フランク・ヴェルニッツのシンデレラ
昔、むかし、あるところにフランク・ヴェルニッツというちょっと育ちすぎの女の子がいました。
大きすぎる上に、いかついですが、フランクは、善良な女の子です。
しかし、早くに妻を亡くしたゲープお父さんが、後妻を迎え、それまでただ愛されて育った一人娘のフランクには、二人の姉ができました。
その二人が問題です。
今日もフランクは、箒を握り、家中のお掃除です。ほら、お姉さんの声が聞こえてきます。
「フランクー! フランクー!」
大きな声で呼ぶのは、大抵、上のデミアお姉さんでした。台所の掃除を終え、すかさずサボろうと、ほっと一息コーヒーを飲んでいたフランクは、ビクリと飛び起き、デミア姉が現れる前から直立不動です。
「また、サボってたんだろ。庭の草むしりはどうなった?」
「はい、今」
ドスドスと駆け出すフランクは、足のサイズがめちゃくちゃ大きいです。
「洗濯の取り込みは? アイロンは? 暖炉の用意は? 食事の準備はできたのか?」
デミア姉はにやにやとからかうように笑いながら、フランクの後ろに続き、急きたてます。
しかし、はっきりいってフランクの体は一つしかありませんので、それら全ての言いつけられた一度にこなすことなど無理です。それを知っていて、おもしろがるデミア姉は、わざとフランクを追い回します。
マヤママの前夫が異国の血を引いていたのか、デミア姉だけは、モロにゲルマン系の家族の中でも毛色が違う容貌なのですが、エキゾチックな髪の色と、キュートな大きな目、そして、すこしばかり意地の悪そうな笑みを浮かべる厚めの唇がセクシーだと、モテモテでご近所の噂も絶えません。実は、フランクも、ちょっとデミア姉にはドキドキします。
そんなデミア姉が、手伝うわけでもないのに、デカいフランクの後を付いてまわり焦らせていると、ソファーで本を読んでいたカスパ姉が、めずらしくフランクに声をかけました。
「フランク、机の下」
デミア姉の生き生きとした様子に比べれば、あまりに一本調子でした。注意しているというより、指摘しているだけです。大抵の場合カスパ姉はこんな調子です。
しかし、無口さが上品に整った美貌を更に際立たせるらしく、カスパ姉にもファンが多いのです。しかし、噂される繊細さとは程遠い人です。部屋の真ん中にどんと置かれたテーブルの下などというあまりにも目立つところを、見つかるまいと掃除せずにすませるウカつで大味な末妹をひと月、見逃してくれる度量の大きさを持ち合わせています。いや、単にカスパは、口を利くのが面倒だっただけのようですが。
「はい、いますぐ」
苛められているというのに、ついときめきめいてしまう胸高ぶりをも含め、少し意地悪なデミア姉を持て余し気味のフランクは、二週間ぶりに声を聞いたカスパ姉の言いつけに従い、いままでサボり続けたモップ掛けを懸命にはじめました。
しかし、それが終わる頃、いかにも今から悪戯をしますと、とても嬉しそうな顔のデミア姉が、フランクを呼ぶのです。
「なぁ、フランク」
いかにも、『うっかり』バケツに足をひっかけ、ひっくり返します。
「ごめんなー」
誠意なく謝るデミア姉ですが、その顔すらキュートなのは、何の呪いなのでしょう。
こんな調子で、末妹のフランクは、姉たちに優しく愛されながら、毎日を過ごしていました。
そんなフランクにも夢がありました。それは、お城の舞踏会に出かけることです。
大きな体を小さくすぼめ、フランクはうっとりと夢みながら、流れ星さんにお願いします。
「城の舞踏会に行かせろ。城の舞踏会に行かせろ。城の舞踏会に行かせろ。くそっ、王子様に見初められて、悠々自適な生活が送りたいぜ」
