ビデオテープ
フランクと二人、別チームへの補充としてしばらくベルリンから離れる任務を、昼間、冷たい隊長から言い渡されたデミアは、もう、うつらうらうらし始めているゲープの耳元で言ってみた。
「ゲープ。2週間だせ。俺、絶対、耐えられねぇ。 そんなに一人寝なんて、浮気しろって言ってるようなもんだろ。ゲープ、して欲しくないなら、せめておかずに、お前のオナってるとこ、ビデオに撮って持たせろ」
心地よく眠りに落ちかけていたところを引き戻されたゲープは思い切り顔を顰めた。
だが、ゲープの眉間に寄った皺を指先で撫でながら、デミアは笑った。
実は、デミアだって仕事は、仕事とわきまえている。
「好きだぜ。ゲープ」
要するにさみしいと恋人に絡んでみただけのことで、少しゲープを困らせることができれば満足で、デミアはちゅっと、ゲープの額に軽いキスをすると、おやすみと言って目を閉じた。
だから、出発の日、ゲープが荷物の確認をする振りで、ビデオを一本忍び込ませたのを見た時は、思わず目を見開いた。
やっと一日の仕事を終え、割り当てられたホテルの部屋にたどり着いたデミアは、同じく部屋に落ち着こうとしていたフランクを蹴りだそうとした。
「ちょっ!」
「うっせい! お前は邪魔なんだよ!」
「デミア! おい! お前、こんな夜中に俺にどうしろってんだ!」
「1時間くらいだ。廊下で、待ってろ!」
しかし、廊下に放りだされたフランクが、粘り強くどんどんとドアをたたき続け、夜中の騒音に、隣の部屋のドアが開いて、仕方なくデミアは部屋へとフランクを入れる。
「信じられねぇ……」
長引いた打ち合わせに現在の時間は、0時を回っている。しかも、明日は移動ルートの確認のため、二人は4時起きを言い渡されているのだ。だから、実質、今から眠れるのなど、3時間程度だ。それでも、寝ておかなければ、明日の仕事にさし障る。フランクは、チームの先輩を、疑い深く見る。
「じゃぁ、今すぐ、お前は、寝ろ。俺の邪魔はするんじゃねぇぞ」
「デミア、あんた、昼間から、ずっとそわそわしてるけど、何が気になってるんだよ」
フランクはそれが疑問だった。
「ゲープが持たしてくれた、あいつのオナニービデオ」
「はっ?」
「俺は、今すぐにでもそれが見てぇの。だから、フランク、お前は、邪魔すんな。もう、一言もしゃべるな」
フランクの顔が情けなく耳の垂れた犬のような顔になっても、デミアは一向に気にしなかった。
それよりも、ゲープがこっそり忍ばせたビデオだ。
フランクの新人時代を知るだけに、何時まで経ってもデミアにとってフランクなど、踏みつけにして当然の存在だ。
ビデオのゲープが気になって、もうフランクにかかわるのなど面倒くさくなっているデミアは、とっととビデオをセットして、ワクワクと始まるのを待つ。
「……あの、俺、やっぱり外に……」
「うるせぇ!」
画面に映るのは、デミアの部屋の中だ。ゲープの着ているものから、いつ撮ったのかまで、デミアにはわかる。
それだけでもデミアの顔はにやつくというのに、映るゲープの憮然とした顔つきが、余計にデミアに笑みを浮かべさせた。
前置きもなにもなく、ゲープは、いきなり脱ぎ出した。
まるで技巧のない、いさぎよいほどの脱ぎっぷりは、ゲープの足もとに脱いだポロと、ジーンズの山を作った。
下着一枚になって、さすがにゲープの手が、止まる。
「……俺、シャワーに……」
本当に始まった自チームの隊長のストリップに、居たたまれず、フランクは口にした。デミアは振り返りもしない。
だが、一応立場の違いというものがある。
「あの、デミアは、先、いいかな……?」
やはり、画面から一ミリだって視線を動かさない。
今一つ、ゲープは踏ん切りがつかないようで、下着のまま立ち尽くしていた。
だが、それを脱ぐのをためらっているのかとデミアが感じたのは、間違っていたようだ。
下着の上から股間を手を当てたゲープはその感触だけで、もう、口からはぁっと息が吐き出す。
