ハワイのらくがき18

 

*37

 

「あんたさ、もうそろそろ、旦那にやらせてやってよ」

昼休みも終わると、そろそろ自分のオフィスに引きあげようかとしていたところで、外から戻って来たばかりのダニーに、チンは強く肩を掴まれた。

「なに? その驚いた顔。あのさ、……もしかして、俺に隠したままにしとけるとでも思ってた?」

驚きに見開いたチンの目を、ダニーは少し伸びあがるようにして間近で覗き込んでくる。

「確かに、チンは、なぁんにも言わないし、態度も良好。ちょっとや、そっとじゃ、あんたたちが付き合ってるのを見破れないよ、だけどさ、あんたの彼氏は、俺と一緒の車の中で、すっげぇ、チンが、チンがって、うるせぇの!」

周りに聞えないように囁き声で、だが、喚きたいんだという身ぶりで十分スティーヴの鬱陶しさを示したダニーは、ぐったりと疲れたとばかりに、チンを見据えていた。

「確かに、今日の、あいつのあの誘い方はどうかとは、俺だって思うけど、もう、お預けやめて、やらせてやって。なぁ、俺が頼むから」

ダニーの言う、スティーヴのどうかと思う誘い方というのは、今日の午前中の打ち合わせの間に、たまたまチンが画面から顔を上げると、スティーヴと目が合い、するとスティーヴは真面目腐った顔のまま「やらせろ」と口だけ動かしたのだ。場所も時も弁えないボスのあまりな行動に、思わずチンは吹き出しそうだった。

「……アレ、見てたのか?」

「まぁね、俺の目は広角だから、自分の頭上のことも見えるんで。……なぁ、なんで、そこで、赤くなって、そんな恥ずかしそうな顔するわけ?……っていうか、おい、ちょっと、チン。あんたさ、マジで、ちょっとそんな顔しないでくれる? ああ、もう、ちょっと! おい、コノに見つかると、何してるんだって、俺がこっ酷い目に合うだろう! 俺の部屋に行こう! 何、なんなの、あんたたちって!」

 

ダニーにバレていたのは恥ずかしかったが、もっとチンは自分がポーカーフェイスで耐えられると思っていた。

しかし、勢いよくチンの腕を引き、自室に駆け込んだダニーの慌てぶりを見ていると、どうもそうではなかったらしい。赤くなっているという自分の頬を覆い、そうすると、無理矢理押さえ込もうとしていた羞恥心が一気に込み上げて来て、チンは俯いてしまった。

「…………悪い、ダニー……その、色々と、迷惑をかけて」

チンも顔を上げられなかったが、ダニーもどうしていいのかと、途方にくれた顔で立っている。

「何? 喧嘩? なんで、スティーヴの奴は、ここんとこ、あんたにお預けくらってるわけ?」

それは、言うのも恥ずかしい、くだらないことのためだ。

羞恥の中から、チンは声を絞りだした。

「…………ダニー、……その、スティーヴのことは、今晩、なんとかするから……」

 

背後のスティーヴに足を開いて、ベッドに四つん這いで這うチンは、恥ずかしさで顔が上げられない。

スティーヴと、セックスするのが嫌なわけではないのだ。

ただ、場数だってそれなりに踏んできたはずの自分が、同性とのセックスでは、まるで為すすべもなく、役立たずなのがたまらなかった。

今も、スティーヴは、いやにチンを気遣い、慎重に指を尻の穴の奥へと進めている。

確かに、時間をかけて、そうやって貰わなければ、苦痛なしに、スティーヴと繋がることができない。

しかし、チンは苦手なのだ。

ただでさえ、手間をかけさせるばかりで、スティーヴをよくしてやったりできないというのに、中へと塗り込まれたジェルは、スティーヴの指が抜ければ、締めたつもりの穴を盛り上げ溢れだす。

自分の身体のどうしようもないだらしのなさが恥ずかしく、そんなのをスティーヴに見られているのかと思うとたまらなかった。

スティーヴとしたくないわけでは、決してないのだ。それどころか、ボスのくせに、飾り立てることもなく、ただやりたいと伝えてくるスティーヴがおかしくて、すぐにでも抱きあいたいくらいの気持ちになる。

