やってみたいこと。1(剃毛)

 

脱がされた下着が膝に絡まる状態で、うつぶせにされていたゲープは、デミアの言葉に怪訝そうに眉を寄せた。

聞き間違いかと思ったのだ。

「ここ、剃ってみねぇ?」

片手でゲープの尻を大きく広げているデミアが見ているのは、尻の穴の辺りだ。

指が、陰毛の繁る睾丸の後ろ辺りから、肛門の上までを撫でていく。

「は!?」

 

「恥ずかしがってるのか、ほんとにわけわかんないでいるのか、どっちなんだ? お前」

にやにやと笑うデミアは、うつ伏せた形で、首を捻って振り返っているゲープの顔を見つめる。

ゲープの額には皺が寄っていく。

「……本気で、言ってるのか? デミア?」

ゲープの目の色が剣呑になってきているのだが、デミアは気楽な笑顔を浮かべたままだ。

「手入れしようって気にならねぇ?」

「ならないな」

はっきりとゲープは拒否したが、デミアは、愛しそうにTシャツを捲り上げ、ゲープの腰へとキスをした。

ヌードの下半身に置いたままの手は、むっちりと白い尻を撫で、その谷間で窄む小さな窪みを柔らかくマッサージするように撫でている。

「身だしなみとして、ここ剃ってくれちゃうってのは、割合、愛?って感じだけど」

笑った形のままのデミアの唇がゲープの耳の側まで寄り、小さな声が囁いた。

「……ゲープ。ここ、結構濃いしさ」

 

尻の穴の周りを撫でられながら言われて、ゲープは、とてつもない恥ずかしさを感じた。股間の毛が濃かろうがどうだろうが、今までゲープは気にかけたこともなかった。それどころか、薄いよりは濃い方がマシだと思って生きてきた。

それなのに、デミアに濃いと言われて、顔から火がでそうだ。

耳元でデミアは、続ける。

「どっちかっていうと、ゲープの縮れてるし」

確かにそうだが、それが何だと。真っ赤に顔を染めたゲープはぎゅっと目を瞑ってしまった。

「汗かいて濡れてきてるヘアを掻き分けて舐めてやるのもいいんだけどさ」

ぺろりとデミアに耳を舐められ、ゲープはビクンと肩を震わせた。

「ティッシュで拭ってやっただけじゃ、ここの毛、バリバリになって、お前、痒がるだろ」

「それは、お前が、ゴムつければ!」

「それは、ゲープ、着けてくれないだろ?」

 

確かにそれはそうなのだが、だからと言って、ゲープはデミアとナマでしたいとかそういうわけではない。

関係が深くなると、一つだけ、デミアがゲープに要求ようになったのだ。

『ゴムを着けて。』そして、『ゴムを外してくれ。』とデミアは要求する。

残念ながら、ゲープの過去には、そうして貰ってきたという経験はなく、デミアと寝るようになっても、寝具を汚さぬようゲープは自分でゴムをつけようとした。しかし、デミアは、驚いたような顔でその手を止めた。

「ゲープ、もしかして、焦ってる? すごく乗り気なのか?」

嬉しそうな真顔で聞かれ、ゲープは返答に困った。手は、勃ったペニスに中途半端にゴムを着けている状態だ。やる気かどうかと聞かれれば、確かにやる気だったが、焦ってはいない。何をもって焦っているとデミアが判断したのか、いまひとつ、ゲープにはわからない。

デミアがゲープを背後から抱きしめ、項にキスしながら、ゴムを装着する手伝いを始めて、やっと、もしかしてさっさとゴムを着け出したせいかと思い当たった。

「コレか?」

「そう。着けてやろうと思ってたのに、ゲープときたら」

くすぐったくチュっ、チュっと口付けるデミアの発想が、ゲープにとっては驚きだった。

「着けてくれる……気だったのか?」

「当然だろ?」

 

