賞品

 

チーム50は全員で、広い森の中を駆けていた。

「デミア、早すぎる!」

「ゲープ。この場合は、お前らが遅過ぎるだ!」

ゲープの警告に、木の幹を飛び越え走るデミアが怒鳴り返す。しかし、デミア、コニー、フランクの3人は素早過ぎるほど、素早い移動を繰り返していた。タイムアップの時間など、まだまだ先だ。だが、ライフルを担ぐコニーなど、息を喘がせながらも、葉を踏み、走る足を止めない。

「B−2地区、目的物、発見できず」

「B−3も同じく」

「B−5にもいない」

じりじりとゲープと、カスパーの到着を待つ3人は、二人が発見できずの報告をいれるなり、また走り出す。

「こら! お前ら!」

「ゲープ! ゲープが走れ!」

ちらりと振り返るが、デミアは先行する二人に遅れまいと足を止めようとしない。

少しでも素早く、的確に動き、敵を確保するための訓練中だ。森の中に潜む、別チームの隊員をいつまでも遊ばせておく必要はなく、枯れ葉を踏んで全力で走っていく2番、3番、5番の姿は正しい。

しかし。

「C−3、いねぇ」

「居そうな気がする……」

コニーの無線を聞くなり、デミアとフランクが、C−2地区に向かって駆けだした。後を追うカスパーも、コニーの見つめる方向に、不自然な地面の窪みを発見した。だが、その詳細について観察する前に、窪みの手前で、互いの足を引っ掛けようとして、もつれ合い、すっ転んだ2番、3番隊員がいて唖然とするしかなかった。

「おい! お前らっ!」

追いついてきたゲープが無線で怒鳴っているというのに、デミアは、コニーの腿をがっちりと抱え込んで窪みに近づけようとしない。そんなデミアにサブリーダーは足蹴りをくらわせている。

二人とも枯れ葉まみれで、ごろごろ転がり、まるで子供の喧嘩だ。

その間に、こっそりと窪みの獲物にフランクが近づこうとしていた。

「フランクっ!! くそっ! デミア、離せっ!」

コニーは、デミアを投げ捨てるようにして立ちあがると、フランクに襲いかかった。2番隊員に真正面から飛びかかられ、まるで抱き合うような形で後ろへと5番隊員は、ひっ転がっている。

しかも、コニーは、弾を込めてはいないとはいえ、重いライフルを容赦なく背後へと投げつける。

「てめぇっ! コニー!!!」

当たったら、青痣ではすまない。

驚いたデミアが、身を返して地面へと転がると、フランクに馬乗りになっていたコニーは、その隙に、地面の窪みへと飛び込んだ。

ゲープはあきれ果てたと言わんばかりに口まで開いて、無茶苦茶な自チームの3人を眺めている。

「ぎゃっ!」

見つかったのは、承知していたが、まさか、チーム50のサブリーダーに飛びこまれるとまでは思っていなかったチーム20の隊長は、容赦なく圧し掛かられて、ひしゃげた声を出してうめいた。

さも誇らしげな声で、顎をそらしたコニーが、枯れ葉まみれになりながら、訓練の終了を告げる。

「俺の勝ちだ」

 

「開始から、1時間26分経過で確保。タイムは過去最高だ。ゲープ」

カスパーは、腕時計で時間を確かめながら、隣に立つゲープを見た。

ゲープの眉間には癇性な皺が刻まれている。

「……あいつら……」

 

 

 

 

カスパーのアパートの浴槽はそんなに広くはない。それなのに、コニーは無理をしてカスパーを跨ぐようにして向かい合わせに入っていた。

二人の密着度はとても高い。ある一部分など、分ち難く同一な状態となっていた。

カスパーは無理をするなといったのに、コニーが無理をして自分からカスパーのものを受け入れたのだ。コニーを喜ばせてやれるほど身動きの取れるスペースすらないカスパーは、困惑するだけだったが、カスパーの首へと腕を回したコニーは、時々胸を擦りつけるようにしながら、ちゃぷちゃぷとお湯の音を立て、自分のいいように勝手に動き、開いた唇から、湿った息を吐き出している。温かいお湯に、コニーの頬に赤味が差している。

閉じられた瞼の下では、長いまつ毛が震えている。

しかし、本当に、ほとんど身動きの取れない狭さなのだ。

自分ばかり気持ちよくなっている、身勝手なコニーを眺めているのも、コニーがきれいなだけに、全く悪くない眺めだったが、カスパーは、自分が全く思うように動けないことに焦れてもいた。

