目隠し猿轡、後ろ手縛り、M字開脚。で、写真撮影

 

タオルで、目隠しと猿轡をされ、その両方がきつく顔に食い込んでいる。結束バンドで一まとめに縛られた両腕は後ろで留められ、体のバランスを取るのすら難しい。

膝から下と、胸を突き出すような形で押し付けることでようやく体の安定を保っているゲープは、懸命に目隠しをシーツへと擦り付け、なんとかそれを外そうとしていた。

けれど、痛いほどきつく縛られたそれは、外れるどころか、ずらすことすら難しかった。

尻の間に熱い舌が押し付けられ、ゲープは唸る。

「ん、うっ! ん、ぅうっ、……う!」

だが、地厚のタオルが口から溢れ出る唾液を吸い込むばかりで、きっちりと噛まされた猿轡に、ゲープの言葉はほとんど聞き取れない状態だった。もがき暴れるゲープの動きに、シーツには強く皺が寄っている。

白い肌は怒りにうっすらと赤く、腰の窪みには、汗が吹き出ていた。

そんなゲープの尻を押さえつけ、動きを封じ、盛り上がった白い尻の間で密やかに皺を寄せ窄まっている尻の穴へと熱い舌を押し付けデミアは舐めていた。バンドで留められていてすら、髪を掴んで反撃してやろうと懸命に動くゲープの指に用心して、デミアはたっぷりとしたゲープの尻に顔を埋めている。だが、また無駄にゲープは足をばたつかせ、デミアを蹴ろうとしていた。そのせいで、後ろ手に両手を拘束されたままのゲープの体はバランスを崩して傾ぎ、転がりそうになっている。

ただでさえ拘束され抵抗できないゲープは、体の安定を失い、更に不安になったのか、無理な姿勢で首を曲げ、懸命にバランスを取ろうとしながら、タオルに覆われ見えてもいない目を使って、懸命にデミアを見定めようとしている。

ゲープの顎の辺りに緊張感が漂っていた。

しかし、多分デミアを睨みつけているのだろうゲープのその顔は、見慣れた顔だというのに、目と口元を完全に覆われているせいで、デミアに他人めいた印象を与えた。

デミアが、ゲープの足首を掴んで、元の位置まで大きく足を開かせ直してやると、バンドで両手を背中に拘束されたままの体は一時安定する。

「っぅう!!!……んうぅう!!!」

額に汗を浮かべて必死にゲープが怒鳴っていた。怒鳴っているということはデミアにもわかる。

けれど、言葉の内容はタオルに籠ってデミアの理解を阻んでいた。

多分、嫌だとか、止めろとか、馬鹿野郎だとか、そんなところだと思うのだが、猿轡のせいでデミアには聞き取れない。

デミアは、開かせた尻の間の、頭髪よりも少し色が濃く、そしてカールのある陰毛が隠す肛口の表面に舌で触れた。太腿が、またびくりと強張る。

怒りで体温を上げているゲープのそこは、汗を浮かべ、体臭を濃く匂わせている。

「んうんん!!!!」

ゲープがこれほど怒鳴るのは、怖がっているせいだということを、デミアも感づいてはいた。

太腿を掴み、体の安定を取ってやっているデミアの手の温度だって馴染み、知っているはずなのに、ゲープは怖がっている。

しかし、これは、ゲープの同意のもと、行われたことだった。

デミアは、リラックスした顔で笑うゲープの腕を後ろ手に留め、そしてキスの後、タオルで猿轡をし、茶色い目へと目隠しをしたのだ。

しかし、この行為に、ゲープよりも前に不安を覚えたデミアは、それ以来、苛立たしさから、一度も口を利いていない。

 

勃ちの悪いゲープのペニスは、デミアの舌が肛口をこじ開け、中を抉るようにして舐め始めたせいで少し硬さを増した。

しかし、いつものこうしてやった時に比べれば、断然反応が悪い。

デミアは、指で広げた赤い粘膜の中で舌を動かしながら、緊張に固い太腿を緩やかに撫で上げた。

力の入った足は皮膚の表面が固い。

ゲープは嫌がって首を振る。

「っぅう!……んう!!」

 

