ラブラブ

 

人気の絶えたロッカールームで、デミアは、ゲープの背後に立った。まだ腰にタオルを巻いただけのゲープの腹へと手を回し、腕の中へと閉じ込める。チームの隊員が隊長であるゲープを抱きながらペタリと頬をくっつけるようにして肩へと顎を乗せても、ゲープは何も言わなかった。デミアの体の正面は、タオルで隠した尻以外、肌を晒したままのゲープの背中にぺたりと合わさっている。危険の多い職業だけに、仕事をあがればハイになり、裸の男たちがべたべたと仲間の体を触りあっては、筋肉のつき具合を褒めあうような馬鹿ばかしい光景も良く見られるロッカールームだが、それでも二人の密着ぶりは異常だ。

デミアは、腕の中に囲い込んだゲープの柔らかい腹の肉を手のひらでそっと押すようにして感触を確かめ、満足そうな表情だ。

すると、デミアの顔に浮かんだ笑みが気に障ったらしいゲープは腹筋に力を入れ、腹を引っ込め、デミアをじろりと睨む。

だが、その顔すらたまらないと、またデミアがにやつく。

「ゲープ」

デミアの唇が軽く突き出され、さすがにゲープは少し躊躇したように、危険を探して室内にさっと視線を走らせたが、チェックが終わるよりも前に、デミアが不満そうな表情を隠さず小さく肩を竦めると、ゲープは悪かったというようなすこし気まずげな笑みを浮かべて、軽く唇を合わせた。

軽いキスにも、必ず伏せられるゲープの瞼が好きだとデミアは思う。

「俺が、誰かを見落としてゲープを危機に陥れると思ってるのか?」

それでも、デミアは憎まれ口を利いた。

至近距離でじっと見られるのが照れくさいのか、乱暴にゲープはデミアを押しやる。

「さぁ、着替えるから離れろ。デミア」

「じゃぁ、パンツ、履かせてやろうか? ゲープ?」

 

 

軽口を叩きながら、実のところ、どこまでの接触を今日のゲープが許すかを、慎重に測っていたデミアは、得た感触に満足だった。

打ち合わせのため一人本部に残ったゲープを、デミアは、仲間たちが口々に上がりの声を掛け合いながら帰っていくさまを眺めながら、ロッカールームの固い椅子に腰掛け待っていたのだ。そんな自分を見つけたゲープの顔を見た時に、デミアは今日が幸いな締めくくりを迎えられるだろう確信を得た。

ゲープは、驚きながらも、すこし擽ったそうな顔でデミアを見た。そして、声もかけずに、手早く訓練着を脱ぐと、貴重品をロッカーに仕舞い、そのままシャワーブースに消えた。約束もなしに、デミアが待っていたというのに、どうしたとも聞かずゲープが消えたのは、デミアが待っていた理由を、ゲープが理解していたせいだ。

「なぁ、もうちょっと色気のある下着を履けよ」

タオル一枚でかがみ込み、ボクサーショーツに足を通そうとしているゲープの無防備な後姿にニヤつきながら、デミアは言う。

「はぁ?」

「あ、でも俺、ゲープなら、ノーパンってのもいいな」

馬鹿馬鹿しくじゃれかかる言葉に、いちいちゲープは眉をひそめていた。

特に望んだわけでもないが、いい具合に色のあせたジーンズを尻までひっぱり上げたゲープが、Tシャツを頭から被り、もがくようにして顔を出す。

「下着がないのは落ち着かないから、嫌だ」

ゲープは眉間に皺を寄せたまま、まだデミアに何かを言おうと口を開きかけていた。

デミアはそろそろ言うべき言葉を言うつもりだった。

「アホなこと言ってないで、帰ろう。だろ? な、ゲープ、よかったら、俺んちで少し飲まないか?」

 

 

酒は、ゲープにとっていい隠れ蓑だった。ロッカールームでさえ、デミアのキスを受け入れたゲープが、酒以上のことを期待してデミアの部屋を訪れているのは明白だったが、妻帯者であり、しかも二児の父であるゲープが隊員から酒以上の特別なもてなしを期待していることを、いつもデミアははっきりさせようとはしなかった。

