の遠泳には、泳ぎ疲れたのか、軽く口まで開けた間抜けな寝顔だ。

「ダニー、悪かった。帰ってきてくれていい。スティーヴは寝てる」

短い髪の寝顔を見下ろしながら電話をかけると、ダニーはすぐ出た。

『マジ? 早くね? もう、すんだのかよ?』

喧嘩がねと、心の中で笑いながら、そうだとチンは答えた。

 

(終)

 

 

*10 (できてるダノチン設定 S1くらい)

 

眠い頭のまま、狭い洗面台の前に並んで歯を磨いていた。

「チン、お前さぁ、……一旦、家に帰る?」

朝飯を一緒に食いに出るかどうするか、まだ半ば瞑った目のまま、歯を磨いているダニーの質問の意味はそれだ。

頭の芯に残っている眠気のせいで、答えも出さないまま、チンはぼんやりと鏡を眺め、ただ習慣になっている動作のままに歯ブラシを動かしていた。

返らない答えも気にならないほど、眠いダニーの金髪が、不出来な鳥の巣のように四方八方へと跳びはねている。普段格好づけの激しいダニーが、茫然と、ただ、歯ブラシを持つ手を動かしている。

チンは、ふと面白いことを思いつき、寝ぼけた頭はそれを実行することを許した。

口の中に溜まったたっぷりの歯磨き粉の泡ごと、ダニーにモーニングキスをかましたのだ。

ダニーの咥えた歯ブラシごと覆った口元へ、たっぷりのぶくぶくの泡を押しつける。

「……お、お前っ!」

抵抗されても、項に両手をしっかりと回して、離さなかった。

「おはよう。ダニー」

まだしてなかった朝の挨拶をすがすがしくする。べろりとダニーの鼻を舐めて、鼻の頭も真っ白にしてやった。

ダニーは、泡まみれの口元を拭いながら、どうして、この年上は、こういうことをするかな?とでも言いたげな、呆れた顔でチンの顔を眺めていた。だが、翌朝眠くてたまらないほど気持ちのいいセックスをして、満足で目覚めた朝なら、だれでも多少のことは大目に見てもいい気分になる。

軽く肩を竦めると、そっけなく、ダニーもおはようと返してきた。

そして、そっけなかった挨拶は、フェイクだったとばかりに、いきなりチンを強くホールドし、自分も泡まみれの口でチンに唇をむぎゅうと押しつける。

他人の口から歯磨き粉を移し替えられるのが、どれほど気持ちが悪いのか、チンは身を持って思い知った。

 

「……朝飯、……パスするよ」

「俺も……パスでいい」

 

仕方なく、二人して口を濯ぎ直してから、モーニングキスの仕切り直しをした。

 

(終)

 

 

*11

 

ゆっくりと腰が動き始める。濡れた肉壁がダニーの肉棹をきゅううっと締め上げ、包み込む。

ダニーは、両手で尻を掴んでいる。堅いいい肉だ。鍛えられ力を秘めて引き締まっている。チンが、尻を押し付けてくる。

ズブズブと濡れ肉を押し広げ、犯していく己のモノが感じるとろりとした快感に、思わずダニーが尻肉を左右に割り開き、腰を突き上げて性急にズブリ熱い肉襞の奥へと捩じり入れると、あっと声を上げて、しなやかに背中を反らしたくせに、チンは口元を緩めくすりと笑った。

そして、殊更、ゆっくりと、ゆらゆら腰を動かすのだ。熱い濡れ肉がダニーのペニスを包み込んできりなく扱きあげる。

「まだ、いくなよ、ダニー」

ダニーの腹に手をついたチンは、色気のある目付きでダニーを見下ろし、射精を求めて逸るダニーに釘をさす。

引き締まった尻の奥でぬちぬちと音をさせているのは、ダニーがたっぷりと塗ってやったピーチの香りのする潤滑剤だ。

大きく足を広げられ、桃色のそれを尻の間に塗られている間は、あんなにも恥ずかしそうにして、大人しくしていたというのに、今は、物欲しげに涎を垂らす小さな口が、硬いペニスを貪欲に咥え込んで放さない。

「無理だろ。お前ん中、かなり気持ちいい」

性感を自分でコントロールできるよう、チンを這わせて晒したあそこに後ろから捻じ込んでいるのとは違うのだ。チンが濡れた自分のいいところに当たるよう、尻を振り、ペニスをきゅっとぬるりとした肉筒の中で絞りあげてくる。

チンは欲情に潤んだ目元を緩ませ、汗に濡れた上半身を倒すと、正直な弱音を吐くダニーの唇へと啄ばむようにキスしてきた。キスから逃げようとするお互いの唇を捕え合う、優しくて子供っぽい真似をする隙にも、チンはそっと身体を揺すって、触れ合っている胸から小さく突き出している互いの尖りを擦り合わせてきた。

それはやわらかな快感でしかなかったが、ぬるりと熱い肉襞に絡め取られたままのダニーの勃起は、締めつけの中でますます硬さを増してしまう。

キスしながら、それをチンが笑うのだ。

気持ちがいいと、耳元で熱く湿った息が囁いた。

「あんたさ、性悪だよな?」

いますぐ、掴んだこの尻を激しく下から突き上げ、どろどろの肉の中に弾けそうに熱い切っ先を埋めたまま、出したいというのに、目を瞑ったまま気持ちがよさそうに腰を揺する年上の恋人がいるせいで、ダニーは腰を熱く突きあげている射精感を堪えるしかない。

仕方なく、干上がる喉に唾を流し込み、乾いた唇を舐めながら、ダニーは聞く。

「……、いいのかよっ?」

「……っ、すご、く……いい、ダニーの硬いアレが、当たるのが、ぅ、んっ、いいっ……っぁ!」

上下する動きを大きくし始めた尻は、我慢も後少しだとダニーに教える。

だが、その少しが、もうダニーは待ち切れなかった。

腹の上のチンを引き摺り下ろし、シーツの上の足首を掴んで大きく足を開かせると、圧し掛かる。

今にも弾けそうな熱い切っ先をぬるみ、ほどけた窄まりに宛がい、ずんっと突き入れる。

衝撃にしなやかな背中が反り返った。

ダニーを捕えるためにチンの両手が伸ばされ、ぎゅっと抱きしめられる。擦り寄せられた顔が、くすりと笑うやわらかな空気が耳元まで運んだ。

「っぁ、ダニー、きもち、いいっけど、……ダメだぞ」

ずんずんと突きあげるのに、チンはダニーの胸の中で身体を丸めこみ、あ、あっと短い声を上げる。

「気持ち、いいなら、っいいだろ……」

緩やかに上げられた顔の細められた目に、くそっと思いながら、ダニーは抱え上げた尻をきつく掴んだ。

 

(終)