ハワイの落書き 12

 

*25(将来的三角関係のの続き)

 

とっととスティーヴの家を出て行くための、物件探しの暑い日差しからダニーが戻ってみれば、家の中は静かだった。

炎天下の長い散歩は、住宅条件をなかなか下げられない自分のせいだとは分かっているが、疲れるし、汗もかくし、腹も立つ。

口うるさいスティーヴは文句を言うのに適した相手じゃなかった。

だが、その恋人のチンは、優しい。

出掛ける前にはいたチンに、この苛立ちを聞いて貰おうと思っていたダニーは、リビングにたどり着けばソファーにその姿がないことに、実は、心底がっかりした。

はっきり言えば、同じ顔を合わせるのなら、スティーヴの恋人としてのチンよりも、ダニーの同僚であるチンと顔を合わせている方が、近頃、とみに複雑化してきたナイーブな心理上の問題からも、ずっと気が楽だ。

だが、今日は休日で、ダニーがチンの恋人の家に同居しているのだから、スティーヴの家で、チンが恋人としての立場で振る舞おうと、ダニーは文句を言う立場になかった。それにしても、チンがいない。

ダニーが、出て行く前は、ソファーに座って、スティーヴの作ったパインジュースを飲んでいたのだ。

分けてくれと言ったら、一口わけてくれた。

甘くてうまかったなぁと、残りはないかと冷蔵庫を覗き込んで、馬鹿みたいだが、そこで初めて、ダニーは、姿をくらましている二人の行く先について思いついた。

冷蔵庫の冷気で少し頭が冷えたおかげかもしれない。

思いつかなかったのがおかしいくらいで、よほど太陽の熱で脳が煮え立っていたとしか思えない。

やっぱり、あの時、今すぐ決断してくれるのなら、家賃を下げると言い出した不動産業者の口車に乗らなくてよかったと思う。今の頭じゃ、1+1だって、まともに答えられないに違いない。

自宅に恋人が遊びに来ていて、鬱陶しい邪魔者が出掛けているならば、二人がベッドにいなきゃ嘘だ。

いくら家の中が静でも、出掛けているなんてまずあり得ない。

それを思いついて、つい、憂鬱になったしまった自分が嫌だと、知らず顔を覆っていた手でダニーは慌てて髪をかきあげた。

スティーヴに、いくつか美点があるとしたら、手際よく料理する味のよさはその一つにいれてもいい。

冷蔵庫に残されていたパインジュースは、やっぱりうまかった。

勝手に飲み干し、ふうっと長く息を吐いて勢いを付けると、ダニーはスティーヴから立ち入り禁止を言い渡されている寝室に向かう。

例え、外に声が漏れ聞こえるような激しいファックの最中でも、踏み込む気だ。

ダニーは、近頃、チンに対して不適当な態度を取りがちな自分に、一度、引導を渡した方がいい気がしている。チンは、気に食わないところもある奴ではあるものの大事な友人であるスティーヴの恋人なのだ。そんな相手にふらつくなんて、ダニー・ウィリアムズの友情理念に反する。