なめらかなコニーの腰を撫でながら、うっとりと目を瞑る金髪の耳元で囁いて邪魔する。

「コニー、昼間って」

湯気の中で、自分のためのゆったりとしたリズムで腰を揺すっていたコニーの目はうっすらと開けられたが、緑は、心地よいリズムを乱されたことに、迷惑そうだ。

「お前と、デミアと、フランク、何か競い合ってただろ?」

カスパーは狭いのを承知で、無理やり足の位置を変えた。

コニーの中へと少しでも深く突き刺さるよう、位置をずらすと、コニーの喉から、短く声が漏れる。

「……っぁ、……デミアが、今日飲み会をしようと言ったんだ。フランクは、彼女と喧嘩したとかで、ぜひやろうって。……でも、俺は、お前にやっと約束を取り付けたばっかりで、嫌だったから」

どうやら、カスパーが動いたことで、更にいい位置に当たるようになったらしく、温かなお湯を、ぴちゃぴちゃと小さく揺らすことをやめようとしないコニーが、甘えるように、唇を頬や唇に押し当ててきた。しかし、キスも、温かく湿ったカスパーの肌をコニー自身が楽しむために為されているとわかる類のもので、カスパーは、あきれるほどのキスにも苦笑するしかない。

「コニー」

カスパーは、コニーの唇が唇に当たった時、そのまま舌を伸ばしてキスは、互いに楽しむものなのだと思いださせた。

はぁっと、湿った息継ぎをするコニーが、懸命にカスパーの頭をかき抱く。コニーの腕から、雫がバスタブの中へと落ちていく。カスパーの頭はびしょぬれだ。

「コニー、それであんな?」

「俺が勝ってなきゃ、今頃はビール飲んでたんだぞ? こんなに気持のいい思いはできなかった」

恩義背がましくコニーは、カスパーの唇を噛むようにして目を覗き込んできた。

だが。

「……実は、コニー、悪いが、俺はもう少し気持のいい思いがしたいんだが……」

カスパーは、その魅力的な緑から目をそらし、バスルームのひび割れを眺めながら言った。

「……よくないのか?」

白い肌をピンクに染めて、バスルームの温度のためだけでなく、しっとりと肌に汗をかいたコニーを抱いているのは実際、気持がいい。だが、ここは狭い。

カスパーの言い分に不満そうな顔をしたコニーが、やっと恋人を意識した動きを始めたが、動きづらそうにたった二、三度大きく動いただけで、あっと、小さく息を飲む。

予想外に感じたらしく、緑の目はカスパーの視線から逃げた。

しかし、体は、勃ったペニスをカスパーの腹へとぎゅっと押し付けるようにぺたりと倒れ込んできた。はぁはぁと息を漏らすコニーが、カスパーの引き締まった下腹へとペニスを擦りつけながら、小さく湯を揺らし上下に腰を動かし快感を追及し出す。

カスパーは、濡れた両手で、身勝手なコニーの頬を挟んだ。

湿って気持のいい柔らかな唇にちゅっとキスをする。

 

「……なぁ……コニー、ここじゃなくて、ベッドでしたい」

 

「本気だったんだな……お前」

コニーは、後、もうちょっとでいけそうだったものへと、カスパーにゴムを付けられていた。

あと、ちょっとでいけそうだったのを邪魔されて、コニーの中には不満もくすぶっていた。

しかし。

軽くぬぐっただけの足を放りだしたまま、カスパーにそうさせながら、コニーは恥ずかしくて、カスパーを見ていることができなかった。

カスパーの手が、勃起したままのコニーのペニスに器用にゴムを被せていっている。

コニーは、この前、カスパーに揺さぶられているうちに、どうにも堪えきれなくなって、全く予告もできずにいってしまったのだ。それは、確かにその通りだし、その当然の結果として、ベットカバーをべっとりと汚したのだが、ここのところ、そういった失態が多くて、コニーの恋人は対策を取ると宣言したのだ

ゴムを付け終わったカスパーが見上げてくる。

「嫌か、コニー?」

「嫌じゃない……」

たかがゴム位、嫌ではないが、我慢が利かないと言われているようで、コニーのプライドは軋むのだ。

しかも、そうされるコニーの腰が乗るのは、シーツの上ではなく、白いバスタオルの上だった。たった今までペニスを含んで広がっていた後ろから湯を漏らすからと、無粋にもカスパーが、2枚も引いたバスタオルの上へとコニーの腰を乗せた。

