職場内恋愛 4 (カスゲプ)
「だから……ここの風紀というか、倫理というか、」
要点を得ないゲープの話を聞かされているカスパーは、チームの士気に関わるうんぬんという問題についての話し合いがしたいのであれば、サブリーダーであるコニーとでもしてくれと思っていたが、黙って話を聞いていた。実はもう30分も、何が言いたいのか話の要旨さえ、ぐずぐずになっているゲープの話に、カスパーは付き合っている。
カスパーは、ゲープが他でもない自分に話をしたいと思っている理由がおおよそわかっていた。カスパーはチーム一口が固い。だから、ゲープは何か秘密にしておかなければならないことで、協力をして欲しいのだろうと、辛抱強く付き合っている。
しかし、忍耐強い男もそろそろ限界だ。話は同じところで空転してままだ。
「な、だから、このままでは、チームは」
「……ゲープ。そろそろ本題に入ってくれ」
促され、ゲープは、ごくりと唾を飲み込んだ。
だが、まだ勢いがつかないのか、またもや風紀だ、倫理だと言い出し、カスパーは辛抱強くもう一度ゲープに告げた。
「ゲープ。何を言う気か知らないが、俺は誰にも言う気はない。できるだけ協力する気もある」
口を切ってしまえば、ゲープは次々ととんでもない爆弾を落としていった。
「デミアと、俺はできてるんだが」
うすうすはわかっていたとはいえ、そんなことをはっきりゲープが口にするのにカスパーは驚きをかくせない。
「デミアが、フランクと浮気をして」
ありえないだろうと、カスパーはゲープを見つめた。
「謝りはしたが、あいつ、全然反省はしてない」
ゲープは本気で腹を立てていた。
しかし、だからってそこまでするか?という、次の提案には、思わずカスパーも目を見開いた。しかし、質問の形をとってはいるが、ゲープの言い方は、作戦を告げるときと同じに、下からの意見など端から受け付ける余地がない。
「カスパー、お前のこと、前に、デミアが、カスパーはじろじろゲープのこと見てるからヤバイ。側に寄るなとか言ってたんだ。違ったらすまんが、お前、そうなのか? もし、そうなら、俺と寝ないか? 俺はお前と寝てるところへデミアを踏み込ませるつもりだ。あいつは、一度深く反省した方がいい。カスパー、お前、俺と寝ろ」
冷静に事態を受け止めるだけの時間を与えられないまま強固に決断を迫られるカスパーの口は、喘ぐようにお決まりの言葉を口にしていた。
「……命令か、ゲープ?」
「命令だ。カスパー」
決意の揺るがないゲープは、潔かった。狭いホテルの部屋の中へとカスパーを通すと、飲み物も勧めず、さっさと服を脱ぎ出す。
「どの位で来るんだ?」
カスパーは、部屋の中の荒れた様子を見回しながら聞いた。
ゲープがデミアに電話をかけたのは分かっていた。ただ、何と言って呼び出したのか、それをゲープは聞かせなかった。
「さぁな」
ジーンズに手をかけたゲープは、すこしこわばり気味の顔で、カスパーにさっさと脱げと促した。カスパーは一つため息を吐き出す。
「ゲープ」
「お前はやってもいいって言った」
今更口を開くカスパーを、ジーンズを足から抜こうとしているゲープが睨む。
「ああ、言った。ゲープ。言ったからする。だが、一つだけ先に言っておく。俺のセックスのやり方は、お前がいままでデミアとしていたことと違うと思う。そういうことは、考えたことはあるか? それでもいいか?」
カスパーの問いかけに、ゲープの顔に困惑が浮かんだ。
けれど、ゲープは今更計画を変更することなど面倒だとの判断を下したようだ。
「構わない」
緊張に強張るゲープの上に覆いかぶさるカスパーは、固くなっているゲープの腕を擦るように撫でた。
「ゲープ。やめるか?」
「やめない」
