ゼリー

 

風呂から出た後、しばらくの間、裸のままデミアの部屋の中をうろつきまわるというのが、最近のゲープの行動には加わった。

「色っぽい格好して」

最初の日は、いつもどおりタオルを腰に巻いてゲープはバスルームから出てきたのだ。しかし、ソファーに座って飲んでいる間に、動くたび捲れ上がるタオルが面倒になったのかゲープはタオルの巻き込みを緩めた。

はらりと前はわかれ、勿論デミアは機会を逃さず手を伸ばすと、白い腹から続く金色の陰毛の下で大人しくしているゲープのペニスへとタッチした。

その行為に目元を赤くし、そのくせベースボール中継から目を離さないゲープも、実のところそうされるのが嫌ではないらしく、デミアがゲープの表情を窺うようにしてニヤニヤと笑えば、わざとらしく顔を顰めたゲープと目が合った。

デミアの顔が近づけば、自然にゲープの瞼が閉じられ、ゆっくりと唇が重なる。

唇を離した後、薄く口を開いたまま、すこし物足りなそうなゲープを驚かすように、デミアはもう一度急襲し、チュっと唇を奪った。

 

「これって、誘ってるんだろ?」

デミアは手の中のペニスをくちゅくちゅと扱きながら、ゲープの手からビールの壜を取り上げた。直接的すぎるゲープの誘い方に少し笑いながら、デミアは壜を床に置き、柔らかく筋肉の盛り上がる白い肩や、胸へと唇を押し当てる。

「違う。暑いだけだ」

ゲープの白い尻が青いタオルの上でも落ち着きなく、もそもそと動いていた。

「嘘つけ」

「嘘じゃない」

そのままじゃれあうようなペディングをソファーの上で随分長く続け、とろとろになったゲープはベッドに移動することさえ嫌がった。だから、そこでがっつりやったのだ。二人は。

 

しかし、暑いのだというゲープの言葉に偽りはなかった。

次の日、ゲープがタオルを首にかけただけの裸でぺたぺたとバスルームから出てきて、ソファーに座っていたデミアはかなり驚いた。

ゲープの裸なら、寝室以外の場所でも、確かに職場ですらシャワーを使っている時に見ることだって出来るが、デミアの部屋は、2階にあって、その高さにある部屋など向かいにはいくらでもある。

「ちょっと待て! ゲープ!」

外は十分暗かったが、まだ早い時間に、部屋の窓にはレースのカーテンしか引かれていなかった。部屋の中とはいえ、照明のついた室内で裸でうろうろしていれば、その姿を他所から見られる可能性は十分ある。近所から公衆道徳を守れと突き上げを食らう可能性も。

デミアは慌てて、カーテンを引く。

「ゲープ。お前、家でいつもそんなだったか!?」

「娘の前で、こんなことできるか」

冷蔵庫を覗き込みながら平気な顔で言い返してくるゲープは、別居生活の楽しみ方を一つ見出したということなのだろう。

ゲープは冷蔵庫を開けたまま前に座り込み、なにやら悪戯めいた顔でデミアを手招く。

デミアが近づけば、ゲープは首根っこへと腕を回し、引き寄せると、チュっと一つキスをし、しかもデミアの手を自分の股間へと持っていくと、にこりと笑う。

「しないか? デミア?」

触ったペニスは、冷蔵庫の冷気で少し冷たい。

 

 

その次の日も、次の日も、ゲープは裸でバスルームから出てきた。

裸で出てきたからといって、勿論毎日セックスしていたわけではないが、二日目まではゲープの首にかかっていたタオルも、最早ない。

 

 

「なぁ、ゲープ、服」

「暑い」

 

「なぁ、ゲープ、こっち」

「したくない」

 

「ゲープ、そんな格好でうろつくなって言ってるだろ?」

すれ違いざま、ゲープの盛り上がった尻を一つ軽くパチンと叩いたデミアを、すかさずゲープは蹴り返した。

「うるさい。暑いんだ!」

 

 

 

今日もまた、バスルームから出てきたゲープは裸のままでぺたぺたと部屋の中を歩き回っていた。

ソファーに座ってその姿を眺めているデミアは、ヌードのゲープに喜びを感じられなくなってきている自分が少々せつない。白く丸い尻は相変らず艶かしい。盛り上がった肩との対比できゅっと締まって見える腰もそそる。しかし、あまり堂々とされると、困るのだ。

