コブタさんとオオカミさん 7

 

コブタさんの衝撃の事実に、数々のストーカー行為で培われた「コブタさんのことならなんでも知っている」という全くもって根拠のカケラも無い確信にぴしぴしとヒビが入ったオオカミさんだったが、幸か不幸かこのオオカミ、激しくロマンチストな傾向があった。

往々にして、ロマンチストは事実を都合よく曲解する。

よりにもよってキスなんかしやがって、と目を潤ませて抗議するコブタさんに、オオカミは愛おしくてたまらない、とでもいいたげな変態にしてはさわやかな笑顔を浮かべた。

「ゲープ・・・、オレのためにその唇、守ってくれてたんだなv」

「・・・・・は?」

「やっぱりオレたち、結ばれる運命だったんだ」

「・・・・・・・・・な、なに言ってんだ?」

あまりにも予想外の展開に、さすがの兄さんコブタもついていけていない。

ちゅっとついばむようなキスをされても、きゅるんとした目をますますまん丸くすることしかできなかった。

「二度目のキスも、」

ちゅっ、ちゅっ、とコブタさんの唇を軽く吸いながら、オオカミはコブタさんの肉付きのよいまるっこい体をそうっと抱きしめた。

「三度目も、その次も、ずっとキスしてくれよ。オレと」

好きで好きでたまらないコブタさんを腕に抱いて、オオカミは全開で口説く体勢に入っている。

この道にかけては経験豊富なオオカミさんは、コブタさんが呆然としている間にもう舌を入れはじめた。

「んっ」

びくっと震えたコブタさんは、何がなんだかわからないまま口を塞がれて、勘違いオオカミさんの情熱あふれる接吻に息も絶え絶えである。

コブタさんいうところの「たまたま」未経験だった唇は散々に貪られ、濃厚な舌技に翻弄されて唾液に濡れた。

「・・・・っ」

がく、と膝の崩れたコブタさんをオオカミはキスを続けながら一番手近なソファに横たえた。

「スキだぜ、ゲープv」

オレの愛を受け入れてくれた、と絶賛勘違い続行中のオオカミさんは、重なった腰をいやらしい動きで擦りつける。

「アッ、あん・・・・」

コブタさんは、あっさりとかわゆく喘いだ。

さわりっこも、自分でするのも大好きなのだ。たとえ唇バージンであっても、気持ちいいことにはきっぱり素直な兄さんコブタであった。

その兄さんコブタにすっかり忘れ去られているフレディは、切ったばかりの携帯を手にしたまま理解不能な展開に立ち尽くしていたが、今にも交尾が始まりそうな状況にようやく我に返った。

「・・・・、」

叫ぼうとして、フレディはちょっと迷った。

兄さんコブタを変態オオカミから救出せねば、という気持ちはもちろんある。

だが目の前の光景にフレディはちょっとばかり困惑していた。

兄さんコブタが、なんというか、あまり嫌がっていないように・・・いやむしろもっといろいろして欲しそうに見えるのだ。

変態オオカミのテクニックは、フレディから見てもなかなかのもので、兄さんコブタはキスだけでもうとろとろにとろけたような顔をしている。

フレディがためらっている間にも、兄さんコブタはTシャツごしに乳首を舐められてあんあん喘ぎ、何の抵抗もなくさっき履いたばかりのフレディのパンツをつるりと脱がされてしまった。

調子にのったオオカミは、兄さんコブタのナニを片手で弄りはじめた。

「ここ、さわられるのスキなんだろ?」

「んぅ・・・す・・・、スキ・・・・」

「舐めてほしい?ぺろぺろされたい?」

「んん・・・・・、は、はやく・・・・」

ぺろぺろして、などと恥ずかしいことを平気でほざき、あまつさえ腰をもぞもぞさせて催促している兄さんコブタのえっちな姿に、フレディはおもわず赤面した。

とてもじゃないが、自分にはあんな恥ずかしいセリフは言えない・・・、まあ、フランクもそんなことを言えとはいわないが・・・、とおもったときに、ようやく弟コブタの足音がどたどたと響いた。

フレディは、オオカミにぶち破られたドアから通りに飛び出した。

「フランク!」

深夜なので小声で叫んだフレディは、次の瞬間フランクにがばっと抱きつかれた。

「・・・・痛っ、痛い!やめろフランク、苦しいっ!」

ぎゅうぎゅう抱きすくめられたフレディが弟を叱ると、フランクはあわてて力を緩めたが、腕はフレディの身体にまわしたままだ。

「け、怪我は!?怪我してないか!?」

「怪我なんか・・・・、ちょっ、何してんだフランク!」

まるで検査のごとく上から下までフランクの大きな手で探られて、フレディは慌てた。

「うん、どこも傷はないな。あ〜、よかった・・・・」

こんどはそっと抱きしめられて、つむじにちゅうなどされてしまう。

「な・・・、」

「ほんとによかった。あんたが無事で」

フランクのその言葉に、なんなんだおまえは!と怒鳴りそうになっていたフレディはうっと口をつぐんだ。

仮にもコブタチーム50の二番手なのだから、三番手の弟に大丈夫か大丈夫かと心配されていれば世話はないが、でかい図体をしたこの弟に抱きしめられる感覚は困ったことにとても心地よい。

