リベンジ

 

「カスパー、なぁ、知ってるか?」

今日は遠慮してほしいとやんわりとカスパーが断ったというのに、ずかずかと下位隊員のプライベートエリアに侵入しているコニーは振り返る。

「何を?」

いつものことだが、コニーは、好きなものを勝手に取り出しては、恩義背がましい態度を取っている。

まず、カップの位置が動いていると文句を言い、コーヒーを入れては、カスパーが家ではそうするようにクリームをたっぷりと入れ、家主に差し出しはするのだが、自分の分にも少し入れ、まずいと盛大に顔をしかめた。警察局勤務には必要ないほど整った容貌の男は、傍若無人だ。

「まずいインスタントが、さらにまずいな」

しかめた顔のままコニーは言う。

たとえ職場では、階級の上下があろうとも、この金髪にプライベートな嗜好まで口を挟まれる謂われはないから、カスパーはゆっくりとドアへと視線を流した。

とたんに、きれいな緑の目に動揺が走った。

「何を、知ってるんだ、コニー?」

それを反省と受け取ってやることにして、とりあえず、カスパーは、簡単に動揺をあらわにするサブリーダーのことには、気付かなかった振りをした。

「……そう、そうだ。デミアとゲープのことだ」

カップに口をつけて先ほどの続きを促せば、ほっと息を吐き出しそうなほどの顔をしているくせに、コニーは、カスパーよりも先にクッションを退け、ソファーへと腰を下ろした。自分が先に座って、まるで許可を与えるかのように、カスパーにも座れと促す。まだ、しばらくの間、この苛つかされるようなコニーの態度に付き合わなければならないのも、いつものことだ。人の都合など無視したかのように強引に来訪し、コニーは傍若無人を装おうが、それが家人の気に障ることも知っているから、さらに強引に自分の居場所をこの部屋に確保しようと躍起になる。

「デミアが欝屈してるようだったから、つついてやったら、面白いことがわかったんだ」

この話題がどのくらい4番隊員の気を引くことができるのかを計る落ち着きのない目をして話を進めている。

「ゲープが転がり込んで以来、あいつらがそういう仲っぽいのは気づいてただろう、お前も?」

カスパーは、コニーの存在を受け入れてやりさえすれば、この空回りが終わることも知っていた。

だが、あえてそうはしない。カスパーにとって、殆どの場合、このきれいな男は、部屋にまで来てほしくない存在だ。

「あの二人、出来上がったんだがな。デミアのことだ、もっと手放しで幸せそうな顔になるか思ったら……」

意地の悪いくすくす笑いを上品にコニーは隠した。カスパーは相変わらず、仲のいい2番と3番だと思いながら、ゆっくりコニーの向かいに腰を下ろす。

「ゲープが転がり込んで4か月だよな? なのに、やったのは、3回だけだってさ。ゲープはまるっきり男は初めてで、やろうとすると、すごく時間がかかる上に」

するとコニーがカップを置いて、立ち上がった。顔の強張りを無視すれば、まるで計算されたかのように額に落ちた髪の量といい、やはりコニーは色気のある男だ。

「どれだけゲープが苛立ってやれって言っても、デミアは絶対にゲープに怪我させるようなセックスはしたくないって。おかげで、あいつら近頃険悪なんだ」

膝にのしかかるコニーを、カスパーは見上げる。

「ちょっと笑えるだろう?」

こんな態度を取っているくせに、臆病過ぎて、コニーの緑の目は、カスパーの表情から現在の状況がどれほど不利かを推し量ることがやめられない。緑の目は、揺れている。それでも、気だけは強いこのサブリーダーは、カスパーへと顔を寄せてきた。唇が頬に落ちてから、カスパーは緩くコニーを押しとどめる。

「いい話じゃないか」

コニーの目に険が浮かんだ。

「そうか? まぁ、……4年で一回なんていう俺達よりも、ずっと回数だって多いしな」

 

コニーが時々あげつらうように持ち出す一回とは、もう4年も前の話だ。

4年前に、顔のきれいなこの本隊員は訓練生だったカスパーの前に、講師の補佐として現れた。

場違いなコニーの容貌に、部屋の中が色めきたったのをカスパーは覚えている。お上品な顔をして、コニーが恐ろしく尻軽だったことも。

しかし、まさか、30名を超す訓練生の中から、コニーが自分を選ぶとは思わず、そのきれいな顔に誘いかけられた時には、嬉しかったのも確かだ。

 