「色気がなぁ……」

しかも、ゲープは裸でうろつきまわれることに慣れてしまったようで、デミアが手を伸ばしてもセックスしたくなければ、邪険にぱしりと跳ね除けだけで、照れてもくれない。

まるく盛り上がった尻も、やわらかなカープの腹も、のんびりお休み中のペニスだって見放題だったが、こういうのはデミアの望むところではなかった。

 

何か対策を採るべきだと思ったデミアはソファーから立ち上がると、物置をごそごそと漁った。裸ん坊のままのゲープが好奇心に駆られたようで、後ろをついてくると、しゃがみこむデミアを覗き込む。

「何してるんだ? デミア?」

デミアの目の前では、おすまし状態のゲープのペニスがぷらりとぶら下がっている。

ただし、手を伸ばせば、ゲープにパチンと叩かれることがデミアには簡単に予想できた。3日前、粘ちっこく攻めたら、途中からもう暑いからもう嫌だ、しつこいと言い出したゲープはデミアをベッドから蹴り出し、デミアは家主なのにソファーで独り寝をさせられた。それ以来、ゲープは指一本触れさせない。

「携帯食のゼリー、賞味期限が切れたからって沢山貰っただろ? あれ、たしかこの辺りに一箱……」

「ああ、結構旨いよな。アレ。なんだよ。お前、まだ食ってなかったのか?」

備品管理課が賞味期限切れの翌日に放出し、現在は半月前に賞味期限の切れとなったパックゼリーをデミアは雑誌の山の下から発見した。一つ取り出し、蓋をねじ切る。

「俺はお前ほど、食いしん坊じゃないんだよ」

中身を押し出し、飲み込むデミアをゲープの茶色い目がじっと見ていた。デミアは頷く。

「平気」

「じゃぁ、俺も」

ゲープが手を伸ばしたところで、デミアはその腕を掴んだ。

バランスを崩したゲープはデミアの膝の上に降ってくる。

裸の体を受け止めたデミアは、膝の上へとゲープを腹ばいにさせると、腰を抱え込み、押さえ込んだ。

「デミア!」

まるく白い尻は、デミアのすぐ目の前だ。

「何回注意しても服を着ないお前はおしおきだ」

「バカ! デミア、やめろ!!」

さすがに二児のパパであるゲープはこんな格好にされ、されるおしおきといえば思い当たることがあったようで、顔を真っ赤にすると、とっさに尻を両手で隠し、叩かれるのを防ごうとした。

その方法は全く考えていなかったデミアの目が丸くなる。

ゲープはまだ、両手で必死に尻を守っている。

「……うわ。すっげぇ、かわいいわ。お前」

尻を叩かれるわけではないとわかったゲープは、恥ずかしいのか真っ赤になったまま暴れだした。

「放せ、デミア!」

「ダメだ。放さない」

 

本気になって爪で目を抉ってこようとするゲープの攻撃に、ほとほと手を焼きながら、しかし、デミアはゲープが裸だということを最大限に利用し、ゲープを大人しくさせた。

ふんばるため、開いたままになっている股の間に手を突っ込み、垂れ下がっている柔らかな二つの玉をぎゅっと手に握る。

勿論デミアは力など入れていなかったが、急所を握られぎゃっと悲鳴を上げたゲープは暴れるのをやめると、悔しそうに首をねじり睨み上げてきた。

「ずるいぞ、デミア!」

「裸でいるお前が悪いんだろ」

急所を握られ、ゲープがぴくりとも動けず、デミアは、やわやわとボールを揉みながら唇に勝利の笑みを浮かべる。

「ごめんなさいって言うか? ゲープ?」

デミアは、もしここでゲープがごめんなさいと言えば、叩かれまいと尻を隠すかわいい姿も見れたことだし、今日のところは計画の実施を見送ろうかと思っていた。しかし。

「言うか!」

 

握られた玉をどうかされることを怖れて全く動けないでいるくせに、口ばかり強気のゲープは、大層な生意気でかわいらしかった。

デミアはつい本気になった。

「そっか。じゃぁ」

デミアは、白い尻の股の間に突っ込み、握ったままの玉はそのままに、床に放り出されていたゼリーのパックを拾い上げた。そのままの盛り上がった尻の間の、バックの口を近づける。

