……嘘だろ?

 

痛みを我慢するかのように眉間に寄せられた皺に気付いたカスパーは、長い睫を震わせるコニーの緑を覗き込んだ。曲げた足は、腕の中だ。

柔らかく曲がった体が、ベッドに皺を作っている。

「……大丈夫か、コニー?」

苦しそうな眉間の皺を撫でようと、指を伸ばすと、指は、柔らかな金色の前髪に触ったところで、緑の目でにやりと笑われ払われた。

コニーは、カスパーの手を捕まえ、手のひらに唇を押し当て、そっと柔らかくキスしてみせる。

薄く開いた口の中で、何かを持て余すような曖昧さで舌を遊ばせるコニーは、温度の高い視線でカスパーの体を舐めていく。

普段、何事もお上品にやり過ごすこの同僚が、こんなやり方で煽ってくることが出来るとは知らず、カスパーは内心舌を巻いた。

コニーがちろりと舐めた唇はいつもの品の良さを失っていたが、そこに浮かんだ少し意地の悪い笑いはセクシーで、カスパーの下腹を疼かせた。

魅惑的な緑で、カスパーを見つめたまま、コニーは少しつらそうな息を吐き出す。

「お前の、デカいし、きつくないって言えば嘘だけどな……でも、いい。……これから、もっといいってわかってるんだ」

期待するように、ぺろりと舌で唇をなめ、肌を火照らせたコニーは、潤んだ緑の目でじっとカスパーの顔を見つめながら、首へと腕を絡めてくる。

ねだり声を聞かされるカスパーは、小気味よく引き締まった体を強引に引き寄せた。きつく締まりすぎる入り口を貫通し、ググっと肉壁を押し拡げながら奥まで突き刺し落ち着けば、コニーは安堵なのか熱く息を吐き出した。濡れた肉の厚みに、カスパーの口からも、っは、と、息が漏れる。

コニーの長い足は、もっとと引き寄せるようにカスパーの腰に絡んでいた。カスパーを包み込む濡れた肉は、柔らかく解れている。それなのにきつく締まる。

「全く、予想外だな」

「……何が?」

「チーム50のサブリーダーの具合がこんなにいいとはな」

 

 

 

チーム50のメンバーたちが反省会と称した飲み会を開いていた酒場で、たまたま一緒になった別チームのメンバーも一緒に飲むうちに、背中合わせの一人がカスパーの肩を叩いたのだ。

「お前、こんな遅くなっていいのか?」

肩越しに覗き込み、にやつく男の顔に、何を言われているかを察して、カスパーは苦笑を返す。

歩いているところを見られた時に、まずいなと思いはしたのだ。

「もう、振られたよ」

チームメイトと同席の卓で、ついこの間のプライベートをこじ開けられることに、カスパーは、少し顔を顰めてみせる。しかし、答えに、男は嬉々として大きな音を立て、椅子を近づけた。

「マジか? でも、お前、どうせ別れる前から、次のがもう被ってるんだろ?」

男は、ふざけるようにカスパーの顎に軽く拳を当てた。

グラスを苦笑する唇に当てるカスパーは、少し首を上げて、じゃれかかる男の拳を避ける。

「全く。……あれは、たまたまだ。……デミアに見られると最悪だな。一生付いて回る」

笑うデミアが、ゲープの皿からつまみを取り上げながら、本当のことだろと、反論しかけたところで、コニーがいきなり席から立ち上がった。

それほど、酔っているようでもないのに、コニーの態度は、まったくいきなりだった。

「お前、今、フリーなのか?」

「ああ、まぁ……」

何を言い出したのかと、テーブル中の視線が、コニーへと集まっていた。

それを無視して、チーム50のサブリーダーは、カスパーの耳元へ唇を寄せる。

「……じゃぁ、俺と寝ろ」

 

思わずカスパーは口に含んでいた酒に、ごほりとむせた。

カスパーは、このおきれいなサブリーダーが、一体何を言い出したのだと、眉を上げる。

「問題はないだろ?」

「……コニー?」

しかし、聞き耳を立てるテーブル中の人間の好奇心をさらりと無視して、やはり、いきなりコニーは背を見せた。

「カスパー、行くぞ」

 

警察局によって暗に指定されたバーは、カスパーが住居とするアパートメントから程近く、だからこそ、それほどオープンな性格というわけでもないのに、カスパーのプライベートな目撃談は多いのだが、実は、正確なカスパーの住居の場所は、飲んだくれた男たちが転がり込んでくることを防ぐため、極一部の人間にしか知らされていなかった。

その数少ないうちの一人にコニーも入っている。

大通りから二つ、角を曲がるだけで、目的のドアはすぐ前に現れ、カスパーが鍵を取り出すのを待ったコニーは、先に立って階段を登り、部屋にはいれば、住居の借主が何かを言うまえに、勝手にバスルームに消えた。

 

「……ん、……っ、ん」

熱く濡れた体の奥深い部分を、突き上げるようにして細い体を揺さぶってやれば、もっと、もっととせがむようにカスパーの背を強く抱いた。

金の髪をかき上げて、額にキスしてやれば、潤んだ緑はカスパーを見つめ、上げられた顎は薄い唇を開けたまま、唇へのキスをせがむ。

腰を膝上に抱き上げ、接合を深めるように覆いかぶさり、身動きを封じるように押さえつければ、せめて、というつもりなのか、自分から舌を伸ばしてきた。

カスパーが与えずに、いつもよりずっと艶かしいコニーの顔を眺め楽しんでいれば、せつなそうな目を見せる。

「……カスパー、動け」

いやらしく潤んだ緑の目や、はっきりと要求する唇に、普段のクールはまるでなかった。

待ちきれず、むずかるように振られる腰は、包み込む熱く濡れた肉で、きゅっ、きゅっとカスパーを締め付け、じわじわと快感を与えてきた。

たっぷりと差したペニスに、腹の奥を擦られるのがいいのか、開かれたままのコニーの口からは、甘く息が吐き出されている。

「おまえ、……エロい」

カスパーは、思いもかけない姿をみせたチーム50のサブリーダーの汗に濡れた髪を撫でた。

撫でられる手に、うっとりと長い睫が閉じられる。

だが、このきれいな金髪は、人形にも似た整った顔立ちをしながら、決して大人しくはなかった。

「な、……もうちょっと、上の方……」

せがむコニーの要求を、カスパーは叶えた。

「ん!、ぁ、そこ、だ、ッぁ、……っ! イイっ!!」

 

