小熊物語。
「……デミア……目覚まし、止めろ……」
うるさい目覚ましの音に、目を開けたゲープは寝返りを打ちながら部下に命じた。ゲープは布団を肩へと引き寄せながら少しでも目覚ましから遠ざかろうとしたのだが、寝ぼけ眼の目に映ったものがなんとなく気になる。この目覚ましの音は好かんとむっとしながら、もう一度寝返りを打ち、チーム50の隊長は、ベッドの上に大の字になって眠る小熊を見つけた。
ぬいぐるみ……?
最初ゲープはそう思った。近頃家庭は悪循環に陥り、夕べもソフィアの前でマヤと言い争いになりかけて、自分から家を出たのだ。そして、デミアの部屋へと転がり込んだわけだが、チームの3番隊員は、笑顔でドアを開け、酒に付き合い、その上、いやらしいことをしてゲープを気持ちよく寝かせてもくれた。
多分、このヌイグルミはパンでも買いに出たデミアが、夕べ散々機嫌の悪かった自分が、朝目覚めた時、一人だと、また腹を立てるのではないかと考え置いていったのかと思った。だが、小熊の腹が膨らんだりへこんだりする。
小熊は呼吸している。
ベッドの上の小熊が、本物だと分かると、ゲープはパンツを掴んでベッドから飛び退った。
慌ててパンツを履きながら、ゲープは叫ぶ。
「デミア! デミア! デミア!」
ゲープはこの事情をデミアから聞きださなければ納まらなかった。
「デミア! オイ! どこにいるんだ! デミア!!」
怒鳴るゲープに、ベッドの上の小熊が目を擦った。
「ん? ゲープ? なんだ? どうした? そんなに慌てて?」
小熊はデミアの声で聞く。
デミアは、時々なのだが、神様にお願いしてみることがあった。
『ゲープをなぐさめられる俺になれますように』
現在、ゲープは息も出来ないほど粟食っているが、神様の狙いどころは悪くない。
艶々した黒い毛皮の小熊の容姿は抜群に可愛く、なかなかの癒し系だ。
うるさい目覚ましを止めるために手を伸ばし、その手が黒い艶々の毛皮で覆われていることには、さすがに楽天家のデミアも驚いたが、驚きのあまりほとんど泣きそうな顔で自分を見つめるゲープの顔を見つけると、デミアは自分が慌てている場合ではないと判断した。
小熊は目覚ましを止め、とりあえず、切迫した音から、ゲープを救いだす。
体を見回せば、どうやら自分は熊のようだと、デミアにも分かった。だが、体のサイズが縮んだのがちょっと辛いなと思ったものの、艶のいい毛皮を見れば、慣れればきっとゲープも、かわいいと言ってくれるだろうと、デミアは自分を強引に納得させる。
小熊はストンとベッドから降りる。
「ゲープ。朝食の準備しておいてやるから、先にシャワー浴びて来い、目が覚めるぞ」
小熊に促され、ゲープは、自分の見ているものが、夢かもしれないとの一縷の望みをかけて、シャワーを浴びに行った。冷たい水で顔を洗いすっきりした頭になれば、デミアの部屋の中で、デミアの声で小熊がしゃべるなどという悪夢めいたことは、きっと本当に夢だったと笑い話になるに違いないと思い、ふらふらと浴室までの道のりを歩き、顔を洗い、ついでに、頭もゴシゴシと洗う。
しかし、タオルで髪を拭きながら、浴室を出れば、かいがいしく小熊がパンにバターを塗っていた。
「悪ィ、まだちょっとこのサイズに慣れないからさ、卵は焼いてやれなかった。紅茶もさ、今朝はティパックで我慢してくれ。ほら、ここに砂糖」
ポットを押す小熊に給仕されながら、ゲープは必死に考えていた。
(デミアの有給はあと何日残ってた? 病院に連れて行けばもとの体に戻るのか? こういう場合は病休扱いにできるのか? いや、待て、病院になんて行って小熊になったことが職場にバレたら、クビか?いや、それよりも……)
現実的に物事に対処しようとしているようで、あまりの事態に、すぐに思考がスリップするゲープの様子を眺めながら、小熊は自分のパンを頬張っていた。
