やってみたいこと 4 (浣腸プレイ)。

 

ゲープは折った膝を床につけ、まるで拝礼でもするように頭まで下げて、従順に床で待っていた。

爪先を付く足に乗る大きな尻は、開いた足に白い肌を引っ張っぱられ、谷間の薄赤い皮膚を見せる。

何をいきなり思いついたのか、ゲープはむちりと柔らかく弱々しい印象の卑猥なそこを、さらに苛めて欲しいと言い出したのだ。それは、特殊なプレイへの興味を隠し持っていたゲープを傷つけないよう、デミアがやんわりと説得しても変わらなかった。

ゲープは自分で板張りの床に手を付き、体を支えている。

 

デミアは、ますゲープから離れたところに洗面器を置いた。

自分が言い出した結果として、これからどういうことが起こるのか、はっきり知らせてやるためだが、瞬きの多いゲープの目は、おどおどと一度それを捉えただけで、すぐ顎を引き俯いてしまう。

次に、デミアは、緩めの温度に用意した湯の入ったボールをゲープの顔のすぐ側へと置いた。

「温度、確かめてみろ」

見上げてくる顔が、色を白くし、いますぐにでも逃げ出したそうに、脅えていることが、デミアに苛立ちを誘っていた。そんな泣き出しそうな目をして見上げるくらいなら、今すぐ、やめると言い出せばいいのだ。なのに、ゲープは唇を震わすだけで、強い視線に見下ろされながらおずおずと指をボールの中の湯に浸す。

「……わからない」

困惑げに緩く首が振られて、デミアはゲープに質問を重ねた。

「熱い?」

「それは、……ない、」

「冷た過ぎもしないな?」

「……ああ」

デミアは、ゲープの側から引き寄せたボールに、同じ程度の温度に暖めたグリセリンパックの中身をぶちまけ混ぜた。

面倒だからと、注入器の先を使ってかき混ぜれば、ゲープはその様子を怖がりながらも目が離せない様子で、脅える茶色い目はボールに張り付いている。

「どの位、入れて欲しい?」

尋ねると、一瞬、何を聞かれているのかわからないというような顔をゲープはした。しかし、焦ったようにぺろりと唇を舐め、なんとか答えを返そうとしたのだが、唇は震えるだけで答えが出てこなかった。

しかし、初心者の怖いもの知らずで、沢山飲みたいと言われたところで、入れられて1000cc。初めてのゲープなら、もっと、少量でさえ、腹に入れられ我慢などできないはずだ。

二人のセックスに、アナルセックスまでをと望んだ、デミアは、ゲープよりも知識を豊富に持っているつもりだったが、デミアにとって、これはラインを超えたところにある行為だった。デミアは、ペニスをゲープの肛口を開き受け入れてさせるだけでも、かなり無理をさせている気がして、余程でなければ望まない。

大事にしてきたつもりのゲープに、思いもかけないことをしたいと言い出され、まるでデミアは、裏切られたような気すらして、苛立ちが隠せなかった。いまのセックスだけで十分上手くいっていると思っていたデミアにとって、まさか、物足りないとゲープがこんな行為に興味を示すとは、予想外だった。

 

僅かにボールの液体を注入器に吸い上げ、デミアはゲープの尻の側へと近づける。怖れと好奇心で白い肌を粟立たせているゲープの丸い尻を注入器の先で突いてやる。

「ゲープ。これ、入れると、お前の腹、ぐるぐる言い出して、そのうち、我慢できなくなって、こっから、漏らすんだぞ。それでも、やるのか?」

ゲープは答えない。ぎゅっと目を瞑って、床についた腕の上に顔を伏せてしまっている。

だが、注入器の先が触れる白い尻は、震えているが、逃げ出したりはしない。

「やるんなら、俺がいいって言うまで、出すのは禁止にするぞ。すっげぇ、腹が痛くなって、お前が泣いても、我慢させるぞ」

殆ど口先だけの脅しだったのだが、注入器の先を、ぎゅっと窄まる尻穴の中へとねじ込んでやれば、脅えるゲープの喉からは、ひっと、息を飲む音がして、体が強く強張った。

こんなに怖がっているくせに、その行為をさせるゲープが面白くなくて、デミアはぎゅっと皺を寄せる尻の穴を広げるように注入器の先をぐりぐりと回した。中に入った液体を押し出すことはしていないのだが、量を押し出すよう作られた注入器のガラスの先は、傾けただけで、少しずつ、中の液体を漏らす。その水分に助けられ、注入器の嘴は、楽にゲープの中へと侵入するようになった。