デミアは家までゲープを連れ帰っても、いつだってすぐには手を伸ばさない。言葉通り、まず酒を用意し、そして、向かい合うというより、正面から僅かに位置をずらし、仲のいい友人の距離をとってゲープの前に座る。だが、今日、デミアは、座り心地のいい一人掛けのソファーをゲープに譲り、自分はダイニングから引き摺ってきた椅子を隣に並べると、一緒になってサッカーのゲームを眺めた。ただし、昼間に行われたこの試合の勝敗はもう夕方のニュースで流れた後で、しかも、しのぎを削りあっている両チームのファンは残念ながらこの部屋には居ない。

ぼんやりとした表情で酒を舐めながら、ゲープはボールの行方を追っている。ゴール間近で選手同士がファールすれすれのプレーでボールを奪い合えば、ゲープがグラスを傾けるペースも落ちるが、そうでなければ、唇は酒で濡れている時間の方が長い。

「なぁ」

興味の薄いゲームが退屈だったのか、いつもより、ゲープの呼びかけが早かった。

呼びかけに、具体的な誘い文句がついたことは一度も無かったが、デミアは、少し心もとなさげな目をして自分をみつめてくるゲープのサインを見逃したことはなかった。

デミアは、素直に顔へと喜びを浮かべて、ゲープへの距離を縮めた。気が緩むとそうなるのか、少し開いてしまっているゲープの唇に唇を重ねる。最初は、そっと。唇の薄い粘膜をこすり合わせるようにして、何度か柔らかな唇肉を押し付け合い、それから、デミアは、ゲープの耳を慰撫するように顔を包み込んで、開いているゲープの口の中へと舌を滑り込ませる。

「……ん」

鼻から軽く息を漏らしたゲープは、したいから、するへと切り替えるまでに時間が掛かるが、箍さえ外れてしまえば、ケダモノだった。最初だって、結局は肉体的な快感に流されて、ゲープはデミアを受け入れた。

 

デミアは、ゲープとするキスが好きだが、デミア以上に、ゲープはデミアのするキスが好きなようだった。まだゲープの満足のいかない状態で、デミアが重ねた唇を別の場所へ移そうとすると、項をつかまれ引き戻された。

デミアは、ゲープの薄い唇をそっと舐める。そのまま口内の濡れた粘膜へと舌を滑らせていき、待っている舌に舌を絡める。だが、大抵デミアは、ゲープが気のすむ前に、絡んでくるゲープの舌を、軽く押しやり、歯の裏側から続く口蓋を舐め始めた。びくりとゲープが体を震わす。ゲープの舌が、デミアの舌を追って、絡めたいと伸ばされる。

だが、ゲープの感じやすい場所は、舌よりも、薄く張った口内の粘膜だ。そんなこともわからず、懸命にデミアの舌を捕えようとするゲープがあまりにしつこいと、デミアは、キスを続けながら、ゲープの舌を親指で押さえる。

「や、め……」

口の中へと突っ込まれた指の腹で舌を押さえつけられることをゲープは嫌がるが、開いたままの唇からあふれ出した唾液が指へと伝っていく様は、デミアにとってかなりくる光景だ。あまり強く押さえ続け過ぎると、吐き気がゲープを襲う心配もあり、デミアは、惜しいと思いながらも、早々に指にかけた力を緩めるのだが、動かないよう押さえられた舌が、一生懸命指を押し返す動きも悪くないと思っている。

デミアは、力を緩めた指で、ゲープの舌の表面を愛撫する。嫌だと言うくせに、ゲープはこうされると、粘膜を舐められている時と、変わらぬほど感じて、自分から大きく口を開く。

「……っン」

デミアは、もっととせがむ舌をそっと親指の腹で撫でてやり、濡れた唇を舐めながら尋ねる。

「ゲープ。そろそろ、口以外にもキスしてもいいか?」

上気した頬と、盛り上がるジーンズの前が、デミアの提案を拒否はいなかった。

デミアは、開き気味だったゲープの足をさらに大きく開かせて、固い生地を押し上げているジーンズの中の膨らみを手のひらを押し付けるようにして撫でる。

「ゲープ」

十分熱くなっているそこの様子にニヤリとしたデミアが生地ごと揉み込むように撫でまわすと、ゲープは鼻から何度も息を吐き出し、自分の手を重ねようとした。だが、それより先にデミアは内腿へと手を逃がす。

