友達
「コニーみたいな美人がいるとは思わなかった」
やっとチームになじんできた新人が、ロッカールームでの着替え中にヒソヒソと言うものだから、デミアは隣に立つコニーを指差しながら、思わず聞いてしまった。
「お前、こういうの好みなのかよ?」
途端に聞き咎めた伯爵様が胸倉を掴んできて、デミアは降参と両手を上げる。内緒話のつもりだったことをばらされた上に、話題の対象であったサブリーダーに冷たく睨まれるフランクは、酷く居心地が悪そうだ。情けなく眉が寄っている。
「……そういうことじゃなくて」
「じゃぁ、どういうことだ」
まだデミアの胸倉を放さないまま、コニーは質す。新人の舐めた態度を許すような穏やかな性格は持ち合わせていないのだ。確かにコニーは美人と称されても恥ずかしくない品良く整った顔立ちをしてはいるが。
「……その、俺が訓練所にいる時、……その……」
フランクはその先が続かなくて、サブリーダーの手から自分の上着を取り返したデミアが、窮地に立たされる新人をしゃぁしゃぁと促す。
「早く話せよ。お前は、いつも話がまどろっこしくて嫌なんだ」
背後でぽんっとロッカーが閉まる音がした。帰り支度の済んだカスパーは、手をあげて、先に帰ると合図をすると、新人いじめをしている2番と3番に、すこしたしなめるような顔をしてみせる。だが、鞄を手にした4番隊員は、わざわざフランクを助け出すようなことまではしないつもりのようだ。
それに応えて手を振ったが、コニーと、デミアもフランクを解放する気はなかった。
こんなのは楽しいレクリエーションだ。
二人がカスパーに気を取られた隙に、フランクが逃げ出そうとしていたから、デミアはフランクの頭を抑え、床へとしゃがませると自分も屈みこみ、見下ろすような真似までする。
「ほら、フランク、お前好みの美人な伯爵様が、GSG−9にいたらびっくりな訳を話せよ」
「それは!」
フランクはもうやけになったかのように大きな声を出した。大きな体をしてこの新人は情けない顔がよく似合う。
「俺が訓練所にいた時、少し顔のいい奴は、みんなに手を使わせろとか、挟んで擦らせてくれるだけでいいからとか、いろいろ言われてて、嫌になって途中で脱落していったから!」
「成績が悪かっただけだろ?」
新人が大声で喚いた内容を聞いて、デミアはぽかんとコニーを見上げた。
「なぁ、コニー、お前、あんなしんどい訓練の最中に、ボランティアでせっせとみんなのを抜いてやったりしてたのか?」
コニーは、うんざりと目をそらした。
「だよなぁ。抜いてくれるってのなら、そりゃぁ、もう誰だっていいって感じではあったけど、あの死にそうな毎日で、ボランティア精神は発揮できねぇよな」
「で、フランクも、その脱落者の美人に抜いてもらったのか? だから、そいつが脱落したのに罪の意識を感じてるわけか?」
上品な形の口から、平気で下品なことを言う伯爵様は、遠慮なくフランクの傷を抉った。
「そ、そういうわけじゃ……」
「んじゃ、フランク、今、美人の伯爵様の手で抜いて欲しいとか、そういう話か?」
ガタイの大きさからも、向けられる期待も大きい新人を楽しく苛めていた時間は、いい加減にしておけというゲープの一言で終わりとなった。
鞄を手に、床へと抑え込まれている新人へと手を伸ばし立たせるゲープは、2番と3番にではなく、新人へと叱責を与える。
「フランク、この二人にいいように遊ばれるな」
「……悪い。ゲープ」
「お前は気が優し過ぎるんだ。マレクが寄こしたお前の評価表、成績は最高だが、精神的なシビアさが欲しいと朱書きがついてたぞ」
もごもご言い訳しようとするフランクの腕を掴んだ隊長は、これから、新人の悩みやら、葛藤やらを飲みながら聞いてやるつもりのようだ。ドアへと向かいながらゲープは、コニーとデミアを振り返る。