デミアは、肛口の入り口を、何度も注入器の嘴で、犯しながら、聞く。

「お前、我慢できるの?」

目を上げることをしないせいで、注入器の中に入っている量が、あまりにも少ないことに気付いていないゲープは、もう下剤を注入されるんだと脅えているようだった。注入器の先でずぶりと深く犯されるたび、白く大きな尻にはきゅっと力が入る。

だが、ガラスの感触は、意地悪く中を探るだけだ。繰り返し覚悟を要求されるゲープは、それだけで、かなり辛い思いを味わっていた。落ち着かない息をして、何度も唾を飲み込んでいる。

デミアは、中の赤さを見せる尻の穴から注入器を引き抜くと、開かれた股の間を先で撫でていった。

普段より更に縮こまるペニスの先っぽをガラスの嘴でツンっと突く。

「なぁ、ゲープ。お前、こっちから粗相するのも禁止だって分かってるか? 最初のとき、結構、こっちも漏らすらしいんだが、でも、そんなだらしのない真似は許さないぞ」

かなりの暴言だが、ゲープは、従順に顎を引き、ぎこちなく小さく頷いた。

だが、注入器の中に入れていた液体を白い尻の谷間に漏られると、それだけで、思い切り体をびくつかせた。

ゲープは懸命に息を吐き出し、体の力を抜こうとしている。

頑なにこの行為への興味を見せるゲープに苛立ちデミアは、いたぶるようにゲープの股間を嘴の先でなぞっていく。けれど、実のところ、デミアは、最愛の恋人がここまでしたいというならば、自分の好悪の感情など抜きに、なんとか満たしてやりたいとも思ってしまうのだ。

デミアは、強張る白い体をなだめるように、伏せた頭に二、三度キスし、ゲープの腰を抱くようにして座り込むと、薬液で濡れた肛口を指でゆっくりとマッサージし柔らかくしはじめる。

注入器でもう下剤を入れられるのだとばかり思っていたゲープは、何をされるのかと脅え顔でおずおずと振り返えった。揺れる瞳が頼りない。

「落ち着けって、ゲープ。少し、ここを柔らかくするだけだ」

指の腹で円を描くように、何度も撫でていると、白い尻は小さく揺れだし、きゅっと絞り込まれた窄まりは、指が触れればヒクリと動いた。

「すげー淫乱」

ゲープの望みはどの深さだろうと探るデミアは、耳元で囁いてやる。

「こんなに簡単に開くようで、ちゃんと俺がいいって言うまで出さすに我慢できるのか? お前?」

ゲープの体はみるみる赤くなった。耳はもう真っ赤だ。デミアは、尻の穴を探りながら、その赤い耳を噛むようにして、もっと尋ねる。

「わかってんのか? お前、この穴から腹の中のもの、洗いざらいぶちまけて、出すのも俺の前でするんだぞ」

デミアの指が触り続ける、肉付きのいい尻の谷間も赤の色を濃くしている。

 

いやらしい言葉に反応して体を熱くしていくゲープは、やはりハードな行為そのものに興味があるのかと、小さくため息を吐き出したデミアは、柔らかくなった尻の穴を指で押し広げながら、床から取り上げたシリコンチューブを挿入しはじめた。

