ぽえぽえハワイ 1

 

*スティーヴはお風邪

 

「なぁ、今日、スティーヴって」

「風邪でお休み」

ダニーの問いかけに、コノが答えた。

 

「なぁ、今日、スティーヴって」

「だから、風邪で休みだって、もう二度目よ。ダニー」

さっき、コノが聞かれていたのを聞いていたロリは、少しいらだたしげに返事を返す。

 

「なぁ、チン、今日、スティーヴって」

「ダニー、なぁ、信じられないのかもしれないけど、本当にスティーヴは風邪で休みだ。なんだったら、昼休みにでも、見舞って、その目で確かめてやったらどうだ?」

「違う。俺が何回でも聞きたいのは、俺たちの上司が筋肉馬鹿じゃないってこと。だって、馬鹿だったらは風邪ひけないんだぜ? ちょっとは希望が湧いてきたってもんだろ」

 

(end)

 

 

*今日から上司は、マイク・スミス

 

「もしもし、そちら、マイク・スミス?」

「は!? ダニー? なんだ? 何の悪ふざけだ?」

「あ、違うんだ」

ピッっと、ダニーは携帯のボタンを押し、電話を切る。スティーヴは、着信履歴を確かめ、やはりそこに表示されるダニーの名前に眉を寄せる。

 

「もしもし、そちら、マイク・スミス?」

また、ダニーから電話だ。

「マイク、スミスのはずないだろ。これは俺の携帯だ。ダニー、お前、どうした? 一体何の用なんだ? 俺だよ、スティーヴだ」

わざわざ、歩みを止めて携帯に出たのだ。スティーヴの声には苛立ちが混じる。

「あれ、俺、また賭け間違えちゃったみたい」

 

「もしもし、そちら、マイク・スミス?」

3度目の電話には、とうとうスティーヴも緊張しだした。

「どうしたんだ、ダニー? 何かあったのか? それは何かの暗号なのか? もう少しヒントをくれ」

「なんでだろ。マイク・スミスにどうしてもかからない」

 

「もしもし、そちら、マイク・スミス?」

「おいっ、ダニー、どうした? 大丈夫なのか?」

「ごめん。また、間違えた」

すぐ、電話は切れる。

 

「もしもし、そちら、マイク・スミス?」

「……そうだよ。マイク・スミスだ。で、何の用だ?」

「あ、そうなの? 俺が用のあるのは、スティーヴ・マクギャレットなんだよね。間違えたみたい、ごめん」

言うなり電話が切れて、スティーヴは怒りのあまり携帯を握りつぶしそうだ。

 

「よーし、スティーヴ、マイク・スミスに改名したぞ。しかも、たった5回でだ。なっ、奴は気が短いって言ったろ」

チンとコノは肩を竦めて目を見つめ合った。

 

(end)

 

 

*え?

 

一夜を過ごした後だ。

とうとう口説き落としたチンの髪を、満足そうに見下ろしながらスティーヴは撫でていた。

「今まで、あんたの心に触れるような奴はいなかったんだな」

チンがふわりとやわらかく笑う。

「そうだね……まぁ、そこだけは、スティーヴがはじめてかな」

 

(end)

 

 

*熟練の技

 

「なぁ、彼氏、しょげてない?」

珍しくスティーヴが自室から出てこない。

「ああ、ちょっと注意したから」

「チン? あんたが、スティーヴを?」

「そう。スティーヴが嘘をつこうとしたからね」

肩を竦めたチンに、ダニーは、嬉々として目を輝かせた。

「それ、どうやって見破った? 今後の参考にぜひ教えてくれよ」

「……え? 二人になった時、スティーヴが口を動かしたんだ」

 

(end)

 

 

*断る余地なし

 

ダニーは、車を止めると、見晴らしのいい高台へとチンを誘った。

「なぁ、いい景色だな。チン、俺さ、あんたのこと好きなんだけどさ、キスさせてくんない?」

「……ダニー?」

聞き間違いかと、チンは、思わずダニーを振り返る。

だが、ダニーは両手を差し出し、抱きしめる準備が万端だ。

「チン、考えたり、困ったりは今は、無しな。あんただって知ってるだろ。あそこは、15分以上停めると、駐車料金がかかるんだ」

 

(end)