頑固に結ばれた唇が、なんとか微笑もうと無理をしている。
「ん? どう違うって言うんだ、カスパー?」
余裕のある振りをしてゲープの腕がカスパーの首に回り、引き寄せた。
二人がキスしたのは、これが初めてだ。きっと一生するはずもないことだったが、唇を合わせれば暖かい。
ゲープは腹を決めたようで、顎をしゃくってカスパーにもキスをするよう求めた。
デミアに見破られていたように、カスパーは、もともとゲープは体つきや、肌の感じがいいと、つい眺めてしまっていたのだ。
「割合、あんたは、好みなんだ。ゲープ」
カスパーの言葉をサービスだとでも思ったのか、ゲープは顔を顰めて苦笑した。だが、それは、本当のことで、カスパーは口を開いて、一生見ているだけのつもりだったピンク色の舌を攫った。
薄い唇にも舌で触れる。
ゲープは、感じやすい性質らしく、何度か唇の薄い粘膜を舐め取るようにして繰り返し舌を動かすと、まだ柔らかな下肢をカスパーへと押し付けるようにしながら、自分から大きく口を開いた。
ゲープは、ひたすら口内を優しく弄るカスパーのやり方に、安心していた。
直前に漏らされたカスパーの言葉に、一体どんなことをする気なのかと、ゲープは内心落ち着かない気持ちを味わっていたのだ。だが、カスパーの手が、体の形を確かめるように、撫で回すだけだ。
慣れた手よりも、少し強めのその撫で方は、いつもと違うということをゲープにわからせたが、乾いた固い手で体の形を確かめるように肌を撫でられるのは気持ちがいい。
カスパーのキスは酷く丁寧だ。ゲープのものは、たかだかキスだけで、しだいに興奮し始めている。
カスパーのやり方には、自分本位な部分がどこにもなく、常に、ゲープの様子を窺い、いくらゲープがねだっても、嫌がりもせず、それに応えてくる。
「意外だな。……要するに、お前はデミアよりも自分の方が上手いと言いたかったのか?」
少し眉を寄せ気味にして口付けるカスパーの顔には普段では見ることのできない色気があり、ゲープは、言い終われば、すぐキスを求めて顔を寄せる。
カスパーは、ゲープの髪を撫でキスを中断させると、自分をじっと見つめてくる隊長の顔に困ったような笑みを見せた。
「それは、違うんだ、ゲープ。……でも、多分、よくしてやれると、思う」
不思議そうに自分を見つめてくるゲープの体を優しく撫でていた指に力を入れ、カスパーは柔らかな肌を抓った。
「えっ?」
驚きに思わず声を上げたゲープの首筋へと顔を埋め、カスパーはゲープの肌に舌を這わせる。不審げにカスパーの様子を観察するゲープの視線は感じていたが、繰り返し、白い喉元に口付け舐めてやれば、ゲープの顎は次第に上がっていった。
ゲープは、耳の付け根を舐められることに強く感じて、カスパーをきつく抱きしめてくる。
カスパーはゲープの柔らかな体を抱き返してやりながら、もう一度、ゲープの腰の辺りの肉を、抓る。
「……カスパー?」
快感を痛みで中断され、ゲープの声には、非難の色が含まれていた。
だが、カスパーは返事を返さず、両手でゲープの体を撫で回し、柔らかく肉を揉んで、ゲープが喘ぎ出せば、抓った。
繰り返し与えられる痛みに、ゲープが不快げにカスパーを押しやろうとすれば、カスパーはゲープの気に入るようにゆっくりと舌を絡めるキスをした。
ひたすら優しく絡められる舌に、夢中になったゲープが、カスパーの舌を追いかける。
「……どうして、抓るんだ? カスパー」
カスパーは、ゲープの様子を観察しながら、背中の肉を探った。口付けられながら、撫でられる快感に緊張を忘れた肉を指先で、抓る。
口の中で、びくりと舌が固まる。
ゲープの目は、じわりと目に涙を浮かべていた。
その目に、ぞくりとしたものを感じたカスパーは、ゲープをよくしてやりたくて、胸へと顔の位置を動かす。
