秘密

 

ベッドルームの奥にあるデミアの物置部屋は、彼の他の部屋の中の様子とまるで変わらなかった。

「どうして並べようと思わないんだ」

何段もの空きの棚の下にいくつも積みあがるのは書籍の山だ。それなりにきつい普段どおりの訓練を終えた体に、気持ちよくアルコールを流し込んだコニーが、その山を崩さない程度に足で蹴る。山を構成するのは、大事にしているだろう本や捨てるつもりだろう雑誌、その上、新聞も、DMも、ごちゃまぜだ。だが、他の部屋と同様に、物置部屋自体に埃は少ない。

「せめて山を奥から年代順にしろっていうんだ……」

酒飲みたちの話題は、別チームの手際の悪さをからかいの種に盛り上がった挙句、訓練時代の話になった。そして、ふいにコニーが確か二人で撮った写真があったはずだと言い出したのだ。コニーと、デミアは同期だ。

男二人で入り込めば、窮屈だといえなくもない物置部屋で付き合い程度に本の山を崩していたカスパーは、小さく笑う。

「諦めるか? コニー」

カスパーが見る限り、デミアは、コニーに物置をかき回されることを積極的に歓迎してはいるようではなかった。勿論、そんなことは十分承知でコニーは、ずかずかと寝室の奥にある物置部屋のドアを開けたのだろうが。しかしもう、コニーは、自分の思い付きをかすかに後悔しているように見えた。カスパーは、酔いのためか少し眠そうな瞼をして、掛けられたデミアの洋服の趣味にため息など吐き出しているコニーを笑っている。

「今度の楽しみに取っておくというのも悪くないぞ? コニー」

だが、カスパーの提案にコニーが肩をすくめる間もなく、寝室のドアが大きな音を立てた。

 

「な、落ち着けって、ゲープ。何をそんなに焦ってるんだよ」

乱暴に閉められたドアの立てる音と、押し留めるデミアの少し焦ったような声。靴音は乱れている。

「ちょっと、待てって、おい! ゲープ」

物置部屋の二人は、外の揉め事を感じさせる空気に、まるで条件反射のように息をひそめた。ドアの外から聞こえるゲープを押し留めるデミアの声に、まるで普段の余裕が無い。どうやら気軽にドアを開けて出て行くわけにはいかなくなってしまったらしい自分たちの状況にコニーとカスパーは少し見開いた目で互いを見る。

「待てって! 落ち着け、ゲープ!」

物置部屋のドアは通気性をよくするため、細い板が斜めにはめ込まれたデザインが使われていた。コニーはすぐさまドアに近づくと、その隙間から外の様子を伺った。確かに、今日のゲープの飲み方はよい飲み友達とは言いがたかった。デミアは、そんなゲープを避けるように、離れた位置へと座っていたのだ。

「デミア、いいだろ。なんだよ。なんで焦らそうとするんだ」

まだ、コニーの視界に、外の二人は入っていない。だが、ゲープとデミアはまるで争っているかのような音を立ててもみ合っている。

靴の先が見えて、隙間から覗くコニーの視界に二人の全身が入った。ゲープは、デミアの短い後ろ髪をきつく掴んで、まるでのけ反らせるようにして拘束している。そして、次の瞬間、隣から覗くカスパーの横で、コニーの目の色が驚きに色を濃くするようなことが起こった。

「……嘘だろ?」

ゲープは困惑を顔にはりつかせているデミアを強引に抱きすくめ、強く唇を押し当てていた。しかも、別の場で見たならば、ゲープのやり方はあまりにも動物的だと、笑ってやりたくなるほど率直に、股間をデミアの腰に押し付け、自分の興奮を教えている。まるでデミアに抵抗を許さない力強さで押さえ込むゲープは、焦ったようなキスで何度も唇をデミアに押し付ける。

「デミア、あいつら、帰ったんだろ? じゃぁ、もういいだろ」

濡れた唇を開いたままのゲープが、デミアの足を割りながら、尻を撫でまわし、首筋に短いキスを繰り返して、抵抗に顔を背けるデミアの耳元で掠れた声を出す。

「帰ったっていうか、……帰ったけどな、ゲープ!」

二人が物置部屋にいると今更言い出すこともできす、必死に拒否はしているものの、興奮状態で押さえの利かないゲープに遠慮のない力で抑え込まれているデミアは、次第に部屋の奥へと押しやられていた。膝裏にベッドの端が当たり、デミアは、舌打ちしながら、視線を物置の二人へと流す。

 

