エプロン
確かに、コニーには、この方法ならカスパーがドアを開くことを知っていて、そうした。
そして、カスパー本人は気づいていないようだが、こういうシュチエーションに、カスパーがその気になりやすいこともわかっていて、そうした。
画面の中のレースは、順位の入れ替わるチャンスがなかなか訪れない。
川を挟んだ遠くの教会で、小さく鐘を鳴らす音が聞こえて、時計に視線を向ければ、時刻は丁度頃合いだった。
コニーは深く腰掛けていたソファーから立ちあがる。
「そろそろ何か食うか? 何がいい?」
普段料理を好んでするわけでもないコニーに、何かが作れるわけではないのに、コニーは自信たっぷりにカスパーに言った。ソファーに残ったカスパーは、手を伸ばし、持ち込みの材料の袋を手に狭いキッチンに向かおうとしている背中のために、テレビの音量を少し上げる。
「予定のものを、そのままに」
「欲のない男だな。言ったらすごいものが出てくるかもしれないのに?」
カスパーのキッチンのいつかのパーティの忘れ物として置かれたままになっているカフェスタイルの黒いエプロンを、コニーは腰に巻きつける。
持ってきたパンにバターを塗り、癖の少ないステッペンチーズを一枚だけスライスし、それを指先でちぎった。ボールに入れる。割った卵と一緒にかき混ぜ、ハムを切った。なんのことはないホットサンドが、コニーにできる唯一つの料理だ。
カスパーが狭いキッチンにいるコニーのそばへと寄ってくる。
やはり、コニーの予想通りだった。
なぜか、この男は、誰かが料理する姿が好きなのだ。その誰かには、コニーも含まれる。
ずっと以前、腹の減ったコニーが、この狭いキッチンを荒らした時も、いつの間にかカスパーは近づいていた。その時は、見張っているのかと、むっとしたコニーだが、それは違うともう知っていた。
遊びに行くついでに、飯を作ってやろうか?といえば、時に、はっきりとコニーの来訪に対して迷惑そうな顔さえするカスパーはドアを開けるし、キッチンに立つと言えば、表情を緩めて頷く。
今日も、後ろからコニーの手元を眺めていたカスパーは、いつの間にかコニーのすぐ後ろまで近づいている。
緩く抱きしめられ、項に押し当てられる唇に、コニーの体が震える。
しかし、それを、カスパーに気取られるわけにはいかなかった。
コニーは、邪魔するなと笑いながら、カスパーの腕から抜け出そうとした。
確かに、コニーは、どうしようもなく、カスパーが好きだ。
しかし同時に、どうしてもコニーは、カスパーよりもひとつ自分が年上であるという事実が気になっていた。この4番が、ぶざまな新人としてGSG−9へと配属された時から知るだけに、その一年は、大きい。現在の階級差もあって、コニーはまさか、自分から愛を乞う気にはなれない。
「腹が減ってるんだろう、カスパー?」
その点、カスパーは、コニーとの階級差や年の差を、まったく問題にしなかった。場所がキッチンでさえあれば、カスパーはコニーの思うままだ。
逃げようとするコニーの体を腕の中に囲って逃がさない男は、やわらかな金色が覆う項を軽く噛むようにしながら、エプロンの下へと、もう手を伸ばす。
固いジーンズの生地の上からだが、股間を撫であげられる羞恥で思い切り体を強張らせたコニーを、年下はかすかに笑った。
項に押し当てられている唇から、笑いの震動が伝わり、コニーの頬には赤みが差す。
それを見られたくなくて、身をよじる。
「コニー、動かない方が」
エプロンの下に隠されたコニーの前の硬い部分を撫でながら、カスパーが言った。
耳の後ろにキスをする男が軽く顎で示した先には、先ほどハムを切り分けたナイフが放ったままだ。それは、あまりキッチンに立ったことのないコニーの手際を示して、落ちてしまいそうな危うい位置に置かれている。
コニーの目がナイフの位置を確認している間に、カスパーの手は、ジーンズのジッパーにかかっていた。
外されたボタンと、ジッパーの下がる音の大きさに、恥ずかしさが込み上げ、コニーの体にはさらに力が入る。
ジーンズの固い生地をかきわけた手が、下着に触れる。
「濡れてる。期待してたか、コニー?」