それは、デミアが赤い肉壁の中へと埋めた指を唾液で湿らせながら、抜き差しを繰り返しても変わらなかった。

肛口自体、デミアを拒むようにぎゅっと締まり、指の抜き差しは、どれだけ唾液で濡らしてやろうと、なめらかだとは言い難かった。

指で、濡れ蠢く肉壁を探り、いいところを擦ってやっても、ゲープの白い尻は緊張に強張ったまま、本気でデミアから逃れようともがいている。

体の安定を取るためか尻は突き出されたままだったが、いつまで経っても腰のラインは緊張に固いままで、デミアは、ぬめるそこから指を引き抜き、とうとうゲープの名を呼ぶ。

「ゲープ」

 

デミアが声を出した瞬間、ゲープの体はびくりと強張った。

しかし、あれほど緊張し、切迫していたというのに、デミアの声が届いた次の瞬間、ぐったりと弛緩する。

猿轡のせいで、荒い呼吸はそのままだが、緩んだ背中に安堵が見えた。

デミアは、そんなゲープの様子に少し安堵し、掴んでいた尻から手を離し、背中を抱くように覆い被さる。

固さを残す白い肩と、汗の吹き出ている項に唇を押し付け、肌を辿る。

「ゲープ。俺でいいのか?」

拗ねたように言うデミアは、まだ、目隠しと、猿轡で殆どを隠れたゲープの顔に、面影でも探すように丹念に覗きこんだ。

柔らかさのある鼻の形と、顎のラインは間違いなくゲープだ。その顎を振って、何かを訴えながら、ゲープが唸る。

だが、猿轡が阻み、何を言っているのかはわからない。

「目隠ししたがったのは、……俺じゃ嫌だってことじゃねぇの?」

言うデミアは、そんなことを言わなければならないことに重苦しいほど不安になる自分が腹立たしい。

 

正直、びっくりするほど簡単にゲープが受け入れたこの遊びを、最初はデミアだって面白いかもしれないと思った。

だから、欲望に急きたてられるまま、ゲープの腕を後ろ手に一つにし、結束バンドで留めるときには、その肉への食い込みにすら興奮したし、白い頬に猿轡を噛ませたときには、これからどうしてやろうかと、焼け付くような焦りすら感じた。

けれど、タオルでの猿轡を受け入れつつあるゲープがくっきりとした二重の目をあげて、ついでに、目隠しをしてもいいぞ言い出したとき、デミアは興奮を煽られるよりも、違和感を覚えたのだ。だが、その時には、まだデミアですら、自分の感じた違和感を説明するのは難しかった。

その上、浮つき気味の態度で先を急かすゲープは、どうしてそうしたいのかデミアは尋ねるタイミングを掴まさず、鍛えた体への拘束を許すゲープは、間違いなくデミアの欲望を煽っていた。

 

しかし、白いタオルが、茶色い目を閉じて大人しく待つゲープの顔を覆ってしまうと、デミアは、間違いなくそれを嫌だと感じたのだ。

ゲープはふざけるようにデミアの位置を探し、顔をぶつけるようなキスをしてきたが、自分を見ないゲープとするキスは、デミアの胸を痛くした。

しかし、ゲープはリラックスした様子で、まるでこれからのことを期待するようにデミアの痛む胸に凭れ掛かっていて、なぜこんなことをしようとゲープが言い出したのかと、聞く勇気が出ないことを誤魔化すため、デミアは口をつぐんだ。

無言のままデミアは、ゲープの肌へとキスをはじめ、すると、最初はデミアの唇が自分に触れるのをくすぐったがって、シーツの上をもぞもぞと逃げ回っていたゲープが、まるで声を出さないことに、次第に落ち着きをなくしていった。

ゲープは、キスを嫌がってシーツにもがく足で大きな皺を描き、そのくせ、デミアが体を離せば、動転してデミアの体温を探した。

「ん、うっ! ん、ぅうっ、……う!」

多分、ゲープはデミアの返事を待っていた。

けれど、デミアは自分の痛みに囚われていたのだ。

 

 

