コブタさんとオオカミさん 10

 

オオカミさんが、長男コブタのあられもない姿を思い出してはぁはぁしつつ、いってしまった数時間後のことです。

これまた長男コブタの慎みのない風呂上がりの太腿にドッキリ挑発されてしまったというのに、隣でガーガー眠る三男坊の手前、一人エッチなんていうはしたないこともできずにまんじりと眠れぬ夜を過ごした次男坊が、あくびを連発しつつ朝刊を取りにレンガのおうちの外へと出てきました。

外はいい天気です。

フレディが、エッチできずに欲求不満に陥っていても、30年ローンのおうちが崩壊してても、朝のおひさまきらきらです。

ついでにいうなら、三男坊宅で、毛布を蹴り飛ばしつつソファーで眠る長男コブタも、いつもと変わらずグーグーでした。

このコブタさんは、小さかった次男がお風呂上がりお兄ちゃんのポークビッツを見てしまって自分のが腫れちゃうのに、オロオロして眠れぬまま朝を迎えた時もグーグー呑気に寝てましたし、三男坊が、長男コブタの出てくる夢で夢精して、びっくりして目覚めた朝も変わらずグーグー寝てましたから、たとえ、前夜のエッチなこぶたさんの姿に未だに股間をもっこりさせたオオカミさんが閑静なレンガ住宅街をうろうろしていたとしても、この朝の深い眠りも、とっても普通のことでした。

そうなのです。

オオカミさんは、妄想のゲープだけでは、やっぱり我慢ができなくなって、長男コブタの姿を求め、フランクの家を訪問しようとしていたのです。

オオカミデミアは、ロマンティストらしく右手には花束です。そして、左手には朝の長男コブタ訪問にはこれが必需品でしょう。牛乳瓶を持っています。毎朝、腰に手を当てて、ごくごく牛乳を飲むのがゲープの習慣ですが、フランクの家は、牛乳の配達を頼んでいないのです。さすがゲープのストーカーです。

 

ポストから朝刊を抜き取ったフレディはふと顔を上げ、どっからどう見ても不審者なオオカミが牛乳瓶片手に近づいてきているのに気づいてしまいました。

もしかして、勤勉な牛乳配達のオオカミがいるのかと思い、眠い目を何度擦ってみましたが、やはり、夕べ長男コブタに襲い掛かったあの変態オオカミのようです。頭に巻かれた真っ白な包帯が痛々しいです。

と、いうか、右手のピンクのバラは、何事なのでしょう。

長男コブタのせいで悶々と眠れぬ夜を過ごしたフレディは、倒壊してしまった30年ローンの悩みも胸に抱え、その朝、ちょっと頭の動きが鈍く、なんとなくぼんやりと変態オオカミを眺めてしまっていました。というか、この朝っぱらから股間の元気なオオカミが変態過ぎて、二男コブタは目が離せません。

 

けれども、オオカミとの距離が縮まり、例のむふーという鼻息が聞こえると、フレディの脳内に、稲妻のように悪夢が再現されました。

あの鼻息が引き金となって、フレディの大事な30年ローン、幻のヒノキのおうちは、倒壊してしまったのです。

(ええ、まぁ、確かに、きっかけと言えば、きっかけと言えなくはないかもしれません)後日、業者との裁判を構えた際、フレディの弁護士となった、アンホフの顧問弁護士であるキツネのコニーの裁判発言より引用

(その晩、突然現れた長男コブタのむっちりとしたお尻を、オオカミであるデミアがペロペロしだして、それに本件の依頼人である彼の弟が興奮して、屋外で事に及ぼうとしまして)同日同法廷で同弁護士の発言