ゲープはそのままの自分の股間を揉み始める。
「マジかよ、ゲープ?」
それは、最近のデミアのお気に入りのやり方だ。
あんなにこのやり方を嫌がっていたのに、ちゃんとデミア好みに、オナニーしてくるゲープに、デミアは顔がにやつくのが止められない。
漏れ出てしまうもので下着が汚れるせいか、それをゲープは嫌がるのだ。だが、下着姿のまま嫌々言う姿がエロくて、近頃、デミアは嫌がるゲープのものをパンツの上から撫でまわす。どうせなら、一度いかせてみたいと思いながら、画面の中でゲープがするように、撫でまわす下着の中のものが硬くなって、中から下着を押し上げ、先から漏れだしたものが生地の一部分を濃い色に変えても、まだ、続ける。
ゲープは、俯きがちに頬を赤くして少し口を開けている。
足を軽く開いた安定のいい立ち方で、カメラの前で下着の前を撫でまわしている。デミアの手は盛り上がった股間に伸びる。
ゲープの口は軽く開いたままだ。
「すっげぇ、やらしい。ゲープ」
はぁはぁと息を漏らしているのがわかる。
デミアが独り言を言う間にも、ゲープは、下から擦り上げるようにして撫であげてくると、立ち上がったペニスを布ごと掴んで扱いていた。やはり、こういうやり方は嫌いなのか、やり方は、今一つ大雑把だが、時々カメラを意識して、真っ赤な目元で視線をちらちら向ける。それが、嫌になるほど、いやらしい。
かちゃりと遠慮がちにドアノブのまわる音がした。
「あのさ、デミア、よかったら、次……」
画面のゲープが脱ぎ出した時点で、早々にバスルームへ逃げ出したフランクだが、自チームの隊長のこんなビデオを見ているとわかっていては、落ち着いてなど、シャワーを浴びてはいられなかった。
髪を拭くタオルの下から見たデミアの手が、同室者がいるというのに、盛り上がった股間でスタンバイ中で、4番は唖然だ。
「うっせえよ! お前、こんなに早く出てくんな!」
怒鳴るデミアに顔をしかめたフランクは、つい、怖いもの見たさで、ちらりと画面に目をやった。
そして、4番は、自分の行いを、本気で後悔した。
最後に見た画面が、辛うじてゲープが下着姿だったせいで、まだどこかで少し、悪ふざけなんじゃないかと、のんきに考えていたのだ。
だが、画面のゲープは、ベッドに座ってしおしおと従順な様子で、下着を足から抜いて、全裸になろうとしている。真っ赤なゲープに、昼間の勢いはない。フランクは飛び出しそうな心臓の音を聞きながらも、しかし、これ以上かかわるのは自分のために絶対よくないと、早々にベッドの中に潜り込んだ。
しかし、デミアの鼻息が荒く、寝にくい。
「……あのさ、俺、寝るから」
「わかった。おやすみ。フランク」
デミアの望みよりは、短い時間で下着越しの愛撫を終えてしまったゲープは、汚れた下着を恥ずかしそうに脱いでしまうとベッドに横になって両手でペニスを扱きだした。
ぎゅっと瞑った目がかわいい。
なんでもゲープはかわいいが、緊張しているのか、なかなかいけそうな様子ではなく、少し苛立ち気味なのも、デミアの目には、たまらなくかわいらしく映る。
「お前さ、もうちょっと、根元の方も触ってやらないと、よくならねぇじゃん」
柔らかそうな肉付きの白い体を全て晒して画面に映るゲープを見つめるデミアの目は蕩けそうだ。
ちなみに、フランクは、何度も寝がえりを打っている。
ぎゅっと目を瞑ってペニスを扱いていたゲープがカメラにむかって開いた。
ゲープは、むうっとレンズを睨んでいる。
あんまり茶色い目がじっと睨んでいるので、デミアが心配になり始めると、ゲープは真っ赤な顔でむっとカメラを睨んだまま、じりじりと片足を折り曲げ始めた。
股の間に手を潜らせる。
むっちりとした太腿に挟まれた右手の行く先は、いくら画面に食い入ろうとデミアからは見えない。
だが、予想ならできる。というか、経験から、確実にそうだということができる。
「うぉっ。ゲープ。マジ?」
