誕生日

 

ゲープから届いたメールの意味がよくわからず、首をひねっていたデミアは、ドンドンドンと手荒く叩かれたドアを不審に思いながら、開けた。

「こちら、警察にお勤めの、デミア・アズランさんのお宅で間違いないですか?」

「……ああ、まぁ」

だが、デミアにとって、自分の勤務先はできるだけ隠しておきたい事柄だ。特に、素性のしれないピザの配達人になど、明かしたくはない。

「同じく警察にお勤めのゲープハルト・シュルラウさんから、料金代引きでこちらへLサイズのピザを二枚届けてほしいとの注文がありましたが、間違いないでしょうか?」

それで、ようやく、デミアは、ゲープのメールの内容を理解した。

「ああ、いい。聞いてる。いくら?」

 

しかし、金を払っておいてくれという文面だけのメールしか、寄こさないゲープには苦笑が漏れた。

たとえばそれが、今日誕生日であるデミアに対する夕食の提案というか、手のかからないものをという精一杯の気遣いなのだとしても、デミアは、30分は悩んでしまった。

この家で暮らし始めたゲープは、ようやくここでの暮らしに慣れ始め、ついでに、自分というものを曝け出すようになってきていた。

たぶん、今頃は枢機卿出席の競技会での警備担当者と打ち合わせをしているはずの隊長は、実は、家でゆっくりと飯を食うのが好きで、外食は嫌いだ。

そして、現在、チーム50のゲープ隊長は、隊員たちの代休の消化について、上から圧力をかけられており、今週は、一日づつ、順番に隊員たちを休ませており、その一日を、デミアは誕生日に割り当てられたわけだが、ゲープは、不在の恋人を待ちながら誕生日を過ごすデミアの気分をたぶん、想像できない。

朝だって、ゲープは、おめでとうの一言もなかった。

バタバタと自分の用意だけして飛び出していった後ろ姿に、忘れてやがるなと、デミアは思っていたくらいだ。

だから、自分の誕生日だというのに、家の中を清潔に保つことに意外と口うるさいゲープから、休みの日に何をやっていたんだと言われない程度に部屋を片付けたり、いろんな用事を済ませたりして、午後もずいぶん遅い時間になると、デミアは、誕生日に、自ら腕を振るうってのもなぁと、思いながらも、家でゆっくりしたがる恋人のため、晩飯でも作るかと考えていたのだ。

 

もう一つ、最近わかったゲープのことで、ゲープは家で飯を食いたがるくせに、作るのが嫌いだというのがある。

遊びに行けば、たまにはマヤの代わりに夕食を作り、まるで理想的な夫のような外面の良さをみせていたが、あれは嘘だ。その点は、デミアも大いにマヤに同情していた。一度ゲープの誕生日に招かれたことがあるが、マヤは一日がかりで作ったのだろうとわかる様々な料理を用意していた。

だが、ゲープの精一杯は、宅配のピザ2枚だ。

こういう男だとわかっていたし、同じ職場に勤めるだけに、デミアには、よく打ち合わせ中に、なんとかピザを宅配させる電話を入れ、意味不明ながらも、金を払えとメールしてきたものだと感心できたが、(きっとゲープが資料に目を通す振りをしながら、机の下でメールを懸命に打っていたに違いなくて、その光景を思い浮かべれば、デミアには笑みさえ浮かんだ)果たして、どれだけの恋人が、もしかしたら、もう準備に取り掛かっているかもしれない時刻に届いたピザの種類がちゃんと好物の2枚だというだけで、心が浮き立つ気分になるだろう。

 

 

ピザはすっかりぬるくなったが、終業時刻をきっちりと守らなければ、帰りつけない時刻に、デミアを幸せいっぱいにしてくれる人物は、これまた、貰っても嬉しいのかどうか、正直デミアも悩む花束を持って帰ってきた。

「先に食っててよかったのに」

「一人で食えってのか?」

普段通り、上着を脱ごうとして、ゲープは手に持った花束を思い出したように、デミアに突き出した。突き出しながらも、薄いピンクで纏められた花束に、顔には後悔がよぎる。

「……こんなんじゃ、ない……な」

「まぁ、そうかもな」

デミアは、一応花束を受け取り、代わりにビールを差し出した。

「俺、誕生日おめでとう」

ゲープの持つ瓶にカチンと当て、口をつける。

ゲープはほっとした顔になり、小さく笑った。

「デミア、誕生日、おめでとう」

 