「先輩から、ちょっかいを掛けられる奴は、受かるってジンクスを信じるか?」

「……今、作ったのか?」

「ん?……、いいな、それ。粉をかけて、これほどうれしそうな顔をしない奴も初めてで、結構いい感じだ」

 

しかし、コニーにとってそれは、全くの味見であったようで、偶然にもコニーの属するチーム50にカスパーが配属されても、この男はちらりとも二人の間に関係があったことを匂わせなかった。

それは、まだ実力の伴わない新人でしかないカスパーにとっても都合のいいことだったから、二人はただのチームメイトとして、一から関係を築きなおしていったのだ。それなのに、カスパーが本隊員なった2年目あたりから、態度がおかしくなった。

「カスパー、誘ってるのに、どうしてそんなに嫌そうな顔をするんだ?」

やたらとカスパーの仕事の仕方へと口を差し挟むようになり、意地の悪いその態度は、チームのリーダーであるゲープをイラつかせたほどだ。そして、今は事あるごとに口説いてくる。

「コニー、その話は、もう何度かしただろ」

何度も断られた誘いを、またも撥ねつけられ、プライドの高いコニーの唇は震えた。

嫌な顔をしているつもりはカスパーにはないのだ。コニーに誘われるのは、嫌ではない。ただ、応えられないから迷惑ではある。

 

カスパーの膝に乗り上げるきれいな男は、髪をかきあげるしぐさで人を魅了しながら、ごくりと息を飲んだ。

「カスパー、お前が、別れたって聞いた」

 

それが、コニーの強引な来訪の訳だというわけだ。

「だから?」

「……だから、前にお前が言った理由はもう通用しない」

「別れたわけじゃない。……たぶん一年ほど、帰ってこないだけで」

気をつけているつもりなのに、ばれていくプライベートに、長いまつ毛に縁取られた緑の目をカスパーは見上げた。コニーの顔は強張ったままだ。

「相手が軍族のエリートっていう噂は、本当か……?」

「知ってどうするんだ、コニー?」

「派兵中というなら、その間に寝取る」

 

覆いかぶさるようにして強引にキスしてくるコニーを、カスパーは受け止めていた。キスだけは何度もされたことがあるが、饒舌なコニーのキスは、カスパーも好きだ。せわしなく何度も重なる唇は、やわらかさで巧みに官能をくすぐり、そのうち濡れた口内を開いて誘いかけてくる。

つい、カスパーもコニーの首へと手を伸ばし、引き寄せたくなる。

「決意はありがたいんだが、……コニー」

しかし、本隊入隊後の一年に、言いよりもしなかったことで、意地になっているだけの相手と寝たところで、その後が続くはずのないことなど、誰にだってわかることだ。

コニーは手を緩めず、キスを続けてくる。

「……この俺が、浮気相手として、お前と寝てやるって言ってるんだぞ」

 

「何をそんなに勿体ぶるんだ! お前、最初はもっと簡単に俺と寝ただろ!」

際どい駆け引きは、とうとうけんか腰のやりとりへと発展し、その最中にも苛立った顔のコニーが、槍玉に挙げたことだが、確かに、カスパーの倫理感が薄いというのは、本当だ。

「カスパー、お前、もう、いい加減にしろ!  ちょっと無視してやったのがそんなに気に入らないのか。俺はお前が俺のこと好きだと思ってることを知ってるぞ」

今の相手とは、一年となぜか長く続いているが、大抵はもっと短く、しかも付き合っている最中にでも、好みの相手がいれば、手をのばしてみることが多い。

ただ、コニーにだけは、手を出さなかったのは、コニーの言うとおり、カスパーが、ずっとコニーを好きだったからだ。

「いい奴のような顔して、チーム1最悪な奴だな、お前!」

現在の相手とできなくなってひと月だ。誘われて断る理由は全くない。

「寝ろよ! どんなにお粗末なセックスでも、付き合ってやるって言ってるんだ」

カスパーは、もう、言いあいが面倒になっていた。

 

「コニー、手の位置が下がってきている」

カスパーは、屈辱に頬をこわばらせるコニーの顔に、自分が興奮することをあきらめていた。

「コニー」

ぴしゃりと短く名前を呼べば、コニーの手がびくりと上がる。

コニーは、白い自分のシャツを、顔を強張らしたまま、持ち上げている。

下半身に何も身につけず、ベッドサイドで言いつけられたようシャツの裾を持たされ立たされた、こんな格好のままするセックスなど、コニーの予想の範疇にはなかったはずだ。しかし、こういうのが、カスパーのセックスだ。