デミアは、猿轡のせいで苦しい呼吸を強いられ、荒く息を吐くゲープの顔を優しくなぞる。

「ゲープ」

汗に濡れた髪を梳き、デミアはゲープの頭を抱くようにして一番気に障っていた目隠しの結び目を緩めた。

途端にゲープは激しくもがき、目隠しをシーツに擦り付けると、外してしまう。

自分で言い出したくせに、目隠しの下から表れたきつい目は、下睫が涙で濡れている。

「っぅう!……んう!!」

「こっちもちょっと緩めてやるな」

小鼻を何度も膨らませる苦しそうな呼吸の様子に、デミアはゲープの猿轡を緩める。だが、完全に外しては、どれほどゲープが怒鳴りだすか分からず、怒鳴られれば、もしかしたらこのままゲープをベッドに置き去りにしてしまうかもしれないほどには未だ、不安と怒りを抑えきれないデミアは、食い込むほどだったそれを緩めるだけに留めた。

猿轡から解放されぬゲープは、きつくデミアを睨んでいる。

だが、デミアだって、この自分たちには合わなかった遊びのもたらした効果で傷ついていた。

同じ理由で、デミアはゲープの腕を後ろ手に留めた結束バンドも外さなかった。

それでもデミアは、やっと自分を見つめるようになった茶色い目への恋しさに、暴れるゲープの体を何とか起こし、無理やり抱きしめると、額をあわせる。

睨んでくる茶色の目は、怖い思いをさせたデミアを少しも許しておらず、もがくゲープは緩んだ猿轡を何度も噛み、なんとか自由になろうとばかりとしている。

「お前ばっかりじゃなくて、俺も嫌だったんだぞ」

それでも、ゲープの目が自分を見ることに安堵を覚えるデミアは、ゲープの目を覗き込むようにしながら言った。

だが、言葉の足らないそんな説明では、ゲープの怒りは収まるはずもなく、ゲープは、デミアを撥ねつけ、睨んだまま横に首を振った。

 

ゲープは、自分に触れているのが、デミアだとの確信を得た途端、たかが目隠しで味合わされた恐怖への怒りを吐き出さずにはいられなかった。

デミアがひとことも話さず、ゲープは怖かったのだ。

ボタンの掛け違いのような違和感を、最初から、ゲープもデミアの様子から感じてはいたが、けれど、どうすることもできなくて、ゲープはそのまま続けるしかなかった。

しかし、視覚を封じられた状態でするセックスの最中、デミアから感じたのは、突き放したような冷たさだ。

 

誰のために、こんなことを!と怒鳴ってやりたくとも、緩まれたはずの猿轡がなかなか思うように口から外れず、腹立たしさにゲープは、デミアを睨みつける。

「じゃぁ、やめればよかっただろって思ってるな、ゲープ。その顔じゃ」

 

デミアは、自分でも信じられなかったがこのままゲープに睨み続けられては、相手が抵抗できないのをいいことに、自分が手を上げそうな気さえして、ばさりとゲープに上掛けを掛けると、そのままベッドから降りようとした。

しかし、何度も噛むことによって、唾液の染みたタオルは、やっとゲープにある程度の会話を許した。

途端に、怒鳴りつけるようなゲープの声がデミアを打つ。

「デミアっ!」

 

ゲープの怒鳴り声に、奥歯を噛むようにして、苛立ちを押さえ込みながら振り返ったデミアが見たものは、デミアという支えを失い体の安定を得るため、大きくM字足を開いていたゲープだった。

開かれた足の間には、デミアが投げて寄越した上掛けが垂れ下がり、ゲープのペニスをぎりぎりの位置で隠していた。

白い太ももから続く、ゲープのもっともは恥ずかしい場所は、大きく足が開かれているというのに、デミアの視界から見えない。

歯を剥くゲープの顔には、腕さえ使えれば、デミアを殴りつけるだろうほどの苛立ちが浮かんでいようとも、はっきり言って、ゲープのその姿は、思わずデミアに、怒りを忘れさせ、ごくりと唾を飲ませたほどいやらしいかった。

そんな自分の姿をわかっていないゲープは、後ろ手に縛られたままの不安定な自分の体をなんとか支えるため、まだじりじりと足を開いていっている。

口から外れたわけでない猿轡をされたまま、デミアをきつく睨みすえている。

「デミ、ア、こっち、に、来いっ!」

煩わしい猿轡へと癇癪を起こしながら、命令に慣れた口が、瞳の威圧感を強め、またデミアに怒鳴る。

白く肉付きのいい足は、安定を求めて、ベッドの上でさらに大きく開かれる。

 

 

 