デミアが自分たちを見ていると分かった瞬間、コニーの中で、驚きで封じ込められていた反応が甦った。

怒りだ。コニーの目が吊りあがる。

こんな馬鹿馬鹿しい出来事の目撃者とされた自分が、コニーは腹立たしい。しかし、

「やめろって、ゲープ!」

「デミア、拒否するな。お前には拒否されたくない」

デミアにしがみつくように抱きすくめているゲープは彼の顎を掴むと、無理やり引き戻した顔に口付け、デミアがコニーの怒りに燃えた目に気付くことは出来なかった。元より、部屋の中からは物置にいる二人など見ることもできない。だが、コニーの怒りは、デミアが自分たちの存在を承知しながらもゲープを押し留めることもできず、強引なキスに飲み込まれていることでさらに増し、カスパーは今にもドアを開けて出て行きそうなそんなコニーの肩に、そっと指で触れた。そして、静かにするようにと、そっと自分の唇へと指を当てる。

『お前、こんなこと許すのか! あいつらのこと知ってたのか!』

苛立つコニーが、それでも唇だけを動かして問いただすと、カスパーは静かに首を振って否定した。

『じゃぁ!』

知りたくもない同僚の面倒な秘密に関わりあう破目になったコニーの眉は跳ね上がっている。

カスパーは、コニーの息がかかる程の近さで、唇に当てていた指を動かし外のデミアを指差す。

確かにデミアの様子はこれが作為的な出来事ではないと語っていた。実際、デミアは懸命だ。

「ゲープ! そんな気になれないと、言ったよな?」

しかし、突き飛ばすようにしてデミアをベッドに転がしたゲープは、デミアの着ていたTシャツを毟りとるようにして脱がすと、太ももでデミアを押さえつけたまま、自分も身を捩るように胸を反らし脱ぐ。デミアは必死にそんなゲープを押し留めようとしている。

「やめろっ! ゲープ!」

「俺を家に入れたじゃないか」

「だから! お前と二人きりにならないために、他の奴らだって呼んだだろ!」

「帰ったって、お前がキスしたんだ。デミア」

ゲープは大きな両手でデミアの顔を掴むと、興奮に赤くした顔を近づけ、強引に口付ける。デミアは、ゲープを押しのけようともがく。

「……ああ、くそっ! なんでも都合よく受け止めるな。ゲープ! あれは二人が帰ったから、お前も帰れという意味だ!」

ベッドは、鍛え上げた体の男二人がもみ合うのに、大きく軋む音を立てていた。ジーンズのボタンを外させまいと身を捩りながら、ゲープの背を蹴り上げ怒鳴るデミアに、ゲープの拳が握られる。

少なくともコニーやカスパーの知るいつものゲープであれば、そこに溜まった力は、拡散された。しかし、その時のゲープの手は振り上げられた。激しい破裂音と共に、デミアの頭は吹っ飛ぶ。容赦なく張り飛ばされ、ベッドのスプリングに弾むデミアの頭を眺めるコニーは、一瞬息を飲んだ。

あまりのことにコニーはもう、外に出て二人を糾弾したり、この馬鹿な行為を留め立てする気を失っていた。こんな自分たちの関係をデミアが仲間に知られたかったとは思えなかった。少なくとも、これがマンネリを打破しようとデミアの画策した刺激的なプレイでないということくらいは、コニーだって信じられる。

 

「……嘘をつくな」

荒い息を吐き出すゲープはきつくデミアを睨みつけている。もう一度手を上げかねない空気を纏わりつかせながら、「……嘘だろ? デミア?」と答えを強要する。

デミアは張られた頬の痛みに呻いていた。だが暫く後に、大きく舌打ちした。

「……ああ、嘘だ。くそっ! あんまりお前がかわいそうだったから、ほんの少し慰めてやりたいような気になったんだ。でも! 帰ってもらうつもりだった!」

殴りつけたくせに、ゲープはよほど自分の方が傷ついた顔をしていた。もう一度舌打ちしたデミアは、物置のドアへと視線を流し、一瞬まるでコニーとカスパーに申し訳ないとでも謝るような気弱な笑みを浮かべた。そして身を起こすと、ゲープの腰へと腕を回す。

「痛いのは、俺の方だぞ。ゲープ。そんな泣きそうな顔をするなよ……」

デミアは鍛えられたゲープの腹筋に口付け、そのまま腹に生えた毛を辿るようにしてくぼんだ臍へとキスで舐め上げていく。まるで労わるかのような、優しいキスをデミアが繰り返すと、ゲープの腕がデミアを抱いた。切羽詰ったような切実さでデミアを締め上げるため使われていた太腿からはやっと過重な力が抜けたが、ゲープはまだ抜け目なくデミアを押さえつけている。