デミアは、興奮のあまり、自分の腰掛けるベッドをバンバンと叩いた。フランクがまた、寝がえりを打つ。
ぎゅっと目を瞑ったゲープが太腿で挟んだ右手を動かしている。不器用そうに左手もだ。左手で、勃起し、先を濡らすペニスを扱き、もう片手で、尻の穴を弄っている。……はずだ。
「見てぇ! 見てぇ!見せろっ ゲープ!!」
瞼の裏になら、焼き付いている、指で狭い穴が広がるいやらしい光景を、それでも見たいと、デミアが目を皿のようにして画面を見つめた。すると、色気もなにもあったもんじゃなく、ゲープがいきなり上になった方の足をがばりと上げ、抱え込んだ。
ゲープは全身が真っ赤だ。額に汗が光る。
確かに、決意の上の行為なのだろうが、残念ながら、レンズの位置からは、指の潜り込む先までは見えない。
ただし、ゲープが指先を動かし、そこを広げようとしていることは、手の動きから知ることができる。
「すげぇ、……ゲープ」
デミアにとっては、ほんの一瞬後、抱え込んでいた足を離したゲープは、まるで自分の行いを恥じるように真っ赤になって荒い息をつきながら、ごろりとうつ伏せになった。
体勢は変わったものの、尻の間に回された手が、小さく動いているのが画面に映る。
ゲープはちゃんと尻を弄り続けている。
「今すぐ、うちに帰りてぇ……」
しぼり出すようにデミアがうめく間も、茶色の目でベッドの上を何か探すようにしていた。見つけたものをまるで迷う。
ゲープが膝を立てた。白い尻が後ろにつき出され、勃起したペニスは、腹の下で揺れる。太腿に触れて、先端を濡らすものでそこを汚した。
「くそっ、本気で帰りてぇ!」
その格好のまま、まだ、ためらったあと、なんとゲープは、ベッドの上に用意していたらしいジェルとバイブを引き寄せた。
そのバイブは、ごくたまになら、二人のベッドに登場するものだ。しかし、ゲープは嫌がってほとんど使わせないし、もちろん、ゲープが自分の手で入れたところなど、デミアは見たことがない。
「マジ? マジでか、ゲープ?」
ペニスを勃たせたまま、はぁはぁと息をするゲープは、カメラの方を見ない。ジェルの蓋をあけ、手のひらに絞りだす。
大雑把に手の平のジェルを尻の穴へと塗りつけ、それから、急に天井を仰いだ。
何呼吸かの後、
『くそっ。絶対に、浮気するなよ、デミア!』
キっと、真っ赤になって眼尻を湿らせた悔しげな顔で、カメラを睨んだ。
ゲープは、舌を伸ばすと、口にバイブを含んで舐め始める。
大きく口を開けて、バイブを含んだゲープの顔は、頬の膨らんだ間抜けな顔だ。だが、そうする時、上手いとはいえないものの、口の中を明け渡し、丁寧に舌を這わせてくるゲープのフェラを思いだし、デミアはもう、ズボンの前を開けずにはいられなかった。
下がるジッパーの音に、フランクの被る布団の山がびくりと動いたのを感じたが、もちろん、3番は4番など無視だ。
硬く、熱くなっているものを下着の取り出し、握る。
ゲープは、バイブ全体を湿らせると、口から出し、カメラに向かって足を開いた。
勃ったベニスも、その後ろに垂れ下がる袋も、体の縫い目も、それどころか、ジェルで濡れた窄まりまで、股の間がすべて丸見えだ。
「やべぇって、それ。ゲープ」
デミアの手は早くなる。
ゲープは、バイブを自分の尻に近づける。
ぐっと力を入れて先端を押し付け、窄まりを押し開いていく行為におぼつかなさがなくて、デミアは画面を食い入るように眺めながら、唇を舐めた。
「お前さ、それ、始めてじゃねぇだろ」
はぁーっと腹から大きく息を吐き、ゲープは手の力を入れていく。
「俺が、いねぇ時にやってるだろ」
先端をスムーズに入れるために、左右に小さく揺さぶっている。
「なんだよ。それ、使ってオナるの好きなのかよ。ゲープ」
デミアの口からひっきりなしに言葉が漏れるが、それも仕方のないことだった。