それは、お願いというより、まるで呪いです。
しかし、3人の娘を養っていくには、ちょっとばかりゲープお父さんの稼ぎが悪いのです。
あ、忘れかけていましたが、マヤママは、新たな恋に目覚めて、もうパパを捨てました。
ある日、フランクが流れ星に掛けた呪いが利いたのか、お城から舞踏会への招待状が届きました。
けれど、何の手違いか二枚だけです。適齢期の順当さからしても、お姉さんたち二人が行くことに決まりそうです。
「コニー王子は、好みタイプじゃねぇんだけどなぁ……」
「だったら、俺が!」
お城のプリンセスになることを夢見るフランクは主張してみましたが、末妹を頭の先から足の先までじろじろと見たデミア姉は、ふんっと、鼻で笑いました。確かに、フランクは、キュートなデミア姉に比べれば、随分いかついですが、それは、それは、いかついですが、少なくとも、デミア姉ほど遊んでもいません。清く正しいフランクは、デカすぎますが、王子様のお嫁さんになるのに、全く問題ありません。しかし、
「……」
カスパ姉も、招待状を見ましたが、何のコメントもしませんでした。
フランクは、本当に、本気で、舞踏会に行きたかったのですが、ノーリアクションのカスパ姉にはどう突っ込んだらいいのかわかりません。
そして、舞踏会の日、着飾った姉たちが出かけると、フランクは、また天に祈りました。いえ、呪いました。
「城の舞踏会に行きたかったぜ。くそっ、うまいもんだけでも食いたかったなぁ」
すると呪いが利いたのか、通りすがりの魔法使い(トーマス・アンホフさん)が、いきなりフランクの前に現れました。
フランクもびっくりですが、かわいい女の子の願いを聞きつけたつもりでいたいい魔法使いのアンホフさんも驚いているようです。
「城の舞踏会に行き……たい? お前が? 本気なのか?」
人生経験豊な魔法使いのアンホフさんですが、あまりにいかついフランクがきゅっと肩を窄めて手を組み合わせたお願いポーズで、王子様のお嫁さんになりたいのなどと、夢見がちなことをほざいているので、眉間には深い皺です。
アンホフさんにじろじろ、じろじろと、強く品定めされ、フランクはデカい体を更に無理に縮こめ居心地が悪そうでした。
しかし、魔法使いのアンホフさんも、目の前の無駄なほどデカいのをどこかのお姫様のように仕立てなければならないという魔法使い人生初の難題にぶち当たったのです。
しかし、ふっと諦めたようなため息を吐き出したアンホフさんは、「……とにかくさっさと済ませよう」と、魔法のスティックを一振りしました。
フランクは、とびきりのドレス姿に変身です。
しかし、いくら魔法だとはいえ、アンホフさんの手持ちにフランクサイズのドレスがなかったようで、出てきたフランクのドレスはちょっときつくて、背中のボタンがはじけ飛びそうです。
「アンホフさん……」
「12時までには帰ってくるんだ」
フランクは遠慮がちに申し出ようとしましたが、きびきびと動くアンホフさんに取り付く島はありません。さっさと馬車を出し、御者を用意し、もう仕事は終わったとばかりに、自分は帰り支度です。
「あの……、アンホフさん……」
すっかり帰り支度の整ったアンホフさんは、事務的にくるりと振り返りました。
「12時に遅れたら、魔法がとける。覚えておくように」
きっちりと時間を切られたフランクは、必死にお城へ駆けつけました。
きらびやかなお城は、フランクの目にキラキラと映ります。
大広間で開かれている舞踏会も夢のようです。
