デミアの疑問

 

「何だ? どうした!?」

寝たとばかり思っていたゲープの重みがいきなり腹へと圧し掛かり、驚きでデミアは目を覚ました。

「しー」

しかし、デミアの腹に馬乗りの隊長は、尖らせた唇から息を吐き出しつつ、指を押し当て、黙れのジェスチャーだ。何か起きたのかと、デミアはとっさに身を起こそうとしたが、ゲープは胸へとそっと手を置いて押しとどめる。

「デミア、眠いか……?」

ゲープの様子をうかがいつつ、デミアは、不審な物音に耳を澄ましていた。

「ん? ……まぁ、寝てたからな」

しかし、どこからも何の音も聞こえない。不審な気配もない。

その前に、今晩、この寝室の隣にあるリビングでは、ゲープの部下であるチーム50の隊員2名がソファーと床に転がっていた。確かに2人とも、自宅に帰るのが面倒に感じる程には飲んではいたが、それでもこの部屋に何かあったのであれば、とっくに大きな音がしているはずだ。

「あのな、……したくないか?」

辺りの気配に気を配っていたデミアは、ゲープの小さな声を聞き逃すところだった。

しかし、じっと見下ろす茶色の目を見上げれば、デミアの都合のいい聞き間違いではなさそうだ。

「……ゲープ?」

突然のお誘いを受け止めかねたデミアは、とりあえず、目を擦り時間を確かめようと枕もとへと反り返ろうとした。しかし、それができなかった。そうする前に頬へと手を伸ばしたゲープの顔が急に近付いてきたのだ。

柔らかなゲープの唇が頬へと押し当てられる。

「ゲープ?」

唇は、何度も繰り返し頬へと押し当てられた。

キスの合間にじっと見つめてくるゲープの茶色い目に篭る熱を見れば、何がしたくないなのかに気付かないほどデミアは鈍くはなかった。

だが、デミアは、今、したがるゲープの心理に心底驚いていた。隣室とはいえ、薄い壁越しに仲間が眠っている。明日も顔を合わす同僚だ。

「……ゲープ? ……隣、いるんだぞ?」

別段、同僚にいつドアを開けられるのかわからないような、今、しなくとも、別居中の落ち着き先として転がり込んできたゲープはもうこの部屋に住んでいた。

二人はいつだって一緒なのだ。したいのなら明日の夜だってできる。いや、なんなら、朝早くカスパーとフランクをたたき起し、一旦家に戻ってから出勤しろと言いさえすれば、その後にだってできた。何も具合の悪い、今、しなくてもいいのではないかと、ゲープの気持ちが、デミアにはさっぱりわからない。

「いやなのか?」

だが、ゲープの方は本当に、今、したいようで引く気をみせず、思わずデミアが、自分の腹の上のゲープのスエットの腰を確かめれば、そこも、したいと大きくなっていた。

ゲープは、自分の状態を見られていることをわかっていて、いや、いっそ、だからさっさと承知しろといわんばかりの堂々とした態度で大きく足を開いたまま、デミアの耳の後ろを指でまさぐっている。

「デミア……」

かすれるような小さな声だとはいえ、何度も誘いのキスを繰り返す口に甘く名前を呼ばれれば、デミアは嬉しかった。しかし、今は、まずい。

まさか、ゲープがそれをわかっていないとは思わなかったが、もう一度デミアは言ってみる。

「……隣に気付かれるぞ」

しかし、隊長は良識的な3番の態度にご不満の様子だった。

むっと唇を尖らせると、いきなりデミアのスエットの下に手を突っ込む。

「ちょっ! おい!」

下着の中まで手を突っ込まれ、いきなり握られたデミアは慌てた。

「お前、何考えてるんだよ!?」

「なんだよ。いつもやりたがってるくせに、嫌なのか?」

「嫌じゃねぇよ。嫌じゃねぇけど、隣、居るって!」

常識人ぶるつもりはないが、デミアは、他人のいつドアを開けるともしれない状態で、ゲープとセックスするなんて、全く選択肢にないのだ。

「やめろって、ゲープ!」

デミアは、まさか、自分から馬乗りのゲープの誘いを断る日がくるとは思ってもみなかった。別段ゲープが淡白だということではないが、それでも、公私共に困難の多い人生を歩む隊長は、嫌だや、疲れた、面倒くさいを連発し、気が乗らない日が多いのだ。

