同居中、ときたまの風景。

 

ドアを閉めた玄関でそっと手を握られてしまった。

帰りの車の中でも、ちらちらとこちらを伺うゲープに気付いてはいたから、予想できる範囲のことが起きただけだが、やはり面映い。ゲープは手を握ったまま、ちらりとこちらを見て、照れくさそうに笑うと、その時は、それだけで手を離してしまう。

靴を脱ぐと、さっさと自分の荷物を片付けだす。普段、床に放り出したままにしがちなカバンをだ。

ゲープは、片付けながら、今日の晩飯は何を食べようかと言い出す。

適当に返事を返せば、自分からいくつかの提案をし、それどころか、冷蔵庫まで覗き込んで、できるだけデミアに負担の掛からないメニューを口にする。皿の準備など、夕食の準備を手伝い、その上、後片付けまで手伝い、そして、風呂場の掃除までして、先に入っていいと、普段に比べて随分家主に対して親切だ。

 

シャワーを終えたデミアが、ソファーに座りテレビを見ていれば、髪を拭きつつ戻ったゲープが少し困った顔をして、「それ、見たいのか?」と聞く。

「別に、見たいわけじゃない。お前のこと待ってただけだ」

デミアは画面から目を離し、ゲープに笑いかけた。

実は、ソファーに腰掛けるデミアの尻は、あまりにゲープが機嫌を取るような態度をとってくるので、もぞもぞとこそばゆい。

どうして、こうゲープが親切かといえば、セックスがしたくて、デミアの機嫌をとっているのだ。

一言、言えば、それですむことなのにと、いつもデミアは思うのだが、十数年の結婚生活は、ゲープに意外な習性を身に着けさせていた。

パパは、したい日には、せっせと家事を手伝う。

十分デミアの機嫌を取った後に、やっと誘いにくる。しかし、それも、まだ遠慮がちにだ。

デミアが笑いかけただけでそれ以上のことをしないと、マッサージをしてやると言って、肩に触れる。

「なぁ、デミア……嫌なのか?」

この時の、少し拗ねたようなゲープの唇を突き出した顔がデミアは好きだ。

実に底浅く、下心の見え透いた親切心も、同じ男の身では、笑いが込み上げてくるだけだ。

「嫌なわけねぇじゃん」

ちゅっと、キスの形に唇を尖らせば、ゲープが自分から顔を寄せ、吸い付いてきた。

こういうのも、こんな日限定のキスだ。

 

「なぁ……ベッドに行かないか?」

まだ9時30分に、この台詞をゲープは言い出す。熱っぽくて、少ししつこいキスの合間に。

「連れて行ってくれるか?」

手を繋いで、ベッドルームまで先を歩くゲープの、少し赤い項とせっかちな肩が、デミアは大好きだ。

 

 

 

END