指でないものの挿入の感覚に、はっとしたゲープは振り返り、不自然に自分の尻の穴から尻尾のように伸びる黒いチューブに動揺した。

自然と尻の穴には力が入り、締まったそこをデミアは無理にこじ開けることになる。

「思ってたより、すげぇ眺め。チューブを一本入れただけで、こんなに尻の穴が卑猥になるとは予想外だったな」

色の白い肌のほかの部分よりくすみを沈殿させた窄まりが、ぎゅっと寄った皺の間に黒く長いチューブをくわえ込んでいるのだ。

「ガラスの嘴じゃ、力を入れて、砕けちゃヤバイだろ? 何だ? そんなことも知らずに、お前、やりたがってたのか?」

力が入った尻も、入り口さえこじ開けてしまえば、チューブ程度の細いものならば、ゆっくりながば中のヌメリに、なんとか押し込んでいくことができる。

生身の他には、殆ど何も入れられた経験のないゲープの落ち着かない表情を見守りながら、直腸の奥へとチューブを挿入していくデミアは、整っていく準備と、それにともない分かっていくゲープのまるで何もしらないかのような態度に、不信感を募らせていた。

しかし、デミアが、十分な長さのチューブを咥えた肛口を弄ぶように、細い尻尾のように生えた黒いチューブをクイクイと軽く引っ張ってやれば、ゲープは体を赤くして、強張った顔を大人しく伏せると、尻を開いたまま待つ姿勢を取った。

仕方なく、デミアは、もう一度、ボールの中の液体の温度を確かめ、注入器に中身を吸い上げた。

一杯に入ったものを零さないようにして、先端にチューブを接続する。

「入れるぞ」

ゆっくりと押し出せば、チューブの中へと薬液は流れ込み、500ccの目盛りは、するするとほとんど抵抗なく減っていった。

だが、50cc減ったところで、デミアは手を止めた。

入れたのはほんの少量でしかないのだが、目尻に皺が寄るほど強く目を瞑ったゲープは、体内へと流れ込んでくる液体の不快感に耐えるためか、ぎゅっと体を抱え込み、体を丸め込んでいる。

健康的に白く艶めくまるい尻から伸びる黒いチューブは、かなり異質な雰囲気で、ゲープの苦痛をデミアに想像させた。

ゲープは息を止めてしまっている。

それでもデミアは、もう50、目盛りを減らした。

ゲープは、また、流し込まれ始めたものに、小さく呻いた。

唇を噛み、けれど懸命に尻に入った力を抜こうとしている。

突き出された重い尻は、艶めいてなまめかしかった。こんな場合でなければ、デミアはいくつもキスしたかった。

これで100ccゲープは飲んだことになる。

まだデミアは、じわじわと目盛りを減らしながら、ゲープの白い尻を掴み、撫でた。

「どうだ? ……ゲープ?」

 

少しずつでも内臓へと直接流れ込んでくるものの不快感が、ゲープはやりきれなかった。

体の中からで感じる感覚は強く、腸の中は大量のもの一杯に満たされてしまったように重苦しかった。

我慢しなければならないと思いながらも、腹の重さが辛くて、つい、ゲープは顔をあげ、デミアを見上げていた。

「トイレ、行きてぇの? ゲープ?」

尻から黒い尻尾を生やしたまま、こくりと小さく頷くゲープが、デミアはかわいかった。

下剤が効いてきたというよりも、中へと液体を流し込まれたことによって起こった軽い排泄感のためだろう悩ましい顔をして、懇願するようにゲープは見上げている。

デミアは唇の端を少し引き上げた。

「まだダメだ」

 

デミアがダメだと言ったことは、四つん這い床に這い見上げているゲープの目を見開かせた。

腹の中にじわりじわりと溜まっていく重苦しさのせいで、開いたままになっている唇が震える。

苦しくなっていくばかりの腹は、ダメだと言われ、余計にその苦痛を重苦しくしだした。

いつもと違う恋人の態度に、戸惑うゲープの目は、おどおどと頼りない。

「ん? 我慢するって言っただろ、ゲープ?」

 