「短時間だ。……移送の時だけなんだ。簡易的な使用になら、これが一番だろ」

珍しく、家に帰ってまで仕事の話を持ち出したゲープが話すのは、結束バンドのことだ。今日、犯人を確保する際、品質劣化のためか、プラスティックが切れてしまった。犯人を拘束しようとしていたのはデミアで、留めようした瞬間、バンドが切れたのをコニーに思い切り冷淡な目で見つめられ、デミアが結束バンドではなく、普通の手錠を寄越せと要求したのだが、ゲープはそれを認めなかった。もう終わった話題を、ゲープはまた持ち出したのだ。

「でも、ゲープ、緩むぞ?」

「確かにプラスティックだから、多少は伸びるが」

「その伸びるのが問題なんだよ。逃げられそうな気になって、つい犯人が頑張ろうって気になると思わねぇ?」

「デミア、俺は実際試すとこに付き合ったことがあるけどな、アレ、かなり頑張っても切るまで行くのは難しいぞ。その前に、手首が血まみれになって我慢なんてできない」

「ゲープ。甘いぞ。人間、とことん追い詰められたら、結構なんだって平気だぞ」

デミアが言うと、ゲープは、よく言い出しにくいことを言い出す前のように、ぺろりと唇を舐めた。

どうした?と、デミアが伺うように見つめると、ゲープはもそもそとズボンのポケットから結束バンドを数本取り出す。

デミアは呆れ顔で、恋人を見る。

「ゲープ。お前さぁ……、なんでそんなの持ってるんだ?」

また、ぺろりとゲープの舌が唇を舐めた。

「お前は、何でだと思う?」

 

しかし、その後、思わせぶりな笑みを見せ、デミアをどきりとさせたゲープは、デミアに立ち上がるようにいい背後に回ると、腕を後ろに出すように要求した。

「俺、なのか?」

やはりなオチに思わず笑ったデミアを、ゲープは手際よく拘束していった。

「お前、バンドから抜けられる自信があるんだろ?」

わざとのように、ゲープは甘く耳元で囁いたが、プラスティックの硬さが手首に食い込み、デミアは顔を顰める。

「ゲープ。後でお前にもやらせろよ」

「いいぞ。そうだ。デミア、お前、人質ってことな。俺の捕虜。あ、写真に証拠を残そう」

簡単にデミアに約束を与えたゲープは、わざわざ自分でタオルまでを持ってきて、デミアに猿轡を噛ませた。顎をつかまれ、無理やり口を開かされたデミアは、焦った。唇をタオルの生地が擦っていく。口角に布が食い込む。

「……マジか?」

もごもごと聞き取りにくく、デミアが文句を言っても、ゲープは、勿論本気で、デミアに猿轡をきゅっと結んだ。

そして、おかしなほど陽気に、本気で、何枚もの記念写真を撮ったのだ。

 

「やっと終わりかよ……」

「やっぱり、抜けられなかっただろう?」

パチンと、ゲープが結束バンドを切り、デミアの両手は自由になった。血行の悪くなった手を、デミアはまず、擦り合わせる。

「次、ゲープの番だぞ」

デミアが言うと、ゲープは素直に両手を差し出し、デミアは怪訝な思いをした。

そして、猿轡までは、同等だからいいとして、ゲープは目隠しまでしてもいいと言い出した。

しかも、ベッドへ行こうといいと言ったのだ。

 

 

 

デミアは、恋人の無意識の媚態に、ふらふらとベッドまで近づくと足に触ろうとした。

「誰、がっ、触って、いいって、言った!」

誘っているとしか思えない形に足を開いているくせに、青筋を立ててゲープは怒鳴った。

しかし、デミアは、そんな格好のゲープの目が自分をしっかりと捕え、きつく睨んで怒鳴るのに、酷く興奮してしまった。我慢が出来ず、デミアは、怒るゲープの制止も構わずベッドの上へと飛び掛った。

「デミアっ!!」

誘うゲープが自分を認識していることが、デミアを酷く興奮させる。

先ほどから勃起したままだったペニスは、痛いほど高ぶって、ゲープに圧し掛かるデミアの息は荒い。

デミアは、バンドのせいで抵抗できないゲープを一方的にベッドに押し倒しながら抱きすくめると、言葉を不明瞭にする猿轡の唇に覆いかぶさるようにキスをした。

「デミ、アっ!!」

しかし、腕を後ろへと拘束されたままだというのに、暴れ、もがくゲープに、デミアの口が触れるのはタオルが殆どで、柔らかなゲープの唇をなかなか捕えることはできない。それでも、デミアは、懸命にゲープの口を塞ぐ。