ただ、恥ずかしい。

「大丈夫か、チン?」

不必要なほど身体に力を入れているチンを、毎回スティーヴは心配する。覗き込んできた顔を安心させてやりたくて、チンは片手で触れ撫でた後に、パチンと叩いた。

「スティーヴ、俺たちのこと、ダニーが知ってた」

途端に、スティーヴの顔がしまったと顰められる。

「お前がぎゃぁぎゃぁうるさいから、やらせてやってって、言われたぞ」

慌てて一度は身を引きかけたくせに、チンがそれほど怒ってるわけでもないと察すると、すぐに不満げに唇を付き出した年下のボスの顔は、かわいらしかった。

「あいつ、勘がいいからさ、あんたと初めて寝た次の日に、ちょっとばかり浮かれてたら何があったって、問い詰められた。……ここまであんたにバレてること黙っててくれたなんて、ちょっと、あいつのこと見直してもいい」

「俺は、スティーヴが、こんなに口が軽いなんて思ってもみなかった」

言葉では酷く詰りながらも、チンはスティーヴに顔を寄せ、口付けた。

「やるだろ? 来いよ」

誘いはかけてみたものの、本当のことを言えば、まだ自信がない。

けれど、チンは、出してしまいたいものを腹の中へと溜めたまま、このまま我慢させられるよりも、スティーヴに掻き出されてしまっているのだから、仕方がないと誤魔化したい。

うまくその気にさせたくて、剥き出しのまま開いている尻を突き出した。

しかし、その尻を、今度は、スティーヴの大きな手が、勢いよく、ぱんっと叩く。

「チン、あんたさ、ダニーから聞かされてないか? 俺があんたのこと大好きだって。まだ入れない。……チンが、漏らすのをたまらなく恥ずかしいって思ってるとしても」

瞼を半ば伏せたつんと冷たい顔で見下ろしてきたスティーヴは叩いた手で、盛り上がったチンの尻の狭間を割り開き、撫でてくる。

溢れだして、穴の周りを汚しているジェルを、さらに指でねとりと周りへ塗り広げる。

「スティーヴっ!」

「チン。これから、俺が指を入れてここをぐちゃぐちゃにするから、ジェルがあんたの尻の穴の周りを汚しても仕方がない。だろ? そう思ってろ」

 

それから、散々、指で尻の穴を掻き回され、広げられ、注ぎ足されたジェルが、もう腿まで伝い、喘いでいるのも苦しくなるほど弄られ、続け緩んだ穴にやっとスティーヴの太くて硬いものが嵌められた。

ずるりと入り込み、肉壁を擦りあげていく大きな塊に、思わず、ぶるりとチンが身を捩って喘ぐと、覆いかぶさるスティーヴは項へと噛む様なきついキスした。

「くそっ、チン、あんた、何にも心配しなくても、すげぇ、いいよ。いますぐ、出そうなの、かなり本気で、俺が堪えてるって知ってるか?」

 

 

おはようと、声をかけて来たダニーは、にやにやといつまでもチンの顔を覗き込んでやめなかった。

チンが背中を向けても、わざわざ回り込んで、じろじろと見つめるのをやめない。

「……ちゃんとやらせた。……くそっ、ダニー、やめろ」

とうとう、チンがきつく睨むと、ダニーは、弾けるように笑いだした。

「チン、あんたさ、そんなキャラだったの? すげぇ、かわいい。スティーヴの奴の気持ちがいまいちわかんなかったんだけど、へぇ、なるほどね! あんたさ、自分が真っ赤だって、わかってる?」

「うるさい、ダニー!」

「ふうん、チンは、昨日、スティーヴにやらせてやったの」

にやにや笑いをダニーはやめない。

「……へぇ、やったんだ」

「そうだよ、悪かったな!」

「いんや、俺のためにも、世界のためにも、それは、とてもありがたいことですよ」

 

END

 

 

*すみません。なんか、色々まとまらなかったです……。