子豆は、五歳くらい。何故か、子豆なんです。子豆と、ダーリン達の小話です。
よかったら読んで下さい。
藻と子豆
*二人の子供
夕方の庭には、柵に繋がれたままの馬が草を食んでいた。
スニーカーの足は、鍵の掛かっていないドアを開けて中に入り、足下に散らばった絵の具や、絵筆、描き散らされた画用紙を踏まないようにして奥へと進んだ。
奥では、食べたままの皿もほったらかしなら、腹も放り出して、大きい子供と、小さい子供が床に転がって寝ていた。
同じように口を開け、金髪が床に散った様もよく似ている。
「全く、父さんったら」
遊ぶだけ遊んで、ここでひっくり返ったのだろう。
もしこれで顔立ちが似ていれば、本物の親子に見えるだろうか。
豪快な大の字になっているところなど、寝相がそっくりだ。
風の通りのいいこの場所は、確かに、昼寝に最適だ。
寝顔を覗き込んでいた白いスニーカーは、小さい方が大きいのの面倒を見てくれていたらしい痕跡を見つけて、思わず笑った。
絵の具をぬぐうためのタオルがヴィゴの腹からずり落ちていた。
元の色も分からないほど、アーティカルな作品は、わずかにヴィゴの腹に引っ掛かっている。
優しい手が、小さい子供の髪を撫でた。
「サンキュー。ショーン」
花と子豆
*子供がいるということ
オーランドは、今日の現場で散々だった。
取り直しが何度も続き、嫌になるほど、頭を下げた。
験直しに飲みに行こうと誘われたのにも、頭を下げて断った。
ホテルの部屋に、悪魔が待っているのだ。
「遅い!腹が減った!」
オーランドがドアを開けた途端、金髪の悪魔が叫んだ。
疲れ果てているオーランドの目には涙が浮かんだ。
「ちょっと待って、お願い、せめて、休憩」
「やだ! 腹が減った!」
金髪の悪魔、子ショーンが、枕を投げた。
避ける元気もなかったオーランドの顔にそれはクリーンヒットした。
ベッドに倒れ込んだオーランドは、指だけで冷蔵庫を指さした。
「ケーキ……、ケーキが置いてあったでしょ?」
「もう、食った!」
「お願い、少しだけで、いいから、少しだけでいいから、休ませて」
大役を射止めるということの現実につぶれかけているオーランドはとうとう泣き出した。
さすがに、子ショーンも心配そうにオーランドの側に近寄ると、顔をのぞき込んだ。
「どうした? 虐められたのか?」
「違う。でも……」
泣くオーランドにつられてしゃくり上げだした子ショーンが、ポケットに隠し持っていたチョコレートを取り出した。
「これを分けてやる。……元気が出たら、……飯を食いに行くぞ!……俺は、……お前のことずっと待ってたんだ。……腹ぺこなんだ」
子ショーンの腹が音を立てた。
オーランドは泣き笑いをした。
「どうして、ショーンがあんなに強かったのか、よく分かった。うん。大好き。ショーン、大好き」
大泣きする子ショーンを、ぎゅっと抱きしめたオーランドは、少し強くなった顔をしていた。
血と子豆
*恋人
まず、最初は、サッカーのチケットだった。
次は、球場に向かう間での道で、アイスクリーム。
歩くのに疲れたから、肩車。
側の子供が持っていた風船が欲しくなってねだった。
それが全て叶った。
どこを見回しても一番格好いいブラッドは、眉一つ動かさず、ショーンの願いを叶えた。
選手達がウオーミングアップをしている球場で、子ショーンは、ちらりとチームグッズの売店に視線をやった。
「欲しいのか?」
ブラッドは、気軽に聞いた。
「この球場がまるごと全部欲しい」
子ショーンは、さすがに無理だろうと隣に座るブラッドの表情を伺った。
ブラッドは、ぴこんと、子ショーンの高い鼻を指先で弾いた。
「選手ごとか? こいつ、チビのくせに、男がなんで必死になって稼ぐのか、知ってるな」
ブラッドの笑みが深くなった。
狩と子豆
*パパ
「つまんない」
趣味のプラモづくりをしていたカールの部屋へと入ってきた子ショーンが、床を蹴った。
「うちの子では、ショーンの遊び相手にならない?」
「あいつ、泣くから嫌なんだ」
唇を尖らしたショーンに、カールはほとほと手を焼く悪戯っ子のはずの自分の子がどんな目にあったのだろうかと、ちらりと思った。
だが、家族全部に甘やかされている子供には、たまにはいい刺激だ。
「じゃぁ、ショーン。一緒にプラモ、作る?」
「いいのか?」
「勿論」
しばらく静かになっていた子ショーンだったが、うなり声が聞こえるな。と、カールが目を上げた途端、手に持っていた戦闘機の羽根を放り出した。
「できない!」
泣き出した子ショーンは、手当たり次第に、モノを投げつける。
「嫌だ! できない!」
だが、カールは慌てなかった。
子ショーンを抱き留め、手の中に握り込んでいた部品をそっと取り出した。
「オッケー。ショーン。一緒にやれば、できるから」
しゃくり上げる白い頬の涙を舐め取る。
「ここにも泣き虫がいるって、言いに行ってもいい?」
「だめ!」
カールの膝に抱かれて、子ショーンの昼下がりは過ぎていく。
ハムと子豆
*結婚
「ホント? 本当に、ショーンなんですか?」
「そうだよ」
五歳児は胸を張った。
いい大人であるディヴィットは目を見開いた。
「信じていいですか?」
「嘘、言ってどうする?」
「えっと……、いろいろ思うことはあるんですが、とりあえず、俺の子になりませんか?」
「え?」
すぐ、親に許可を貰いに行こうというディヴィットに、ショーンは引きずって行かれた。
「母さん、この子、俺の子にする!」
玄関を開けるなり大声で言い放ったディヴィッドに、手を拭きながら現れた母親は、じっとショーンの顔を見ると、高い鼻を摘んだ。
「可愛い子ね。それにしても、ディヴィットの小さい頃によく似てること。でも、残念だわ。私の孫じゃないようね」
照れたように、ディヴィットが頭をかいた。
「まぁね。俺のステディだから」
子ショーンは、ディヴィットの腕に噛み付いた。
子豆、沢山の方に読んでいただけてうれしかったですv