ほとんどうっとりしながら身を預けていたフレディだったが、家の中から聞こえてきた兄さんコブタの、

「あ、あんっ、や、あん、イくっ、」

という、はしたない喘ぎ声に、落ち着いている場合ではないことを思い出した。

「い、いまのって・・・」

「ゲープだ。変態オオカミに、その・・・・・」

襲われている、というべきなのかどうか迷ったフレディは「こっちだ」とフランクのパジャマの裾をぐいぐいとひっぱった。

コブタ兄弟が壊れたドアからそっと中をうかがうと、月明かりの差し込む部屋のソファの上では、兄さんコブタが白い太腿を大きく開脚中である。太腿は、真っ黒なオオカミの頭をぎゅっと挟んだり、またぱかりと開いたりと忙しい。

「ん、も、もう・・・」

「もうちょっとガマンしてくれよ、もっとヨくしてやるから・・・」

嬉しそうにいいながら、オオカミは兄さんコブタの太腿に手をかけてぐっと押しやる。

「あっ、あんっ!あっ、そ、そんなトコっ・・・!」

ぴちゃぴちゃ、と濡れた音が響いて、兄さんコブタの太腿がぷるぷると震えた。

「アッ、アッ、アアッ・・・や、やだ・・・っ・・・!」

ちっとも嫌ではなさそうな兄さんコブタの反応と、オオカミの頭の動きからすると、どうやら兄さんコブタはお尻の穴をぺろぺろされているようである。いやもしかしたら、穴の中もぺろぺろされているかもしれない。

このままでは本当に30年ローン内部で異種族間交尾デスマッチが繰り広げられてしまう、と焦ったフレディは半泣き状態で「なんとかしろ」と言いたくて背後のフランクを見上げた。

と、何をおもったかフランクは、いきなりフレディをぎゅうと抱きしめてうなじに唇を押し付けた。

「ば、ばかっ、なにやってんだおまえ!」

「ご、ごめん、おれ、なんかもうガマンできない・・・・」

ぐいぐいと押し付けられる堅い感触に、フレディは弟コブタが冗談でもなんでもなく興奮していることを悟った。

体力自慢なコブタ兄弟の中でもっとも体力を持て余している弟コブタの性欲は、時々迷惑なぐらい盛んなのである。迷惑とおもいつつ、ついついいつもそれに流されてしまっているのが不甲斐ないが、いかんせんここは公道である。自分ちの前で、深夜とはいえ、誰かに見られでもして通報などされてしまったら、まずい。

フレディはなんとかフランクをひきはがそうとしたが、こういうときだけ手の早い弟にパンツの中身を直に握られて、おもわず前屈みになってしまう。突き出した尻の合間には弟のくせになかなか立派な一物がぴたりとあてがわれ、進退窮まったフレディは中腰のまま壊れた戸口に両手でしがみついた。

兄さんコブタがオオカミにぺろぺろされているのを見ながら、弟の手に擦りたてられるという状況下で、唯一冷静さを保っている自分をうらめしくおもいつつ、フレディは必死でフランクを押しやろうとした。

そうこうしているうちにも兄さんコブタは、「あん、あん、もう、ああん、イくっ!」と深夜にしては大きな声で叫び始めた。

その声に煽られたのか、フランクの手の動きが早くなる。

弟と壁の間に挟まれて逃げようにも逃げられず、「放せ、放せってば!」とフレディは手足を振り回してじたばたと暴れた。

30年ローンにも、いくつか蹴りが入ってしまったかもしれない。

みしり、と嫌な音がした。

(も、もしかして・・・)

ものすごく悪い予感がしたフレディだったが、まさか、とおもった。

次の瞬間。

みしり、みしり、と30年ローンが全体的に揺れはじめる。

(やばい!)

「フランクッ!逃げるぞ!」

「え、わ・・・・!」

腐ってもコブタチーム。

咄嗟にしては見事な跳躍で、倒れかかってくる幻のヒノキから逃れたフレディは、通りの向こう側までフランクと共にころころと転がりながら、兄さんコブタが「あああああっ!」と大声をあげてイくのを聞いた。

 

(つづく)