昨日だって、その前だって、少しだけでもいちゃつけたらと、眠気を堪えつつデミアが雑誌を捲っていたというのに、ベッドに這い登ったゲープは、「寝る」の一言と共に、布団を被ってしまった。そんなゲープが馬乗りだ。だが、隣室に同僚のいる状態でだ。

「しー」

お得意のジェスチャーとともに、荒っぽくデミアの口を押さえてきたゲープが耳元でささやく。

「お前が、うるさくしなければ大丈夫だ」

「……うそつけ、ゲープ、お前、絶対、声、でかい」

「そんなことない!」

だが、強くデミアがゲープを見つめ続ければ、さすがに少しは自覚があるのか、茶色の目は、あらぬ方向へと逸らされた。

しかし、ぶつぶつ文句を言って睨んでいたはずのゲープは、なんとかこの場を押し切ろうとしていた。頬を摺り寄せながら、チュっ、チュとキスを繰り返し、デミアのペニスを握る。

「ちょっ、おい、ゲープ!」

「デミア……したくないって?」

腹へと馬乗りの恋人が、やわやわと握り続けてくれば、デミアのペニスには大人しくしていられる自制心などなかった。

手の中でどんどん大きくなっていくものに、にやりとゲープが笑う。

その顔があまりに得意げで、デミアは苦笑するしかなかった。

「ゲープ。隣に気づかれたらまずいから、絶対に声出さないって約束しろよ」

仕方なく、ぐいっと肩を引きよせ、唇を合わせながら、デミアは約束させたのだ。

 

デミアを口説き落としたとわかった満足げな笑顔のゲープが、わかったと頷く様子は、ただかわいらしいだけだったが、いざ始めてみれば、懸命に声を殺すゲープの様子がやたらと色っぽく、適当にゲープだけ満足させてなどと考えていたデミアはいきなり困難を強いられた。

合わせた体の間で擦り合わせる程度のこと、普通だったらゲープだってまだ声を出したりはしないことをしているだけなのに、絶対に声を出すまいとするせいか、ゲープはもう口に手を当て覆っている。指の間から漏れる荒い息が、余計にデミアを煽る。

しかも、ゲープは、普段大抵の場合思っているはずの、それこそ適当にすませようなどという考えは、今回これっぽっちも持ち合わせていなかった。

ぬるぬるとし始めたゲープのものをデミアが扱きはじめると、ゲープも手を伸ばしてくる。

はぁはぁと荒い息を聞かせながら、一緒に握ってきて、その上、扱きながら、潤んだ目でじっとデミアを見上げるのだ。

自分から少し足を開き、これだけじゃ嫌なんだと伝えてくる。

思わず、デミアはドアを振り返ったが、そんな良識も、熱っぽく見上げてくる茶色の目の誘惑には敵わなかった。

いつ背後から襲いかかられるとも限らないといった時と同じほど、ドアに対し、心理的な圧迫を感じるデミアは、ちっと、誰に対してかわからない小さな舌打ちをひとつして、枕もとのローションを取り出すと、手荒くゲープの足を持ち上げ開く。

 

とにかく、デミアはこんな勿体ないゲープを誰かに見られるのはいやで、寝具が濡れるのも構わず、ゲープの尻の間へと手早くべとりとローションを塗り込めた。そのまま、濡れた手にもう一度ローションを絞り出すと、べとべととぬめる指で、たっぷりとした尻の肉を押し広げる。