ゲープは、上から圧し掛かるようにしてデミアにキスを強要する。キスを続けながら、自分でジーンズを脱ぎ落とす。そして、デミアの手を捕まえ、勃起したペニスを掴ませる。

デミアの手がそれを握った瞬間、びくりと反ったゲープの腰には、色気があった。獣のように息を荒くして隊員に圧し掛かっているチームの隊長に対し、そんなことを思ったコニーは、この場の空気にのまれている自分に苦く気付いた。そして、そんな自分にカスパーが気付いたのかどうかが気になった。だが、コニーが見上げれば、カスパーの目は、まっすぐに前を向いており、青いカスパーの目は、コニーのようにこの場を圧倒している濃厚な興奮にも引き摺られている様子ではなかった。その目はただ目の前にある光景を見ている。カスパーの目には特にどんな感情も浮かんではいない。こんな場にあるには、カスパーの目はあまりに平坦だ。だから、コニーは思い出した。

 

『無理じゃねえ? カスパーは観賞用としてお前のこと好きなんじゃねぇの? どっちかっていうと、まだゲープの方がカスパーの好みな気がする』

まさか嗅ぎ付けられるとは思わなかった、ちょっとした気まぐれで実行した挙句味わったコニーの屈辱の経験を、デミアはたった一日のコニーの落ち着かない精神状態から見破り、親友じゃないかとにやにや笑いながら肩を抱き助言までした。あの日、デミアの袖のボタンが自分の肩を擦った感触までコニーは思い出せる。

『コニー、カスパーのさ、男であれ、女であれ好みのタイプを見る時の目に気付いてないのか? すごく冷静だぞ。まるで肉の塊でも見てるようにさ。なのに、やたらと観察してるんだ。ちょっとぞっとする。あんな風に人のこと好きになる奴は、コニー、お前がいくら気まぐれを起こしたところでお前の手には負えないと思うぜ?』

 

チーム50のリーダーであるゲープに取って代われるだけのこんなスキャンダラスな現場にいながら、野心家のはずのコニーが、それを暴き、隊長の座を奪い取る権利を行使することはできなかった。なぜなら、複雑な感情処理を必要とすることになった最悪の経験の一部をコニーは異様に目ざといデミアに掴まれた。しかも、同情までされた。

 

だが、こんな動物的な光景の目撃者として巻き込まれながら、感情の漣をまるで立たない冷徹な目で、カスパーがゲープのセックスをじっと見ているのを見ていれば、コニーもデミアの鋭さに納得せざるを得なかった。

見られていることに気付いたのか、カスパーがコニーへと視線を向けた。少しだけカスパーの口角が上がる。

瞳は、足を絡めあって、互いをまさぐるゲープとデミアに、仕方のない奴らだよなといでも言いたげに、緩い光を宿した。覗きには最適な構造のドアの前に立ちながら、コニーは自分を認めて、いつもの信頼できる仲間の表情を取り戻したカスパーの目に強い苛立ちを感じた。いや、それは正しくない。怒りの矛先は、こんな状況の発端となっているゲープに向いていた。しかしまだそれでもコニーの苛立ちを正しくは言い表してはいない。コニーは、今、ベッドの上で、デミアにペニスと尻を揉ませ、遠慮なく声を上げながら、腰を揺らしているゲープに対しての嫉妬心で苛立っていた。

カスパーはゲープの様子を眺めていたようなあの目で決してコニーを見ないのだ。

 

カスパーに見つめられたままコニーが、持つ必要などないゲープに対する嫉妬心を切り捨てようとし始めると、コニーの中にさすがのデミアにも見通すことのできなかった結束バンドの痛みがむず痒く甦ってきた。あの時、繋ぎとめられた両腕に、激しい屈辱と苛立ちだけを感じた自分を、今だってコニーは正しいと評価する。何度振り返ろうと、コニーが選ぶ答えは同じだ。だが、同時にそれにコニーが悔しいような気持ちになるのも事実だった。カスパーには、今上手くいっているパートナーがいる。そして、コニーはカスパーの嗜好についていけない。

明白なそれを、コニーは何故か受け入れ難く思っている。

カスパーは、コニーが言い出して行われたカスパーの特殊な性癖に合わせたあの時ですら、あの目でコニーを見なかった。カスパーは、コニーに困惑の目を向ける。

もしカスパーのセックスが、今、ベットでもつれ合っている二人のアレと同じならば、コニーにも楽しめた。いや、アレでなくとも、コニーにだって時間さえかけて慣れさえすれば、カスパーの嗜好を楽しむことできるはずだ。