硬いカスパーのペニスは、しがみつくチーム50のサブリーダーを十分満足させているようで、あまりに反り返るため、何度も抱き直すことになる腰は、汗で湿るシーツに大きな皺を寄せていた。

コニーはもっとと、何度もカスパーを引き寄せようとしていたが、カスパーはずるりとコニーからペニスを引き抜いた。

せっかく楽しみ中だというのに、肉壁を気持ちよく擦り上げる、固いものを取り上げられると思ったのか、慌てたようにコニーが身を起こした。

その顔は、あまりに切実で、カスパーは少し笑ってしまった。

カスパーは、コニーの体をうつ伏せにさせる。

四つん這いのまま振り返る、緑の目は待ち遠しそうだ。

押さえつけるようにして頭をさげさせると、出来上がった背中のスロープの滑らかさに、カスパーは思わず目を細めた。突き出すように上げられた小さな尻の穴は、さっきまでの交接で、少し口を開け気味に緩んでいる。

「……焦らすな」

イラつき気味の声に、思わずニヤニヤしそうになり、カスパーはヌメる穴へとペニスの先端を押し当てたが、気を変えた。綻ぶ窄みの周囲を親指で撫でる。

嫌がるように、コニーの尻が振られた。

「どうした、コニー?」

今更のように指の腹でマッサージをするように小さく円を描けば、白い尻はモジモジするように揺れ、もっと強い刺激をせがむ。

「焦らしが、唯一のテクニックなのか? ……カスパー?」

「コニー、お前……な」

せっかちな様子を晒すコニーに、カスパーは固く膨らんだペニスの先端を、きゅっと皺を寄せた窄まりに押し当てた。ぐっと力を入れ、窄みを押しひろげていけば、金の頭が伏せられたシーツからは、はぁっと、安堵する息の音が聞こえた。

まるで苛めるように、こんもりと盛り上がる前立腺を念入りに擦りながら、突き上げを繰り返せば、コニーは、四つん這いで、太いものに串刺しにされたまま四肢を震わせ、たわいなく精液を飛び散らせた。

 

 

しかし、事後だるい体で煙草の煙の行方をぼんやりと眺めながら、会話するうちに、カスパーは、とんでもないことに巻き込まれたのだと知った。

 

「あんたの体がこれほど具合が良くなるまでに、何人?」

そう聞きたくなるほど、コニーの体はよかったのだ。

妻帯者のコニーが、まさか、自分からベッドに上がりたがるとは思いもしていなかったのに、コニーは、まるで強引な押し売りのように、カスパーへと乗り上げた。

きっと思いもかけぬような、華麗な遍歴があるのだろう。

しかし、返事の帰りが遅い。

だが、最高だったセックスの余韻に、煙草はうまく、ベッドに座るカスパーの意識も散漫だった。

「……どうした? コニー?」

かなり長く待って、やっと返事の帰りがあまりに遅いことを不自然に思ったカスパーがコニーをみれば、コニーの目が自分を見ない。

 

この強張る頬や、定まらない視線を、カスパーは何度も見たことがあった。

 

チーム50のサブリーダーがやむなく嘘をつこうとするときの不器用な顔だ。

思わず、カスパーは煙草を吐き出した。

 

「……待て。……コニー、もしかして、……お前、初めてとか、言うなよ?」

 

「言うわけない」

目をそらしたままの即答は、絶対に嘘だと、カスパーは思った。

コニーの目が宙を泳いでいる。

 

カスパーは、思わず頭を抱かえ込んだ。

「……待て。くそっ、どういうことなんだ? あんた、結構慣れてたよな?」

「…………」

挿入には確かに手間取ったものの、十分、コニーは、感じていた。

あの手管や、感じ方で、初めてだといわれても、カスパーも困る。

しかし、強く見つめれば、視線をそらすコニーは、目を泳がせつづけた。

「…………」

 

「……本気か?……なぁ、コニー、お前、男は、俺が始めてなのか?」

 

「…………」

目をそらすだけで、コニーは答えない。

けれど、その態度が、初めてだったのだと物語っていた。嘘の苦手な緑の目は、ゆれ続けている。

バージンの同僚をやってしまったのかと、あまりの衝撃で、カスパーは、コニーの肩を掴んで、金色の頭を思い切り揺さぶりたいほどだ。

「……嘘だろ……? じゃぁ、なんで、チーム50のサブリーダーの尻がすっかり開発済みでこんなに具合がいいんだ!?」

 

強く見つめ続ければ、コニーは、逃げ切れないと悟ったようだ。

「お前のこと好きだって、知ってるだろ?」

ふてくされたような顔をする。

 

しかし、カスパーは、一度だってそんな告白をされたことは、ない。

 

 

 

「…………つまり、その、……、お前とやりたくて、自分でしてたんだ」

 

サブリーダーのあまりの告白は、カスパーを、愕然とさせた。

 

END