バイブを飲み込んだゲープは、小さかった尻の穴の形を歪ませて、おもちゃをいい位置に合わせようと動かしていた。茶色い目が、体内の感覚を探って、落ち着きなく動く。
「したいんだろ? スイッチ入れて、いいぜ?」
すると、デミアの許可の言葉を待っていたように、ゲープの手がスイッチを入れた。
衝撃を知っていて、ゲープはぐっと唇を強く閉じている。
「っはっぅ……ん」
それでも、小さく声を漏らして、ゲープは振動のレベルを上げていった。
白い尻のバイブを嵌めて、もだえるゲープに、デミアは、たまらない思いだ。
ずしりと硬くなった手の中のペニスに、ビデオの中のゲープがいくまで持たないかもしれないと危機感すらデミアは抱いた。
ゲープの腰はバイブの震動に、ガクガクと震えている。おもちゃを頬張る尻の穴は、いいものをぎゅっと締めつけ、ヒクヒクしている。
「くそっ、すげぇ、色っぽい」
体を、おもちゃに揺さぶられながら、一生懸命にペニスを扱く、白くなめらかな体に、デミアの手にも力が篭った。
少しずつ押し出されていくバイブに、せつなそうに尻が振られるのもたまらなかった。
もじもじと大きな尻を動かしていたゲープが、一度カメラを見た後、頼りなく目をそらすと、尻へと手を伸ばし、深く押し込みなおす。
「あっ、あっ」
身を折って、悶え出す。
「……たまんねぇ。俺の、ぶっこんでやりてぇ」
『……んっ、いや。だからな。っ、……絶対に、んっ、他で遊んだら、許さないからな。デミア』
シーツに顔を押し付けたまま、ゲープが訴えた。
尻には、バイブが刺さって、勃起し、濡れたペニスをシーツに擦りつけている。
『……、っここまでさせて、……っ、んぁ、浮気したってわかったら、ぁ、あっ、……お前のこと殺すからなっ!』
いきそうになって、すっかり気持ち良くなっているくせに、勝気に睨んできたゲープに、デミアは笑ってしまった。
「お前に、こんなんされて、浮気なんて、するかっての。ゲープ」
デミアが苦笑している間に、
『あ、っ、あ、』
『…………いくっ! いくっ!!』
唐突に、ゲープは腰を突き出すようにして、ビクビクしながら達ってしまった。
合わせることができなくて、小さく舌打ちしたデミアは、弛緩する体を投げ出し、はぁはぁ息を喘がせているゲープを見ながら、ペニスを扱く。
「あー、くそっ、入れてぇ」
あまりにおいしそうな体が、目の前で熟れていて、自分の手では、もどかしくて、デミアはイライラとペニスを扱く。
「ゲープに入れてぇ!!」
カメラに映るのを嫌がりながら、ゲープが尻の穴からバイブを引き抜いたところで、デミアのペニスがドクンと白濁を吹き出した。
「……すげぇの、持たせてくれるぜ。ゲープ」
ティッシュで手を拭いながら、もう一回デミアがビデオを見ようかどうか迷っていると、隣のベッドから、遠慮がちな声がかかった。
「……あのさー。電気消していいか?」
それから、2週間、毎晩嫌になるほど同じビデオを見るデミアに、フランクは、もう、どこでゲープがどんな声を出すのかまで覚えてしまった。
どんなゲープの様子に、デミアが一番興奮するのかもだ。
かすれて高くなるゲープの息使いに、ちょっと自分のものが反応して、やばい、やばいと耳を覆ったことは、絶対に秘密だ。
寝不足で、フランクの目の下には、くっきりとクマができている。
「ただいまー! ゲープ会いたかったぜ!」
飛びつこうとしたデミアを避けて、ゲープは、小さく頷いた。
だが、あんな態度を取っていて、チームの隊長がどの位、3番に惚れているのか、フランクは知っている。
ブーンというバイブの音が耳に残っている。ぺちゃぺちゃとバイブを舐める卑猥な舌の音も。
寝不足と任務への気疲れですっかり疲れはてているフランクは、同じく笑顔で出迎えに来てくれたフレディに覆いかぶさるようにしてすがった。
いきなり、大きいのに抱きつかれ、フレディは思わず目を泳がせる。
だが、フランクは放さない。
「フレディ、すっげぇお前に会いたかった。……もう、俺、お前のこと、大好き」
END