(そのせいで、尻にアレを押し付けられながら先っぽの辺りを、くちゅくちゅされると、興奮してしまうという私の依頼人が感じてしまって、事が始まって以来しがみついていた家の外壁に何発か蹴りを……、つまり、家が倒壊した真実の理由は、残念ながら、そこに座るカスパー・ラインドル被告の設計ミスのためというよりは、本来、人目につく野外で行うべきではないセックスを、自宅前で壁を使用しつつ行い、しかも、家というものが本来持つべき機能をはるかに超えた衝撃を与えた、つまり、興奮のあまり蹴っ飛ばしたというフレディのうかつな行為が、ほとんどの理由といえるのではないかと思われるのです。)「畜生、コニー! お前は、誰の弁護士なんだー!」「許可のない発言は認めません」「このクソ狐―!」「法廷侮辱罪で逮捕しますよ!」「俺の30年ローン!(号泣)」「かわいそうに、フレディ、我慢しろ。どうやら、あのコニー、カスパーに並々ならぬ執着心を持っているという噂が……」(削除された裁判記録より。フランク)「本当か、フランク。そりゃぁいい。コニー、てめー、残念だったな、この裁判が始まるまえの面談で、一目会った日から、カスパーは、俺んちの長男コブタにメロメロだ!」「えっ、カスパー、お前、近頃冷たかったのは……!」(同じく削除された裁判記録より)

 

と、いうわけで、遠い因子としては、コブタ次男坊の家を壊すきっかけとなったオオカミの鼻息のせいで、一気に昨夜の悪夢を思い出したフレディは、また家が壊されるのではないかという恐怖のあまりフランクのレンガのおうちに走り込み、ドアにはしっかり鍵をかけました。

フレディはガタガタと震えています。

オオカミが、とうとう三男坊のレンガの家の前に立ちます。その鼻息は、もうすぐゲープに会える興奮でムフムフ荒いです。けれど、レンガの家は、長男コブタの藁の家と違い、オオカミの鼻息ではびくともしませんでした。

勿論、気持のいい朝のそよ風にもどうということもありません。

二男コブタはほっとしました。

 

オオカミが、フレディが張り付いたままになっている家の扉を、コンコンと控え目にノックしました。

「……ゲープ? 昨夜はいきなりゴメンな。あんな痛いコト、するつもりじゃなかったんだよ」

このオオカミ、変態なくせに、人様のお宅を訪ねる際は、いつも殊勝な態度のようです。もちろん、フレディにドアを開ける気はありません。それどころか、自分の家の崩壊と同じパターンを踏んでいるオオカミの訪問に、また、あの悪夢かと、またもやフレディは震えあがりました。相当、30年ローンの崩壊にショックを受けています。

「あのさ、ゲープ。土産に、牛乳を持ってきた。お前、毎朝、腰に手を当てて牛乳を飲むのが習慣だろ?」

そして、もちろん、童話コブタとしても、進んでオオカミを招き入れるなんて真似はできませんでした。食べられてしまいます。

ところで、フレディが震えあがる原因は、この他にもありました。

このコブタ三兄弟、そもそも自立しろと本部から追いだされたコブタたちなのです。それなのに、あっさり長男の藁の家は吹っ飛びました。

次男の木の家も簡単に倒壊しました。

これでまた、三男のレンガの家が壊れたら、本部から何を言われるかわかったものではありません。

けれども。

だからと言って、そんな理由でフレディが震えているわけではありませんでした。これでも、フレディもコブタチーム50の二番手です。

ただ、二男コブタは、長男コブタの性格を知るだけに、これはいい機会だと、アンホフ指揮官が折れるまで警察局の玄関で捨てコブタよろしく抗議の座り込みを始めると言い出すのではないかという悪夢でガタブルなのです。

 

オオカミデミアは、は、耳を澄ましてみても、家の中があまりに静かなのに不信感を覚えました。

「……もしかして……」

「おい、ゲープ、夕べのせいで尻が痛いのか? だから、ドアを開けることもできないのか? 俺は、このドアをぶち破って、中に入った方がいいのか?」

このオオカミ、ゲープに惚れているのは本当なのです。

それなのに、バージンのゲープに無理をさせてしまった夕べです。

「おい、大丈夫か? いいか? 俺、お前のことが心配だから、このドアをぶち破るぞ。いいな。ゲープ?」

オオカミさんは、藁のおうちでも、木のおうちでも、こぶたちゃんの真っ白でむっちりしたお尻を夢中でペロペロ舐め回しはしましたが、挿入する直前には、家の倒壊というハプニングに見舞われ命の危機に晒されていたとはいえ、小さなあの穴を十分解してやる努力が足りなかったという自覚がありました。

ゲープにメロメロのオオカミは、夕べの出血のせいでただでさえ血の気の失せた顔をさらに白くして、必死の形相になっています。

「待ってろ、ゲープ! 今、助けてやる!」

 

「わー! やめてくれっ! やめてくれ! 家が壊れるっ!」

「その声は、フレディだな。ゲープはどうした!?」

 

ドンっ!