意地の悪さが全くない声で聞かれるのが、さらにコニーを追い詰めた。腹立たしさすら感じ、息がはやくなる。
「違う。期待なんてしてない」
自宅のキッチン以外の場所では、上位の同僚としてしかコニーを扱おうとしない男には、どんな期待もできない。
下着が濡れたのは、カスパーがジーンズ越しにいやらしく撫でまわしたせいだ。
コニーは、思いあがった年下に思い知らせてやるために、下着越しに硬くなったものを揉みしだく手を掴んでもぎ放してやろうとした。
しかし、この年下は、極力労力を使わず済ませる方法を無意識にいつも採択していく。コニーの手がカスパーの乾いた手を捕まえる前に、あっけなく下着は下げられた。
太ももの半ばあたりに纏わりつくようにして下ろされたジーンズと下着に、ひやりと冷たい空気が尻を撫でる。
エプロンの割れ目の間で剥き出しとなった尻へと、しっかりと硬い感触を分からせるものを押し付けられて、かっとコニーの頬は火照った。
高ぶったぶざまなペニスを触らない手が、布の下に隠された陰毛を焦らすように撫でてく。そのくすぐったいような感覚は、ただ、ひたすらコニーを恥ずかしがらせた。
握って、扱いてほしい。できれば、その硬くなっている股間を俺の尻の間を擦りあげるようにしながら。
そうして欲しいのに、だが、カスパーは、抱いていた腰を離して、コニーの足元に屈みこんでしまう。
腰に巻いたエプロンの下でいきなり咥えられ、コニーの喉が小さく鳴った。
「カスパー……!」
咥え込む口内の熱に慣れず、コニーがカスパーの頭を押さえつけ、もがいているというのに、もう、カスパーの手は、小気味よく引き締まったコニーの尻を掴み開かせ、窄まった小さな穴の中に指を潜り込ませる。
鼻を刺激する匂いは、床に置かれたオイルの瓶のせいだ。コニーはパンにバターを塗りながら、それを台の上に見ていた。だが、新人だったころから、万事につけてそつなく手際のいいこの男は、いつの間にか、位置を移している。
感じた腹立たしさは、首尾よく動く舌と指のせいで、揺れてしまう腰の動きへと変わってしまった。
下腹がぞわりと熱くなり、思わず声が出そうになるほど、カスパーの舌が、いい位置を舐めていく。狭く湿った場所を無遠慮な二本の指がこじ開け、性器を受け入れられるようにするため、コニーの中をかき回し、広げていく。
重ねて入れられた二本の指が回され、ぐるりと位置を入れ替えるたびに、コニーは唇を噛まなければならなかった。
長めの丈の黒いエプロンの下から見えるカスパーの耳の形が、コニーを欲情させていた。
薄い唇が、高ぶり硬く張りつめたものを深く咥え込んでいる。
だが、もっとと思ったところで、コニーの後ろを緩めていたカスパーの指は、ゆるゆる抜け出ていってしまった。
「……っ、!」
もっとして欲しいのだと口にして、自分がこのセックスに夢中なのだと教える気のないコニーは、顎で示された床へとのろのろと、両手をついた。
息がはずんでしまっていた。その息の音が恥ずかしく、コニーは目をつぶる。
「なぁ、コニー、あんた……」
背後からコニーを抱いたカスパーは、コニーのうなじに唇を寄せた。
だが、コニーの表情からカスパーが懸念を抱いたところで、床に這う年上は、噴き出した汗でしっとりと体を濡らし、高ぶったペニスの先からはいやらしく滴を垂らしていた。
年下は、形よく引きしまった年上の尻に、自分の高ぶりを押しあてた。盛り上がった丸い尻を両手に掴んで、大きく開かせた谷間に擦りつければ、一瞬にしてコニーは腰のあたりまでかっと赤く染め上げる。
汗の匂いが立ち上り、カスパーは、白いシャツに皺を寄せ乱すコニーの背中にキスしたくなってエプロンの紐に締め付けられたシャツの裾を引っ張りし、めくりあげた。
やはり背中も赤い。
湿った肌に唇を押しあてれば、コニーは口を開いて、早い喘ぎを漏らす。
キスを重ねるほど、背がそり返る。
カスパーは、きつく前を押し上げている自分のものを取り出した。
濡らして広げた窄まりに、先を押し当て、きつく寄った皺の中心へとうずめていく。
「……んっ、……は、……っん」
「コニー、……もう少し、体から力を抜いてくれ」