短い足をぶらぶらさせながら、小熊は、悲痛な顔のゲープに内心小さく舌打ちする。
(せめて、おはようって言え。ゲープ)
しかし、デミアはこういう頭の固いところのあるゲープが好きなのであって、保守的であるということは、頑なに好きなものを好きでいられるという魂の美点なのだと解釈していた。
デミアは時計を見上げる。
「なぁ、ゲープ。今日は車に乗せてってくれねぇ? お前、家に寄って取ってくるものがあるんだったら、そろそろメシに手をつけねぇとやばいぞ?」
「デミアお前! 出勤する気か!?」
ゲープの目が信じられないと小熊を見る。
「当たり前だろ。遊びに行くわけでもないのに、なんで休む理由がある?」
ゲープはデミアの言うことが信じられなかった。目の前にいるのは、小熊だ。小さな艶々の小熊が、GSG-9として任務に就くことなど、あり得ない。
小熊がくしゃりと顔をゆがめた。
黒々とした目がキラキラしていて、笑ったのだとゲープは分かった。
とてもかわいい顔をして小熊は笑う。
「ゲープ。やっと俺のこと、デミアって呼んだな。俺、熊だしな、もしかしたら、もう俺のこと一生デミアって呼んでくれないかもしれないって思ってたから、やっぱ、ちょっと、っていうか、かなり……うれしい」
照れる小熊は、カリカリと耳の後ろを掻いていた。ゲープは返す言葉に困ってしまう。
「いや、……あのな、デミア。……俺は……」
「ゲープ。マジで、早くメシ食わねぇと遅れるぞ?」
小熊が自分の分の皿を重ね始めて、ゲープは慌ててバターの塗られたパンを取った。食器棚の前と、流しの前に椅子が置いてあり、小熊サイズになってしまったデミアが苦労して朝食の準備をしてくれたのだとゲープは気付く。
だが、ゲープが口にしたのはこれだった。
「デミア、お前、休めよ?」
「なんで?」
「だって、お前、熊だろ」
「熊だから、何だ? 俺はれっきとしたGSG-9のメンバーだ」
小熊はむっと顔を顰め、自信に胸を張っていた。ゲープは紅茶でパンを流し込みながら、もう一度じろじろと小熊を眺めた。デミアはどう見ても艶々の毛皮の愛らしい小熊だ。チームのリーダーとして、ゲープには、とても小熊が危険な任務がこなせるようには思えない。
「ダメだ。無理だ」
「無理かどうかは、試してから言って欲しい」
けれども決してデミアは引かず、しばらく、ゲープと小熊は言い合いを続け、そして、ゲープは、もう家に寄るどころではないほど、出勤時間が近づいてきていることに気付いてしまった。
ゲープが転がるようにドアの外へと飛び出る。靴を履いていると、小熊は部屋に鍵をかけている。
「付いてくるな!」
「ゲープ。熊って、結構いいな。服を着替える必要がない」
揉めたまま職場のドアを潜れば、局員たちの視線は、ゲープの隣を懸命にトテトテと歩く小熊に釘付けだった。
「ゲ、ゲープ……それ?」
「悪い。急いでるんだ」
小熊のことについて誰それ構わず説明するなんて気にはなれないゲープは、挨拶も忘れて先を急ぐ。
いっそ小熊を抱きかかえて歩いた方がぬいぐるみだと思われ被害が少ないとゲープは気付き、階段手前で、デミアを抱き上げた。小熊の目はまんまるだ。
「わぉ。職場だってのに、大胆だな」
能天気なデミアの声が、ゲープの気分を逆撫でする。
「うるさい。黙ってろ!」
まさか、このままデミアを勤務に付かせるわけにもいかず、けれど、小熊は仕事をすると言い張るので、ゲープは仕方なくアンホフのオフィスを訪ねた。
最初アンホフは小熊を抱きかかえたまま入ってきたゲープに驚き、そして、説明を聞けばゲープの正気を疑った。
けれど、
「デミア・アズランです。こんな格好になりましたけど、俺はチームから外れるつもりはありません」
デミアの声で小熊がはっきり告げれば、アンホフは頭を抱える。栄えあるGSG-9チームのメンバーが小熊。なんと小熊だ。