「ん? ゲープ?」

デミアは、不満そうなゲープの目をじっとみつめながら、ジーンズの縫い目に沿って、力を入れて撫で上げていく。開き、突き出され気味の股間に近づくほどに、デミアは撫で上げる速度を落とした。うっすらと汗を浮かべたゲープの顎が上がる。

「ちゃんと、しろっ。デミア!」

 

焦れたゲープが怒るのを楽しむと、デミアはゲープのジーンズの前を開けた。

下着をいやらしい形に押し上げているペニスは、きついジーンズの生地で押さえつけられていることから開放されたことに、素直に喜んでいた。だがまだ、下着からは開放されていない。

一度、デミアは下着の上から、ゲープのペニスを舐め回し、そのままいかせたことがあったが、ゲープにはとても不評だった。もどかしさに悶えるゲープがデミアにはよかったのに、ゲープはそのもどかしさが腹立たしく、射精する頃には半ば本気でデミアに腹を立てていた。

ゲープは、シンプルな快感が好きなのだ。

だから、ゲープは、手で扱かれるよりは、口で咥えられるほうが好きだし、やたらと舌を絡めようとするキスのように、テクニックも至ってシンプルだ。

 

「ゲープ、少し尻を上げろよ」

デミアは、ゲープの開いた両足の間に膝をつくと、白い尻を持ち上げたゲープからジーンズと下着を一緒にずり下ろした。太腿の半ばで止まったそれを乗越え、デミアの顔がぬとりと先の濡れたペニスをそそり立てているゲープの股間に埋まる。

「あっ!」

デミアが熱く湿った口内に大きく傘を広げているゲープのペニスを受け入れると、びくりっと、体全体を震わせたゲープが思わずといった感じに、声を出した。

張り出した亀頭の裏筋をチロチロと舌先で舐めてやると、ゲープの手がデミアの頭へと伸びる。自分を押さえ込んでくるつもりだとわかっていたので、デミアはそれに備えて大きく口を開いた。やはり手はデミアの頭を押さえつけた。デミアは、ゲープの望みどおり、深くペニスを咥えてやる。そのまま口内でこそげるようにして何度かゲープのペニスを擦ってやれば、ゲープは声を殺すため、懸命に歯を噛んでいた。

たっぷりと唾液を溜めた口の中で、硬く、熱いものを舌を使って舐め回す。

舌で、ペニスの先のくぼみに溜まった粘度の高い液体を掬い上げるようにして啜ってやると、少し汗ばんだ太腿には力が入り、ペニス全体がぴくぴくと反応する。

デミアは、自分の頭を掴んでいるゲープの手から逃れるため軽く頭を振ると、ゲープの顔を見上げた。顔は赤い。ゲープはできるだけ快感を長く味わいたいのか、食いしばった歯の間から苦しそうに息を吐き出しながら射精感を堪えている。

「なぁ、ゲープ、胸、見せてくれよ」

デミアはねだった。

眉間に皺を寄せ、ゲープがデミアを睨む。赤くなっている目は、快感のためか、腫れぼったくなっている。

「もっと舐めてやるからさ、ゲープが自分でTシャツ捲って、胸揉んでるとこ見せてくれ」

 

デミアは、ゲープのやわらかい胸を揉んだり、吸ったりするのが好きなのだ。だが、ゲープはそこで感じる自分が嫌なのか、弄られるのを極端に嫌がった。しかし、胸は確実にゲープの性感帯の一つで、デミアは、たまにゲープがそれを自覚できるようになるまで、弄って泣かせてやりたくなって困った。

だがゲープが頑なに触らせないため仕方がなく、デミアは、いつもゲープに頼んだ。俺に触られるのが嫌だったら、せめて自分で触っているところを見せてくれと。

勿論、それほど簡単にこの頼みが聞き入れられることはないのだが、今は、デミアの方が立場が有利だった。

デミアは、ゲープがじっと自分をみつめているのを承知で、ペニスを気持ちよく舐めることのできる舌で、ゲープの先走りに濡れた自分の唇を、わざとらしいほどゆっくりと舐める。たったそれだけの眺めにも、ひくんっと起立を震わせるゲープは、快感に追い詰められ、肩で息をしている。デミアは、手の中にある柔らかな陰嚢を軽く弄りながら、もう一度、ゆっくりと舌を動かす。ゲープの喉がごくりと鳴る。