しかし、フランクが目を皿のようにして探しても、目的の王子様がどこにもいません。
なぜなら、
「あっ、……んっ、………んんっ、……っあンあっ!」
舞踏会の開かれている大広間の隣にある支度室の壁に、王子様は必死に手を付いて体を支えていました。
「んっ、ァッ! いいッ……ん、ハッ……ん」
瞳の色に合わせた緑の生地に金の刺繍を施した上着も美しく、きっちりと結ばれたタイも乱れてはおりませんが、コニー王子の下半身は大変なことになっています。
ガンガン激しく立ちファックされる王子の滑らかで白い形のいいお尻は、太くて硬いものでヌチヌチと広げられたり、突き上げられたりしています。
懸命な様子でドアに縋りつく王子の美しい指には、それよりももう少し大きな手が重なっています。
柔らかく美しい金髪がしっとりと汗で濡れ、突き上げられるたび、コニー王子の額に降りかかります。
コニー王子は、舞踏会の会場で、細身で長身のとても美しい娘をみかけ、胸のときめきのままに、踊って欲しいと申し込み、うっとりと2曲、3曲とその娘とばかり踊っていたのですが、どれだけ話しかけても、相手は恥ずかしがり屋なのか、あまり口を開こうとしませんでした。
そこで、流した浮名は数知れずという経験に基づいたさりげない気遣いと、少々の下心から、人気のない場所に誘い出したのですが、すると、無口で恥ずかしがり屋なはずの娘が、いきなりふっくらと柔らかそうなコニー王子の唇を奪ったのです。
そのまま抱きしめると、カスパは、滑らかなコニー王子の首へと唇を埋め、柔らかな髪を何度も撫でました。
王子は状況の変化についていけず、動揺のあまりうつくしい緑の目を泳がせるばかりです。青い目でじっと見つめられると、コニー王子の目は、更に泳ぎます。
そこにミクロ単位の合意を感じ取ったカスパは、もう一度優しく口付け、くるりと王子の体をひっくり返しました。いつの間にか王子は、もう支度室のドア際です。
「コニー、あんた、すごくきれいだな……それに、いい匂いがする」
繰り返し返し項に口付てくる美人の口から低い声で発せられるくどき文句に思わず、くらりとなりかけていたコニー王子ですが、それは、王子がカスパに言おうと思っていたことでした。なんというか、もう、ひと目で、王子はカスパにメロメロだったのです。容姿がたまらなく好みでした。包み込むように抱きしめてくる大きな体からする体臭にも、いい匂いなのです。
しかし、ムードを重視する王子より、ずっと仕事の早いカスパは、もう王子の上流階級で育った柔らかな体を押さえ込むと、繰り返し返し項に口付けながら、下半身を乱してしまいます。
さすがに王子も慌てました。しかし、焦らすように触ってくる長い指のテクニックもたまりません。
「……無理、だ。そっちは、……したこと、ない」
屈辱的なことを告白しなければならない王子は真っ赤でした。けれど、剥き出しになったお尻は、真っ白でとてもおいしそうです。
「……いやか?」
カスパは、誘うように王子の項に何度も優しく口付け、口説きます。髪を何度も撫でます。
王子は陥落してしまいました。
「……いや、じゃ、ない」
と、いうわけで、舞踏会の会場からたったドア一枚分隔てられただけの場所で、恥じらいもなく激しい立ちファックが行われていたので、王子は会場から姿を消していたのですが。
フランクは、王子を探しつつも、見たこともないようなごちそうを口にし、結構満足していました。
しかし、刻一刻と、フランクの魔法がとける12時が近づいてきます。
とうとう、11時55分です。
困りました。シンデレラの話が進行しません。
あっ、助かりました!