リラックスしてベッドの端に腰掛けるカスパーは、ちゃんと元通りの姿勢が取れたコニーの腰を引き寄せた。

かわいそうにコニーは、始まってしまえば、言い出した以上、こんなのは嫌だと逃げ出すことができないだけのプライド持ち合わせている。

カスパーは、腕に抱いても、視線の定まらないままのコニーの顔を堪能し、下腹部へと視線を移すと、挑発する最中には興奮をきざしていたはずなのに、今はすっかり萎えてしまっているものへと手を触れた。

「カスパー……」

頼りない声の呼び掛けに、カスパーは顔を上げ、笑顔を返した。しかし、なにもかも、自分の言うとおりにするという約束があるから、笑顔を返すだけで縋るようなコニーの目は無視したまま、力なく金の陰毛に埋まるものを後ろの袋ごと掴んで揉み込む。

身を屈めたコニーがなんとか自分のペースに持ち込もうとキスを求めてくるのをかわし、決して唇を与えたりしない。

「コニー、ちゃんとできないなら、しない」

自ら晒す、落ち着かない白い腹は、この馬鹿馬鹿しい状況に納得できず、何度もコニーが浅く吐く息に隆起を繰り返した。

カスパーは、コニーの下腹にいくつかキスし、萎えたペニスを口に含んだ。舌を伸ばして、舐めまわしても、それほど大きくならないことに、コニーの動揺の度合が読み取れ、カスパーには心地いい。

自分でシャツを持ち上げたまま、立たされているコニーは、何度も、ベッドとの間で視線をさまよわせている。なぜ、自分があそこに行けないのかわからないのだ。すぐシャツを持ち上げる角度の下がる腕をカスパーが掴むと、コニーの眉がつらそうに歪む。

「コニー、やめるか? この程度のこともできないんじゃ、つまらない」

 

カスパーは、開かせたコニーの股の間に腕を潜らせた。足には力が入り過ぎ、震えている。

立たせたままのコニーを見上げ、力の入った尻の肉を開いていく。

窪んだ小さな穴はすぐ見つかった。

そこを指先で撫で、コニーの表情を見守る。

まるで予想になかった異常な現状を受け入れかねて、楽しむどころか、色を無くし固く結ばれた唇にそそられるのだと言ったら、コニーの目はどんな色になるのか。とうとう見切りをつけるかもしれない。

しかし、それもいいかと諦めてしまってもいいほど、カスパーは、コニーの様子に満足していた。

ぎゅっと力の入ったままの窪みに、舐めた指をねじ込んでいけば、蹂躙されることを嫌がる肉壁が、ねとりと熱く指を絞めつけ、拒もうと必死だ。

カスパーの性向は、こっちなのだ。ただし、普段は、怖がりながらも、そうして欲しくてたまらない相手を満たしてやるのに、興奮する。好んで虐げはしない。

けれど、コニーと寝たならば、きっとこうなるとカスパーは思っていた。

ベッドサイドで立たされ、体の中に含まされる他人の指の存在に、コニーの目は、いたたまれないかのように慌ただしく動いている。

コンスタンティン・フォン・ブレンドープ伯爵様辱めることに、きっと自分は激しく興奮するだろうと。

カスパーは、小さなままのコニーのペニスを口に含んで、吸い上げながら、突きたてた指を緩く動かし始めた。

直接的な刺激を受け続ければ、コニーのものも大きくなる。

違和感に、落ち着かないままコニーの息が、それでも少し熱っぽくなってきた。

 

ゴムにジェル。カスパーは取り出したものは普通のセックスでも使うものだが、ベッドに転がるコニーは、それを疑い深くじっと見続けている。

わずかの間に、ずいぶん学習したコニーに、カスパーは愛しさを感じた。

居心地悪いだけだろうベッドの金髪の解けない緊張をほめてやりたくて、カスパーはコニーの上に覆いかぶさると、額にかかった柔らかな髪を撫であげ、短くキスをする。

唇が触れあったこの機会をコニーは、もちろん、逃がさなかった。

俊敏に反応し、強引にカスパーの首へと腕をまわし引き寄せると、短く終わるはずだったキスを再開させた。

いやらしくも獰猛な顔でしがみついてくるコニーの目に、必死ささえなければ、それは、4年前にも見たことのある彼の顔だ。熱っぽく舌を絡ませてくるコニーに応えてやりながら、カスパーは、金髪の気が済むのを待った。