何の湿り気もなしに、きゅっと絞り込まれている穴へと、硬いブラスティックの口をねじ込むことは、さすがにデミアの心も痛んだが、殆ど押し当てただけのパックの中身をぎゅっと絞り出すとき、心が弾んだことは大きな声では言えないがデミアの本音だ。

「何? 何、入れたんだ!? デミア!」

焦ったゲープが必死に首を捻る。

「さっき、お前が食いたがってたもの」

デミアは、ゼリーのパックをぎゅっと握りつぶし、残りも全て押し出した。

「嘘だろ!! くそっ! お前、最悪! 最悪だ!!」

ノズルの先を尻穴から離せば、体に力を入れてもがくゲープはブチュリとゼリーを溢れさせた。

デミアは、手の中で揉む二つの玉へとかける力を少し強め、ゲープの抵抗へと脅しをかける。

そして、ポケットからあるものを取り出す。

「ゲープ。洋服をちゃんと着てるとな、いろんなものが隠しておけるんだぜ?」

首を捻って振り返ったゲープはデミアの指が摘まむものに顔を顰め、思い切り舌打ちした。

それは、何も二人の間に初めて出てきたものではない。

ゲープはそれで、ちゃんと楽しめたし、だからこそ、デミアはこれを用意した。

小さくて丸いそれは、薄いピンク色で、白いコードが付いている。

ゼリーで滑る肛口へとデミアはローターを近づける。

「入れるな!」

「ごめんなさいを言わない気なんだろ? ゲープ」

「悪かった。デミア、これからはちゃんと服を着る」

全く誠意なく、デミアを睨みつけたままゲープは怒鳴り、デミアはくすりと笑うと、ぎゅっと窄まった尻の穴へとローターを押し当てた。

スイッチを入れ、振動するそれでゲープの尻を濡らすゼリーを塗り広げていく。

刺激を与えれば、弄られるのに慣れたそこは、ひくりと窄みを震わせる。

尻のあわいで焦らすようにローターを振動させたまま動かし続ければ、悔しそうに唇を噛んでいるというのに、ゲープのペニスは少し角度を上げていた。

デミアは、もう一度陰嚢をやわらかく揉み込んでやって、ゲープに逆らうわけにはいかない自分の立場を思い知らせてやってから、ゆっくりとローターを押し込んでいく。

「くそっ、お前、デミア……!」

ローターに押され、一旦ゲープの中のゼリーは中へと押し込まれていった。しかし、体内の温度で温められ、緩みの増したゼリーは振動するローターの動きにあわせ、じわじわと内壁の中を伝い漏れていく。

デミアは、甘い匂いのする液体で濡れた指を、絡みつく肉壁の中でぐりぐりと動かし、ゲープの一番感じやすいところの側までローターを押し込んだ。

ローターが弱み近くでブルブルと震え、緊張で固くなっていた尻へとゲープは更に力を入れる。

「や、だっ!……や、めろ、デミア!」

尻に力を入れ、自分でぎゅっとローターを締め付けたくせに、ゲープはデミアを罵り、罵りながらも、一気にペニスを大きくさせた。

デミアは、痛いほど締めつけ、動きを取りづらくするゲープのわがままな尻の中で、指を動かし、位置に微調整をかける。

「っぁ! っデミア!」

まだ気丈に睨みつけてくるゲープはたったこれだけで、下睫を濡らし、目尻を真っ赤に染めていた。

その顔がたまらなく愛しく、デミアはゲープの腰へと跡の残るキスをした。

開いたままの口で、はぁはぁと荒い息をするゲープのうねる肉壁はローターをがっちりと噛んでいる。

デミアは、ゲープの尻から垂れ下がるコードを引っ張った。

ゼリーの滑りに、ずるずるとローターは引き出される。

だが、その感覚は、非情にゲープを悩ませるようで、食いしばられたゲープの口から、あ、あ、あっと、断続的に声が漏れた。

「やめろっ!」

デミアは、まだ引っ張る。

「デミア、……や、やめろっ!」

ぷるぷると震えたままのローターが肛口からぽこりと顔を出した。

そこで、デミアはコードを引っ張るのをやめた。

ゲープはそのままそれをだらしなく落としてしまうのが、どうしても嫌なようで、床をガリガリと掻きながら必死に尻の穴を締めてきた。恋人のその意地の張り方が、デミアにはたまらなくかわいらしくみえる。

 

