コブタさんとオオカミさん 1

 

「なあ、ゲープ、ほんとにワラでいいのか?」
「ああ、ワラで充分だ」
きっぱりと言って、ゲープはせっせとワラ束を積み上げる。
彼が作っているのは、家である。
ワラなんか、ちょっと強い風が吹いたらひとたまりもないじゃないか、とフランクはおもったが、一番上の兄さんコブタであるゲープが三番目のフランクの意見など聞くわけがない。
二番目のフレディもそうおもったらしく、ちらっとフランクのほうを見たきりで何もいわず、黙々とワラ束を製造中である。
「どうせ仮住まいだからな」
どうせ、となんでもなさそうに言いながら、ゲープの額には青筋が浮かんでいる。
三人は、いや、三匹は本部から追い出されたのである。
予算が足りない、という理由でだ。
ついでに独立心を養え、という理由でめいめいいくらかの特別手当を渡されて各自で家を作ることになった。
たしかに、ゲープへの依存度は多少高いかもしれない、という自覚がないでもなかった二番と三番は、しかたなく家作りにとりかかった。
二番のフレディは木の家を。
三番のフランクはレンガの家を。
特別手当の額は同じなのになぜ材料が違うかといえば、たまたまフランクがレンガ職人の娘と婚約中で、とか、フレディが口のうまい材木業者にひっかかって、とかそこはいろいろあまり触れないほうがいい事情がある。
兄さんコブタのゲープの場合は、そもそもまともに家を作る気がない、という事情がある。
優秀なコブタチームが本部にいられない、ということに納得がいかないのだ。
ゲープは、「弟たちのため」と称して、司令官アンホフのところへ毎日抗議に出向いている。
フレディとフランクの家はもう完成しているのに、ゲープの家がまだ未完成なのはそのせいだ。
しかたがないので、弟たちは休日をつぶして兄の家づくりを手伝いに来たのだ。


そんな健気な(?)コブタ兄弟の姿を高性能の双眼鏡で追っている一匹のオオカミがいた。
「すっげ・・・!汗で乳首が透けてみえるぜ、ゲープ!」
興奮のあまり舌なめずりしながら、オオカミは双眼鏡を片手で支えたまま、片手を下に伸ばした。
ハアハアと息を荒くしながら何をしているかは明らかである。
「くそっ、あのぷりっとした尻に突っ込みてえ!ゲープ、ゲープ、ゲープっ!」
周りに誰もいないのをいいことに好き放題な妄想を吐き散らして、オオカミは夢中である。
あきらかに、ちょっとイってるんじゃ?とおもわせるような覗きオオカミ。
名前は無論、デミアである。

 

(つづく)