振られる顔に、口だけでなく、鼻にも、頬にもキスをしながら、デミアは、自分を睨んできつく光るゲープの茶色い目を追っていた。

二人分の体重でベッドに押しつけられているというのに、ゲープの足は素早くデミアを蹴る。

それでもデミアは、ゲープの体を隠す上掛けの中に手を入れて、肌を撫で回しながら、ぎらぎらと睨むゲープの目を見つめた。

ゲープの目は、しっかりとデミアを捉え、きつく見据えている。

やはり、たまらなくて、デミアは、ゲープの体を撫で回しながら、その目に何度もキスをした。

暴れるゲープは頭突きまでかましてくる。

それでも、デミアは、嫌がる唇に、何度もキスをする。

「デミ、ア、やめっ、ろ!」

ゲープが怒鳴っても、デミアはきつくゲープを抱きしめ、目ばかりを見つめた。

「……ゲープ。なんで、あんなことしたかったんだ?」

だが、聞くデミアの顔にあるのは、興奮だけではなかった。

硬くした股間をゲープに押し付けながら尋ねるデミアの眉は不安そうに寄っており、怒りに燃えていたゲープの目は、一瞬動揺した。しかし、チームのリーダーを務めるだけあり、ゲープはすぐに自分を立て直す。付け入る隙の見つからない固い茶色の目をそれでもデミアはじっと見つめる。

「ゲープ、確かに、俺も最初は面白いかもしれないって思った。それは、認める。でも、……ゲープは、……なんで、…………俺じゃ、嫌……なのか?」

質問するくせに、デミアは猿轡を取とうとはせず、むっと顔を顰めたまま、ゲープはデミアを叱った。

「これ、を、取れ! 誰の、せいだと、思ってるっ!」

しゃべりにくい猿轡は擦れて痛く、とにかくゲープは嫌だった。デミアがさりげなく体を抱き上げているせいで、背中の下敷きになっている両腕にかかる重みは少なくなったが、けれど腕は痺れている。

こんなことになった理由は、ゲープにとって、全てデミアのせいだった。

しかし、ゲープにとっても口にしようとすれば、その理由は実に恥ずかしく、叱りつけてはみたもののじっと見つめてくるデミアの視線を、にらみ返したまま説明するには、ゲープの勢いは続かなかった。

それでも、根競べは長くつづき、ゲープはしぶしぶ口を開く。

 

「…………鞄に入ってた、……本……、物置の、…………ビデオ、」

猿轡のせいだけでなく、ゲープの声は不明瞭だ。

 

ゲープを押さえつけるように抱いたままのデミアは不審な顔になった。デミアは、ゲープの言い出したことに、全く思い当たらない。

「本と、ビデオが、こんなことしたがった理由なのか?」

尋ねながらもゲープの顔を見下ろすデミアは、その本やビデオというものが、エロ系のものだということくらいはピンときた。

この話をするのが嫌なのかゲープが顔を背け、だが今、デミアは、どうしてもゲープの目が自分を見ないことが嫌で、顎を掴んで無理やりその顔を自分へと向けさせる。

「ゲープの鞄にそんなの入ってたのか? 誰か回したのか?」

男ばかりの職場はあけすけなところがあり、独身者の、しかも現在恋人がいない男など、ちょうどよい廃品回収場所として、読み終わった雑誌など回された。短い周期で女の変わるデミアも、勿論、そのターゲットで、捨てるが面面倒なのは一緒だというのに、奴らは勝手に鞄やロッカーにねじ込んでいく。

「見てたら、やってみたくなったのか?」

ゲープの家庭がもめているのは、残念ながら、周知の事実だ。

おせっかいにも、本やビデオを回してくる奴がいてもおかしくない。

恋人の意外な嗜好に戸惑いを露わにデミアが聞くと、ゲープは、目を吊り上げて本気になって蹴った。

「誰が、だっ! デミア、お前の、に、入って、たんだ!!」

 