よく鍛えているはずなのに、柔らかな盛り上がり方をした肉へと舌の先だけで触れ、胸の外側から、ゆっくりと中心に向かうように舌を這わせていけば、普段どれほど甘やかされているのか、すぐ蕩けてしまうゲープは、乳首への愛撫を期待し、背を反らした。
浮き上がった尻を何度か撫でた後、カスパーは、強く抓った。ゲープの体が強張る。
文句を言おうと開きかけた隊長の口をカスパーは手で覆った。
息苦しく感じるだろうほど強く、ゲープの口を覆い、カスパーはぴくんと立ち上がっている乳首を口に含んだ。
抓られ、赤くなった箇所をなだめるように撫でてやりながら、口の中の小さな肉芽を舐め、吸い上げる。
唇に力を入れて乳首を吸うと、カスパーの手のひらの下でゲープの舌が、ぴくぴくと動いた。
カスパーは、息苦しさに苦しむゲープをやっと解放してやると、体をひっくり返し、なだらかな肩へとキスを繰り返した。
痛みと快楽の混乱にゲープは、不安そうな顔つきだ。
それをなだめるようなキスを続けながら、カスパーは何度も腰の辺りの肉を抓る。
「やめっ!」
制止に構わずカスパーはシーツに押し付けられたゲープの胸へと手を這わし、小さく勃った乳首を指先で触れた。
背中へのキスを繰り返しながら、指先でこね回すようにして優しく弄ってやれば、喉の奥で鳴くような声を出し、ゲープは自分のペニスをシーツへと擦り付ける。
「っ、ん、」
カスパーは揺れる腰を抓る。
「やっ!」
こうやって、カスパーはゲープをかわいがってみたいと思っていたのだ。
赤くなった腰の肉を撫でながら、カスパーはむずかるゲープの項へとキスを降らせる。
カスパーが徐々に指へと入れる力を強めているため、ゲープはとうとう鼻をすすっている。
「嫌、」
「っん、ん、ぁ」
「い、やっ、ッ、だ!」
しかし、ゲープの体は熱くなっている。
カスパーは、抓られた時ですら、熱く息を吐き出すようになったゲープの様子に、小さな笑みを浮かべた。
カスパーに汗のにじむ背中を見せて悶えるチームの隊長は、赤くなっている背中をまだ抓り上げれば、体を丸めるようにして力を入れるが、もう逃げようとはしなくなっていた。
意識はしていないようだが、感じれば感じるほど、丸く重いゲープの尻は、はしたなくもだんだんと上へと上がってきており、言えないことは体で示せばいいと教えたデミアを、カスパーはなかなかの仕込み上手だと感心していた。
下睫毛を涙で濡らしながら、はぁはぁと息を吐き出すゲープの顔は、かなりカスパーの好みだ。
赤くなった体を震わせるゲープは、もういきたそうだ。そして、普段のセックスを匂わせ、ゲープは入れて欲しそうに、大きな尻を振っている。
だが、カスパーは、このままやってしまうのは、まずいだろうと、考えていた。
確かに、カスパーも、一度や、二度は、ゲープを犯るのも悪くないと考えたことはあった。けれども、現実には酷く熱心に愛している恋人のいるゲープを奪うつもりもないのに、犯る気にはなれない。
逡巡は、ゲープに見抜かれた。
「こんなにっ、遅いんだ。デミアは、っ来ない。しろよ、カスパー」
とろりと先端の濡れたペニスを揺すり、大きな尻を持ち上げたゲープが、カスパーの股へと手を伸ばそうとする。
「ゲープ、デミアにみせつけるのが目的だったろ?」
「既成事実が、結果というのでも、悪くない」
酷く頑固な顔でゲープは言い、仕方なく、カスパーは、疼いて焦れるゲープの尻をもっと高い位置まで上げさせると、そこに顔を埋めて、きゅっとかわいらしく寄った皺へと舌を這わせた。
「あっ! っん」
射精したがっているゲープをいかせてやりたいとは、カスパーも思う。
「あっ、ア、あ」
