ハワイの落書き 20

 

*42

アメリカ大使の娘が誘拐された回妄想(スティーヴが大尉と朝いちゃいちゃしてたのが、かわいかった)

 

「あんた、……すごくわかりやすいな」

「ん? 何が?」

普段固く引き締まっている口角をすっかり上げて、横を見た相棒に、ダニーは今にも頭痛が起きそうだ。

「自覚はないわけか?」

ハンドルを握っているスティーヴは、鼻歌でも歌い出しそうだ。お得意のネクタイについてのからかいも今日はまだない。

「あんたさ、今日、朝から気持ち悪いくらい、笑ってるんだけど、……昨夜は、チンからお許しが貰えたってわけだ。あ、ちょっと、待って。口を閉じてろ。俺は、あんたからそのことについて聞きたいわけじゃない。決してのろけ話を聞きたいわけじゃないんだ!」

慌てて止めたダニーは、助手席で大きなため息をつく。

フロントガラスの前方を見つめるスティーヴは不満そうに唇を尖らせている。

「お前さ、そんな残念そうな顔するなよ。あんた、何? ベッドの中で、どの位チンがよかったかとか、俺に聞かせたいの? やめてくれよ……」

 

「あのさ、チン」

本部の中を歩いていてダニーに肩を掴まれたチンは振り向いた。

「……あんたは、本当に顔にでないね……。や、その方がありがたいんだけどさ、あのさ、あんたの旦那、全力で昨日やったって顔に書いて、にっこにこで歩いてるから、どうにかした方がいいと思うよ……」

瞬間だ。

チンがスティーヴのオフィスへと方向を変えた。

「スティーヴ!」

びくりとファイブ・オーのボスが背を正し、肩を窄める。

「……おー、さすが。姉さん女房の威力をみたね」

 

(終)

 

 

*43

カジノ潜入捜査の回妄想

 

「これは、一体……?」

光沢のいいタキシードを前に、眉を寄せるチンに、スティーヴは軽く笑いかける。

「どうせならと思って、あんたの分もレンタルしといた」

「俺は最初から、バックアップって決まってたんだから、必要ないだろ」

「勿論、経費じゃ落としてない。俺個人の楽しみのために借りておいたんだ。チンが着てるとこが見たくてさ」

細かい庶務関係の書類は、コノの知識ではカバーしきれないところがあり、経験のあるチンが管轄している。

眉を寄せる部下を前に、ボスは焦り顔で言い訳する。

「いいだろ。見積りも請求書も、全部、俺達二着分しか取ってない。これは純粋に俺の楽しみだ」

言い立てたスティーヴに、肩を竦めたチンはため息を吐き出し、苦笑した。

「で、あんたの楽しみのためだけに俺はドレスアップするのか?」

 

ファイブ・オーのボスがする拗ねた顔にチンは負けた。

カフスを留めながらスティーヴの前に姿を現わせば、目を輝かせた満面の笑みだ。

だが、開いた口はこう言った。

「悪くない」

「……それが、わざわざ着替えて来た俺に対してふさわしい感想か?」

顔を顰めたチンに、スティーヴは笑み崩れる。

そして、腕を伸ばし、チンを捕え、タキシードに皺が寄るほど強く抱きしめる。

「勿論、すごく似合ってるさ。だけど、ひねくれ者のあんたは、最初っから褒めたら、そんなことないって否定するんだ。鏡の前で、悪くないって思ったから出て来たんだろ? 本当にすごく似合ってるぞ。……今すぐ、脱がせたい位だ」

「お前な、スティーヴ……」

だが、嗜めるチンの小言は、尻を掴んで揉みしだきながら、キスしてくるスティーヴの口で遮られた。

 

(終)

 

 

*44

パク将軍の回妄想。スティのシールズ仲間のニックがいい奴だったらよかったのに!

 

実に何気ないしぐさだったが、ドアを開け部屋を出ようする時に、そっとチンの肩を押したスティーヴの動きが、ニックの視線を吸いよせた。

元上官と肩を並べて歩き出した途端、ニックはこれみよがしに、にやにやと笑いながら口火を切る。

「意外だ」

「何が?」

スティーヴは不思議そうにニックの目を大きな目で覗きこんできたが、聡い彼は、すぐに自分のミスに気付いた。

だが、悪びれる様子はどこにもない。

「ああ、……そんなに意外か?」

すまし顔のスティーヴに、ニックはにやにや笑いがやめられない。

「やかましくて、噛みつき屋で、だが、仕事はきっちりできる。そういう面白い奴が、昔っからあんたのお気に入りだったろ? 彼は、違う」

「まぁ、そうだな。チンは大人しいし、無駄な動きもしない」

明るく笑ったスティーヴの笑顔に、ニックは目を奪われた。

「だけどな、初恋の相手ってのは、特別だろ」

 

(終)