職場内恋愛 1 (デミゲプ)

 

目が覚めたデミアは、ベッドの上でボリボリと頭を掻いた。部屋の中を見回しても、見慣れたものはない。デミアは大きくあくびをしながら、この間と全く変わりばえのしない連邦警察局の訓練施設の備品を見回す。映りが悪いからできれば新しくして欲しい小さなテレビが一台と、必要以上に大きな机、それにベッドが二つ。デミアたちは、下っ端の研修生というわけではないから、部屋には小さなドアが一つあり、バスルームがついている。だが、自分たちのシャワールームに比べてもお粗末な代物だ。

寝ぼけ眼で、見回していた部屋の中のもう一つのベッドに、まだゲープがいるのに気付いて、デミアは驚いた。枕もと置かれた私物の時計は、ようよう7時を指しているが、デミアは、チーム一のねぼすけだ。特に、この訓練所ではそれが顕著になる。ここの朝は異常に早い。8時にしか、食堂は開かないというのに男たちは朝の5時からロードワークを始める。他部門の人間も大勢集まり、同じ訓練を受けることが、男たちの自尊心を擽るらしい。

「ゲープ?」

ゲープは、5時にグランドに出る種類の人間だった。その彼がベッドに座ったままなのが、デミアには不思議だ。ここで過ごせば、普通、20キロは走り終え、シャワーまで浴び終えたゲープに飯だと揺り起こされる。

ゲープが読んでいた本から顔を上げた。デミアは、なんだかドキリとした。デミアは、その原因をゲープの顔に探しながら挨拶する。

「おはよう。ゲープ」

「ああ、おはよう。デミア」

本を伏せたゲープは少し顔を顰めるようにして笑った。

デミアは、咎めるようなその笑い方に、ゲープが自分の起きるのを待っていたようだと気付いた。だが、デミアには思い当たることはない。

「俺、何か約束してたか?」

デミアは、裸足のままベッドから下り、ゲープに近づいた。しかし、起きたばかりのデミアの口から自然とまたあくびが漏れる。ゲープは肩をすくめて小さく笑う。

デミアには気がかりが一つあった。枕を背もたれのようにして座ったままベッドから下りる様子を見せないゲープに、デミアはベッドの上へと膝を乗せる。ゲープの額に手を当てる。

にやりと笑ったデミアは、廊下を駆けていくうるさい足音が部屋の前で止まらないかに耳をすませた。安全を確認し、すばやくゲープの唇を奪う。

「熱はなし。と、でも、ゲープが元気なのにグランドに居ないなんて、珍しいな」

連邦警察局は、局員のプライバシーへの配慮にはうるさくないらしく、もう3度デミアはこの部屋へと割り当てられているが、ずっとこの部屋の鍵は壊れたままだ。

唇が離れた後の、もの言いたげなゲープの顔は、艶かしくて思わずデミアが口笛を吹きたくなるような雰囲気だった。

ゲープの目がドアをちらりと見る。がやがやと部屋の外を声が通りすぎていくが、その中に聞きなれたものはない。

「デミア……」

薄く唇を開けたままのゲープの顔がデミアに近づく。デミアは笑った。

「なんだよ。隊長。悪かったな。なんだったら、叩き起こしてくれればよかったのに」

 

 

時間も、プライバシーの確保もできない今、できることなどたかがしれていた。

どれほど早くゲープが起きていたのかはわからなかったが、そんな気分のゲープを知らず焦らしていたデミアは、ゲープの欲望を優先的に解放してやることに対して異存はなかった。

ゲープが腰に掛けていたシーツを捲り、デミアはゲープの下半身へと顔を伏せる。

尻を上げるよう軽く合図し、デミアはゲープの腰からトレーニングウェアーのズボンを下着ごと太腿の半ばまで引き摺り下ろしてしまう。朝食まではまだ間があり、誰かが入ってくる可能性は低いが、それでも鍵のないドアに、ゲープの手は、いつでも下半身を隠せるようシーツを握り締めていた。

緩く興奮しているものを手で握り、デミアは早速口に含む。

「……っ」

デミアは、ゲープが早く出せるよう、深くペニスを咥え込んでリズム良く頭を上下させた。

舌に唾液を溜めて、すすり上げるようにしながらデミアはフェラする。

しかし、ドアの外を通り過ぎる足音が気になるのか、ゲープのものは、最初の状態以上になかなか興奮しなかった。

デミアは、チュっと柔らかな肉付きの太腿の付け根にキスをすると、ゲープの顔を見上げる。

「良くなれないか?」

ゲープの手が伸びて、デミアの髪をかき回した。ゲープはデミアの頭に顔を寄せ、短いキスを何度か繰り返す。

「すまない、デミア。したかったはずなのに」

困惑に薄く開いたゲープの唇がデミアのところまで下りてきた。

デミアは、優しくその唇を受け止める。

「誰も入ってきやしないさ。ゲープ、安心してもっと集中しろよ」

本当に困った顔の隊長を安心させるように笑ってデミアは、ゲープのものを握って扱きながら、やわらかな亀頭を口に咥え、舌全体で包むようにして優しく舐めた。少しサービス気味に、ピチャピチャと音を立てて舐めていると、やっと、ゲープの息が早くなり始める。

ゲープのものが、薄い先走りを漏らすようになると、握る指まで一緒にデミアはペニス全体を舐めた。

出すことに焦っているから、ゲープがデミアの頭を押さえてくる。

「…っん、……ゲープ、動き難い」

「……っは、ん、デミア、手、もっと」

 

 

「なぁ、食事の前に、今日の打ち合わせを……」

ゲープの部屋の鍵が壊れていることは、チーム全員の知ることであり、無造作にドアを開けたコニーは、部屋の中の異様な雰囲気に、どうしていいのか悩み、目を泳がせた。

広くもない一つのベッドに、チームの隊長と隊員が向き合っている。デミアを膝にでも伏せさせていたような体勢のゲープはシーツを強く握りしめ下半身を隠している。そのシーツからポコリと顔を出したデミアは額に汗を浮かべ、わざとらしいほどにこやかだ。

「……どうした? コニー?」

ゲープはいつもどおりの声を出そうとしているようだが、声は不自然に一本調子だった。

「起きてるかと、思って……」

「起きてるぞ」

口元を拭うデミアの笑顔は晴れやか過ぎて、不気味だった。

どこを見ていれば一番心の平安が得られるのかと、視線が揺れてしまうコニーは、ドアを開ける直前まで部屋の中であったことが大体想像できたが、あえて何も気付かなかったと、自分に言い聞かせた。

誤解されやすいが、コニーは、任務という名の正義が無い限り、嘘や誤魔化しが苦手なのだ。訓練所での日報を綴らなければならない立場として、書けないことなど知りたくない。

コニーは、決意して、なんとか二人に視線を合わせた。

だが、二人の笑顔は、思い切り引きつっていた。

 

「…………悪かった」

コニーは、ドアをバタンと閉めた。

 

END