ハワイの落書き(チン受)

 

*1

 

「…意外に効くな」

「何が?」

見上げてくるチンの目が不思議がっていた。スティーヴは彼の前へと腰掛ける。

「お前、気付いてるか?今、自分でひとつボタンを外しただろ。暑いのか?」

涼しげな目はまだ仲間への信頼の笑みを残していたが、察しのいい彼の中でエマージェンシー音が響き始めたのをスティーヴは感じた。

当たりだ。その勘は正しい。

「ドクターヤンの薬は効くんだろう、チン?」

「さっきのコーヒー…! 何か俺に飲ませたのか!?」

「……媚薬?」

語尾を上げるスティーヴはテーブルの上のチンの手に手を重ねながら、こわばった顔を楽しげに眺めた。愛しさを込めて重ねた手を撫でさする。

「俺のアレをこの手で握りたくなったろ?」

ほらこいよとばかりに、手を股間へと引きよせる。まだ硬くなってないというのにずしりと重みのあるものを触らせ、スティーヴはにやりと笑う。

「いい解毒方法を俺は知ってる」

「……ボス、あんた、むちゃくちゃだ」

 

(終)

 

 

*2

 

「なぁ、今晩、やらせろよ」

溜まった書類を机に広げ、整理していると、長い足で大股に側へと近付いてきたチンのボスが耳元へと顔を寄せるなり、そう言った。

何をいきなりと書類から目を上げ、見上げれば、年下の上司は、一応、どんな種類のものであってもチンの答えを聞く態度を示して待っている。

ただし、性格的に長くは待てない。もう、イライラし始めている。

既定の終業時間までは、後2時間ある。

チンは頬杖のまま軽く首を動かした。

「わかった。OKだな。じゃぁ、夕飯を作っておくから、それまでに俺の家に来い」

首は、なんとなく動かしただけで、チンは彼のせわしない性格を相変わらずだと、心の中で笑っていただけだ。

ついでに言えば、職場にセックスを持ち込んで平然としたスティーヴの若さに、呆れに似た感心も抱いていた。

仕事外の事柄に関してのボスの申し出に対しては、まだ、何の答えも出していない。

「嫌なのか?」

スティーヴは一人合点が多すぎる。

もう機嫌を悪くしはじめている。

チンは、手の中の書類を揃えた。

「用事はないから、飯を食いに行く」

「違う。セックスさせろって言ってるんだ」

スティーヴの凜気がチンはおかしい。

大きな身体のボスを見上げ、視線を合わせると、チンは口元に小さく笑みを作った。

「わかってる。十分楽しませてくれ」

 

(終)

 

 

*3

 

「ボス、あんた、ロマンティストだな……」

怖いほどに澄んだ空が、明けようとしていた。さすがに、まだ人出はなく、餌を求め舞う鳥たちと、スティーヴと、チンだけが、今日という日が始まる時間に繰り返し押し寄せる波の音を聞いている。

さっぱり理由は分からないが、いきなりスティーヴは紳士的な気配りを発揮し、Tシャツの上に来ていたシャツを脱いで砂の上へと置き、その上に腰掛けるチンは苦笑を浮かべている。

「悪くないだろ。こういうのを一緒に見るのも」

まだ冷たい、澄んだ空気の中に身を置くのは悪くはなかった。だが、4時半に起こされるのは、あまり歓迎できることではない。

しかも、夕食が終わるか終わらないかのうちに、ダイニングで事に及んで、準備が出来ていないとチンが言うと、腿の間を盛大に汚した挙句、それだけではすまないことへの準備のために、シャワーを使うチンの、その間が待てなくて、一緒にだなんて適当なことを呟きながら、スティーヴは狭いバスルームへ入り込んできて、洗ってやるだとか甘いことを言いつつ身体に触り始め、結局、その場で立ちファックする破目になった。それでも、まだ気が済まなくて、ベッドでも一回戦だ。

本人がタフな上に、持ち物も硬くてデカいおかげで、さすがにちょっと無いような、いい思いはさせてもらっているが、正直に言って、今一番恋しいのは、この重だるい身体を横たえておけるベッドだ。

スティーヴは、太陽が顔をのぞかせ始めている水平線をじっと見ている。

「一度、あんたを連れてきたかったんだ」

ハンサムな横顔が言う。

チンは、苦笑するしかない。

「スティーヴ、うれしいよ」

 

(終)

 

 

*4

 

「昼飯さ、ちょっと外まで買いにいかないか?」

目を反らしたまま誘うダニーの目的が、買い物ではないことは、一目でわかったが、チンは、引き出しから財布を取り出す。

「コノ、ロリ、ちょっと出てくる。二人は何か買って来て欲しいものってあるか?」

「残念。ランチなら、さっき買ってきちゃった。もう少し待ってれば、チンのオゴリだったのに!」

 