「ほんとは俺が弄りたいんだけどさ、お前、嫌なんだろ?」

デミアは、ゲープがまた先走りで窪みに潤みを溜めたペニスの先を、デミアの唇へと押し付けようと腰を突き出しても、笑顔でのらりくらりと避けた。

「ゲープ、ダメか?」

デミアは、揉んでいた柔らかな陰嚢からさりげなく手を離し、大きく開かれた太腿の上に行儀良く置いて、ゲープを見上げた。

「くそっ!」

ゲープは唸ると、シャツの裾へと手をかけた。浮かんだ汗で薄く生えた胸毛を貼り付けた胸の上までひっぱり上げると、片方の手でTシャツを押さえたまま、もう片手で、自分の乳首を押し出すようにして胸肉を掴む。生まれつきの性質だろうが、男のくせにきめの細かなゲープの白い肌は、柔らかそうでいかにもさわり心地のいいように見え、デミアはゲープの手によって盛り上がった胸の先にある尖った乳首に思い切り吸い付きたかった。自分で胸を揉みしだく親友の姿のいやらしさに煽られながらも、約束を守るため、デミアはゲープのペニスを口に含む。

「……あッ!」

声を漏らしたゲープは、乳首を指先で摘まんだまま、肉付きのいい尻とは対照的に良く締まった腰を捩ってデミアに快感を訴えた。

尖った乳首がゲープの指で潰れている。

「ゲープ。お前、すげぇ、いやらしい」

丸出しの尻をソファーの生地でもぞもぞと擦り、もっとと快感を請求するゲープのために、デミアは、やわらかな太腿の上で遊ばせていた手にも仕事を与えた。先走りや、デミアの口から漏れ出た唾液で所々濡れる陰茎を揉まれ、ゲープは大きく口を開ける。

「ぁ、っ、……っァ」

ぐらぐらと揺れるゲープの体は、時々デミアの上へと倒れ込んできて、はぁっ、はっ、と、吐き出される湿った息が、デミアの項にかかった。だが、まだゲープは約束を守っている。

自分で胸を揉み、尖らせた乳首を弄りながらゲープが口を開く。

「……ンっ、デミア、……もう、でる」

ソファーの生地へとやわらかな白い尻を押し付け、着ているTシャツを自分で捲り上げて胸を晒すゲープの姿は、デミアの股間を熱く滾らせる。デミアは、つられて上がってゆく自分の息を努めて押さえながら、大きく口を開いた。

「出せよ、ゲープ。一回目のは、飲んでやるから」

「ッは! デミアっ!……ッン、アっ、ア!」

避ける暇はなかった。

デミアが、了承の言葉を言い終わるより早く、ゲープは出してしまった。

ゲープの精液は、デミアの口には納まらず、デミアの顔を汚す。

「……ゲープ!」

 

ゲープは気まずそうな顔をしたもの、広げた足も弛緩したまま、射精後のけだるげな快感に身を任せていた。

大きく息を吐き出し、満足そうに口を開けっぱなしにするゲープをTシャツの首元までも精液で汚したデミアは睨んだ。

「お前は、全く……」

デミアは、むっと唇を突き出したまま、立ち上がった。顔にかけられた精液を大雑把に手の甲で拭いとっただけで、ゲープにキスを強要する。

ゲープは、一瞬、顔を背けたが、悪いと思っているのかキスを受け入れた。それだけで、デミアの気持ちは切り替わる。

「ゴム、取ってくる。ゲープ、続き、まだするだろ?」

 

デミアが顔を洗って、ゴムを手に戻ってみると、ゲープは太腿に絡んだままだったジーンズが鬱陶しかったのか脱いでしまっていた。Tシャツだけを身につけて下半身は裸という、いかにもずぼらな姿でソファーに座り、先ほどのサッカーゲームの続きを見ている。