だが、排泄への欲求を募らせ、切ない表情を浮かべた恋人の脅える茶色の目に見上げられているデミアは、どこまでをゲープが望んでいるのかわからない不安の中で、恋人を満足させるための努力を懸命にしていただけだ。

デミアは、ゲープの中へと、とうとう200tの液体を流し込み終えていた。

ゲープは懸命に浅く息をしており、じわりと汗をかく背中を反らして、早い息遣いで喘いでいる。

丸い腹が、呼吸のたび、ひくひくと動く。

恋人の苦痛の様子は、デミアに躊躇いを募らせ、注入器を押し出す力を弱めさせていた。

細いチューブを咥え込んだ尻には、まるで拒むようにぎゅっと力が入っており、デミアは、もうここでやめたかった。

しかし、丸い尻から黒のチューブを生やし、床に這うゲープのため、ハっと短く息を吐き出し決心すると、そこから、強く注入器を押し出し、一気にあと100流し込む。

勢い良く流れ込んできたものに、ゲープは汗の伝う腰を捩り、かなり辛そうに、強く目を瞑った。

デミアは、ゲープの尻から繋がるシリコンチューブを引き抜く。

「……っ、!」

きゅっと締められた尻穴から、勢い良くチューブの先端が抜ければ、さすがに締りのいいゲープの尻も、中の液体をじわりと漏らした。締めようとぎゅっと寄った皺を伝い、白く盛り上がる尻のあわいを一筋、薬液が伝っていく。

デミアは、道具をまだ残るボールの薬液の中へと突っ込むと、ぷくりと盛り上がった窄みがひくつくゲープの尻穴の上へと指を押し当てた。

漏れたもので濡れるそこを、指先で揉むようにしてマッサージしてやれば、慌てたゲープは嫌がって体を前に逃がす。

「腹、痛い? ゲープ?」

腰を掴んで引き戻したデミアは、股の間を撫で上げ、白い尻を掴んで持ち上げ、いたぶるように乱暴に揉む。

「もっと入れて欲しかったか?」

弄ぶようなデミアの言葉は、とうとう腹に不穏な動きを感じ始めたゲープから落ち着きを奪った。

 

 

 

 

気が遠くなりそうなほどの腹の痛さと戦いながら、ゲープは、悩ましく身を捩っていた。

「……もう出すか? ゲープ?」

デミアとセックスするようになってから覚えた、挿入前の軽い洗浄は、ゲープに仄かな快感を植えつけていた。

苦しくなる腹の中を、一気に開放するあの瞬間の、体中から力が抜けてしまうような快感を、ゲープは知っていた。出してしまえば、どれほど楽になるのか、ゲープは知っているのだ。

けれど、デミアの目の前で、排泄することは、簡単なことではなかった。

今にも、漏らしてしまいそうな自分を、デミアに見られているというだけでも、耐えられないほどの羞恥だ。

額からまた冷たい汗が顔を伝う。

「……っ、ハ……ハっ、ハッ……」

しかし、腹は刺すように痛み、尻はもう出すことしか考えられなかった。

力を入れて、堪えられるのは後どれだけかも自信はなく、開きっぱなしの口から床へと涎を零したままになることも止められず、せめて少しでも楽になりたくて、ゲープは、ひたすら何度も、何度も浅く息を吐き出していた。

ぐるぐると腹が音を立て、開いたままの口に乾く舌を引き攣らせながら、ゲープは懸命に身を捩る。

「……ぅぐ、ぅぅ」

しかし、どれだけ切なく腰を捩ろうと、押し寄せる排泄感は引かなくて、目からはぽたぽたと涙が床へと落ちていった。

内側から尻穴をこじ開けそうなものは、もうほぼ限界だ。

腹は焼けそうに熱いのに、痛いほど冷たい。

だが、やはり、用意された排泄用の洗面器になど、出来なかった。デミアの前で、そんな恥ずかしい行為をするなんて、辛くて、悲しくて、出来ないのだ。

また起こる腸が捩れるかのような激しい腹の痛みに、ゲープは懸命に床を掻き、切れそうなほど唇を噛み締める。

「……ゥ、ぅぅ……」

パンパンの腹を抱えて排泄を堪えているゲープは、下剤による強制的な腸の煽動運動痛みに、意識が途切れそうだった。

「……もう出せって ゲープ」

汗をかく首にキスしながら、デミアは言う。出す瞬間の快感は、痛みのあまり、まともに考えることのできなくなっているゲープを甘く誘惑する。もう出したくてたまらなくて、ゲープはデミアの言葉に従ってしまいたかった。