焦ったような進め方に、ゲープの目が、おびえたようにデミアを見たが、構わず、デミアは固い肛口に指をねじ込みながら、股の間で勃っているペニスを咥えた。

「……っ、ん!」

前も後ろも一緒に攻めれば、やはりゲープの口からは声が漏れる。

ゲープは急激すぎる行為を押しとどめようとでも思ったのか、デミアの髪を掴みかけたが、それよりも声を出さないことの方が重要なのだと気づいたようで、手を戻し自分の口を覆った。

強引だとは思いつつ、デミアが2本に増やした指で、内部を掘り広げながらペニスを吸い上げれば、大きく開かれたゲープの足が宙でヒクヒクと動く。

少しでもゲープの負担が減るようにと、勃ったものを吸ったり舐めたりしながら、付け根まで押しいれた指を、熱い肉壁を押し広げるようぐいぐいと抜き差しすれば、それは、愛撫というよりは、ただの準備だったが、揃えた指で内壁を擦るようにしながらぐっと奥まで貫通させる度、ゲープのつま先はぎゅっと丸められた。

うっすらと汗をかき出した足に頬ずりしながら、デミアが少しは自由に動くようになった指で、円を描いて抉るように動かしてやると、吸い上げるペニスからとろとろと溢れ出る先走りの量がどっと増え、指の間から吐き出される息の音が大きくなる。

デミアが、脱ぎ捨てた自分のTシャツをゲープの口へと押し込み、ぐいっと顎をしゃくって約束を思い出させれば、ゲープは鼻の上までシャツで覆い、その上から自分の手で押さえた。

だが従順な様子を装ってはいるが、隠されず残った目は、強烈に、デミアにねだっていた。

「ゲープ。お前、本当に、声、我慢しろよ」

そのまま足を抱え込もうとしたら、ゲープはそれを拒み、自分から四つん這いに這った。

少しでも声を殺すためか、枕に顔をうずめた格好で、持ち上げられたむっちりと大きな尻が、デミアのペニスを待っている。

「ああ、もう、くそっ。なんで、隣に奴らがいる今日なんだ……」

綻び気味の尻の穴は、べっとりと濡れて誘っているのだ。思い切り突き上げてくれと言わんばかりの態度で、なめらかな背中を見せたゲープがベッドに這っている。

「デミア」

待ちきれないのか、大きな尻がふるふると振られて、吸い寄せられるようにデミアはゲープの白い背に覆いかぶさった。

解すのに十分時間をかけたとは言い難い肛口は、指よりもはるかに太いものを突き入れる際、拒もうとしたが、その痛みすら、ゲープは枕に吸い込ませる。

強張った背中にキスをしながら、馴染むまでデミアが待てば、潤んだ茶色の目が、ちらちらと後ろをうかがう。

「動いていいのか?」

汗で湿る赤い項にこくんと頷かれ、デミアはゲープの吸引力に圧倒されながら、白い尻を掴んでゆっくりと掘削を開始した。

だが、デミアが隣室を気にし、できるだけ自制しようとしているというのに、ゲープが、大きな尻を動かして、デミアをよくしてくれようとするのだ。

まだ、固い肛口で絞めつけながら、自分に負担がかかる無茶なやり方で腰を振ってくる。

枕に押し付けられた顔は、はぁはぁと懸命に息を吐き出している。

 

 

「……んっ、イク、もう、っ、デミア」

ゲープはイク、イクと切なそうに腰をよじりなりながらも、懸命に射精を我慢し、なんとか、デミアのこともよくしようというのか、デカイ尻を振りたてていた。

「……ん、フ、ッぅ、」

声もできるだけ堪えようとしていたが、どうしても息苦しくなって枕から顔を上げれば、熱く湿った息と一緒に短い声が出てしまった。慌ててゲープは唇を噛んでみせたが、声を堪えて身もだえるせいか、やたらと色っぽく腰が捩られる。つい、腰に指を埋め、引き寄せるデミアの力も強くなる。

