チーム50の日常 7
(シュルラウ家の歯磨きの匂い)
チーム50で一番のマゾだとの異名を欲しいがままにしている男、デミア・アズランが、今日もゲープからの夕食の誘いに、間髪置かず、喜んだ顔をしてみせて、チームメイトたちは同情を禁じ得なかった。
デミアからのゲープ、好きだぜ、大好きだ。ラブラブビームは常時発射中だが、残念なことに、チーム50の隊長は、それを受信できるアンテナの持ち合わせがない。そんな隊長に対するチームの3番隊員の一方的すぎる献身は痛々し過ぎるほどで、いがみ合いつつも、実は同期の3番隊員と仲のいい伯爵さまなどは、一度、自分が代わりにゲープを犯し、ゲープにそういう対象となりうる可能性もあるのだとわからせてやりたくなる誘惑に駆られることすらある。
絶対に今日だって、ゲープの家に行けば、食事中の話題は、「今の彼女と一緒になる気はないのか?」や、「なんだったら、もっと家庭的な女の子を紹介してやるぞ」みたいな、普通でも鬱陶しばかりの世話焼き話に終始するに違いなく、ドイツの平和を守る自チームが独身者ばかりなことを憂う隊長には、一度で十分懲りていたカスパーは、明日の晩は、デミアを飲みに誘ってやるかと、機嫌の悪そうなコニーをちらりとうかがっていた。
だが、さすが、長くゲープへの報われぬ思いを抱き続けているマゾは、違う。
「何時に行けばいい?」
どう考えても、傷つけられるばかりのシュルラウ家への訪問を前に、全開の笑顔だ。
「なんだったら、一緒に帰るか? リッシーを拾って帰ることになるんだが……」
「車だと遠回りになるだろ。俺が、リッシーを拾って行ってやろうか?」
さっそく、ゲープにいいように使われている先輩のため、せめて俺が防波堤の役目を引き受けて……なんていうフランクのいじましい後輩魂も出番がないほど、ただ、ゲープの家に呼んでもらえたというだけで、必死にしっぽを振る犬になり果てている。
「ご馳走様でしたー」
食事中の話題は、予想にたがわず、デミアの好意が自分に向けられているなどとは微塵も疑っていないゲープの早く身を固めたらどうだなどの、実にありがたい先達の教えに終始した。しかし、デミアは、ゲープのその程度のデリカシーのなさなど、もうとっくに克服ずみだ。チーム一番のマゾどころか、隊でもきっと一番のマゾは、温かくも冷たいゲープの言葉に、せつなく枕を濡らす晩もあるが、それよりも、リッシーと一緒になっておいしそうに食後のアイスを舐めているゲープの口の動きを思い出し、シーツを濡らす晩の方がはるかに多い。
気軽に立ち上がり、全員分の皿をキッチンへと運んだデミアは、そのまま、バスルームを貸してくれと席を立った。
「やーね、デミア!」
顔を顰める長女と、一緒になってゲープは楽しげに笑っている。
「出るものは、出るのさ。ソフィア」
バスルームを訪れたデミアには、本当に切羽詰まった欲求があったのであって、本来の目的は全くそれではなかった。
だが、手を洗っている最中に見つけてしまったのだ。
「あ、もしかすると、これ、ゲープが使ってる歯磨き粉か? ……ってこととは、ゲープとキスすると、この匂いがする……のか?」
だが、デミアの手が、歯磨き粉に伸びようとしたところで、どんどんとドアを叩く音がある。
「デミアー、悪いけど、俺もしたい。入っていいか?」
ゲープの声だ。返事も待たずにドアを開けたゲープはいい笑顔で入ってくるなりジッパーを下ろそうとする。
「どうした、デミア、出ていかないのか?」
ものすごくデミアは、その場に残りたかった。
だが、手を洗い終わったというのにまだそこにいるのにゲープが不思議そうな顔をしたので、涙を飲んで撤退した。
けれど、もちろん、バスルームで発見したシュルラウ家御用達の歯磨き粉は、ドラックストアで購入して帰宅した。
ベッドに座るデミアの両脇に、ティッシュのボックスと、歯磨き粉は置かれている。
キャップをそっと開けるデミアは、スーッとその匂いを吸い込む。
「爽やかな匂いじゃねぇか、ゲープ……! お前とキスしたら、この匂いか! んー、いい匂いだ……」
息の続く限り、歯磨き粉の匂いを吸い込み続け、そして、せわしなくジーンズのボタンを外し、ごそごそと大事なアレを取り出す。
「あー、あの、無防備な口にキスしてぇ……! なんで、あんなにかわいいんだよ、ゲープ」
右手に掴まれ、扱かれているものは、むくむくと大きくなっている。デミアは忙しく歯磨き粉を鼻に近づけ、スースー息を吸っている。
「チュウしたら、ゲープ、驚くよな。ああ、でも、キスしてぇ! こんないい匂いのするゲープにキスせずに、すませるなんてできねぇ! 最高の匂いじゃねぇか、キスしてぇ!」
ヌルヌルしたものがあふれはじめた先端は、蛍光灯の光に貪欲な色合いで光っている。
「く、そっ、ゲープのこと、犯してやりてぇ……!」
ちなみに、デミアがいい匂いだ、最高の匂いだと繰り返すシュルラウ家の歯磨き粉は、今日、デミアが寄ったドラックストアの特価品のコーナーのものだ。
そして、その頃、その特価品で、就寝前の歯磨きをするゲープパパだが、
「リッシー、虫歯になるといけないから、ちゃんと歯の裏まで磨くんだぞ」
「パパもちゃんとね」
なぜか、歯磨きの最中じゅう、背中がぞくぞくしていたのだった。
END