が、やはり、デミアの目の前で排泄するのは、地の底へでも突き落とされるような羞恥だった。もう何度目か、わからないが、ゲープはまた激しく首を横に振る。

デミアはなだめるように、肩へとキスをした。

さっきから、デミアはとても優しい。いや、デミアは、この遊びを楽しむどころか、下剤が効果を示せば、最初からゲープに排泄を禁じたりしなかった。ただ、ゲープがその羞恥を乗越えられないだけだ。

四つん這いの腕と足が震える。

痛みと排泄感はもう到底耐えられるものではなく、泣きながらゲープは顔を起こし、今唯一縋れる相手であるデミアを、見上げる。

「……っ、デ、……ミア……デ、ミア……」

「出せ。ゲープ」

食いしばる口へと流れ込んでくる涙にゲープは濡れていた。

視界は、ずっと滲んだままで、けれど、濡れるゲープの目は、デミアの顔にも苦痛の色があるのを捉えた。

「無理すんな。出せ。ゲープ」

「……ィ、っン!」

その表情は、ゲープから安堵を引き出したが、だが、ゲープがその安堵感に身を浸すどころか、噛み締める間もなく、また激しい排泄感に腸を捻られ、冷たく震える体を強く強張らせた。

破裂しそうな腸の痛みは、何度もゲープに小さく悲鳴を上げさせる。

「痛っい! デ……ミア……痛、いっ、デ、ミア……」

せめて何かを吐き出したくて、ゲープは、必死に浅く息を繰り返した。だが、もうそんなものはなんの足しにもならない。

止めたくともヒィヒィとすすり泣くように悲鳴の上がる口からはだらだらと涎が零れる。

涙は止まらなかった。

排泄感は到底堪えられなくて、ゲープは、大声でデミアの名前を泣き叫んだ。

「デ……ミア……痛、いっ、デ、ミア……!」

どんなに力をいれようと、尻の穴は何度も開こうとし、ガクガクと体は震え、特にもう下半身の震えは、自分ではどうしようもなかった。

ゲープの視界は、涙でぐちゃぐちゃだ。

「デミア、も、ダメ、だ。……。もう、出る……」

「……ゲープ……」

デミアはほっとした顔だった。

「もう、満足か?」

しかし、そこで、デミアは困ったように眉を寄せた。

「……っと、出させてくださいって言わせるべきなんだな? そうなんだろ? 言うか? ゲープ」

だが、羞恥すらねじ伏せた痛みはピークで、それ以外考えられない混乱の中にあるゲープは、このプレイの中にあって場違いなデミアの態度や言葉について考える余裕などなかった。ゲープはデミアに縋る。

あれほど耐えがたく感じていた羞恥すら投げ出し、一も二もなく排泄をねだった。

「出させて、……くれ、頼む、デミア、デミア」

自分の意思で耐えていたときとは違い、デミアの手が洗面器を排泄用に置いてくれるまですら待ちきれなくて、ゲープの目からは涙がぽろぽろと零れた。

「早く、も、……ダメ、だ。デミア……」

 

しかし、四つん這いになっていたゲープの尻の下へと排泄用の洗面器を置くはずのデミアが、ゲープの体を抱き上げた。

これ以上耐えられないゲープの口から悲鳴が上がる。

「やめっ! 無っ、理!!」

暴れる体を無理やり抱き上げ、足早にデミアが向かったのは、トイレだ。

しかし、デミアの目の前でしなくてもいいのだと安堵を感じるより、ゲープはそこまでの距離が耐えられなくて、泣きわめいた。

腹が石のように硬くなるほど力を入れ、大泣きしながら、しがみつき、ハァハァと瀕死のように息を吐き出す。

「デミア、ダメ、だ。……。んっ、っぅダメ……!」

 