「お前ら二人は、明日先に来て、銃撃戦用ハウスの準備をしておけ」
「なんだよー。ゲープ。結局、記念会館の方は取れなかったのかよ?」
「それは、チーム60に譲ったサブリーダーに文句を言え」
「コニー、なんで譲ったんだ?」
互いの足を置いた駐車場を目指し、階段を降りながら、デミアは聞いていた。コニーの目は足元を見ている。
「この間、カスパーが60の車をふっとばしたろ」
「だって、アレはしょうがねぇじゃん。もう30秒切ってて、しかも、車をあそこに置いたのは、あっちのチームだろ」
「それが、通じる相手か?」
額に落ちかかる髪を無意識にかきあげるコニーを見ながら、デミアはつまらないと言った。もう20メートルも歩けば、玄関口だ。
「ゲープ。俺達のこと誘いもせずに、フランクと飲みに行った」
「お前が嫌いだからだろ」
「ああっ、くそっ、フランクに、訓練所時代、お前が俺の女だったってばらせばよかったぜ!」
訓練所時代のことをフランクに、ああいったが、デミアたちの時代にだって、溜まった性欲を解消するための対象として容姿のいい奴が狙われることはあったのだ。そして、ここにいる伯爵様は、狙われた。
ただ、コニーは、フランクの同期のようには弱い男ではなく、そのお上品な顔に似ず非情で、しかも、知力や腕力をひけらかすこともためらわない男だったから、取りつく島もない美人に焦れて罠を張った男の腕を躊躇わず折って脱落させた。骨折した腕を吊る相手に、ざまあみろとまで言って送り出した。
けれども、そうはしても、コニーにも性欲はある。
だから、毎週末成績順に部屋替えを余儀なくされプレッシャーを掛けられ続ける訓練生たちの中で、同室だったデミアに、成績の上下で、相手を自分の女として使うというのはどうかという話を持ち出した。
それに喜んで応じたデミアも、監視の厳しさに加え、外に遊びに出る気力もわかないほど絞られる毎日に、溜まり過ぎて頭がおかしくなっていたんだとあの日々を理解している。はっきり言って誰でもよかった。皆が憧れのGSG−9の一員となること目指していて、競争は凄まじく、脱落することへのストレスは相当なものだった。いい憂さ晴らしだった。
「お前さぁ、あの頃と、ほとんどスタイル変わんないのな」
建物を出たところで、デミアの手がコニーの腰を掴んだ。
「ん? ちょっと太くなったか? でも、相変わらずエロい手触り」
コニーは冷たくデミアを見据えたが、デミアはまるで構わなかった。
「これなら、今でもできるか?」
わざわざ後ろに下がってまで尻をじろじろと眺めてくるデミアに、コニーはため息を吐き出した。
「ゲープが嫁と揉めていたの、元の鞘に収まったんだな。また肩透かしくらったお前は、はけ口が欲しいってことか? ゲープと同じ既婚者ならだれでもいいってわけか?」
「そんなの、ゲープがいいに決まってるけどしょうがねぇじゃん。久々に思い出してそんなつもりでお前のこと見たら、今でもエロい体してるし、勃ちそうだなって」
「勃たせるな」
「なんでだよ? お前、あの時、射撃の試験で、あと一発当てられるのをいつも自分で当てなかっただろ。お前、実は、尻、やられるの好きなんだろ?」
誰にも言わないでいてやるさと、5年も前に気づいていたことを、今、初めて持ち出して、コニーを愕然とさせた男は、コニーの手から車の鍵を取り上げていた。
「散らかってるぞ。でも、いいだろ?」
誰もまだ同意などしていないというのに、デミアは勝手に行き先を自分の部屋へと定めている。
部屋に着くなり、脱げば?といったデミアは、もう自分は袖を抜き始めている。
コニーは、気づかれないように何度か息を吐いて落ち着こうとしていた。