「……俺の?」

思わずうめき声が漏れるほどの勢いで、背中に膝を入れられようと、デミアは、思い当たる節はまるでなかった。

無理に動いたゲープは、呼吸すら苦しい猿轡に顔を赤くし、ぜいぜいと荒く息をついている。

「本は、没収、した」

「回ってきた奴だろ。それ。ゲープだって昔は押し付けられたろ?」

猿轡をしたまましゃべり続けるゲープは、唇の端がこすれて赤くなっていた。

ゲープは、なじるようにデミアを睨んでいる。

「……S、M、」

とうとう猿轡を食い込ませたまま懸命にしゃべろうとするゲープの口の端からは、涎があふれ出し、顔を汚した。

確かに、デミアはその様子にドキリとした。だが、本のことは、指摘されても、そういった本を回して欲しいと頼んだわけでもないデミアは、すこしバツが悪かっただけだ。

「…………珍しくはないだろ?」

「……物置、にも、ビデ、オ」

ゲープの口から溢れる唾液は、喉へと伝っていた。それに、デミアの股間は疼いていた。

「何かあったか? ちゃんと捨てるんだけどな」

言ってから、デミアは、確かに捨ててない一本があったのを思い出した。しかも、ゲープの言うとおり、SMものだ。

 

「なんだよ。ゲープ。それで俺がそういうことしたいんだと思ったのか!」

弾むように言ったデミアは、やたらと用意のよかったゲープにも、デミアを拘束して変に陽気だったゲープにも、自分を拘束させ、目隠しまで許したゲープにも、やっと理解できる理由を見つけて、ほっとした。慣れないことへのチャレンジに緊張でおかしな言動を取りながらも、変な気の回し方をするのがゲープらしくて、やたらと納得した。

しかし。

「うる、さいっ! 宿代、代わりだっ!」

この言葉を、ゲープが照れ隠しとして時々使う。

だが、実はデミアは言われるのが、大嫌いだ。

 

いきなりデミアは、抱くようにして覆いかぶさっていた体を起こすと、バランスの悪いゲープの両足を持ち上げた。

そのまま腹につくほど、曲げてしまう。

突然のデミアの反撃に、ゲープは顔色を変えて驚いていたが、それに構わずデミアはパクリと開かせた足の間に顔を埋めてしまう。

先ほど中途半端に濡らした場所は、もうすっかり乾いていて、デミアはもう一度最初からゲープの中を湿らせ始めた。けれど、我に返ったゲープの足が、デミアのどすどすと背を蹴る。

「や、めろっ! くそっ! はな、せっ!」

デミアは、仕方なく、もっと解したかった肛口から顔を離し、自分のジッパーを緩めた。

勃起したペニスの先は濡れていたが、それだけではやはり心もとなくて、デミアは暴れるゲープをなんとか押さえ込んだまま、ジェルを手に取る。

中身をひっくり返すようにして自分のペニスに塗りたくり、ゲープの入り口にも尻を伝うほど零す。

そのままデミアは一気にゲープの中を穿った。

最初のきつい肉の輪を無理やり突き破れば、後は、なんとか、濡れた肉壁を伝い押し入ることが出来る。

「ぅ、ぐっ、ぅう……」

ゲープの足は強張り、衝撃を受けた腹には痛いほど力が入っていた。

デミアは、ゲープの足を抱えなおし、猿轡を噛み締め、悲鳴を堪える顔を覗きこむ。

「……宿代、ってのなら、こういうことだ。ゲープ」

デミアは自分の中を駆け抜けたどす黒い嵐に後悔しながら、強張ったゲープの顔を撫でた。

しかし、苛立ちは去らない。

「デミア、……お、前っ……!」

緊張の緩んでいないゲープの体の締め付けは痛み近く、デミアは、顔を歪めている。

ゲープは、生理的に盛り上がった涙で光る瞳で、デミアを睨みあげていた。

しかし、デミアもゲープを睨んでいる。

「俺は、ゲープが好きなんだ。……ゲープは、そうじゃないのか」

 

 

尻へと無理やりねじ込んだくせにデミアは、それ以上動こうとはせず、やたらとしつこくゲープを問いただし続けた。

あまりの痛みにうめき声すら抑えられなかったゲープにとってそれは幸いなことだったが、すっかりゲープの中が、デミアのペニスの形に開いてもそうだった。

腹立たしさにゲープが顔を背ければ、必ずデミアは顎を掴んで引き戻し、まっすぐに見つめて質問を繰り返した。

嵌められたものの大きさにゲープの尻が慣れ、そこにモノが嵌っているならば、当然得られるはずの快感がないことを、こんな状況だというのにゲープが物足りなく感じるようになっても、まだ、デミアは質問を続けたまま、我慢強く動かない。