オオカミは、ドアに体当たりを始めました。

「ひー! 家が壊れてしまうっ!」

 

ドンっ! ドンっ!

「ゲープはどうしているんだ!?」

 

ドンっ!

ドンっ! ドンっ!

 

しかし、フランクのレンガのおうちは、鼻息で吹き飛ぶゲープの藁の家とも違い、蹴りで崩れるフレディの木の家とも違い、オオカミの体当たりでは全くびくともしませんでした。

ドンっ!

あっ、夕べ重傷を負ったオオカミの方が、体当たりの拍子によろけて道路に吹っ飛ばされてしまいました。

それでも、よろよろとデミアは起き上がります。

「ゲープ! 大丈夫か!? ゲープ! 今、助けてやるぞっ!!」

大丈夫かどうか心配なのは、オオカミの方です。傷口が開いたのか、頭の包帯が赤くなり始めています。

「ゲープっ!」

ドン!

 

「うるさいなぁ。何事なんだ。一体……?」

昨夜は、相当お疲れだったようで、精鋭のコブタ隊長としてはちょっと恥ずかしいことですが、やっと、ゲープが目をさましました。

 

ドンっ! ドンっ!!

 

「一体、何の音なんだ。フレディ?」

「夕べの、 変 態 オ オ カ ミ がまた!」

 

寝起きの長男コブタは、難しいことを考えるのが苦手でした。あまりにドアの音がうるさかったですし、寝起きのむくんだ目には、ガタブル震える次男コブタの姿も見えにくかったので、とにかく、誰かが家に入れて欲しがっているのだと、それだけ了解して豪快にドアを開け放ってしまいました。

おかげで、

「ゲープっ、尻がそんなに痛いのかっ!? すまなかった! 本当にすまなかったっ!」

オオカミは、かわいいコブタちゃんが切れたお尻の痛さにしくしく泣いているところを想像し、自分が涙目になりつつ体当たり最中でしたので、いきなり開いた扉に、たたらを踏んで家のなかへと飛び込む破目になりました。夕べも十分打った頭をまた、床に打ちつけたデミアは、くらくらする頭を持ち上げ、そして、死にそうになりました。

アソコが見えそうで、見えない絶妙の丈のTシャツを身につけた、最愛のコブタちゃんが眠そうにむくんだ目をこすっています。

ただでさえ少なくなっている血をブーっと鼻から吹き出してしまったせいで、気が遠くなり死の予感すら感じましたが、オオカミさんは、最後に見たのがこんなゲープの姿なら、我が人生に悔いなし!と思いました。

 

「おい、大丈夫なのか? デミア?」

コブタさんは、いきなり飛び込んできたオオカミが、朝っぱらから大量に鼻血を吹き出していて、困惑です。

玄関に置いてある、バラの花束と、牛乳瓶も不可解です。

「……ゲープ、お前こそ、……大丈夫、なのか? ……尻、痛い、……だろ?」

貧血を起こして、息も絶え絶えのオオカミに、心配されるゲープは、夕べ、このオオカミとの間にあったことを思いだしてしまいました。ちなみに、心配されている尻は、自分で宣言した通り寝たので大丈夫です。驚異の回復力を持つ長男コブタです。

「デミア、お前、死にそうじゃないか……」

ゲープはコブタですが、決して臆病でも、卑怯者でもありませんでした。コブタチーム50の隊長なのです。頭からも、鼻からも血を流すオオカミを心配して近づきます。

「へへっ。お前に痛い思いをさせたバチが当たったんだな。歩いて、尻、平気か? 痛くないか?」

「尻って、お前がアレを入れとした尻の穴のことか? ああ、平気だ。一晩寝たからもう大丈夫だ。……それより、お前だ。夕べより、お前、さらに死にそうじゃないか! ……くそっ、お前っ、こんな状態なのに俺の心配なんかして……俺は、約束は守るぞ!」