苦虫を噛み潰したような顔のアンホフは、それでも一応デミアを尊重する意思があった。いや、小熊に辞職の意思がない以上、公務員であるデミアをただ単にある朝起きたら熊だったという、犯罪にも何にも引っかからない理由では免職や、転属できないと気がついただけだ。
「……人事課の奴らと相談する」
「相談するもなにも、俺はやるし、やれるって言ってるんだから、勤務につかせろよ」
「何を言ってる! デミア、お前は事の次第がわかってないんだ。お前は、熊なんだぞ。しかも、そのサイズは何だ。小熊じゃないか! そんなんでどうしてGSG-9の任務がこなせると!」
「どうして、熊じゃ任務がこなせないと思うんだ!!」
人事課長が到着するのが待ちきれず、アンホフはオフィスを出て行った。
小熊はその後を追うように部屋を出て行く。
「デミア! お前、なにもそんなに無理してチームに残ろうとしなくても……」
「絶っ対ぇ、俺はゲープと一緒のチームで任務に付くんだ。そうでなきゃ、熊になった理由がねぇだろ!」
ゲープは、デミアが言うことが理解できなかったが、小熊の気迫だけは、感じた。
だが。小熊が、チーム50の隊員?
「待てって!!」
人事課のオフィスでは、局員たちが喧々諤々の議論を交わしていた。途中、ゲープが見失った熊は、いつの間にか連方警察局局員要綱を片手に持ち、外見がどう変わったところで、自分には仕事につく権利があるとまくし立てている。
小熊は牙を剥いている。
「どうしてダメだって言うんだ!」
「そんなんじゃ、任務なんて無理だろ? 上から言われなきゃわからないのか?」
「それって、任務遂行の能力が不足した場合、所属長の判断により転属、もしくは能力の低下が著しいと判断された場合は、免職とさせることができる。って奴だろ?でも、能力が不足しているかどうか確かめてもいないくせに、どうして俺に能力がないと判断するんだ!?」
人事課長を相手に小熊に引く気はまったくない。
「一体どうして、小熊にG―9の任務がこなせると思うんだ。まず、そう思う辺り、知的能力不足で不適切だと思われても仕方がないんじゃないか?」
「頭が悪いのは、あんたたちの方だろ、あんたたち、」
「待て……」
長引く議論にアンホフは、ため息を吐き出した。
「すまない。内線を。チーム30の隊長を呼び出してくれ」
「ああ、これから出るんだったな。忙しいところすまない。持って行って貰いたい荷物が一つあって。そう、悪いが、小熊を一匹。……違う。小熊だ。そう。小熊。その小熊を君たちのチームの演習に参加させて欲しい。G―9チームの一員として扱ってもらって結構。……いや、本気だ。信じる気にはなれんだろうが、小熊は、チーム50のデミア・アズランなんだ。奴が今日突然、小熊になって出勤してきたら、人事課はG―9チームのメンバーとして能力があるかどうか試すと言っている」
小熊はとんでもないことに巻き込まれてしまったという顔をしたチーム30の隊長に担がれて、山岳演習に連れ出された。
デミアは元気に手を振って出て行ったが、ゲープの眉間の皺は深くなる一方だ。
しかし。
「デミアが戻ったんですか?」
三日後、局内でチーム30の隊員を見かけたゲープはアンホフのオフィスに走った。ちなみに、ゲープはチーム50のメンバーにはデミアを病欠だと伝え、事を伏せている。
「戻ったが、まだ会えない。現在査問中だ。それが済んだら、チーム10と一緒に任務に就く」
「えっ?」
「見てみろ。チーム30の書いてきた報告書だ。デミアの能力は、確かに以前と比べ体のサイズによるハンデで劣る部分もあるが、敏捷性、機敏性ともに概ね以前を上回り、特に山岳地帯では、その特殊な能力は活用しない手はないというベタ褒めだ。これを読んで、人事課の奴らは、それなら、市街地の任務にデミアを就けると言い出した。そして……」
アンホフは嫌そうに腕を組んだ。