 

カスパーはあまりにじっと見上げるコニーの様子に、困ったように瞬いた。優しく咎めるような目でカスパーが、コニーを見つめる。それでも、あまりにコニーが視線を外さないせいか、大きな手が伸ばされ、コニーの髪を緩く撫でた。その手は、後ろ髪を撫で、落ち着かせるようにコニーの首筋に触る。カスパーは、口元だけを動かして『大丈夫か?』と、尋ねる。

コニーはカスパーの手を捕らえ、指先に口付けた。

 

言えば、コニーは、相手が誰であれ、自分が観察対象になるのなど、真っ平なのだ。羨望の目で眺められるのならまだしも、カスパーは、ただ“見る”のだ。それなのに、コニーは、肉の重みでも量るかのようにゲープを見定めようとするカスパーの目が、同じように自分を見ないことが腹立たしかった。ゲープと自分のどこが違うのか。

デミアに向かって、足を広げたまま、早く来いと焦った顔を赤くし、汗をかくゲープに自分を重ねてみることはコニーにとって難しかった。だが、むさぼりつくようなキスでチームの同僚を急かしながら、デミアの腰を両足で締めるゲープを確かにコニーは羨んでいる。

もし、カスパーがあの目をしてコニーを見つめているのであれば、もしかしたら、コニーにもきつい結束バンドでベッドにつながれたままであることが、我慢が出来たかもしれない。

コニーはなぜかそう思うのだ。

 

デミアは気味が悪いと言ったが、コニーには多少想像が出来た。

カスパーはあの目で、常に測っているのだ。自分の嗜好の特殊さを知っているから、見逃さす相手の状態を見極め、限界を超える前に手綱を緩める。

絶対に痛みを永遠にはさせない。けれど、痛いと、泣かせる。

 

かなり困難なことであるが、もし、コニーが見守るカスパーに何もかもゆだねることが出来たならば、その時は、あの目にきっと安堵する。

 

コニーの行動に、不思議そうな顔をしていたカスパーが小さく口元を緩めた。カスパーは、コニーの異変の理由を突き止めたのだ。視線は、わずかにだが興奮を示すコニーの腰へと落ちている。

だから、コニーは、わざとらしいほど格好をつけて、自分の唇にそっと指を当て、カスパーに静かに前を見るようにと促した。顎をしゃくり、ドアの外を示す。外は、こんな状況で覗きを強要されている者が、煽られるのも無理のない状況だった。家庭に問題を抱え、欲求不満に陥っているゲープは、抱き合ったままペニスを擦りつけ合っているだけではもの足りなくなったようで、自分から四つん這いになっていた。

そんなゲープは多少の音を立てようとも、物置の中の二人に気付くとは思えなかったが、デミアは繊細なようだ。デミアは、ドアの中の二人が気にして、ゲープを不満がらせる程度には意識が散漫になっている。この上、コニーたちが音など立てようものなら、デミアのものはゲープに殴られかねない状況に陥らないとも限らない。

いや、実際にデミアに集中させない原因は、無理やり視姦者とされた二人の存在ではなく、その腕に抱くゲープ、その人なのかもしれなかった。職場の仲間にすら、たまにデリカシーの不足を感じさせるゲープの性格は、もっと親しい関係の人間を傷つける種類のものだった。デミアはとうとうその問題を深刻に捕らえ始めているようだ。けれど、デミアはとても愛しげにゲープの背を撫で、抱きしめる。

「ゲープ。俺が怒ってたってのは、わかってるんだろ?」

デミアは、うつ伏せるゲープの尻に勃ち上がったペニスを擦りつけながら、恋人の耳を甘噛みするようにして掠れた声を出した。だが、ゲープは、

「……早く、しろっ。デミア!」

「ゲープ。確かに俺は、あんたが好きだが、俺は、あんたが好きなときに殴ったり、抱きしめたりできるクッションってわけじゃない」

ゲープの手は、固く盛り上がる若々しいデミアの尻を掴んでいた。尻の間を擦る太くて硬いものを、気持ちよくなれる出来る場所へと納めたがってしきりと動き回っている。しかし、デミアをなかなか思い通りにすることができず、焦れたらしいゲープの手は、自分の股間へと伸びる。くちゅくちゅと音を立てるものを扱きながら、汗まみれのゲープはデミアを睨む。

「今は、そんなことっ、どうだって、いいだろ」

 