ピザが残りふた切れになって、飲みほしたビールは、もう5本を超え、その頃、ゲープがおずおずと言いだした。

「実を言うと、今日がお前の誕生日だって、思いだしたのが昼過ぎで」

そういううかつさをこの年上の恋人が持ち合わせていることなど、とっくにデミアは知っていた。

「誕生日のプレゼントは、今度の週末でもいいか? 何が欲しい?」

 

デミアは、ちょいちょいと指だけでゲープを招いた。

職場では決して許されない態度だが、この部屋にいるゲープは、年上なだけのデミアの恋人だ。

「脱がねぇ、ゲープ?」

今日が誕生日だと気づいた時点で、ゲープもそれが、夕食後のメインになることはわかっていたはずだ。

そして、この恋人は、そんなにそれが嫌いじゃない。ただ、滅多に自分から誘ったりはしないし、しようと言っても、なんだかんだと理由をつけて、ベッドにくるのが大変遅い。

ここでか?と、疑い深い目で尋ねてくる恋人を、デミアは幸せで蕩けそうな目をして眺めた。

ゲープは気まずそうな瞬きを何度か繰り返した。

しかし、ゆっくりと椅子を引いて立ち上がると、ベルトに手をかけた。

恋人の「ストリップ」に、デミアはニヤケそうになる顔を引き締めようとして、そんな必要はないかと、肌を見せてゆくゲープを締まりなく見つめた。

ゲープはズボンのジッパーを下ろそうとして、思いなおしたように、身をよじるとポロシャツをたくしあげた。

よじれる体のラインが艶めかしい。特にゲープが肌が柔らかそうで、むしゃぶりつきたい興奮にさらわれそうだ。

自然にデミアの喉は鳴ったが、ポロを頭から抜いている最中のゲープには聞こえなかったようだ。

上半身裸になってしまって、ゲープは、ジッパーを下げようとして、躊躇う。

「笑うなよ」

そして、観念したように下ろされたジッパーの下には、下着を押し上げるペニスが隠されていた。

「勃ってるのは、ズボン越しでも、わかってたけど?」

にやにやとデミアが笑うと、

「でも、下着だけの方がよりいやらしく見えるだろ……」

 

そのいやらしい姿を、見せてもいいと、いや、もしかしたら、見せたいと思ったから、ゲープは脱いだはずで、もうデミアは、ただ見ているだけでは我慢できなかった。

余裕を気取って手に持っていたビールをテーブルへと叩きつけるようにして置くと、チーズの匂いがぷんぷんする油っぽい口の中に舌をねじ込みながら、ゲープの尻を掴んで荒々しく揉む。いきなりのことに、一瞬、ゲープの体が逃げようとしたが、逃げない。

「ゲープ。ビザ屋に、なんか特別に入れられたんじゃねぇの? ピザ食いながら、してぇって欲情してたってことだろ?」

下着越しの感触も悪くなかったが、デミアの手は、すぐ下着の中へと潜り込んだ。

ナマの尻を掌の中に収め、むちゃくちゃに揉む。

両手でやわらかい尻肉をたっぷり掴んで、隙間なくくっつけたり、大きく谷間を開かせたりする。

ぴったりと押しつけた腰をさらにぐいっと突き出しながら、デミアがキスするゲープの顔を眺めるために、目を開けると、ゲープの茶色い目が慌てたように閉じられた。

「……興奮してる俺の顔、見るの好きなのか、ゲープ?」

デミアは、手早く、ゲープの下着を太腿までずり下ろすと、剥き出しで勃ち上がっているゲープのものへと、ジーンズの中ですっかり硬くなっている自分のペニスをぐりぐりと押しつけ、腰を揺すった。

顔を真っ赤にしたゲープが襲いかかるようにして、デミアの口にキスしながら、下半身へと手を伸ばす。

 

「なぁ、ゲープ、昼間に俺がきれいにメイクしたベッド、見たくねぇ?」

 

 

ベッドにたどり着いたものの、開かせた股の間を舐めようとしたら、いきなりゲープはバスルームに行くと言いだし、(お前は舐め出すと、どこでも舐めるから嫌だって真っ赤な顔で言うのは、きっと褒め言葉だと思うんだが、違うか?)どうしても、昼間にした掃除のチェックをしたいらしいゲープをいったん逃がしてやったが、デミアはもちろん、その後、すぐに追いかけた。

誕生日プレゼントは、始めての場所で、すごく燃えたセックスだった。

 

END

甘々挑戦中。(あ、デミゲプだと、なんか、ちょっと甘い感じがするのになった気がする)