一度出したゲープのものは、股の間にうなだれていた。それでも平常時に比べればまだ大きい。行為の続きに興奮を感じているらしいゲープの太腿へとデミアはゴムのパッケージを落とす。

「そのソファは、俺のお気に入りなんだ。汚すなよ。ゲープ」

だがもう、ソファーは、汗を浮かべた白い尻を始終もぞもぞさせていたゲープの匂いを、布の表面へとしっかりと染み込ませているだろう。

隊員に口うるさいことを言われても、ゲープはすこし疲れたようなものうげな、色気のある顔でデミアを見上げただけで、格別文句も言わなかった。自分のペニスを手に握ると、軽く扱いて、ゴムを被せる。

デミアも、それに習う。

「なぁ、試合、どこまで進んだ?」

ジーンズを脱ぎ落としたデミアは、ソファーに座る隊長に覆いかぶさるようにしてキスをし、白いその足に触った。

「なぁ、ゲープ、ここじゃ少し窮屈かもしれないが、このまま足を持ち上げて入れてやろうか?」

日常的に厳しい訓練を積んでいる男たちには、柔軟な体を持ち合わせているため、維持出来ないという体勢は少ない。デミアは、膝裏を掬って、ゲープの足を持ち上げると、肉付きのいい白い体を、ソファーの背へと屈曲させていく。

デミアが足を持ち上げ、大きな尻がソファーから浮き上がるにしたがって、ソファーの背に体を滑らせ、協力するように体を丸めたゲープだったが、嫌だと首を振る。

「どうして?」

掴んだ締まった足首にチュっとキスをしたデミアは、自分の体の幅までゲープの足を大きく開かせ、その間から顔を覗かせた。

「窮屈なのは、嫌いだ」

大きく割られた足を腹に付く程押し付けられながら、はっきりとゲープは拒否した。

「……はいはい」

その窮屈さに苦しそうにしながら、喘ぐゲープがデミアは見たかったのだが、不機嫌に閉じられたゲープの口の形に、デミアは諦め良くゲープの足を放した。デミアはまず多くの場面でゲープの要求を呑む。

足を離されると、身を起こしたゲープは自分でTシャツを脱いだ。デミアが手伝おうと手を伸ばすと、首を抜いたゲープがキスのために唇を開ける。

「……ンっ」

抱き合ったゲープの腰を撫でながら、デミアはゲープの肉付きのいい白い尻を掴んだ。柔らかな肉をのせる体を撫でながらするキスを続けたまま、デミアはゴムのほかにもう一つ取ってきたセックス用のジェルを手探りで床へと脱ぎ捨てたジーンズの尻ポケットから引っ張り出す。

ゲープを抱きしめたまま、デミアは指をジェルでたっぷりと濡らした。

濡れた指を恋人の尻の穴の周辺へと近づけ、あわいで、ぬめりをマッサージするように塗り広げる。きゅっと締まった肛口の皺付近では、特に、デミアは指に力をいれないようにして、優しく丹念に指で撫でていった。もう何度もしたアナルセックスだが、それでも久しぶりの行為に対する緊張をみせ、少し力の入っていたゲープの体が、いつもと同じように強引に犯すような真似をしないデミアのやり方に、徐々に体の力を抜いてゆく。

デミアは、あやすようなキスでゲープの口内に淡い快感を与えながら、今までよりは少し指先に力を入れて、肛口の入り口を押す。

「いいか?……ゲープ?」

デミアはゲープの目を覗き込むと、頬を緩めて笑って見せた。抱いているゲープの腰に一瞬力が入ったが、ゲープは大丈夫だと頷いた。

デミアは、片手でゲープの尻の肉を開き、濡れた指をゲープの中へと埋めていく。熱い肉がきゅっと力を入れて、デミアの侵入を拒もうとする。デミアは、焦らず、ゲープの少しふくれた腹が何度か息をするのを見守った。ゲープが落ち着くのを待ち、またデミアはゆっくりと指を動かし始める。

「っあ……」

ゲープが小さな声を含ませた息を吐き出した。

しかし、ゲープの体を腕の中に抱きこんだままの作業だから、指はそれほど奥まで触れることができない。あいかわらず締め付けのきつい入り口の肉輪の具合を、丹念にほぐしてやりながら、指を動かしていると、ゲープがデミアの首へと腕を回した。それでなくとも、中のうねりは、嫌でもデミアに期待させていた。