力が抜け、がくんと落ちた尻を捕まえ、舌で穴を濡らしながら、カスパーは、ゆっくりと指をねじ込んでいく。
カスパーは濡れて蠢く中を探ると、焦らさず緩い盛り上がりを指先で軽く押す。
「っあ! あ、あっ!!」
ゲープの背が反り返った。
しかし、大きな尻で、指をきゅうきゅう締め付けてくるゲープの様子に、カスパーは自分がどこまで堪えられるだろうかと、不安になりつつあった。
ゲープは、しきりに腰を捩り、尻を振って煽ってくる。
中は、蕩けそうな熱さで、カスパーを懸命に締め付け、欲しがっている。
「んっ、あ、も、指じゃ、いや、だ」
「おいっ、ゲープ! いるか?」
叩かれたドアにゲープを犯るわけにいかないカスパーは、安堵すら感じた。
けれど、次の瞬間には驚愕で口もきけなくなった。ゲープが怒鳴る。
「いる! 入って来い。デミア!」
開いたドアの外で、二人の人間が固まっていた。
そして、部屋の中でも、ドアの外に二人の人間がいることに、カスパーが固まっていた。
デミアが来ることは、当然だった。そして、ゲープと共謀すると決めた時点で、デミアに一発殴られることはカスパーも覚悟していた。
けれど、ドアの外には、目を見開くコニーまでいる。
「カスパー、お前っ、何を!」
我に返ったデミアが怒鳴り声を上げる前に、コニーは部屋の中へとずかずかと入り込んでいた。
コニーは咄嗟のことだというのに、ゲープの体を隠すようにシーツを持ち上げていたカスパーの顔へと拳を繰り出す。風を切る音がした。
しかし、拳は、顔に届く寸前で止まった。だが、カスパーが安堵の息を吐き出す間もなく、再度コニーは、拳を握りなおし、カスパーの腹めがけて、先ほどよりもさらに勢いよくパンチを繰り出す。
「げっふ!」
チームのサブリーダーの容赦ない一撃は、チーム4番隊員に身を折って呻かせた。その上、コニーはカスパーの股間へと手を伸ばし、アレを思い切り握り込む。渾身の力を入れて握られたものに、さすがのカスパーも悲鳴が上がる。
「お前っ! 痛いっ!! 痛い! コニー!!!!」
「ゲープ相手になんか、勃たせるな」
あまりのことに、デミアは、完全に出遅れてしまった。ゲープがカスパーを連れ出したとわかった時点でデミアは、フランクから聞き出していたこともあり、「てめぇの犬には首輪がついてねぇのか!」と、無理やりコニーを引き摺ずりだしたわけだが、その道すがら怒鳴りあううちに、どうやら、コニーとカスパーは完全に出来上がっているというわけでもないという二人の事情も理解したのだ。
だが、コニーは、自信たっぷりにカスパーはしないと言い切った。
ただし、その根拠となる理由は、恐ろしく不機嫌にコニーが告げた、「この俺とだって、やっと一度寝ただけなんだ」だ。
コニーは、悠然と握り込んだカスパーのものから漏れ出た先走りで濡れた指を舐めた。
その一々がいやらしい動きなのは、さすがコニーだ。
とても大事なところが、一大事の状態で、泣きが入ったカスパーを見下ろし、コニーは低く告げる。
「ゲープ。これは、俺のだ」
デミア相手に、何か啖呵でも切るつもりだったらしく口を開けていたゲープは、あまりのコニーの暴挙にそのまま固まってしまっていた。
同じく、固まってしまっていたが、ゲープの危機に我に返ったデミアは、部屋の中に飛び込むなり、チームのサブリーダーから隊長を守るように、必死で抱かえ込んだ。
「なっ、悪かった。ゲープ。俺が悪かった。いくらでも謝るから、もう浮気はやめてくれ。とくに、カスパーはやめてくれ! 俺がわるかった。悪かったから、コニー相手に喧嘩売るのは絶対にやめてくれ!!」
デミアは、研修所時代からの悪友を、今日初めて、怖いと、思った。
END
職場内恋愛はこれで終わりの予定です。
お付き合い、ありがとうございました。