そのこと一つをとっても、デミアのセックスは、常に相手との関係が非情に濃密だった。それは、今までゲープがしてきたものとかなり違うものだ。

デミアは、嬉しげにゲープに聞く。

「ゲープ、……よかったか?」

デミアの顔を汚すように吐き出したもので指を汚しながら、まだ息も整わず、喘ぐゲープに嬉しげにそう聞くのだ。

ベッドの上で恥ずかしげになく大きく足を開いたまま息を整えるゲープの太腿に、デミアは何度も唇を寄せる。

ゲープは、なるほど、いままでデミアに女が切れたことがなかったはずだと、納得するしかなかった。

しかも、この男は、GFが、次々と変わっていた。

それも、寝てみて初めて、ゲープは、デミアが切っていたんだとわかった。

同じ男として、嫉妬さえ感じるが、普段から感じよく、しかも強い満足を相手に与えることのできるセックスをするデミアが、そう簡単に切られるはずがない。実際、デミアの携帯には、しつこく連絡を入れてくるGFたちが何人かいて仲間たちにからかわれば、嫌味のない笑顔で笑いながら、荷物の引き取りを言いつけられたと言っていた。

それを、ゲープも真に受けてきた。

だが、違うのだ。

深い関係になった後も、職場に置いてデミアは、今までの態度を全く帰ることなく、今までと同じだけ、スキンシップが多く、ゲープと特に仲のよい部下の立場をはみ出そうとはしなかった。

それは、ゲープにとっても立場上、とても好ましいことではあったのだが、汗まみれで求め合った夕べのセックスを全く匂わせず、以前と同じ態度で、ただ単に好きだと笑って目配せするデミアには、違和感がある。

 

ゴムのことを取り合わない自分に、少し悔しそうな顔をするデミアは、ゴムをつけない代わり、絶対にゲープの体内で射精するような真似をしない。

「お前の腹が壊れる」

そんなことを言うデミアは、荒い息を詰め、ゲープをきつく抱きながら、腹や尻へと出すのだが、ゲープは、いつか、デミアは自分のことも切り捨てる気なのだと予感していた。

肩を抱き、額を寄せ合って、顔を覗き込む笑顔が以前と変わらなければ、変わらないほど、その思いは強くなる。

家庭さえ、復調すれば、申し訳ないものの自分がデミアを切るつもりだったゲープは、いつの間にかしつこくデミアの携帯へと電話を入れるGFたちの一人と変わらない行動を取りそうになっている自分が、腹立たしい。

 

 

デミアは、剥き出しになっているゲープの肉付きのいい尻へと口付ける。

「……ゲ−プ、そんなに恐い顔するなよ。……本当のこと言うと、明日、お前が子供に会いに行く間に、何もないっていうことを証明して欲しいだけ、なんだけどな」

腰へのキスを続けながら、小声で言うデミアが、常にない脅すような目をしていて、ゲープは、驚いた。

 

 

ゲープは、自ら足を抱え込んだ格好で、天井を見上げていた。

恥ずかしさで目が眩みそうだ。

頬の熱さは、焼けるようで、強く瞑った瞼に、まだ蛍光灯の明かりが突き刺す。

作業がしやすいからと、ゲープに四つん這いになるようにいい、手早く先に丸みのある小さな鋏で、長い毛をカットしたデミアは、にやつく顔を隠しもせずに、じゃぁ、今度は、上を向いて、足を抱え込んでくれと言った。

憮然とデミアの要求を受け入れていたゲープは、睨んだ。

「なぜだ?」

「俺がそういうゲープの格好が見たいから」

少し照れくさそうに笑ったデミアは、ごろりとゲープを転がすと足首を掴んで、足を曲げさせた。そのまま胸に付く程曲げた足の下へと今度は手を引っ張っていく。

「膝裏で手を組んで。そう。危なくないよう、よく見えるように大きく足を開いといてくれ」

そういって、デミアは、用意してある湯に指を浸すと、股の間に石鹸を塗りつけていく。

ゲープは、何度も浅く息をしながら、宙に浮く、自分の足の頼りなさに耐えていた。

短く毛のカットされた剥き出しの下半身を、デミアが熱心に見つめながら、作業しているのかと思えば、舌を噛み切りたくなる。しかし、デミアが、初めて嫉妬しているようなことを口にした。