なんとか粗相する前に、バスルームのドアを開けても、ゲープの手は、痛むほど強くデミアにしがみついたままで、デミアは、そこを立ち去ることができなかった。

便座に下ろすかどうかというところで、しがみついたままのゲープが悲鳴じみた大きな声を上げる。

「っン、あぁァァ!……ゥぐ、ゥン!!」

悲鳴と言い切るには、甘い声で泣きながら、更に指に力を入れ、デミアに縋ったまま、ドボドボとゲープは排泄しはじめた。

抵抗があるに違いないと、デミアは、ゲープを一人きりにしてやりたかったのだが、震える体は、強く襲う排泄感に、苦痛の声をあげ、絡みつく腕はデミアの体を離さない。デミアの背中にはゲープの爪が食い込んでいる。

排泄の苦痛に泣きながら、酷い音をたてて漏らし続けるゲープは、デミアに抱きついたまま、汗と涙でぐちゃぐちゃの顔を辛そうに歪め、悲鳴を上げていた。

「……はっ、ァ、ハッ、ハッ……ん!……」

しかし、悲鳴はどこか甘い。

きつく瞑る目尻は、赤く色付き腫れていた。ゲープの顔に、排泄で感じる快感による涙が伝い落ちていく。

痛みの分だけを出し終われば、次の排泄までの短い時間の間、開いた口は、甘く息を漏らす。

「……はっ、ァ、ハッ、ハッ……ン……ん……」

だが、薬の効果はなかなかゲープを楽にしはぜず、また強い煽動運動が起こり、ゲープはデミアの肩を噛んだ。

汗と涙で顔をべたりと濡らして、ゲープが喘ぐ。

「痛い、……痛い、ん……デミア」

デミアは、ゲープの腰と背中を擦ってやった。

タイル張りのバスルームの空気は息苦しく感じるほど濃密だった。痛みで体じゅうを汗でべったりと濡らすゲープの熱が篭っている。

デミアは、痛がるゲープの腰と背中を長く擦ってやったが、力んでいても、なかなかゲープは出せない。

 

だが、やっと小さく悲鳴を上げたゲープは、ぎゅっとデミアに抱きつき縋り、更にデミアの肩を強く噛むと、酷い破裂音とともに排泄した。

鼻をすするゲープから、ぐったりと体の力が抜ける。抱きしめる腹の辺りに生ぬるい熱さを感じ、不思議に思ったデミアが視線を向けると、ゲープのペニスからは、じわりと小便が漏れ出した。

少量のそれは、床を汚すほどの量ではなく、ゲープの股間と、体を抱いていたデミアの服を少し濡らしただけだ。だが、どうやらゲープには自分が漏らしているのだという自覚はないようだ。

ただ、安堵の甘い息を吐き出しながら、ゲープはデミアにしがみついている。

薬の効き目はそれで最後だったのか、荒かったゲープの息が少しずつ落ち着いていっていた。

デミアは何度も緩くゲープの背中を撫でてやりながら、たっぷり溜まっている便器の中身を流してやる。

汗でべたりと濡れているゲープの髪に小さく口付け、肩を撫でるようにしながらデミアはゆっくりと体を離した。

呆けたように薄く唇をひらいたままのゲープは、忘我の顔だ。

痛みの元を全て出し終わった体は軽く、地獄の苦しみを忘れたゲープの体は、まるで癖になりそうなほどの極上の甘さで痺れていた。

しかし、デミアが無言のまま、くるりと体を返してドアを開けようとして、ゲープは、ハッとした。

頭の芯は、未だ痺れたようだったが、それでも甦った羞恥心にゲープは身を焼かれそうだった。

流してもらったとはいえ、狭い空間には、臭いが充満していて、ゲープは自分のしでかしたことの重大さに、気付いた。デミアは、トイレまで自分を運んでくれて、しかも、一人にしてくれようとしていたのに、切羽詰ったあの時、ゲープは無理やりデミアを引きとめたのだ。