前からも後ろからも粗相すると決めつけられる自分が情けなくて、居たたまれなさにコニーは、憤死しそうだ。

けれど、そこまでされて、まだしたいと焦っているのだから、コニーは、自分の浅ましさに泣きたいような気分も味わっている。カスパーが近付けば、自ら足を開きたくなる。

だが、混乱する気持ちの中には、腹立たしさもあって、コニーは、覆いかぶさってくるカスパーの湿った唇を受け止めながらもかぷりと噛んだ。

「コニー……?」

キスするためにつむっていたカスパーの目が驚いたように見開らかれ、少だけ気は晴れた。

「さっさとしろよ。カスパー」

しかし、カスパーのものが、尻の穴をこじ開けながら中へと進みだし、すると、たったそれだけで、言われた通り、じわりと自分の中から漏れだすものの感触を感じて、頬はかっと熱くなった。

「っ!」

「大丈夫」

カスパーが髪を撫でてきたが、それだけで、無視できる問題ではなかった。

覆いかぶさるカスパーの重みに、下腹が押されて、さらに溢れ出るものを感じれば、嫌だと顔を振るしかできなかった。

「平気だ。コニー、バスタオルがある」

「嫌だ! この格好は嫌だ!」

ただ先端が窄まりに埋まっただけで、尻の間を湯が伝っていくのだ。尻の下に引いたバスタオルが湿っていく。

コニーは、カスパーを強引に押しのけると体を離し、うつ伏せになった。だが、カスパーのペニスが抜ける時にも、太腿へと湯が伝っていき、たまらない気分だ。

それでも、体を返し、コニーは、尻を突き出すようにして、上体を低くし、自分の体の中に溜まったものが、あふれ出ないようにした。

そうする効果を怪訝そうにしたカスパーがゆっくりとコニーへと覆いかぶさってきて、背骨を腰から辿るように順にキスする。

 

 

「あっ、……いいっ!

 

「いいっ、いいっ……っ、カスパー!!」

 

 

「くそっ。……」

コニーは、布団の中から顔を出せないでいる。

恥ずかしくてたまらないのだ。

腹の中に溜まったものをこぼすのが嫌で、尻を突き出したような、酷く恥知らずなポーズでカスパーを受け入れたというのに、ベッドの上に引かれたバスタオルは、その役目をしっかり果たした。

濡れたそれは、ベッドの足もとに放置されたままだ。

ペニスが入口付近まで引き抜かれれば、自然とカリに中の湯が掻き出され、あふれ出てしまったのだ。

それが恥ずかしくて、気が動転し、涙さえ滲んだ。だが、高く上げた尻の間から、ぽたぽたと湯を零しながらも、入口付近まで引き抜かれたもので、そこを刺激されると、たまらなくて背が反り返ってしまった。

「……っ……ぁあ、っ!……や、……あ、あっ……っ、は」

突き入れられれば、腹の中に溜まった湯が、普段と違う圧迫を与えたというのに、シーツを全部自分に引き寄せる勢いで掴んで、声を絞りだしてしまった。

「んんんん!……っ……ぁあ、っカ、……スパー……んっ! んんっ!!」

ゴムを付けられたペニスが触って欲しくて、自分から何度も尻を摺り寄せた。

 

幸い、ベッドカバーを汚すような真似をしなかったが、カスパーが予防策をとったのは正しかった。

今日も、コニーは、自分だけさっさと達ってしまって、そのあとは、ぐずぐずになったまま揺さぶられていただけなのだ。

「くそっ……っ!」

 

カスパーは、布団に潜ったままでてこない恋人の髪を撫でながらささやいた。

「なぁ、コニー、お前もまだ、1時間分遠距離射撃の訓練が残ってたよな? 明日一緒にやらないか?」

「……なんでだ?」

布団の中から聞こえるくぐもった機嫌の悪いコニーの声が、カスパーにはおかしい。

セックスの最中はケダモノの上、事が終われば、さらにコニーの扱いは難しい。

「今度は俺と競争しないか?」

コニーはいきなり布団から顔を出した。

「カスパー、ライフルで俺に勝とうなんて、100年早い」

馬鹿にしたような眼付で、鼻白む金髪の髪はくしゃくしゃだ。

カスパーは、ご機嫌斜めなまま、すぐまた布団に潜り込もうとしたコニーを捕まえ、勝気な目元に無理やりキスをした。

 

「じゃぁ、コニー、一緒に爆弾の解体をしよう。それなら、俺は負けないから」

 

 

END

日常エッチに、甘々が潜んでいるような気がするのですが……?