「……ゲープ。俺が言うのも何だけどな、よく我慢してるな。お前」

デミアの指は、尻の穴の周りを撫でた。柔らかく撫でていく指の腹は、今日は中へと潜り込みはしない。それを物足りなく感じるゲープは、自分が嫌になる。

「お前が我慢しろって、言っただろ。デミア」

「言ったけどさ……」

デミアに顔を覗き込まれ、ただでさえ、羞恥に苦しむゲープは、ぎゅっと顔を顰めた。

 

ゲープが、何か、口の中でもごもごと言ったが、聞き取れなくて、デミアは耳を寄せる。

すると、ゲープは怒鳴った。睨むゲープの目は潤んでいる。

「濃いんだろ!」

 

ゲープのアソコが濃いという事実は、ない。多分、普通だろうとデミアは思っていたし、しいて言うなら、割合ゲープは手足の毛が薄い分、肉づきのいい白い尻を開かせたときに、そこだけたっぷり繁る眺めが卑猥なだけだ。

濃いだの、縮れているだの言ったのは、明日のゲープが、別居中の妻とつい、はずみで、セックスしてくるんじゃなかと、それが、デミアはいやだったからだ。

残念だが、ゲープが家庭を取り戻したがっていることは事実で、小さな子供を擁護する義務のある夫婦はきっかけさえあれば、順調な再スタートを切るに違いなかった。

それこそはずみで、デミアのとセックスに応じたゲープに、妻とのセックスは、最適なきっかけに違いなく、退けろと言ったところで、ゲープは自分から求めていくくらいだろう。

ゲープの手は、デミアがフェラしてやっている時に、柔らかい胸を捜すことがある。正しい欲望と、未練だ。

しかし、ゲープが、自分の状態を誤解して、剃らしてくれるというのなら、デミアは、その機会をフイにするつもりはなかった。

股の間が無毛の状態では、さすがにゲープといえど、マヤとセックスする気は起きないはずだ。

指につけた石鹸をさらに塗り広げる。

「刃物を当てるから、絶対に動くなよ」

 

大きく股を開いて、自分が何をやっているのかと、ゲープは泣けてきそうだった。

濡らされた股の間の毛がぞりぞり、剃られていく音は、結構大きく聞こえ、余計に鼻の付け根が熱く感じる。

デミアの手は、丁寧に仕事を進めており、剃りあがった部分に傷がないかと辿る指先は優しかった。

仕事は、慎重過ぎるほど、慎重で、時間をかけて進んでいく剃刀は、やっと、肛門の辺りに届こうとしている。

馬鹿みたいな場所の毛を剃られながら、懸命に足を持ち上げ続ける自分がたまらなく情けなく、ずずっと、ゲープが鼻を啜り上げた。

すると、股の間に鼻をくっつけんばかりにして真剣に剃刀を進めていたデミアの手がぴたりと止まる。

形相を変えて、ゲープを抱き起こしたデミアは、必死の様子でゲープの頭へとなだめるようなキスを繰り返した。

デミアの手は、とうに剃刀を放りだしている。

「おい、ちょっと、ゲープ。待て。泣くな。嘘だろ」

抱き起こされたゲープは、両手で目を隠してしまって、体を丸め込んでいた。

「んな、これは、泣くまで我慢させてやるようなことじゃねぇんだって!」

ゲープの目からこめかみへと流れていた涙を吸い上げ、謝罪を繰り返す。

「悪かった。ゲープ。変なことして、悪かった、ゲープ!」

 

羞恥で真っ赤にした体を強張らせ、ゲープは唇を震わした。

「……濃いの、嫌なんだろ」

デミアは、ゲープの体を強く抱きしめ、嫉妬する自分を見せたくなくて格好をつけ、まるで身体的な欠陥かのようにあげつらったことが、どれほどゲープを傷つけたのかと、自分を責めた。

「違う……そんなの、嘘だ。悪ぃ」

ぼろぼろと、ゲープの目から、涙が零れ続けて、デミアは、もう、必死にゲープを抱きしめる。

「……縮れてるの、みっともないんだろ?」

 

泣きながら、ゲープはその理由を誤魔化し、デミアを傷つける自分の狡さに、また涙が出た。

えぐえぐと情けなくも、しゃくりあげる自分は、そんなことをしたがったデミアが許せないのではなく、妻とセックスするなと求めたデミアの要求に思わず応じてしまった自分の気持ちが腹立たしくて泣けてきたのだ。

