ココパフ

 

出掛けるコノとすれ違わずに戻れたチンは、見送った後、本部の中をゆっくりと歩いた。

どこかにいるはずだとは思っていたが、昼休みだというのに、自室で書類に目を通しているスティーヴがいて、ドアを開けるなり声をかける。

「ボス自らが、電話番?」

顔をあげて笑ったスティーヴは、さっそく書類を置くと立ちあがった。

机を周り、その端に尻を乗せる。いかにも仕事に飽きていたんだと言う態度で話し出し、チンは苦笑する。

「チン、飯は? 思ったより早く帰れたんだな」

「打ち合わせを済ませた後、ダニーと食べて来た」

「もう、コノは出たのか?」

「今、見送ったとこだよ」

さっきまでコノのいた部屋を振り返り、空だと示す。

すると、じゃぁ、お前が戻ってきてくれたおかげで、俺は電話番免除だと肩を竦めたファイブ・オーのボスが、当然のようにチンに向かって両手を差し出してくる。

「おいで、チン」

甘い声を出すスティーヴは、立ちあがって来た本当の目的はそれだったんだろうと言いたくなるほど当然の態度で、手を差し出していた。

だが、広い本部の中に二人きりの今、恋人からの申し出をチンも敢えて避ける気にはなれない。

伸ばされた手に触れ、日中の職場じゃ勿論有り得ないはずの接触に目を細める。

スティーヴは繋いだ手の指を一本一本、マッサージでもするように撫でている。

「……ダニーが、急な休暇を認めてくれてありがとうって言ってたよ」

「ほんとか? チンが今そう言っておいた方がいいんじゃないかって思いついただけじゃないのか?」

にやりと笑ったスティーヴは、チンを見上げ顎を上げた顔の唇を僅かに尖らせた。

「なに? ありがとうのキスの請求?」

「俺はコノにもランチの時間を確保してやったろ。お前が戻らなきゃ、本当に俺が電話番だ」

上司のくせに、年下である特権とばかりに、甘え、強請る濃い色の青い目が楽しげに笑っていた。

チンも、滅多にない二人きりの時間に、自分で引いているラインを、今だけ曖昧にしてしまう気になっていた。そうでなくても、面倒見のいいスティーヴが、アパートを探すダニーをうちに住まわせているせいで、二人きりになれる時間が確保できていない。

職場で上司に、自分からキスするという大胆さは、チンにスリルの楽しさを味あわせた。勿論、研修に出掛けたコノや、レイチェルの代わりにグレイスの学校行事に参加するダニーが戻って来るはずがないという確信があってこそのことだったが。

 

しかし、唇を触れ合わせるキスのくすぐったさをしばらく楽しんだ後、求めに応じて口を開けると、最初情熱的に絡んできたスティーヴの舌が、いきなり動きを止める。

やられたとばかりに、眇めた目でチンを見ているスティーヴは、口を覆って顔を顰めている。

「……昼の後、何か、食べただろ?」

「……スティーヴ?」

「……口の中が、すげぇ、甘いぞ……」

「え? ココパフは食べたけど……」

げっそりと呆れた目でチンを見つめるスティーヴは、いくつだ?と、目だけで問いただす。

「ダニーと、2つ……で、持ち帰ったのをここに着いてから、1つか?」

数を白状するうちに、いきなりスティーヴの手が伸び、チンのシャツを捲った。

「そんなに甘いものばっかり食うと腹が出る……って、腹は出てないな。……しっかし、なんで、うちのチームの野郎どもは、こう甘いものが好きなのか……。お前らさぁ、コノに土産ってって、その倍自分達に買い込んでるだろ」

 

 

「やっぱり、やめた。チン。お前が上に乗れよ」

大きく割った腿を掴み上げ、硬く張り出した勃起の先をジェルでぬかるんだ中へと力強くじわじわと進め、これからの快感を予想させてチンに身体を疼かせていたくせに、スティーヴはいきなり動きを止めると、あっさりと腰を引いた。

欲しかったものを咥え込んだばかりの肛口は、いきなりのことに、ずぼりと抜けていった太い亀頭の前になすすべもなく、チンはただ驚いた顔でスティーヴを見上げる。

キスの後、昼休みの終了と共に、気持ちを切り替えて仕事をしたのだが、やはり、接触の甘い余韻は二人を、そのまま別々の家へとは帰らせなかった。グレイスを元妻の元へと返し、寂しくなっているはずのダニーを一人きりにさせて悪いと思いながらも、夕食もまだだというのに、二人してベッドに縺れ込んでしまっている。

チンの家に着くなり、舌を絡め合わせた。

チンはその前に、苦めのコーヒーを飲んでおいた。

スティーヴは、チンの手を引いて起き上がるよう促すと、自分がベッドに転がり、来いよと手招く。

不思議な気持ちになりながらも、尻を疼かせる欲望に背を押され、チンがスティーヴの腰を跨ぐと、見上げるスティーヴが目を細める。

「チン、いい眺めだ」

「なんで?」

正常位で繋がるのは、お互いに好きなはずだった。

スティーヴの手が伸び、チンの腹に触る。

「昼間、あの後も、ココパフ食ったんだろ。運動させてやるよ」

「あんたの腹の上で?」

腹に触れていたスティーヴの手はチンの尻へと回り、さきほど、好物を頬張り損ねた穴の濡れた表面を愛しげに撫でると、チンの尻をまっすぐに天に向いて立つものの上へと移動させる。

硬いものの上へとあてがって、さぁと、促してくる。

ずっと欲しかったのだ。チンが熱く脈打つ太いものに手を添え、自分から腰を落としいっても、仕方のないことだ。

薄く口を開けたままゆっくりと尻を落として行くと、自分を包み込んでいく感触に、スティーヴがうっ、と目を細める。

「そう、俺に気持ちのいい思いをさせながら、あんたの腹も締まる。悪くない方法だろ?」

 

結局、スティーヴはチンの家に泊まってしまった。

ダニーに外泊の連絡を入れるスティーヴの態度は、まるで浮気中の夫のように不審で、チンも笑わせてもらった。

その彼が、すこし自慢げに見下ろしてくる。

「な、俺が、ココパフのレシピを手に入れてて、しかも、ほぼ同じ味に作れるって言ったら、どうする?」

時々、スティーヴは人を驚かせる事を言う。

チンは、年下の彼氏を見上げ、その努力に目尻を下げた。

朝食を作ってくれているスティーヴに顔を寄せてちゅっと頬にキスする。

「で、それ食わせてもらうためには、俺は、何回あんたの腹の上に乗ればいいんだ?」

 

(終)

 

*ココパフ絡みで何か書きたかったのです。S1−16の駐車場で嬉しげにココパフ食べるダノチンの二人がめちゃくちゃかわいかったのですv