無理やり入れられた当初は、完全に頭にきていたゲープも、普段陽気な顔ばかりみせるデミアが恨むようにした目を泣き出すのかと思わせるほど潤ませ、やっぱり飽きたのか?と繰り返すのを聞くうちに、デミアが自分よりもはるかに若いということを思い出した。

「馬鹿か、お前は……」

ため息を吐き出したゲープは、無理をして頭をベッドから上げると、デミアに向かって猿轡をされたままの口を突き出した。

わけが分からず、デミアは、気の強さの見え隠れする顔をむっと顰める。

しかし、無理やり犯され、その上、愛の言葉を強要されるゲープの方がずっと腹立たしい思いをしている。

ゲープはキスなんかするよりも、噛み付いてやりたかったが、猿轡に邪魔されてそれは出来なかったので、思い切り顔をぶつけてやった。

痛みに、二人して呻くことになったが、どうやら、デミアは、ゲープがキスしようとしたのだと気付いたようだ。

 

 

セックスの途中で両手のバンドは外されたが、長時間の拘束に痺れた腕では、もうデミアを殴ることもできなくて、ゲープはデミアの背に手を回したまま揺すられている。

デミアは、いつもどおりゲープの唇にやたらとキスしたがり、猿轡が外れても、ゲープが息苦しいのには変わりはなかった。

「ゲープ。ゲープ。ゲープ」

自分の目に、どこか甘く顔を歪めたデミアの顔が写っていて、ゲープも、実は安心している。

無理をしてあんなことを受け入れてみたものの、拘束による肉体的苦痛は、なんとかやり過ごせても、デミアの表情を確かめることができないままセックスすることは、ゲープにとって、酷い負担だった。

 

「俺、もう、いきそう……ダメか? ゲープ?」

デミアは、いつも射精前にダメかと、ゲープに聞く。

ゲープはそれに、内心少し笑う。我慢しろと言ったら、できるのか?と、一度デミアをからかってみたいのだが、大抵、そんなときには、もうゲープにも余裕はなかった。

ゲープのものは、もう、一度目の射精が済んでいたが、自分の射精にあわせ、二度目の頂点へとゲープを追い上げるデミアの手管に、足は、必死にデミアへと絡まっていた。

自分の出した精液で濡れた腹をデミアに押し付け、二人の間で押しつぶされるペニスへの刺激で、ゲープの背には汗が噴き出ている。

「イク、も、イク!」

結局、先に音を上げたのは、ゲープだった。

息苦しいというのに、ゲープに覆いかぶさり、キスをしたまま、デミアはめちゃくちゃに直前の追い上げを始める。

イっている最中に、さらに中をぐちゃぐちゃに突き上げられ、ゲープは苦しいほど強い快感に身を捩った。

やっと、デミアが強くゲープの腰を掴み、動きを止める。

「ゲープ。いい、……いく!」

 

 

 

翌日、手首についた結束バンドのせいでできた擦過傷はもう隠しようがなく、口角も擦り切れていて、ゲープが仕事を休みたいような気持ちになりながら用意をしていると、デミアが、物置に置いてあったビデオを片手にゲープに近づいた。

「ゲープ。これ」

デミアは、淫猥なボンテージファッションでパッケージを飾る一人を指差す。

「すこし、顔の感じがお前に似てねぇ?」

だから取ってあったんだと言うデミアが指差す、多少肉付きのいいその女性が自分に似ているのかどうかは、ゲープには判断できなかった。

しかし、そのビデオと没収した本のおかげで、ひとしきり振り回されたゲープには、照れくさそうなデミアの顔が腹立たしかった。

似ているという女は、手に鞭を持っている。

ゲープはデミアからビデオを受けとった。

「わかった。今晩、一緒に見よう」

驚きに、デミアが目を見開いた。

ゲープはビデオをデミアの顎へと突き刺すようにして、その顎を無理やり上げて、続ける。

「夕べは散々だったが、お前のために勉強する。デミア」

 

 

デミアの目が怯んだ。

 

END

 

頂いていた御題の写真撮影は、盛り込めませんでした……すみませぬ 涙