「嫌なことを、……させた。……悪い……デミア」

鈍い頭では、ろくな言葉も思いつかず、激しい排泄の跳ね返りで、汚れた尻のままでは、立ち上がることもできず、ぐずぐずと鼻を鳴らし、ゲープは重い腕を伸ばしてデミアの手を捕らえた。

 

もう十分に濡れている茶色い目を更に泣きそうにして見上げてくるゲープと目があってしまえば、デミアは抵抗することなどできなかった。

「……なぁ、ゲープ。お前、またこういうの、やりたいか?」

はぁっと、小さくため息を吐き出した、デミアはゲープを見下ろした。

痛がるゲープや、自尊心を投げ捨ててしまうゲープを見るのは、デミアにとって楽しいことではない。

しかし、恋人にとってそれがいいのだというのなら。

「お前、よかった?」

 

だが、しばらく口ごもるようにしたゲープが言い出したことは、全くデミアにとって予想外のことだ。

「……あの、……デミア、すぐ、きれいにして、いくから、……ベッドで待っててくれないか?」

頼りなく手を握ったまま、ゲープがぼそぼそと言う。

態度とは逆に、貪欲な恋人の言葉をデミアは、怪訝な思いで聞く。

「……嫌か?……こんなとこ、見たし、……やりたく、ない……か?」

「……ゲープ? お前、やりたいのか?」

安堵で緩んだ頬のラインは、大量排泄による快感の余韻か、うっすらとピンク色だが、しきりに唇を舐めるゲープの体は重く、ぐったりと疲れて便座に腰を下ろしたままだ。

「体、しんどいだろ?」

ゲープは目を逸らす。

「……でも、……デミア、お前だって、……たまには、……その、入れて、したいだろ? ……」

デミアを見ない茶色の目に瞬きが繰り返された。濡れた睫が何度も動く。

「……浣腸すると、なかが拡張して、楽に……入るようになる、……んだそうだ」

視線をそらしたゲープの目尻が真っ赤に染まっていた。

「……いつも、お前、しない、……だろ?……嫌だったら、無理に、とは、言わないが……、あの、……デミア、」

 

震える指にぎゅっと力を入れて手を握ってくるゲープに、デミアは声もでなかった。

 

「……くそっ、……上手く、言えない……」

手を離したゲープは顔を覆ってしまった。

そして、やっと顔を上げたゲープの開く口元が、頼りない。

「……デミア、……したくない……か?」

 

 

熱烈な愛情を吐露してみせたゲープに、デミアはあまりにも驚かされていた。

瞳を潤ませるゲープの顔を、デミアは言葉もなく呆然と見下ろしてしまっていたが、やっと自分が今しなければならないことを思い出した。

覆いかぶさるようにしてゲープを抱きしめる。

便座に座るゲープを強く抱きしめたデミアは、何度も何度も汗に濡れた髪へとキスをする。

「……デミア、」

「したい。すっげぇ、したい。ゲープ。実は、今すぐにでも突っ込みたい」

ゲープが曝け出してみせた愛情は、デミアの股間を強く押し上げていた。

 

ゲープが欲しがっていたのは、ただの、……愛情深いセックスだったのだ。その上、ゲープは無理をしてそれをデミアに与えてくれようともしていた。

 

ほっとゲープが息をつく。

ゲープはそっとデミアの唇に唇を押し当ててくる。

「……あの、じゃぁ、デミア、……向こうで待っててくれないか……?」

デミアは、便座に腰掛けたままの涙でまだ濡れるゲープの唇を吸い返す。

 

「ゲープ。俺、本当に、お前のこと好きだ」

 

END

 

ごめんなさい。ごめんなさい。