「産み落としてもいいぞ、ゲープ」

「お前なんか、嫌いだぞ。デミア!」

 

目をすっかり潤ませているくせにまだ我を張るゲープが可愛くて、デミアは、無理やりゲープの顔を捕まえ、思い切りキスをした。

「好きだ。ゲープ」

ゲープが嫌がって逃げ出しても追っていって無理やり唇を合わせ、噛み付かれてもやめなかった。

「好きだ。大好きだ。ゲープ!」

だが、思う存分キスをすると、すかさずもう一度ゲープの陰嚢を手の中に取り戻し軽く脅しをかけながら、キスから逃れるため動き回ったゲープが落としてしまったローターを中の一番いい場所へと押し込む。

「あっ! っぁ! あ、ア、あ!!」

むっと顔を顰めていたゲープの腰がびくびくと跳ねた。そのまま尻は何度も捩られ、そういう時のゲープの腰にできる窪みはたまらなくチャーミングなのだ。

デミアは、もういいかと脅しの材料を手の中から開放し、そのまま前へと手を滑らせ、完勃ちのペニスを扱いてやる。先っぽは、もうヌルヌルになっている。

それをペニス全体へと塗り広げるようにぐじゅぐじゅと動かす。

「んっ、ん、ア、ンんっ」

中から直接いいところばかりを強く刺激され、しかもペニスを扱かれて、快感に弱いゲープは目尻に涙を溜めて、腰を揺すった。開いたままの口の中から時折舌が顔を覗かせ、無意識に唇を舐めている。

「あ、ダメだっ、イキそうだ、……出そう、」

デミア、と、早々にゲープが射精をねだり、デミアは、目を閉じて腰を揺する動きに合わせ、ゲープのペニスを扱いてやる。

 

「ダメ、だっ、もう、出る。……いく、……イクっ!」

 

 

精液でデミアの手をべっとりと汚したゲープは、はぁはぁと大きく息を吐き出し、キスまでねだったくせに、赤く染まった目尻でデミアをにらみつけた。

「……デミア、ローターを止めろ」

中で続く振動に、まだ、ぼたぼたとペニスから薄い白濁が零れ落ちている。

デミアは小さく肩をすくめた。

「じゃぁ、抜くぞ、ゲープ」

デミアは、動きを止めたローターをずるずるとゲープの中から引っ張った。ぽこりと肛口が口を開き、ピンクの球体が抜け落ちれば、ゲープは安堵のため息を吐き出す。

 

 

だが、ゲープの安堵は早かった。これで全て終わったわけではなかった。

デミアは、尻から溢れ出ているゼリーへと顔を寄せる。

「デミア! デミア! お前、何してる!!」

デミアは、膝の上に抱いたまま、丸いゲープの尻を舐め、そのままゼリーを零し濡れ光る尻の穴へと舌を這わせる。

「ちょっ、お前、何を!?」

表面へと溢れ出たものを舐め取ると、デミアはそのまま穴の中へも舌をねじ込み、殆ど液体と化した甘いゼリーを啜り上げた。

ゲープの焦りぶりは、なかなか見ものだった。信じられないと、こわばった体で、顔を引きつらせたまま、叫んでいる。

「やめろっ! デミア!」

「何って、ゼリー、舐めてるだけだけど」

「やめろ! お前、そんなことするなんて、変態だぞ!」

今も、デミアの舌が感じやすい粘膜の中から何かを掬い出すように動き、ゲープは背中を震わした。

ごくりと何かを飲み込む音がする。

「デミア! 今、お前、飲み込んだろ! お前、そこは尻なんだぞ! 飲み込んだな!  この変態!!」

 

 

「大丈夫。ゲープだから、したいだけだから」

 

 

 

 

 

それから、二日、ゲープはバスルームに着替えまで持っていった。

デミアのおしおきが効いたのだ。

しかし、ゲープは三日目には着替えを忘れ、大声を張り上げてデミアに取りに行かせ、五日目には大き目のタオルを腰に巻いただけで出てくるようになった。

「なんだよ。暑いんだよ」

 

 

 

「なぁ、ゲープ」

「暑いから、しないぞ」

 

十日目、ゲープは元の木阿弥で裸族だ。
しかし、しないと言いながら、続いた禁欲生活にちらちらとこちらを見ており、デミアは、ゲープをどうこらしめてやろうかと、ニヤニヤと笑った。

 

END