どうやら、コニー王子とカスパのセックスが終わったようです。
支度室のドアを開け現れたコニー王子は、しっとりとした色気を増し、ふらふらの腰つきながらも、なんとか王子の矜持を保とうと懸命に顔を上げています。わかり難いですが、カスパも、少しばかり愛しそう目をして見つめています。
王子に気付いたフランクは、カスパ姉が側にいることにも勇気を得、良家の子女らしく静々と近づきました。
しかし、もう、58分です。猫なんか被っていられません。
「やばい! コニー王子! 俺と踊ってくれ!!」
時間に気付いたフランクは、周りのライバルたちをデカい体で蹴散らす勢いで突っ込み、コニー王子をなぎ倒しました。ふっとぶ王子は面子丸つぶれですが、酷使された腰がいうことを利いてくれないので仕方ありません。そしてそこで、12時の鐘が鳴り出しました。
約束事を秒刻みで守りそうな魔法使いのアンホフさんの顔がよぎったフランクは魔法がとけると慌てて走り出します。
お約束です。
フランクからガラスの靴が脱げ落ちました。
妹のあまりの様子に驚いたカスパも、フランクの後を追いました。意外ですが、カスパはこれで妹思いです。
舞踏会の会場に残されたのは、片方だけのガラス靴。
勿論、コニー王子は、残された異様にデカいガラスの靴を手に、誤解のままに格好よく囁きます。
「待ってておくれ、美しい人。きっと君を探し出すよ……」
王子は、盛大に『この靴の持ち主を私の妻とする』と御触れを出し、ガラスの靴の持ち主を探しはじめました。
その歩みは、初めてだというのに、つい頑張ってしまったファックによる腰痛のせいか、ゆっくりなものでしたが、とうとう、金髪も麗しい王子ご一行がフランクの家にもやってきました。
ガラスの靴を片方無くし、ねちねちと魔法使いのアンホフさんに文句を言われたフランクは、胸をドキドキさせながら、自分の順番がくるのを待っていました。
デミア姉には、大きすぎました。
無感動な様子で靴に脚を入れるカスパ姉にも少し大きかったようです。
さて、フランクの番です。
王子は、カスパをひと目みるなりあの時の娘だとわかったのですが、あの時の、カスパの手や、キスなどを思い出してしまい、動揺のあまり緑の目を泳がせるのに忙しく、言い出すことができませんでした。
しかし、フランクがまさに足を入れ、「ぴったり!」と、言う直前に、からくも動き出すことに成功しました。
さすが、ハンサムは決めどころをはずしません。
どうしても体にリアルに甦る初めて経験に顔は真っ赤ですが、王子は跪きます。フランクのデカい足から靴をもぎ取り、もう一度カスパの脚にすっぽりと嵌め直します。
「まさに、ぴったり。この娘に違いない! 私は、この娘と結婚する!」
いくらカスパの足が靴の中で余っていようと、お城の王子様などという尊いお方が、ずるをするはずはありませんので、勿論、高々とラッパは吹き鳴らされます。いえ、気付いていても、キラキラと幸せそうな王子のすることに知らぬ顔をしてやり過ごすのが、お城勤めの嗜みというものです。
「……」
王子に手を握られても、カスパは、わかりましたと返事をするため、口を開けたりしませんでした。
ですが、王子に求婚されながら断ることなどできませんので、これは手続き上、何の問題にもなりません。
靴に足をいれる形のまま、幸せから取り残されたフランクは、その後も、それなりな人生を生きています。
あっ、もう、デミア姉には、いじめられなくなりました。
あの晩、お城の舞踏会で全く見かけることのなかったデミア姉ですが、なんと、フランクと入れ替わるように家に帰り、思い切って、ゲープパパに告白していたのです。
どうやら、禁断の親子愛に悩み、その憂さ晴らしにフランクを苛めていたらしいのですが、かなり強引な方法でゲープパパを愛の杭で突き刺したらしく、近頃のパパは、さりげに肌が艶々しています。
ちなみに、お城のコニー王子は、もともとハンサムでしたが、近頃は近隣に鳴り響くほど、やたらと美しいと評判です。特に無口なカスパ姫が、となりで優しげな顔で笑う朝など、蕩けそうなほどの色香なようです。
こんな日々を過ごす、フランクは、無駄にときめいていたデミア姉への悩みもなくなり、すくなくとも、一つ肩の荷を降ろしたはずでしたが、新たなことで悩んでいます。
実の子相手なだけに、ゲープパパが、もじもじしながらも、あけすけに相談してきます。
「……なぁ、フランク、近頃の若い子は、……その、尿道プレイ……とか、そういうの、普通なのか? お前も、……好きか?」
今日も、フランクは、ため息です。
やっていられません。
END