筋肉で覆われたデミアの肩が、シャツの下から現れる。コニーがまだ脱ぎ始めないことを不思議そうにする顔が、コニーを振り返る。
「何だよ、伯爵様、今は、試験の結果で負けたわけでもないし、脱がせってか?」
近づいたデミアが、コニーの首へと腕をまわし、クロスした腕で頭を引き寄せると、唇を寄せる。
唇だけを味わうように、何度か唇肉が重ねあわせていると、デミアの手が、コニーのボタンを緩め出す。
「手がかかるようになったのな。お前」
笑う形の唇は、コニーの頬に口づけ、からかうように高い鼻を噛んでいった。
あまりに拒む態度を取るのはおかしいと、コニーの手はおずおずとデミアの背中へとまわされる。コニーからのキスにも、デミアは口を開いて応えてくる。
「そうそう。そういうムードだろう、今は?」
しかし、甘いキスは長くは続かなかった。額を押し付けあってキスするような、そんな甘ったるいキスをしていたというのに、デミアは、いきなりコニーの太ももを割ると足を使ってその間を撫であげた。
「おっ、ちゃんと勃ってるな。でも、もうちょっと硬くしな。伯爵様」
「っ!」
怒りと羞恥にかっと火照ったコニーの頬を、デミアはにやにやと笑っている。じっと目を見つめながら、コニーの手を掴み、自分のジーンズの前の膨らみへと押しつける。
「コニー、どうする? お前が俺の女だった時みたいに、まず、舐めさせられてぇ?」
5年前、コニーは、デミアの足の間に膝をついて、そのペニスを舐めていた。
成績の劣った方は、無条件で相手に従うという無茶苦茶な約束を交わしていたから、足を開いて顔の上を跨いだあげく、デミアのペニスを舐めさせられていたこともある。
「すげぇ、格好。お前、こんなんさせられてるのに勃たせてさぁ、恥ずかしくねぇの?」
相手を完全に屈服させるということが、行為の目的に近かったから、挿入は勿論アリだった。
頭を押さえつけられたまま、長時間揺さぶられることもある。
「うまいのな。相変わらず、お前」
酷く優しく髪を撫でられながらのフェラチオは、コニーに今と昔が違うのだということを感じさせた。
デミアは、ほんの少しコニーに舐めさせただけで、その体を自分の胸へと引き上げ、後ろのベッドへと倒れ込む。
「何、思いつめたような顔してんだよ 伯爵様」
デミアが指先でコニーの額に寄った皺を撫で、そこに寄った皺を広げようとする。鬱陶しがって手を払おうとすると、それより前に、チュっとキスされて、思わずコニーはじっとデミアを見つめた。
「お前、近頃、いつも難しい顔してんの気づいてるか?」
お前も嫁と上手くいってないのかよ?と、からかうように聞くデミアの手は、腕の中に抱いているコニーの胸を揉むようにしていた。返事を聞く気なのか、黒い目は見上げていたが、その口は、乳首へと近づいている。
デミアの舌が包み込むようにして乳首を舐め、コニーは、握り込むようにして拳を握った。
吸い上げられれば、それだけで声が出かかった。胸の肉を集めるようにして撫でまわしながら、乳首に吸いつくやり方に、コニーは握った拳を唇に当てる。
「ちょっと待ってろよ」
勃ちあがっているコニーのものを手に握って扱きながら、デミアは自分の状態を思い知らせるためにも、やわらかなコニーの腿へと高ぶって硬い自分のものを押し当て、目で目的のものを探した。
ほんのわずかに、離れただけだというのに、開いた唇から興奮した息を吐くコニーが身を起していて、デミアの顔はにんまりと緩む。このお上品できれいな男が、ベッドの上では豹変することをデミアは知っている。
肩にコニーの顎が載るほど引き寄せ、抱きしめた形で、ジェルに濡らした指を股間へと近づけると、このきれいな男は、はっと、湿った息を耳元で吐き出した。
