コブタさんとオオカミさん 6
ドアをぶち破り、家の中に飛び込んだオオカミデミアは、飛びこんだ一瞬で、こぶた次男坊が携帯を片手にナンバーを押そうとしていること、そして、それをやられてしまったら、ゲープと対面できるこの貴重な時間が終わりを告げることを理解しました。
フレディの指は、携帯のボタンを押す寸前です。
そして、猶予時間がほとんどないことがわかったデミアのしたことは、本当にドアをぶち破って入ってきてしまったオオカミに驚き、見開いたゲープをぎゅうぅうっと抱きしめ、ぶちゅーーーーっとキスをぶちかますことでした。
オオカミデミアは、ゲープへのストーカー行為により知りえた情報から、フレディも、こぶたチーム50のサブリーダーを務めているくらいだし、乱入後の対処行動も素早かろうと、フランクへの連絡及び、抵抗に備え、とっさに自分の欲望に優先順位に従って、告白もしないままゲープのチュウを奪ったのです。けれども。
いつまでたっても、フレディに動きはありません。
30年ローンの我が家が、あっさりとオオカミに破壊されてしまったのです!!
(+兄コブタが、変態オオカミに襲われています。)
それよりも、腕の中のゲープが抵抗し始めました。
「やめろっ! お前っ! 何を、するっ!!」
涙目でぎゅっと睨んでくるゲープに、デミアはオロオロとしてしまいます。
「ごめん。ゲープ。怖がらないでくれ。お前を食おうとしてるわけじゃなくて、俺、お前のこと、すごく好きでっ!」
フレディが童話こぶたらしく、オオカミの存在に怯えてしまって邪魔しないのだとしたら、デミアだって、ゲープの顔をしっかりと見つめ、ゆっくりと誤解を解き、ロマンティックに告白した後、キスをしてゲープをうっとりさせたかったのです。そんなデキルこぶただと、デミアはフレディのことを誤解していたのです。
「俺、オオカミだけど、コブタのお前を愛してるんだ! 本当に好きなんだっ、ゲープ!!」
「くそぅ! お前、キスしたなっ! 今、キスしたなっ! 俺のファーストキスだったのにっ!!!」
え?
デミアだけでなく、幻のヒノキで作られた我が家を壊されたショックで自失していたフレディまでもが、思わずゲープの顔を見つめました。
ゲープは、初キッスがショックなのか、口元を押さえ、喚きたてます。
「お前はなんて酷いオオカミなんだ! 好きな子ができたら、キスしようと思って、俺だっていろいろすごく楽しみにしてたんだぞ!」
信じられなくて、デミアはまじまじとゲープを眺めました。
「……えーっと、ゲープ、お前、ファーストキス?」
と、いうことは、デミアは、初キスの前に、初フェラをしてしまったことになります。
「マジか、ゲープ? 兄さんはその年まで、キスしたことなかったのか?」
フレディにとっても、コブタ警察局で、魔性のこぶたと恐れられるモテモテコブタの長兄がキスしたことがなかったとは、夢にも思わぬことでした。しかも、兄こぶたは、30……ゲホゲホ、いえ、いい歳なのです。
「キスする機会がなかったわけじゃないぞ! たまたま、そういうことになっただけで、それに、キスはしたことないけどな、あそこを触りっこしたり、そういうことはしたことあるぞっ!」
キスしたことがなかったことをアレコレ言われ、言わなくてもいいことを言いだしたこぶたゲープに、デミアが血相を変えます。
「誰と!? まさか、あの、仲のいい、」
「ファルクだ。なんだ、お前、よく知ってるな。同期だし、親友だからな。触りっこはするんだ。でも、キスはしないぞ。そういうのは、好きな子ができたらするのがいいんだって、ファルクが言ってたんだ」
確かに、キスはまだのようですが、それ以上のぺティングはたっぷりとされてしまっているゲープは、カスパーに詐欺られるフレディの兄コブタだけに、ファルクにだまされていることなど気づいていないようです。
練習は積んでおくに限るしな、それにあの練習は気持ちがいいしなと、ファルクのことを頼りになる親友であるかのような口ぶりです。
練習相手として、雄コブタが最適かどうかも、一度も考えたことがないようです。
「それなのに、お前、俺にキスしたなっ!」
オオカミにファーストキスを奪われたことを思い出したらしいゲープが、また、じわりと目に涙をためて、デミアを睨みました。
「起きたか、フランクっ! 大変だ、俺の家のドアをオオカミが壊したっ! 変態オオカミが俺の家にいるっ!!」
あっ、どうやら、フレディもしなければならないことを思いだしたようです。
(つづく)