「なぁ、……デミア」

ゲープはまるで甘えるように頬を擦り合わせる。

それは、かなりの誘惑だったが、デミアは自制した。

「まだ、もうちょっとだな。このまま入れたら、ゲープ、お前、後で俺に怒りたくなるぜ?」

「そうか? いつも、……っお前と、するのは悪くないが」

「それは、俺が、努力してるからだよ」

デミアは、湿り蠢く肉壁の中へ、ゲープの表情に注意しながら、二本目の指を挿入する。

ゲープは青い目で天井を見上げながら、睫を震わせた。

デミアが特に、緩めておきたかったのは、きつく締まるゲープの肛穴の浅い部分だったが、それでも、抱き合ったこの体勢では、自分が納得できるほど、そこを解すことは不可能だった。仕方なく、デミアは一旦指を引き抜く。

ゲープの手を取り、背中を向けさせると、床に膝を付かせ、ソファーに上半身を伏せさせる。

「なぁ、職場のシャワールームで尻の中をきれいにするのって、どんな感じなんだ?」

中から引き抜いた指に、全く汚れがないことに気づいたデミアは、ゲープの背に覆いかぶさりながら、からかった。

ぱっと耳を赤く染めたゲープの肘がデミアの腹を狙った。

勿論、そういう反撃をくらうだろうことは予想してのからかいだったから、デミアは、肘を受け止め、ゲープの項を噛む。

「項が赤いのが、すごく色っぽい。……好きなんだ。ゲープ。お前が好きだ。ゲープ」

デミアは、眦を赤くなり色気の増したゲープの目が、これ以上自分を睨み、煽らないよう、素早く盛り上がった白い尻のあわいへと指をねじ込んだ。二本の指を抜き差ししてやると、ゲープはソファーのクッションへと顔を埋め、声を殺そうとする。

デミアは、緩急をつけた抜き差しで、熱く湿った肉を開いては、ジェルを追加していく。ゲープの尻穴付近に生える薄い毛がべったりと濡れている。

 

「デミア、デ、ミア、……お前、いつまで」

「いつまでって、本当はお前の準備が出来るまでのつもりだったんだがな」

デミアは、汗を浮かべているゲープの背中にキスをした。ゲープのペニスは、中からの刺激でもうすっかり固くなり、ゲープは固く握った拳を枕にするように、ソファーへと顔を埋め、息を喘がせながら込み上げる性感に堪えるように、時々腰に力を入れていた。

「なんか、お前がさ、俺の指だけでもかなりいいみたいだから」

デミアは、ぬるぬるになったゲープの中で、指の位置を替え、そこだけふっくらと盛り上がった前立腺にそうっと力を加えた。ゲープの腰はガクガクと動く。強く歯を食いしばっている。

「ダメ、だっ! デミア、出るっ!! やめ、ろっ!」

出しはしなかったものの、ゲープの体は小さく痙攣し続けている。

「なぁ、ゲープ。こっち向け」

デミアは、指の力を抜き、癒すようにその部分を撫でやる。

すっかり潤んだゲープの目が、デミアを振り返った。

 

 

太く重量のあるデミアのものがゲープの肛口を突き破り、じわじわと肉壁を押し開きながら、中を侵略し始めると、それだけで、ゲープには強い射精感が込み上げた。一度デミアの口に出しているせいで、耐えられるだけで、重苦しい程の重量で中に押し入り、ぐいぐいと快感を押し付けてくるデミアのペニスに、ゲープはもうきわどいところまで追い詰められている。

「……い、いっ……」

ゲープの声は擦れていた。

「だろ?」

「いいっ、……イ、ぃっ……デミア、」

デミアの手はゲープの締まった腰を掴んで動き回る大きな尻を押さえつけると、強く揺さぶる。ねっとりと湿る肉の中に硬いデミアのペニスが早く、何度も押し入り、腹の底が、燃えるほどに熱く感じて、ゲープは必死に自分の腕を噛んだ。それでも、声が漏れる。