繰り返しますが、長男コブタは、決して卑怯者でなかったのです。

そして、ドラマティックなノリに非常に弱かったのです。

「お前が死ぬ前に、夕べの約束を果たしてやる! 来い、デミア!」

 

いきなりのコブタの熱血にさっぱりついていけていない瀕死のオオカミを引きずり、ゲープが向かったのは、呑気にまだ寝ているフランクの寝室でした。廊下には、すごい勢いで引きずられるオオカミの血痕が、点々と残っています。

そしえ、まだ寝ていた三男坊をベッドから蹴り落とし、部屋から追い出し、バンっとドアを閉めた長男コブタは、ごろんとベッドに横になりました。

「さぁ、来い、デミア!」

 

思わず、オオカミはオロオロしてしまいました。

けれど、大の字で覚悟を決めたこぶたさんは、大変男らしいです。

「ここなら、弟たちに見られる心配はない。俺のバージンはお前にくれてやると約束したんだ。死んじまうまえに、さぁ、来い! デミア!!」

確かに、血相を変えた長兄はオオカミと寝室に引きこもり、閉めだされた弟コブタたちは、その光景を見てはいません。しかし、何事が始まったのかとドアに耳を張りつけ、固唾を飲んで中の様子を窺っています。

 

「ゲープ……?」

「お前は、俺が好きなんだろう?」

「うん……」

「死んでもいいから、やりたいんだろ?」

「うん……」

「どうした、デミア? この格好が嫌なのか?」

 

あまりの急展開に、オオカミさんはついていけてないだけでしたが、大股開きの大の字で寝ころんでいたゲープは、とっている体勢がセクシーじゃなくて気に入らないのかと、お尻がよく見えるようにと、くるりと体を返すと、ベッドの上で四つん這いになりました。大きくて、むっちりしたゲープのお尻がデミアの目の前です。思わず、オオカミデミアは本能的にふらふらと近づき、肉付きのいい丸いお尻を撫でまわしてしまいました。

たっぷりとしたお尻の肉をオオカミにぎゅっと掴まれたことが恥ずかしくて、ゲープの頬はさっと赤くなりましたが、ぷるぷると白い太腿を震わせながらも、お尻を高く上げた姿勢を崩さずに頑張ります。

「ゲープ……。ゲープ」

デミアは、まるで今触っておかないとゲープが消えてしまうのではないかという、熱心さでお尻を触りました。

「夢みたいだ。ゲープ。俺、本当に……」

デミアは、四つん這いになってすら、なかの下着をぎりぎり隠し、エロ心を刺激してやまないゲープのTシャツの裾に手をかけ捲り上げると、露出した背中に唇を寄せます。

「……お前が大好きで」

そのまま、背骨をなぞるように項までそっとキスをしていきます。

いきなり、またあの太いのを尻に突っ込まれ、痛い目にあうのだろうと覚悟していたゲープは、触りっことは全然違う、経験のない甘い行為に、腰のあたりにゾクゾクするものを感じてしまいました。

「あっ、……デミア」

昨夜知ったばかりだというのに、ゲープの覚えのいいお尻は、オオカミの気持ちのいい舌のことを思いだし、ふるふる揺れてしまいます。

デミアが、ゲープの丸い肩や、赤いうなじにキスを繰り返していると、自分から、ゲープはデミアにお尻を押し付けるように突き出してきました。

「デミ、……」

「触って欲しいのか、ゲープ?……弄られるの、好きになっちまった?」

デミアは、布越しにさんざん白い尻を撫でまわしてから、大きなフランクのパンツを摺り下ろしていきます。

「あ、……触、れっ、……お前、触りた、いん、だろ? 舐めるの、も、して、……いい」

恥ずかしくて真っ赤なくせにゲープがおねだりするので、まだ、半分しかお尻がパンツから出ていない状態で、むっちりした山の間のスリットを舌でたどり始めました。

「んっ、……っ、!」

 

こぶたさんのお尻は、オオカミさんの舌で舐められてプルプル震えています。

 

 

つづくv