いまさらジェルで濡らしてやる必要もないほど濡れている先端から包み込むようにして握ってやると、急くように腰は浮いて、クールなはずの伯爵様の獣ぶりが如実にあらわれる。
コニーは、早くなる自分の息を懸命に抑えようとしながら、自分もジェルのボトルを引き寄せようとしていた。
しかし、デミアが袋まで一緒に手の中に収め、何度か揺り動かしてやれば、手はなかなかジェルを押し出せず、あっ、と腰をぞわりとさせるような落ち着かない声を聞かせてくる。
上品だというには、いやらしい形に開いた口から熱い息を吐きだしながら、やっとコニーは、指を濡らし、デミアの下腹へとそのきれいな手をのばしてきた。
「デミア、お前のも……」
デミアは、いじらしいことをするコニーをもっと喜ばせてやるために、無遠慮に尻の下へ腕を潜らせ、尻の穴をこじ開けようとした。けれど、股の間のせまいところを無理くぐった手では、中に潜り込もうとしても、指先だけしか入らない。
「伯爵様、お前の重い尻をあげてくれ」
怒ったのか、コニーの顔が顰められたから、デミアは、屈み込み、腰骨へとキスをした。いくつもキスを繰り返せば、コニーは大きくデミアに向かって足を開いたまま、黒い頭を抱かえ込んできた。
温かな口内で舐めまわすようにしてペニスを咥え、強く吸い上げれば、ゾクゾクと腰骨の辺りからこみ上げてくるものに耐えかねて、コニーの腿に何度も力が入る。
デミアが咥えた口からわざと唾液をあふれさせ、股の間まで濡らすようにしながら、浮きあがった尻の小さな窄まりに指を挿入し、深く浅く動かし始めると、コニーは息を詰まらせながら、きつくデミアの頭を押さえこんでくる。
足を開けよと言ったら、コニーは開いた足を胸につくような形に抱えるようにして持ち上げようとした。
それを眺めるデミアは、片目を瞑りながら思わずにやにやとしてしまう。
目尻を赤く染めた、全くもってきれいな金の髪の男が、当然のように尻を差し出し、ジェルですっかりと表面を濡らして、弄られたせいで薄く色までついた尻の間の窄まりまで、隠すことなくすべてをデミアに見せているのだ。
「すげぇ、眺め」
言われた、コニーの目は泳いだ。
しかし、
コニーはそのままひざ裏を抱え挿入を待つ体位で、目をそらした。
咥えられ、勃ち上がったものは、そこを見せるのに邪魔をしない。尻がねだるように、シーツから浮き上がってさえいる。
「俺、昔、お前にそんなことばっかりさせてたか? でもな、今回はそういうんじゃなくて、ほら」
胸から下ろさせた足を大きく開き、デミアは自分のものを尻の間に擦りつけた。
その感触がもたらすものに、ぞくりとコニーの背を駆け昇るものがあったようで、コニーの体がぶるりと震えた。
デミアは緊張に強張る頬へとキスをする。
「今は、お友達同士のホットなセックスをしてるんだろう、俺達?」
重く重量のあるものに、濡れた表面を軽く押され、コニーの足は、ついデミアの腰を引き寄せるように挟んでいた。
デミアは、コニーを抱きしめ、ぐぐっと腰を押し付ける。それが、熱く湿った狭い肉の間をこじ開けながら奥へと進めば、むずかるように背をしならせたコニーの口からは、耐えようとしたかすれた声が押し出されてしまう。
体を抱きすくめるようにして深く抜き差ししながら、デミアはコニーの耳元で囁くのだ。
「きれいなお前のこと、一人占めにしてた俺の優越感どんなだったか知ってるか?」
どんなものだったかなんてコニーは知らない。ただ、勝ち誇ったような顔をしたデミアは、なにも言わず、酷く長くコニーを揺さぶっていただけだ。
ぐちゅぐちゅと音を立てる場所を力強くつきたてながら、デミアはしきりと、コニーの額にかかる髪を撫であげる。
「コニー。お前、本当にきれいな顔だよな」