「ン、ん、アっ!」

「ゲープ。お前、すごく、いい、大好きだ。くそっ、好きなんだよ。悪ィ、悪い。ゲープ」

わめき始めたゲープは、もう大分、頭が飛んでいるはずだと、デミアは、ゲープの大きな尻の肉の奥深くまでずぶりと腰を打ちつけながら、謝罪と、愛の言葉を繰り返す。

「いい! そこ、デミアっ、あ、……アっ」

「好きだ。ゲープ。好きなんだ。ゲープ。すまない。ゲープ」

 

囁かれる告白はゲープにも聞こえていた。

だが、ゲープは返事を返せない。

「あ、あ、アっ!」

デミアに肩を噛まれ、ゲープの腰はびくびくと跳ねた。

ゲープには、デミアへと答えを返す権利などない。

 

デミアは、あけすけに好きだと言う時もあるし、ゲープにセックスだって求めるが、ゲープは一度だってデミアから何かの確約を求められたことがなかった。

勿論、家庭のあるゲープには、デミアに何かを与えることなどできはしないかったから、デミアはわざとゲープに何の重圧も加えないのだろうが、そうされるたび、ゲープは、自分がデミアから何を望まれているのかわからなくなり苦い。

「……アっ、ソコ、いい、! デ、ミア!」

内側から強い振動を与えられ、口から零れていくよだれさえも拭うことができないゲープは、どろどろに溶けてしまいそうだった。

「んっ、ん、ン、ん」

体の相性がいいのか、デミアが与えてくれる快感は特にゲープに強い興奮を与え、ゲープの方からこれを切ることなど、よほどの何かがなければ無理だった。

「わかった。ゲープ。そんなに締めるな。ここだろ? もっとここばっか、擦って欲しいか?」

だが、デミアは、決してゲープに決断を求めず、問題は起こらない。

 

デミアのペニスは、ゲープの望みどおりの位置を抉るのに、デミアの手は、ゲープのペニスを握り、ゲープの中で込み上げ、はけ口を求めて暴れまわる性感を阻害している。

ゲープは、ソファーにすがりつくようにして這いながら、信頼できる親友に後ろから尻をやられ、喜びのあまり、犬のように尻を振った。握られた手の中で、僅かにでもペニスを動かしたくて、ゲープは懸命に腰を動かす。

「出る。っ出したい!出したいんだ。デミアっ!」

「デミア、頼む。お願いだ。デミア。頼むから、いかせてくれ」

「デミアっ! なぁ、デミア、なぁ、……あ、ア、あっ! イイっ、いいっ!!」

懸命にゲープが求めれば、デミアは、もうゲープが射精するのを邪魔しはしない。

ゲープは嵌められたままの太いペニスをぎゅうぎゅうと締め上げながら、射精する。

「……アっ! ……ア! ア!!」

 

 

射精を遂げた安堵感のあまり開きっぱなしになっていたゲープの口の端からは、よだれが垂れていた。

「キスしてくれ。ゲープ」

けれど、そんな口にデミアはキスをしたがる。デミアの黒い目が、ゲープを覗き込む。

「悪いな。ゲープ。もうちょっとだけ、付き合ってくれ。もし、お前がもう一度よくなれそうだったら、ちゃんといかせてやるから」

 

 

 

セックスの始まった時間が早かった分、帰宅の準備を始めた時間は、いつだって仕事優先の人間を迎える家族にとって全く問題にもならない時刻だった。

「ゲープ。おやすみ。また来いよ」

ゲープがのろのろと着替えを済ませる間、デミアはそれまでセックスの場所として存在していたソファーに座ってじっとゲープを見ていたが、それも終わると立ち上がり玄関まで見送る。

デミアは、薄く笑うだけで引き止めはしない。

だから、ゲープは帰る。靴の紐を直しながら、ゲープは言う。

「下半身がだるい。加減しろ。デミア」

「でも、気持ちよかったろ、ゲープ?」

デミアは声に笑いさえ含ませる。

立ち上がったゲープはドアノブに手をかけて振り向いた。

「おやすみ。デミア。また明日」

「ああ、おやすみ。隊長。気を付けて帰れよ。また明日」

 

 

 

END

 

もっと気持ちよく隊長をあんあん言わせてあげたいです(号泣)