潤んだ目で言いきるゲープのあまりに身勝手な言い分は、無関係な立場でこの会話を聞かされているコニーをすら、呆れさせた。ゲープには目の前のセックスしか見えていない。生来の口下手もあるだろうが、これはあまりに酷い。だが、同時に、ゲープのプライベートな面をこれほど性質の悪い人間にしたのはデミアに違いないともコニーは思った。

「早くっ! 早く、デミアっ!」

これだけの態度を取りながら、ゲープは、デミアの愛情を失うなどとは全く考えてもいないようだ。ゲープはシーツを叩き、急かす。

ゲープは、自分でさえ手に負えない自分をデミアへと全て預けてしまっている。

やはりデミアはゲープに腹など立てない。

「……ああ、もう、くそっ、俺が話してるんだ。少しは我慢しろ。……じゃぁ、今じゃなくていい、いつか、絶対に考えろ、ゲープ」

叱りながらもデミアは手荒くゲープの腰を掴み上げ、尻を大きく開くと、引き伸ばされた皮膚に薄赤い、尻の穴へとペニスを埋めていく。そして、急に泣き笑いのような表情で顔を上げた。

「お前っ! ゲープ。お前、ゴムのジェルだけだってのにどうしてこんなに簡単に入るんだ!……くそっ、もう、本当にお前は!」

「……っ、仕方、ないだろ。お前が、家にっ、入れないから、自分でっ、やるしか」

ゲープはもっと欲しがり、自分からデミアへと尻を押し付ける。

「だからって、こんなに楽に入るなんて、夕べだけじゃないだろ!」

ゲープはペニスの動きを止めてしまったデミアを首を捻り睨む。

「お前っ、……幾日、俺を、部屋に入れなかった?」

目を欲情で濡らしながら、ゲープがデミアをなじる。

「お前のせいだ。デミア」

デミアの顔が情けなく歪む。

「……頼むから。ゲープ。……頼むから、喧嘩したそのまま、俺の部屋に来ようとするな」

デミアは、汗で髪をはりつけるゲープの項に口付け、ゲープの望みどおり、全部を中に埋める。

「……っあ」

ゲープの喉が満足そうな音で鳴る。

 

暫くはゲープもまるで祈るように背を抱くデミアに大人しく抱かれていた。けれど、ゲープはやがて首をねじり、キスを求めはじめる。

「悪いとは、思ってる。デミア……」

浮かされたように言うゲープは忙しなく唇を合わせる。

「デミア、悪い。言い過ぎた」

「いいや、……ゲープ。あんたは悪いなんて思ってない」

その意見に、コニーも賛成だった。ただ、ゲープは待てないだけだ。デミアがキスに応えてやれば、ゲープは次第にもっとと、激しく求めだし、それは落ち着かない下半身も同じだった。コニーたちを率いるチーム50の隊長は、全く、作戦中と変わらぬタフさをベッドで披露する。

 

 

このまま泊まるというゲープをベットから引きずりだして、デミアが靴を履かせることに成功したのをコニーはまるで奇跡のようだったと皮肉った。

「全く、すごいものを見せてもらった」

コニーは、物置部屋で二人のセックスに煽られていた自分を露ほどもみせなかった。そして、いつだって気の利いた切り替えしをするデミアがさすがに今日は気まずい顔で笑っている。

「……悪かったと、思ってる。わかってくれていると思うんだが……ゲープにこのことは」

「写真は見つけた」

カスパーは、必要のない口止めをしようとしたデミアをさえぎり、訓練後の優良証書をもらえると確信した若く傲慢なデミアとコニーが肩を組んで笑っている一枚を手に、苦笑した。

「確かに、腐れ縁って感じの一枚だな」

僅かにデミアの頬が緩んだ。

「コニー……、お前がこんなのを見たがらなきゃ」

コニーの眉間に皺が寄る。

「……お前、俺のせいにする気か?」

 

 

すっかり酔いのさめてしまったコニーとカスパーは、本部に戻り、それぞれの車で帰ることにした。しかし、コニーは、自分の車へは向かわず、カスパーの助手席に座り込む。そして、駐車場を照らす照明も気にせず、カスパーに口付ける。

「なぁ、俺もゲープと同じ妻帯者だ。カスパー、お前も、デミアみたいに帰るなって泣け」

 

本当に久しぶりに、カスパーが、コニーに口付けた。

 

 

End

 

 

好きカプ2組をいっぺんに楽しんで書ける話とか、いいんじゃない?と気軽に書き始めてしまったもので、

Noteに書いてた妄想を踏まえたような、踏まえてないような曖昧設定のままの話ですみません……。