ガクガクと揺すりながら、何度も額に唇を押し当てる。
「よくなってくると、目が潤むの、お前、知ってるか? すげぇ、色っぽい。この辺がうっすらと赤くなって、今にも泣きそうな顔になるんだけど、絶対にお前、泣かねぇの」
デミアは、大きく腰を回すようにして奥に達すると、そこを広げるように何度も突いて、コニーに自らしがみつかせた。
信じられない可愛げを発揮して、コニーはぎゅっとしがみついてきている。
しかし、デミアはコニーから僅かに身を離し、額へ落ちかかる金の髪をしきりとかきあげ、濡れてしまっている目じりへとしつこくキスを繰り返した。
なぜなら、この目尻へのしつこいキスは伯爵様のどこかを刺激するようで、ただのキスにしか過ぎないのに、このきれいな男の下半身はぐずぐずに蕩けてしまう。
やはり、むずかるにようにコニーの腰が動いて引き寄せられ、デミアは、力強く尻を打つほど突き入れた。
コニーの背かのけぞって、開いた口からは、声が押し出される。
「……っ、……はっ……んっ、ん!」
だが、
「ああっ、もう、くそっ! コニー、やっぱ、お前のなか、すげぇいい。なんでこんなに締まるんだよ。この尻は。いきそうだ。くそっ! どうしてくれる」
コニーが濡らした目をかすかに開け、ニヤリと笑った。
「……いま、いった、ら、早漏、って、……っ、笑って、やる、っ」
デミアはぎゅっとコニーを抱きしめた。
コニーのものは、べたべたと先端を濡らした先端がデミアのよく引き締まった腹に押しつぶされ、そこで擦られ、まるで漏らしているかのようだ。
突きあげるたび、白い体が震えている。
足を持ち上げられ、熱く熱を孕んだようになっている尻へとガツガツと腰を叩きつけられるコニーは、堪え切れない声を出す。
「っ、……ん、ん! ……っ、は、っん、っ! ……!!」
デミアは、コニーの唇を奪った。
「いいだろ? ん? 誰か、早漏だって、……っ、伯爵様?」
「……っや、……デミ、……ん」
「……ダメだっ、もう、……っデミア、……もうっ!」
「もうっ、もうっ」
「畜生っ、お前、本当にかわいい……すげぇ、いい」
「いくっ、……だめだっ、……デミ、ア、っ、……いくっ、いくっ、いくっっ!!!」
デミアは、ろくでもないことを呟きながら、しつこくコニーの髪をかき回すようにして撫でている。
コンスタンティン・フォン・ブランドープ伯爵の機嫌は悪い。
セックスの余韻で熱く火照る体の熱が冷めるのを待っているというのに、禿げろ、禿げろと唱えられながら髪をかき回されたのでは、ムードのないことは甚だしく、誰でも機嫌は悪くなる。
だが、いい加減鬱陶しくなってきたところで、こほんと、咳払いが聞こえた。
ベッドに腰掛けるデミアは、まだ枕に伏せたままのコニーの頭をコツンと叩く。
「コニー、お前さ、知ってるだろ。すげぇゲープは嫉妬深いんだよ。だから、俺はゲープ一筋でいきてぇの。お前さぁ、そんな俺の決意を知ってるくせして、こんなエロい体して」
叩かれたコニーはすっかり落ちた前髪の間から、ちらりとデミアを見上げた。自分の潤んだ緑の目の威力など、コニーは十分に知っている。
「……」
やはり、デミアは一瞬息を飲んだ。それでも、もう一つコニーの頭を叩くことで、デミアはなんとか口を開く。
「……こっちが弱ってる時に誘惑すんな。そろそろ俺のことあきらめろ」
やはり、デミアは、コニーが一度だって口にしたことのないことを、5年前から知っていたのだ。
けれど、コニーはうっすらと目を緩め、笑って見せた。
それだけでなく、また髪を撫でまわそうとしたデミアの手を捕まえ、指先に甘く口付けた。
「俺は、しつこいんだ」
「本当にな」
デミアは、痛いかのような顔だ。
END
んー。んー。