第一、チンは男だ。まず、それが、重要…違う、問題だと、もやもやと混乱する頭を沈めるようにゆっくりと息をして覚悟を決めつつ、ダニーは廊下の先へと足を進める。

幸い、近くまで来ても、ドアの外まで、いやらしい声は聞えなかった。

みみっちくも、耳を押し当て確認しても、やはり物音がしなくて、俺がいないのにやってないなんて、スティーヴはインポか?と思いつつ、ドアに手を当てる。

中に二人がいてもいなくても、今、このドアを開ける必要をダニーは感じていた。

ドアノブを回しながら、ぎゅっと目を瞑る。目を開けた瞬間、ダニーは自分が部外者だと悟るはずだった。

怖々、そっとドアを押し開けて、そして、本当に悟った。

恋人たちは、昼寝をしている。

ダニーを参らせたこの暑さだというのに、スティーヴの腕は勿論チンの枕になっていて、その上、その反対側の腕まで、チンを抱きしめるために使っている。

抱き込まれたチンは少し寝苦しそうだ。

ベッドに身体の大きな男二人が仲良く眠っていて、マジか?と思うのに、しかし、スティーヴへと無防備に身体を預け眠るチンの締まった身体のラインが、なまめかしく見えた。

普段から眠りの浅いスティーヴが、ドアが開いた気配を感じたのか、唸りながら顔に皺を寄せた。

ぎゅっと顰められた顔の中の瞼が何度か震え、目が開きそうになる直前に、チンの手が、スティーヴの腕を撫でる。

伸ばされた手はスティーヴの逞しい腕を緩く撫で続け、するとスティーヴの顔にあった緊張がゆっくりとなくなってゆき、また深く眠りに落ちて行く。

完全にスティーヴの寝息が元のペースを取り戻すまでそうしていたチンは、そっと目を開け、ベッドの脇に立つダニーを見つけると、笑みを深くする。

唇だけを動かして、暑かったろと、労をねぎらう。

それから、悪戯めいた目で、自分の横にちらりと視線を流し、ここに寝るか?と誘う。

ひくりとダニーの口元がひくついた。

それを魅力的な申し出だと感じた自分に腹が立ったのだ。

あんまり腹が立ったから、前回、ダニーがスティーヴに吊るし上げをくらったように、チンも酷い目にあって思い知ればいいと、ずかずかとチンの側まで近づいた。

ぎしりとベッドを軋ませ、チンの隣に本当に寝転ぶ。

その振動で、さすがに、スティーヴがまた唸って目を覚ましそうになり、優しくチンが汗をかいている短い髪を撫でている。

「ごめん。ごめん。しー。スティーヴ、大丈夫」

なんだよもうと、ダニーが腹立たしくなるほど、スティーヴを甘やかしながら、チンは額や頬にキスを繰り返す。

いちゃつく二人は無視で、ダニーは、目覚めた時にスティーヴに撃たれることすら覚悟して、目を閉じた。

暑くて疲れていた。眠れるものなら、眠りたい。

寝転んでみて、初めて、この時間のスティーヴのベッドは、風の通りがよく、眠りやすい涼しさなのだと知った。気持ちのいい風に、呼吸が楽になる。

眠気を残すチンの声が優しかった。

スティーヴばかりを構うのに忙しくしていたくせに、チンは、ダニーをも甘やかす。

「おやすみ、ダニー」

 

そして、勿論、目が覚めた時、辺りは大惨事だった。

「……どういうことだ、ダニー?」

チンが懸命に間に入って、スティーヴを取り押さえている。

低く抑えられているからこそ、スティーヴの声が恐ろしい。

久々によく眠れていた昼寝だったというのに、ダニーの頬がひくつく。

「……あの、そのな、……あんたの恋人が誘った?」

 

(終)

 

 

*26(将来的三角関係のの続き)

 

温かく湿った口の中で強く吸い上げられながら、尻の中に入れられた指を動かされるのに、チンの腰はガクガクと揺れてしまう。

「ス、ティーヴっ……!」

スティーヴの長い指は折れ曲がり、チンの少し腫れた窄まりの中に埋まり、中を掻き回すように、くちゅくちゅと休みなく動いていた。

伸ばした舌で、ぷるりと丸く腫れているものの先から零れでている粘液を啜るように小さな窪みを舐め回されて、チンの口からは嗚咽にも似た声が漏れた。

窪みからは、透明に粘った濃い粘液が湧き上がり続け、それをスティーヴが吸い上げる度に、耐えられずチンの腰は、大きく震える。

前からのいやらしい刺激だけでも、もう立っていられないというのに、皺を寄せ、懸命に締めようとしている赤い口を何度もこじ開け、ぐぐっと濡れた肉襞の中で抉るように指が動く。

