コブタさんとオオカミさん 4

 

「えっ!」

剥ぎ取った毛布の下というか、自分の股の間に、舌舐めずりするオオカミがいて、ゲープはびっくりです。

しかも、まだ、オオカミはゲープの大事なポークビッツにかぶりついています。

大事なアレに吸いついたままのオオカミは、艶々の毛皮も美しい、若く精悍で獰猛そうなオオカミでした。しかし、そのオオカミが、目があった途端、おたおたと慌てだします。

「あの、その……俺、」

あまりの事態に、股の間にオオカミを挟み込んだまま呆然と見つめる兄さんコブタでしたが、しかし、実はそれよりも、欲望に負けてついふらふらとゲープに近づいてしまったオオカミの方がこの展開に慌てていました。

なぜなら、童話世界生きる以上、こぶたに出会ったオオカミは、こぶたを丸のみにしなければならない掟なのです。そうでなければ、童話の悪役として失格になってしまいます。

けれども、この油断っぷりも愛らしいことこの上ないこぶたをデミアとしては、別の食べ方しかできそうになかったのです。

濡れ濡れのゲープのものを口から吐き出し、けれども未練がましく丁寧に舐め清めTシャツの裾を直してそっとポークビッツをお片づけしたオオカミは、苦悩のあまり、きゅいんと、しっぽが垂れて丸まっています。

「ど、どうしたら、俺っ……!」

しかし。

「うぁぁあー! オオカミだっ!」

今頃になって、童話こぶたの本能が目覚めたゲープは叫び声を上げました。

ベッドから飛び置き、半ケツのお尻を見せて逃げ出すかのようでしたが、しかし、それはフェイクで、素早く駆け戻ったゲープは、苦悩するオオカミにきつい足蹴りをくらわせます。

さすが、こぶたチーム50の隊長です。

「痛いっ、痛いっ、ゲープっ! 頼む。やめてくれ」

コブタにげしげし蹴られるオオカミは、キャンキャン鳴き喚きました。

確かに、オオカミデミアは、レイプ犯です。いくら、初体験フェラに気持よくなってアンアン言っていたとしても被害者であるゲープに、蹴られる程度のこと当然と言えますが、このままでは殺られると命の危機を感じたデミアは、蹴られながらも必死に勇気を奮い起し叫びました。

「あのっ! 俺、お前のこと大好きで! ゲープっ!」

童話キャラの必殺技です。「真実の愛」攻撃です。これですべて片付くはずです。

 

「……はっ?」

体を丸めうずくまるオオカミを蹴っていたこぶたは、突然の告白に思わず足を止めました。

ゲープの茶色い目がしげしげとデミアを見つめます。

「ほ、本当なんだ、ゲープっ! 俺はオオカミだけど、コブタのお前を愛してるんだっ!」

 

「……アホだろ。お前」

 

 

異種族愛など考えたこともないこぶたゲープは、たびたびと涙を流す傷心のオオカミを残し、腰にシーツを巻きつけただけの姿でフレディの家を目指し始めました。

さすがのゲープも、変質オオカミのうろつく野原で安眠はできない気がしたのです。

 

 

「おーい。フレディ」

ドンドンドンっと、ゲープは、フレディの木の家のドアを叩きます。

30年ローンで建てたにしては、音が軽いです。もう一度、ゲープがドンドンと叩くと、今度はぎしぎし言い始めます。

「どうしたんだ、ゲープ。その格好は、一体!?」

二男コブタのフレディは驚きました。

真夜中過ぎに突然尋ねてきた長男コブタは、首も伸びたTシャツ一枚で、腰にシーツを巻きつけたあられもない格好です。

「全く……近頃は変な奴らが多い。お前も気をつけろ」

フレディを押しのけるようにして家に入ったゲープは、そこに立っているでかい末弟に気づきました。

「なんで、お前がフレディの家にいるんだ?」

突然の来客に驚きでもしたのか、フレディと一緒になってドアの側まで来ていた寝ぼけ顔のフランクは、いままで一度もゲープの藁の家には泊まりにきたことなどありません。

長男コブタは、なんで、フランクがフレディの家にだけ泊りにきているのか、むっかりです。

「……えっ、それは、ゲープっ!」

質問されたフランクよりも、なにやら二男のフレディは大慌てし始めました。

真夜中だというのに、フランクの背をぎゅうぎゅうと押し、家の外へと追い出します。

「……フレディ?」

末弟が驚いて、背中を押すフレディを肩越しに振り返っても、ぎゅうぎゅう押します。

「フランク、ゲープ兄さんが来たから、お前は帰れ。……今日は、ありがとう。おやすみっ!」

それはまるで、ゲープが末弟におやすみの言葉を言う間もない、あっという間の出来事だったのです。

 

(つづく)