「……っ、んン!」

「しー、ゲープ」

ぬめる気持ちのいい穴の中を突き上げれば、ゲープは顔をうずめた枕を強く握りしめ、汗をかいた背中を何度こわばらせた。

枕に顔をうずめたままだから、確かに漏れる声は小さかった。

だが、押し寄せる性感を堪え、下腹に強く力を入れているせいで、中のペニスはきゅうきゅう締め付けられ、たまらなくて、デミアが白い尻に腰骨が当たるほど、きつく突き上げるため、ゲープは懸命に枕を噛んでいる。

「ゲープ」

名前を呼んで振り返らせた顔は真っ赤で、開いたままの唇からふうふう息を吐き出していた。

普段の怠惰さに比べれば、全くどうしたのかと言いたくなるほどだが、首を捻じ曲げ、ゲープがキスをせがんでくる。離れた唇が、小さく声を出し、また、口づけを求める。

「声、……出て、悪い」

口付けの合間に漏らされた言葉に、デミアは、ゲープに殺されたような気分だった。

 

しっとりと汗に濡れたデカイ尻は、キスしながらも、小さく振り続けられ、できるなら、デミアも、ぐちょぐちょの穴の中を思う存分突き上げて、ゲープがヒィヒィ言わせたいのだ。

だが、

「……くそっ、ゲープ、なんで、隣にあいつらのいる今日なんだ……」

 

 

 

一度では満足せず、もっとと腰に絡めた足を離さなかったゲープに付き合わされたデミアは、ノリノリだったゲープ相手に、非常に努力のいった自制のせいで疲れ果てていた。

二回目も、声が我慢できないからと、後ろからと望み、やたらとエロい背中を見せていたゲープは、満足いったのか、もうすっかり寝入っている。

確かにゲープは枕に顔を伏せたままだったし、声を堪えていた。

しかし、絶対に隣室まで漏れていたのだ。

途中、リビングからは、何度かわざとらしい寝言が聞こえていた。

ベッドのきしみだって、半端じゃなかった。

幸せそうな満ち足りた寝顔を眺めながら、できるだけ、ゲープの体面を守ってやりたいと思っていたデミアの口からは、思わずため息が漏れる。

 

 

滅多にここまで積極的にならないくせに、同僚が隣の部屋で眠ってるときに限って、どうして、こんなにしたがるんだ。

なんでなんだ。ゲープ……。

 

 

 

 

翌朝、マグから紅茶を飲みつつのゲープハルト・シュルラウさんのいい訳

 

……いや、……だめだとなると、余計にしたくなることって、あるだろ?

今日は絶対にしないのかと思うと、……なんていうか、こう、なんとなくモヤモヤするというか、ムラムラするというか。こっちが、そうな風に眠れないってのに、お前ときたら、隣でスースー寝てるだろ?

そんな風に寝られると、むかつくっていうか、やっぱり、男としては、困難なことには挑んどくべきなんじゃないかいう気もしてきて。

 

……つまり、その、どうしてもやりたくなって起こした。

すまん。デミア。

 

 

 

 

「なんでだよ。カスパー、なんでお前、そんな平気な顔なんだ?」

ロッカールームのベンチに力なく腰掛けるフランクの目の下には、濃いクマが出来ている。

「気にしてたら、疲れる」

ぼそりと答えたカスパーの隣から、澄まし顔の伯爵様が首を突っ込んだ。

「バーカ。だから、あの時、帰るぞって誘ってやったろ」

「コニー、そういう理由で帰るんなら、そうだって先に教えてくれよ!」

 

 

 

END

 

この話は、原色大恋愛図鑑@ROGUE MOONのこぶた部屋、
ちゆさんのデミアのそこが知りたい その1を元に作られています