「ずぼずぼに、指が入っていくぞ、ここはどうなんだ?」

「……っ、無理っ……、もう、ダメ、だっ……」

柔らかいスティーヴの舌が、剥き出しの亀頭を舐め上げる。

「ダメじゃないだろ? どうなんだって、聞いたんだ」

「っぁ、いい、っんだ。……スティーヴが、いま、触ってくれてる、とこが、いいっ、ぁっ、……すごく、いいっ」

「じゃぁ、もっとやってやるから、もう少しケツに入れてる力を抜け」

掴まれていた硬い尻肉を、さらにぎゅっとスティーヴの大きな手で握られ、チンはああと、喉を反らして声を上げた。

友人の結婚式に出るため本土に飛ぶ、スティーヴを送りに仕事を抜けたのだ。

本部から出る時に、用意のいいスティーヴが、忘れ物をしたと珍しいことを言うから、家に寄った。スティーヴが部屋に物を取りに行く間、キッチンで飲み物を飲んで待っていた。

午後からの仕事に少し遅れるつもりで、昼休みに出てきていたから、スティーヴを空港で下ろした後、何を食べようかと考えていた。

それが今は、シンクに背を預け、半ばまで剥き出しにされた腿を掴まれたままペニスをしゃぶられるのに軽く癖のある陰毛に覆われた腰を突き出している。

もっと舐めていて欲しいのに、温かなスティーヴの舌がざらりとカールした毛を舐めペニスから離れていく。

舌先は、股の間の垂れ下がった袋を掠めるように伸ばされた。

かすかに触れるだけじゃなく、もっとたくさん舐めて欲しくて、チンは自分から腰を前へと出してしまう。だが、ジーンズが腿に絡む腰をチンが突き出した程度では、やっと袋に唇が軽く触れる程度が精々で、スティーヴは、後ろへと挿し入れていた指をぬるぬるの肉の奥深くまでぐっと押し入れると、突き刺した指ごと強引に腰をもっと前へと引き寄せた。

張り詰めた先端の小さな窪みから、たらたらといやらしい液を溢れされて揺れるチンの勃起の下へと高い鼻を埋める。

股の間に顔を突っ込んだスティーヴが、舌を伸ばせる限り伸ばして、太腿の付け根の内側と、不安定に揺れる柔らかい袋を一遍に舐めだし、気持ちの良さにチンは、目の前の青いシャツの背中へと手をついた。

鍛えられ硬い背中に覆いかぶさるようにして縋りつきながら、股を開いて腰を前後に揺すってしまう。

たまらなかった。

深いところまで肉筒を占拠する長い指は、昨夜、太くて硬い勃起を受け入れていた時と同じリズムで、チンの中を犯していた。

時々、きつく太腿を吸われる。

きっと跡がついていると思うと、恥ずかしさで身体が熱くなり、そんな風にされることに頭がくらくらした。

同居するダニーを気遣い、チンの家に泊まった昨夜だって、スティーヴはやたらとチンを離さなかった。

そこまで求められることは少ないのに、口の中の精液を飲み干すよう強く見つめたまま要求された。

勿論、口でするだけでは済まなくて、長い間後ろを使われた。

おかげで、さっき、いきなり指を入れられても、緩んだ穴はずるずると抵抗もなくスティーヴの指を飲み込んでしまった。

「あっ、……あっ、……あっ」

もっとと頭を抑え込もうとしているチンの手を払って、スティーヴが顔を上げる。目があって、恥ずかしさのあまりチンは視線を逃がした。

赤くした顔の中で小さく目を開けるチンは、開きっぱなしにした口から洩れるはぁはぁと湿った息が抑えられない。

「ァあ、……はっ」、

締めつけたがって蠢く濡れ肉をかき乱すようにぐりゅりと回し入れられた指に、昨夜からの蹂躙で、熟れた内奥のやわらかい肉は、引き込むように動いている。

「っ、あ、あっ、スティーヴっ」

先を濡らしたままのものをまた咥えられ、その上、ぐずぐずに蕩けている後ろまでぐいぐいと指で犯され、チンの腿には震えのさざなみが走る。

なのに、疼きに悶える柔肉の中を抉る指が二本に増やされ、容赦なく肉襞を掻き乱していく。

「もうっ、……スティーヴ、も、うっ!」

狭い肉道の中でひときわこんもりと盛り上がり狭隘な肉壁の中をさらに狭くするその部分を狙いすましたように道をつけていく指の動きに、チンは腰を振って快感の辛さを訴えた。