「チーム10の隊長は、お前も知っているだろう。無類のおもしろ好きだ。山岳演習の評価を見るなり、そらなら自分たちのチームの任務に熊を就ければいいと言い出した。まぁ、あそこなら、手練ればかりで、何があってもフォローはきく。ああ、それと、ゲープ。チーム30が、デミアがこのままG―9に残るのであれば、自分のところの隊員をトレードしてもいいと言っている。2番隊員として迎え入れるそうだ。隊員達は降格についても納得している」
それから、一週間後に、ゲープは小熊が、チーム10の任務を完遂させたことを聞いた。
以前から、麻薬使用の疑いがあったテロ関係者の周りを、注意深く他には見られないよう小熊がうろつき、とうとう妄想を観るようになったかと、パニックに陥ったテロリストがうろたえ薬物に手を伸ばしたところで、デミアが換気用の部屋の小窓から侵入し、麻薬所持の現行犯で取り押さえたというのだ。子供しか入れぬ大きさの窓から、侵入することができる隊員がいれば、活動上重宝することは多い。小熊は重さもそれほどなく、フックを引っ掛けておくような場所がなくとも、隊員の一人が綱で支えれば、どこにでも下りてゆける機動性も市街地では有利だ。
その点をチーム10のメンバーも大いに認め、チーム10まで、小熊が欲しいと言い出している。
慣れないサイズでいきなり任務につき、悪戯に笑った顔よりは、はるかに毛皮に汚れの目立つ小熊が、苛立たしげに廊下を歩くゲープに飛びついてきた。
「ゲープ。人事課の奴らは黙ったぜ?」
にやりと小熊は笑ったが、ゲープの態度がよそよそしいのに、デミアはゲープから離れようとした。
しかし、毛皮の下のあちこちに擦り傷を作る小熊をゲープが放さない。
小熊は、大きな目で伺うようにゲープを見上げる。
「あのさ、ゲープ。そう、怒るなよ。熊になるのも悪くないんだぞ? お前さ、実は近頃、俺のこと、負担に感じ始めてただろ。あ、熊になった俺のことじゃなくて、前の俺のことな。いくら揉めてばかりいるって言っても家族に後ろめたいんだよな。分かってる。だからさ、俺が熊になったのは、ちょうどいいっていうか。ほら、俺がさ、身を引いてやれれば一番いいんだけど、俺、どうしてもお前の側にいたいし。で、側にいられて、今までみたいにお前と仕事にさえできるんなら、熊であろうと俺にとっては万事問題なし!っていうか」
ゲープの様子を伺っていた小熊がぺろりとゲープの唇を舐めた。
「へへへ。キス。な、ゲープ、今までより、ずっと抵抗ないだろ?」
デミアがそんなことを考えていたとは、ゲープは何と答えを返せばいいのかわからなかった。
「……顔にまで怪我があるじゃないか。デミア」
デミアは、笑う。
「平気だ。今、ご褒美貰ったからな」
「上は、現場の判断に任せると言っている」
さすがに市街地での任務についた一週間は、チーム50のメンバーにデミアが小熊になってしまったことを伏せたままにしておくには長すぎた。今後のチームの方針についての話し合いには、気難しい顔のコニーが自分から同席を望み、顔を並べている。コニーは苛立たしげなため息を、隠さず吐き出す。
「現場に任せるって、それは、局長の政治家的判断という奴ですね。局長は、熊がG―9のメンバーであることよりも、利用価値があることの方が重要なんですよ。次の選挙に出るとの噂が持ちきりですしね。いっそ、選挙マスコットに小熊を起用すればいい」
嫌味たっぷりのサブリーダーの発言に、デミアが苛ついたのは誰の目にも明らかだった。だが、チーム50の暫定3番隊員は冷静を装った。
小熊の隣に席を得ているペトラが口を開く。
「上層部の半分は、報告書を怪文書と読み流したのかもしれません。けれど、少し気になることも起きています。不必要な免職を迫られているG―9メンバーがいるとの内部告発があり、告発者はまだ特定されていませんが、この件で、うちの人事部に監査が入ることになりました。2日後です」
その対応のため、この場に人事課の人員は同席できずにいた。