コニーは、久しぶりに自分の中を埋めるものの質量の大きさに、逃げそうになる体をなんとか持ちこたえようとしていた。
もう少し体が馴染みさえすれば、こうされることは快感だ。しかし、頻繁ではないセックスは、コニーの体にカスパーの形を忘れさせ、本来使用するべきでない場所を硬く深く穿たれる違和感は、毎回コニーに内臓を押し上げられるような不快感を押し付けた。
じわじわと体の深い部分までもこじ開け、押しこまれるペニスの重量への辛さから、緑の目尻には、涙が溜まっていた。
やっと尻にカスパーの腹を感じて、根元までねじ込まれたのだと、コニーはほっとする。
とりあえず、毎回、カスパーはここで待ってくれた。それほどひどい男でもないカスパーは、今回も背中に覆いかぶさるようにして、コニーの息が落ち着くのを待っている。
息に合わせて大きく膨らんだりへこんだりするコニーの腹へと当てられていたカスパーの手が、なだめるように少し萎えたペニスを撫でてくる。
サイズが小さくなった分、中に溜めていたカウパーが零れ、カスパーの指が濡れるのが、コニーは酷く恥ずかしい。くすぐるようにやさしく扱かれれば、正直にもぴくぴくと震えてサイズを大きくしていく自分のものがもっと恥ずかしくてたまらない。
尻に嵌まったものを大きいと感じても、痛いとは感じなくなったところで、ずるりとカスパーがペニスを引き抜いた。
「っぁ……」
それだけで、ぞっとするほど快感を感じ、コニーは肌を総毛立たせた。
形のせいなのか、カスパーに中で動きだされると、コニーはもうどうしようもない。いいと感じる部分はもれなく刺激され、腰の奥深い部分から、とろとろに溶かされてしまった。
とたんに力の抜けた下半身を、つかんだカスパーに、突き入れられ、もう、コニーは声を抑えられない。
「っあ、あ!」
連続して尻の穴を穿たれ、がりがりと床に爪を立て懸命に堪えたが、コニーはとうとう尻を開いたまま、床にうっぷしていた。
角度を低くした腰に、ペニスは、巻いたままのエプロンの生地を感じる。
腫れあがったように熱を持ち、どこを擦られても気持ち良く感じている中を無慈悲に抉るペニスの感触に、泣きだしたいほど感じているコニーは、自らそれに腰を擦りつけた。
出して終わりにしてしまいたくて、自分が漏らしたもので濡れるエプロンに、ペニスを擦りつける。しかし、その腰の動きで、中のカスパーをさらに感じて、コニーの口からは、断続的に声が上がってしまっていた。
「……っア、っ、っハ、! あ!」
エプロンの割れ目から白い尻を晒して腰を振るコニーに、カスパーは突き上げていた尻を強く掴んで、動きを封じた。入れやすいように角度をあげさせた形のいい尻の小さな窄まりにずぶりとペニスをねじ込みながら、覆いかぶさった体に身長差を生かし、柔らかな金色の頭から始めて、ワックスの禿げてしまっている床へと擦りつけられたなめらかな頬へとキスをしていく。
「……コニー」
あまりに深い挿入に、カスパーの手の中にあるコニーの尻はぷるぷると震えていた。
床では喘ぐ口元を閉じられない緑の目が、呼ばれた名に、戸惑いで揺れている。
カスパーはさらに接合を深め、コニーに悩ましく腰をよじらせながら、柔らかな唇へとほんの一瞬だけかすめるようなキスをした。
わずかに腰を引いただけで、コニーがいってしまったのは、そのすぐ後だ。
「……っ、っは、……! ……んっ、……!!」
「ほとんど出来上がっているんだ。残りはお前が作れ」
俺が戻って来るまでにだ。
言い捨てたコニーは、少し疲れた顔を隠すように俯いたまま歩いて行った。
体の内側まで使わせるセックスをしたのだ。コニーが先にバスルームを使いたがっても、カスパーに文句を言う気はない。
ただ、カスパーは不思議なのだ。
いつだってコニーは、隙をわざとカスパーに見せる。
それでコニーにどんなメリットがあるのか、カスパーにはわからない。
だから、悪いがカスパーは、きれいな顔のこの同僚が信用できない。
END
ただのエプロン萌え。
えーっと、このカスパはエプロンフェチでもありますが、結構コニのことが好き……です(えっ?……滝汗)