狭い肉筒の中をそこばかり狙って捏ねるように動く指と、扱き吸い上げられる前に、開いたままの口の中で乾いた舌が丸まっている。

「出せよ、飲んでやるから」

熱く柔らかな口内で腫れあがった亀頭を包み込まれた。唇の締めつけに、雁首が刺激され、全身がガクガクと震え出した。スティーヴは舌を駆使し、唇を窄めて先端からいやらしい汁を漏らし続けている熱い肉を吸い上げる。

付け根まで濡れた肉襞の中に埋まっている指も、腫れあがった弱い部分を攻撃することをやめようとせず、狭穴の収縮は酷くなるばかりだ。

腰に溜まるあまりの熱に涙まで湧き出て来て、鼻の奥が熱くなり、もう堪らなくて、チンは背を丸め震える手で掴んだスティーヴのシャツにぎゅっと皺を寄せた。

だがそこで更に、力の入った尻肉を広げ、濡れ肉の中へと埋まった指をぐりぐりと捩じり込み、スティーヴが容赦なく奥を穿つ。

「あ、もうっ、……ぁっ、う、……っう」

後ろの穴を指に深く犯され、前まで強く吸いあげられる快感に、もう完全に堪えられなかった。

「……ダメだ、イクっ、……イ、クっ!!」

チンは、丸めこみ、力を込めた身体から勢いよく爆ぜさせた。

ぱくりと開いて射精する小さな窪みしつこく舐めてくるスティーヴの舌に、チンの腰は長い間ビクビクと震え続けた。

 

 

 

スティーヴが支えていた手を離せば、胸を喘がせたままチンはずるずると床へと落ちて行った。

「スティーヴはどうするんだ?」

落ちた前髪がかいた汗に額に張り付け、緩慢に見上げてくるチンは、スティーヴに咥えられていたペニスもまだ濡れたまま、足も閉じてない。

チンの顔の先には、ジーンズの前をきつく盛り上げるスティーヴの股間があり、それを見つめるまだ目元の赤いチンの目が潤んでいた。

スティーヴは時計を見て、軽く肩を竦めた。

いったばかりで、ぐったりと力の抜けた身体がなまめいていた。

「そのまま、股を開いてのびてろ。あんたのこと見てるだけでいけるさ」

 

 

 

スティーヴがいっても、まだ、チンの腰は蕩けたように重だるく、波打つように動く胸だって、熱い。

頬の赤さは、氷ででも冷やさないと取れない気がした。その前に、溢れ出た涙で湿る目元を拭わないことには、外にも出られない。

昨夜だって、散々やったのに、出発間際にまだスティーヴに襲いかかられて、チンには不思議だ。

「……なんでだ?」

「あんたが、俺のいない間に、浮気しないように、絞り取っておいた方がいいだろうと思ってな」

「……スティーヴ?」

「4日だ。4日で帰って来る。チン、その間に、絶対に浮気なんてするなよ」

スティーヴの脳裏に危険だと浮かんでいるのは、近頃、特にチンへとちょっかいをだしてくるダニーだ。仲のいいダニーに対するチンのガードも緩く、二人を同じ本部に残していくのが、気にかかって仕方がない。だが、チンの中で、娘思いのダニー・ウィリアムズは、男と寝ないと決まっているから、脳裏にも浮かばない。

ただ、1000メートルを重装備で全力疾走させられたような疲れだけを感じているだけだ。

心配する恋人の気持ちを欠片もわからず、チンは、眉を寄せて、不思議そうにスティーヴを見つめる。

「……しないだろう、普通」

「だな、これだけやっとけば、普通はしない」

スティーヴは、少し不機嫌に眉を寄せ、すっかりくたばっているチンを引き寄せると、ちゅうっとキスをした。

 

(終)

 

 

読んで下さって、ありがとうございました。