確かに、ちょっと下心はあった。別居生活も長くなり、最初はその気すらすっかり失せていた物も、ぞわぞわと落ち着きない気持ちなる機会が幾度かあって、ああ、そういえば、すっかり春なんだなと、訓練施設の中を重い装備のまま走りながら咲く花に気づくと、ゲープはそんな動物的な自分に小さく苦笑したのだ。
デミアは好きだったし、別居後の転がり込み先としてすら使える気安い関係は、たぶん、それを許すと思った。
デミアは、自分を好きだとすら言ったことがある。
シャワーを浴び終え、先にベッドでくつろいでいると、眠そうな顔をしてデミアが隣に潜り込んできた。
「なぁ、デミア」
あくびをしながら、自分の心地よいように枕を動かす相手に声をかけた。
「ん?」
「……その、少し、しないか?」
気軽に提案するつもりだったが、性的なこととはずいぶんご無沙汰のゲープは、そのことを言いださなければならないというだけで、興奮にアレが少し硬くなってしまっていた。たかが抜き合うだけのはずなのに、自分の鼓動がやたらと早くて、ゲープは何度も不自然な咳払いをする。
しかし、ゲープがそんな自分の動揺を居心地悪く思っていられたのは、ほんの僅かの間のことだった。
ねむそうだったデミアの顔に、不思議そうにした無防備な表情が浮かび、それが瞬く間に怒りへと変わった。
デミアの間抜けな顔を見ながら、もしかしたら、自分の顔が赤くなっているかもしれないと、恥ずかしくなったゲープが片手を頬に伸ばそうかとしているうちに、二人分の布団を剥ぐ勢いで起き上ったデミアに足首を掴まれた。あまりのデミアの勢いに驚くあまり、ゲープがまごまごしていると、短パンを思い切りずり下げられる。
春とは言え、夜半ともなればまだ温度は低い。
股間を冷たい空気に撫でられ、ゲープは焦った。
「お前っっ!!」
確かに、ゲープは抜きたいだけで、キスとかハグとか、そういった行為を期待していたわけではない。だが、足首をつかまれて、まだ蛍光灯も消していない部屋の中で、大きく股を開かれるなんてことも予想外だ。
荒い息を吐き出すデミアに、いやらしくそこを眺められれば、叢の中から中途半端に勃起しているものを見つめられる居たたまれなさで、ゲープの心臓は胸から飛び出しそうだった。
「ゲープ」
低い声を出すデミアは、割開いた足へと力をかけ、胸へと押しつけてくる。押し戻そうとしても、押さえ込んでくるデミアの力本気のもので、チーム50の隊長であるゲープの足でも押し返すことができず、ぷるぷる震えるだけだった。
パジャマ代わりの短パンを押し付けられ、腰を揺するようにして、剥きだしの股間を擦り上げられると、ゲープの顔からは血の気が引いた。
「お前っ、何をっ!?」
きつい目をして睨んでくるデミアのものは、ゲープの比でなく硬い。ごつごつとそれは、完全に勃起している。
「しっ。声が大きいって、隊長さん」
その隊長をがっちりと抑え込んで離さず、ひきつるゲープの頬をデミアの舌が舐める。
「……ゲープ。お前は、さらっと聞き流したけどな、俺はちゃんとお前のことが好きだって言ったよな? お前のここに突っ込みたいってはっきりわかるように言ってあったよな?」
確かにそうなのだが、照れのある感じのいい笑顔で告げられた告白は、ゲープに危機感を抱かせなかった。
しかし、足すら閉じられないまま、肉をつけて丸く盛り上がる大きな尻を揺さぶられる今、ゲープの喉は恐怖で干上がる。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ、お前。あれはな、お前がちょっとしたくなるよりずっと前から、俺はお前としたくてしょうがねぇって言ってんだよ!」
「デミアっ!」
痛いほど足首を掴まれたまま、ペニスをがっちりと握られて、とうとうゲープの喉からは小さく悲鳴が上がった。
デミアの目が恐い。
尻の間に押し付けられ、擦りつけられるものは、あまりにも硬い。
あんなにしたかったというのに、ゲープのものは扱かれてもあまりのことにそれ以上、大きくならならなかった。
それでも、大きく開かされた股の間のものをデミアは放そうとしない。
「……デミア、デミア、……頼むから……」
あまりの恥ずかしさにぎゅっと目を瞑ったゲープの耳に、はぁっと、溜息の音が聞こえた。
掴まれていた足首が離される。
そっとゲープが目を開ければ、デミアが、口元に諦めに似た笑みを浮かべている。
「馬鹿が。反省したか、ゲープ?」
ほっとするあまり、殴ってやろうかと思ったが、先にデミアに引き起こされ、ベッドから放りだされた。
短パンを投げつけてくるデミアの態度は、決然としている。
「抜きたかったら、人を巻き込まずに一人でバスルームに行ってしろ」
ゲープは、急に頼りのない気持ちになった。
「……俺は、お前に、謝るべき……か?」
「ああもう、くそっ! そうだ。悪いのは、ゲープ、お前だ。でも、……酷いことした。悪かった。ゲープ」
デミアの方が先に謝った。
もう伸ばされないのかもしれないと思った手が伸びて、ゲープの手首をつかむと引き寄せる。
「そんな、傷ついた顔すんな。俺が勝手に、お前のこと好きなだけだ。お前がそんな顔する必要なんてない……でも、頼む。キスだけ、キスだけさせろ」
合わさった唇は、むさぼるようにゲープを求めていった。
きつく舌は吸い上げられ、苦しさに開いた口の中へと舌は、荒々しく侵入していく。
自分の口の中にあふれ出た唾液を飲み込む暇さえない。それどころか、息継ぎのタイミングすら見つけ難く、ゲープはデミアの情熱に引き摺られていた。
抱きしめてくる腕は力が強すぎる。
腰に力が入らなくなり、バランスを崩したゲープは手をついた。
運悪くそこは、鉄のように硬くなったデミアのアレの上だった。
手を退けようともがくうちに、デミアのものはビクリと震え、ゲープはキスだけでいった男と見つめ合う。
「……悪いけど、この位、俺はお前に興奮するんだ。襲われたくなかったら、さっさとその中途半端に勃ったものバスルームで抜いて戻って来い。ゲープ」
転げるようにゲープは、バスルームに逃げ込んだが、その10分後には気まずそうな顔をしながらもベッドに戻ってきてデミアを唖然とさせた。
「……いけたのか、ゲープ?」
「ああ、まぁ、……な。寝るか、デミア?」
「ああ、うん」
「じゃぁ、悪いが、電気を消してくれ」
End
お前がわからない