「それでさ、……まぁ、なんていうか、昨夜のことなんだけど、」

ダニーの目はアスファルトの上を歩く自分の靴先ばかりを見つめている。

「グレースに電話したか?」

慎重で警戒心が強く、誇り高いこの男がチンは嫌いじゃない。

「ああ、俺のかわいいモンキーちゃんは、今日もすごくかわいかった」

グレースの話題になれば、いきなり目尻を下げる。頭の先から足の先まで娘の愛で一杯だ。それが、ダニーの強みでもあり、弱みでもある。

「なぁ……、俺が、一緒に寝てくれてって言ったの、」

ダニーの口が重く、ただ、ランチを手に入れるためだけだったら、二人は遠くまで来すぎていた。

初めて見る店もあり、珍しいものが食べられそうなこの機会を、チンは有効に使うつもりだ。

「わかってる。誰にも言わない」

「俺、おかしいかな? 無性に寂しくなったからって、夜中に野郎を呼びだして、一緒に寝てくれって頼んで、男と一緒に枕並べて一緒に寝ておかげで安眠とか……っていうか、それで本当に来る、あんたもどうかと思うけど」

横に寝てるなら、絶対に女がいい。それもおっぱいの大きいナイスボディの! なのに、俺ときたら、あんたの隣で目覚めて、すげぇ、活力漲る朝が迎えられちまったとか、絶対、おかしい。おかしいよ!

歩きながら、ダニーは頭を抱え込んでいる。

「ダニーは、グレースが側にいなくてさみしかったんだよ。とにかく、誰かに側にいて欲しかったんだろうけど、でも、自分が寂しいんだってことを知らずにいる相手には側にいてほしくなかっただけだ」

見知らぬ店をもう3件通り過ぎていて、4件目は、店の外まで人が並ぶ、やけに旨そうな匂いをさせていていた。

「なぁ、あそこの店で買ってかないか?」

 

 

いくら、真夜中に呼び出す相手をチン定めようと、チンは、このプライドの高いダニーが、ほんの僅かでも、まさか、自分が男相手に好意を抱いているなんてことを認めるはずはないと気楽に構えている。

「あのさ、……ちょっとでいい、手を繋いでもいいか?」

慎重で、警戒心が強いダニーが、万が一、そんな答えを出すことになったとしても、それには、相当時間がかかる。

ダニーは手を伸ばしている。

周りに人がいないことは、何度もきょろきょろ通りを見渡し、もうダニーがチェック済みだ。

チンは手を差し出す。

「どうぞ」

「笑うな、お前は、グレースの代わりだ。代わりなんだ! ごめんよ。くそっ、俺のモンキーはもっとずっとかわいいのに!」

 

(終)

 

 

*5

 

萎え始めているものから、ピンク色の伸びきったゴムを剥いでちらりと見上げてくる。

爆ぜさせたばかりの精液でぬらぬらと濡れた手の中のそれが、さっきまで自分の尻の中に埋められていたものだということは、チンにとっては、まったく気になることではないらしい。

舌を覗かせ、口を近付けると表面の汚れをこそげ落とすようにくまなく舐め、それから先端を口の中に含む。唇で大きく張り出した傘の下をくすぐるようにして締めつけながら、管の中に残っている残滓を、ちゅうっと吸い上げる。プラムにも似て膨らみのある亀頭を舌で包むと、口の中に溜めた唾液を揺り動かすようにして、うまそうにフェラチオを始めた。

出したばかりで、ひと息付かせろという気分のスティーヴは、股の間に入り込んでいるチンの背中を呆れた思いで見下ろす。

散々堪えたおかげで、自分が出すまでの間に、チンのことは2度いかせたはずだ。

尻に嵌めたまま、前立腺をしつこく擦り上げ、いい声で鳴かせもした。

なのに、まだ足りないとばかりに、催促のフェラは、ねとりと執拗に官能を刺激する。

一旦、口を放したチンは、色気のある涼やかな目元で、スティーヴの顔色をうかがい、先端の丸っこい膨らみに粘っこく唾液を舌で擦り付けると、口に含んで、肉根を扱く右手の動きを激しくする。

「……敵わねぇな……」

「スティーヴ……?」

「それ、今度は、お前がゴムを被せろよ。それがすんだら、足を抱えて、そこに転がれ」

臆面もない態度に、多少腹が立たないでもなく、ぞんざいにシーツの乱れたベッドの上を指差すと、しゃぶりついていたいきり立つ太木を口から吐き出し、チンがくすりと笑う。

「命令するのが好きだな、ボス」

「ああ、好きだとも。だから、転がったら、やってくださいって尻を広げて、俺に頼め、いいな?」

さすがに、チンが本気か?と、目で尋ねてくる。

スティーヴは、重々しく頷いた。

 

「了解、だ。ボス」

チンが動き始め、スティーヴは、くそっ!と思った。

 

(終)