ぴちゃりと音を立てて唇を離す金髪は、懸命にカスパーの表情を窺っている。

「もう、いいか、コニー?」

落胆するコニーの顔が可愛らしい。

カスパーは、さっきまでコニーがひどく気にしていたジェルのボトルを手に取った。開かせた足の間に回り込み、両足を肩へと担ぎあげてしまう。

「あの、……カスパー」

カスパーは、コニーの声を無視して、入口付近にジェルを塗りつけた。

縁が濡れて、ボトルの先を突っ込むことに支障がなくなれば、ボトルごと傾けて、コニーの中へと流し込む。

大人しく引きさがろうとしていたコニーが慌てた。

「カスパー、お前っ、どれだけ!」

どれだけかと問われれば、答えは全部だ。

-逃げようとする腰を引きずり寄せた。入った量が増えていけば、シーツよりもコニーの顔色の方が白くなる。

わずかだが、膨れた腹がかわいらしかった。

下半身には酷く力が入り、足などかちこちだ。

コニーは、懸命に胸で浅い息を繰り返している。

すべてをコニーの中へと流し込んだカスパーは、満足げにコニーの顔を覗き込んだ。

「苦しいか?」

「……お前っ!」

声を出したことで、コニーの中からジェルが溢れ出す。濡れた感触は、コニーを脅えさせ、目を泳がせた。

カスパーは、なめらかなコニーの腹を撫でてやる。

「少し入れ過ぎたな。出すか?」

そっと押しただけだが、中身は溢れ出た。

度重なる粗相のため、身の置き所がなさそうなほど、コニーは真っ赤だ。

「どうした?」

カスパーはあふれ出た個所の被害を確認するかのように、尻を撫でながら、そこをしげしげとのぞき込んだ。少し漏らした程度ではまだ、詰められたものはたっぷりと中に残り、肛口は盛り上がりをみせている。

膝の上に、力の入った尻を乗せてしまうと、あふれたジェル存在を思い知らせるように、表面を指でなぞった。それは尻の山にまで伝っている。

 

コニーは出したくてたまらない。

その欲求に逆らって尻を振り、わざわざ刺激を与えるように触っているカスパーの指を避けようとしている。

「いや、だ。いやなんだ。やめろ。カスパー」

端正な顔がゆがんでいる。

「出せばいい」

「そんなの、できないっ」

 

だが、どれだけも耐えられるはずはないのだ。

 

固く震えるコニーの体をこんなときばかり、優しくカスパーは撫で、腰にもいくつもキスをしてやった。

おびえる緑の目を眺めるのは楽しかった。

必死に力をいれ握られた指をほどいてその指先にも口付けた。

コニーはつま先にまで力を入れて、懸命に耐えている。

しかし、目には涙が浮かぶ。

さっきから、酷く唇が震え、こわばった四肢がひくつき、そのたび、少しずつ、中身が溢れ出す。

 

「っう……う……ん……うっ」

 

酷い音は、コニーがたっぷりと聞いたはずだから、カスパーは聞かなかったことにしてやった。

あまりのことに眼尻から涙をこぼしたまま、コニーは自分を取り繕うこともできずにいる。

溢れ出たジェルは大量で、尻の谷間に溜まる惨状だ。

覆いかぶさったカスパーは涙で濡れる頬へとキスをしながら、ぬらぬらと濡れるそこに、ペニスを押し当てた。

「やめろっ!」

緑の目には本物の怯えが浮かんだ。

コニーは腕を突き出しカスパーを押しのけようとする。

「だめだ。コニー」

その体を抱き込むようにして、すべりのいい狭い場所をこじ開けていく。

「セックスするんだろう?」

 

こんな無様な目にあわされたセックスにすら、きれいな顔を歪ませてコニーがいった時、カスパーはぞくぞくした。

 

 

カスパーは、くしゃくしゃになったコニーの髪を撫でていた。

「……カスパー……」

コニーは体を拭う間も、一度もカスパーと目を合わせていない。

 

「…………覚えてろ」

 

カスパーは、頷いた。

 

END

気持の悪い感じの話ですみません。