ちょっとデミアの目に本気がちらついたからといって、馬鹿げた要求にすら応じ、尻の穴の周りの毛を剃らせるため足を抱え上げる自分の馬鹿さ加減が、ゲープを泣かせる。

 

デミアは額をあわせ、馬鹿みたいな馬鹿正直な告白をしている。

「悪かった。ゲープ。もう、しねぇから。すぐ、生えそろうし、……。ごめん。俺が言ったこと、全部嘘だ。実は、お前の足開かせたとき、ここの慎みのない卑猥さに、いつもすっげぇ興奮する。」

ゲープは、まるで自分にだけ特別に優しい顔をしているかのように、誤解させるデミアが嫌いだ。

「ふさふさしてるのは、手触りだっていいし、……あー、なんて言っていいのかわかんねぇけど、本当にゲープは変なんかじゃねぇ。濃くもないし、普通っていうか、興奮する。俺、いつも、どうしようかと思うくらい興奮する」

デミアのキスが、泣き顔が見られたくなくて目の上を覆う両手に山ほど降ってきている。

「剃って悪かった。ちょっとやってみたかっただけなんだ。なんか、毛がないのも、なんかやらしそうだろ? そんなゲープも見たかったというか、とにかく、悪ぃ。ゲープ」

「……お前、毛のないのが、好きなのか?」

馬鹿げた告白があまり続くと、自分の情けなさに泣いていたゲープにもやっと涙を止めることができきるようになった。けれど、このままでは納まらず、ゲープは泣いたせいで真っ赤になった鼻に掛かった声で尋ねながら、デミアを睨みつけてやった。

デミアは、ほっとしたように肩を落として、ゲープの肩へと頭を擦りつけながら、まだ、ゴメン。ゴメンと繰り返す。

「うん。実は、ちょっとな。……ゲープ限定だけど」

 

 

 

「うわっ! デミア! 救急箱!!」

勿論、仲直りの激しいセックスのあった翌朝、子供たちに会いに行く予定のゲープパパが、バスルームでデミアを呼び、落ち着かない気持ちで、ゲープの用意が済むのを待っていたデミアは、何事かと慌てて救急箱片手に走った。

デミアは、小さなリッシーにゲープを返してやらなければならないことが分かっていた。

でもそれまでが、できるだけ長い時間続くよう、ゲープに負担にならないでいるようデミアは自分に努力を課していた。

 

便器に腰掛けて、大きく足を開くゲープは、不器用に剃刀を持ち、もう片手で、ペニスを持ち上げていた。

まだらに残った股の間の短い毛は石鹸でぬれている。

太腿の付け根に、少しだが、赤く血が流れている。

ゲープは情けなく眉を寄せている。

「お前っ! 何を!!」

慌てたデミアは、タオルを掴むと、ゲープの傷口を押さえた。タオルをどけてみれば、それほど深い傷ではない。ほっとしながら、デミアはゲープを見上げる。

「……お前、何してるんだよ、ゲープ?……」

 

ごつんと額をあわせたデミアは、へたりこむように尻餅をつき、ゲープを見上げた。

絆創膏を貼った後も、いつまでもゲープの足は閉じられない。剃刀も置かれていない。

浅い息をするゲープの腹は、落ち着かない。

「すげぇ、格好だぞ、お前」

「……自分でやると怪我する」

石鹸の匂いをさせるゲープの股の間に膝をつく、デミアは、ぼそりと言ったゲープの意図に気付いて、思わず喉が鳴った。

「……もしかして、剃っていいわけ?」

ゲープは目をそらす。

 

 

その晩、毛のないゲープの窄みは、飲み込んだものを引き出すとき、ふっくらと盛り上がる様子まで見せ、毛のあった時と、同じくらいか、それ以上にデミアを興奮させた。

「ずっげぇ。ゲープ。すげぇ」

「嫌だ。もう、……いやだ。……お前っ、変だ……や、めろ!」

 

 

好きなのだと、心から言いあえる日は、まだもう少し、後。

 

 

                                              END

 

 

じょりじょりしてるとこ、もっとはぁはぁしながら書けばよかった(何を告白しているのか……)