アンホフはゆっくりと集まったメンバーを見回す。
「コニーは、デミアの転属を望んでいる。他所のチームへの移動でもいいということだが、ゲープは、安全な別部門への転属ならまだしも、他チームへの移動は絶対に認めない、その位なら、今までどおり自分のところでとの意見だ」
小熊の能力を認めるチーム10と、30の隊長は、頑なな顔で自分たちの視線を突っぱねるゲープ相手に肩をすくめた。
「所属の隊長がこういう以上、デミアのトレードは無い。私の判断は」
口を開いたアンホフを、ペトラがさえぎった。
「もう一つ、報告しておいたほうがいいだろうと思われることがあります」
ペトラは、データーを示す。
「デミアの立場については考えるのであれば、こちらを見ておいてください。現在、ドイツ国民は原油高の影響もあり環境問題に大変関心があります。その高まりと共に、自然や動物との共生ということについても、意識が高まっています。もし、国民的英雄として関心の集まりやすいG―9チームが小熊を小熊であるという理由だけで、彼の意思とは関係なく免職もしくは、転属したとなれば、動物虐待としてメディアが放っておかないのではないでしょうか? 現在、情報は完全に内部で伏せられていますが、ネットでいくらでも情報は流れ出します。これからのことはわかりません」
輸入した外来種のリスの増加に手を焼いた環境庁がこの程乗り出した駆除を、国がリスを虐待!と、市民団体が大々的にネットで告発している。
残酷にみえる写真をわざと使った同種のニュースを次々とペトラは示す。
ペトラは、じっとアンホフを見つめていた。その強い目に、アンホフの頭には、ちらりと考えていたことが、また、よぎる。
デミアが小熊だと知っている者の中で、告発をしながら発信者を突き止められぬ情報操作を為しうる人材は数いない。用意周到とは言いがたいデミアが人事課の連中とやりあう最中に、局員要綱を持っていたことや、熟練の審問官を相手に、そつのない受け答えをしえたのは、誰か後ろでバックアップをしていたからに違いなく、……つまり、ペトラは、小熊を免職や転属すれば、ネット上に連邦警察局が罪もない小熊を虐待しているとリークすると脅迫をかけようとしている。
誰にも茶の一杯もでてないが、小熊の前にだけ、ミルクが置いてある。
確かに小熊はかわいい。
あの、艶々した目や、ふさふさとした毛皮など、特に、若い女性にはたまらないかもしれない。
しかし、それとは関係なく、アンホフは、口を開く。
「私は、デミア・アズランの能力が、今までと遜色なく、チーム50の隊員として任務を務めることに、何の問題もないと判断し、上にそう報告した。各自、これまで以上に、国のために尽くしてくれ。以上だ。解散」
「へへへ。俺を追い出せなくて残念だったな。コニー」
小熊デミアは、むっとした顔のチーム50のサブリーダーの背中によじ登っていた。
「乗るな!」
「だってな」
コニーによじ登ったデミアは、アンホフの決定にどこか安堵顔で、けれども不安な様子も隠せず、すぐ後ろを歩いているゲープを振り返り、その顔をペロリと舐めた。
「ちょっとばかり小さくなっちまったからな、ゲープにキスしようと思うと、こうでもしなけりゃ」
「近頃、ゲープとお前が特にそんな風だから、これを機会に、俺は絶対お前のこと追い出してやろうと思ってたのに!」
コニーにとって、デミアの熊の外見は関係ないのだ。勿論、悪友として、デミアはそんなこと最初から知っていた。
「コニー、俺、お前の、そういう小憎らしいほどの能力主義なとこ、結構好きだぞ」
サブリーダーの背中にしがみつく小熊は、コニーの耳をかぷりと噛んだ。
小熊の歯は、牙だから、勿論、伯爵様は耳を押さえてうずくまった。その背中で、デミアは振り返る。
「あ、ゲープ。気にすんなよ。浮気じゃねぇから」
こうして、GSG-9に小熊隊員が誕生した。
END