ファルク×ゲープ 1

 

いきなり唇に吸いつかれて、ファルクはぎょっとした。

入ってきた舌に、つい反射的に自分の舌を絡ませてしまい、ますますぎょっとする。

冗談じゃない。

一度くらい、ゲープとまともにキスしたりしながらやってみたいと思っていたのは確かだが、いくらなんでも唐突すぎる。

「・・・・っ、おい!」

ぐいっと押しのけると、なんだ?という不服顔でゲープが唾液に濡れた唇を尖らせた。

「なんだよ、今の」

「なにって、キスだろう」

「バカ。そうじゃない」

「馬鹿とはなんだ」

ゲープはもう額に青筋を立てている。

同期のファルクと一緒にいるとき、ゲープは意外に短気だ。きっと忍耐力を、仕事と家庭で使い果たしているに違いない。

こういうときは、ファルクがなけなしの忍耐力を発揮するしかなかった。

「俺はな、なんでおまえが俺にキスするんだって聞いてるんだ」

「・・・・・・・・・・」

ちょっとばかり微妙な長い沈黙の後で、ゲープはやっと口を開いた。

「実験、だ」

「はあ?」

何の実験だよ、とファルクはツッコミを入れた。

ほんの、軽い気持ちでだ。

だが。

「・・・・ゆうべ、デミアとセックスしたんだが、」

ぎょっとした、などというものではなかった。

心臓がとまりそうなくらいの衝撃だ。

「あいつがやたらキスしてきてな、」

なのにゲープの口調は、ゆうべカレーを食ったんだが、というのとたいして変わらない。

「それがけっこう、きもちよかった」

「・・・・・」

「で、おまえとキスしてみたらどうなるかと・・・・」

「おまえ・・・・っ、」

実験、という言葉の意味を正確に理解して爆発寸前のファルクをちらりと見、ゲープは肩をすくめてみせた。

「怒るなよ。キスぐらいで」

おまえが嫌ならやめとく、とマジメな顔で気軽にいうゲープに、ファルクはふつふつと怒りがわいてくるのを感じた。

 

(つづく)