愛の言葉

 

「ええっと……? ゲープ?」

スポンジを握ったゲープの手が、下腹の黒く鬱蒼とした茂みの辺りまで伸びていて、温かく筋肉を解していくシャワーの湯を浴びながら、デミアは目をぱちぱちとさせた。

貰った鎮痛剤がまだ利いてこないこともあり、酷い怪我を負った左腕の痛みに、股間のそれは、ゲープに体を洗われながらも、まだ頭を擡げもせず大人しくしているが、直接触られでもすれば、隊長の機嫌を損ねることになるのは必至だ。

任務中に怪我を負った間抜けな隊員の面倒をみることに真剣な隊長は、それでなくとも、シャワーのしぶきで、しっとりと濡れたTシャツを肌に張りつかせているのだ。浴室の温度でほんのりと赤くなった肌が、首元から見え隠れしている。指摘してもいいのならば、胸の小さな尖りがぷくりと勃ち上がっているのもばっちりわかる。

「洗わずに済ませていいのか?」

むっと唇を突き出すようにして、ぶっきらぼうな言い方だったが、ついっと反らされたゲープの首筋が赤くて、デミアは口内へと唾が溜まるのを感じた。

そこまで洗うことがゲープは恥ずかしいのだ。まず第一に、利き手でもない左腕を吊っているデミアの体を、ゲープが洗う必要はない。

「洗ってくれるってのなら、そりゃぁ、うれしいけど」

包帯が濡れぬよう、ゴミ袋を被せられた左腕を振って、姑息なアピールを図る。

「だったら、大人しくしてろ」

 

柔らかく泡立ったスポンジが、ゆっくりと腹から下へと向かい始めた。茂みの外周を白い泡が濡らす。

バスルームで体を洗ってもらうなんていう夢見たシュチエーションを味わいながらも、さすがに今日受けたばかりの痛みに勃起できずにいたデミアのものも、その力を誇示し始めていた。

勃起の角度が早まるにつれ、ゲープの手の動きは次第に遅くなっていく。

下腹部の叢を半分も泡で濡らしたところで、スポンジの動きはすっかり止まってしまっていた。

この辺りまでで、やっぱ、終わりかと、たったこれだけのプレイにすら大人しくはしていられなかった自分のペニスに苦笑しながら、デミアがスポンジを取り上げようとすると、首が振られた。

ゲープはぎゅっとスポンジを絞る。

「えっ?」

なめらかな泡のクリームで手のひら一杯に乗せて、ゲープはデミアのものを握った。その手は、そっと扱くように前後に動き出す。

「……あ、あのさ、ゲープ。そんなのされたら、絶対に勃つっていうか」

デミアは驚き、焦った。

「……もう勃ってるだろ」

「っていうか、あんまりされると、出るっていうか」

二、三度の前後運動ですっかり角度を上げてしまったものを、ゲープは掌のなかに包み込むようにして優しく洗い続けている。たったそれだけだが、デミアのものの先端からは、クリーム状になったソープよりも、まだしっとりとした液体が溢れ出てきてしまっている。

下に続く袋にまで手が伸びてきて、デミアは、動揺をなんとか押さえ込もうとしながら、ゲープの唇を捕らえようと、顔を近づけた。

「そんなことまでされちゃうと、いきそうなんだけど、隊長?」

ゲープの真っ赤な顔の中で、鼻の頭に汗が浮かんでいる。愛らしい茶色い目は、何度か瞬きした。

逃げようとしない。

「ゲープ。この手、離してくんねぇと、俺、最短記録をマークするぞ?」

デミアの唇は、湿ったゲープの唇で捕らえられた。

 

どうしてこんなにゲープが優しくしてくれるのか、デミアにはさっぱりだ。

下半身まですっきりさせて貰って、ソファーに腰掛けるデミアのまわりで、ゲープはベッドの用意を始めている。

今日、確かに、勤務中に怪我は負ったが、職業柄怪我は付き物というか、事故の規模を思えばデミアの傷は軽傷で、ラッキーだったと言ってもいい。

不自由なのも左手だけで、生活全般の雑事を、普段デミアにまかせっきりにしているゲープが、こまめに立ち働く理由は全くなかった。

 

「今日って、何の日だ? ……誕生日は違うし、二人が出会った日なんであいつが覚えてるわけないし、同居し始めて、半年とかか?……違うよな。たしか、ゲープが転がり込んできたのは、月の終わり頃だったし、……」

「デミア、ベッド、整えといたぞ。もう寝るか?」

「ん?」

自分から積極的にいかせたくせに、さっきのことが恥ずかしいらしく、ゲープは少し頬を染めてはっきりとは視線を合わせようとしない。

「ゲープ、お前のこといかしてやらなくてもいいのか?」

こんな風に、ウブなくせをして、この隊長さんは、しかし、結構きっちりと取り立てるところは、取り立てるタイプなのだ。無意識だろうが、デミアだけいって、セックスが終わったことなど一度もない。

「傷に障るだろ」

ゲープは、常識人の顔で返事を返してきたが、デミアは吊った腕を軽く動かし、鎮痛剤の効き目が表れていることを確かめた。

「ゲープさえ、協力的だったらできるんじゃねぇ?」

 

「目を閉じてろ」

ゲープが命じた。さすがに恥ずかしいんだろうなとデミアは目を閉じる。そもそも、こんなことにゲープが同意するとは思いもしなかった。

命令に従ったデミアの目が閉じ切られると、おずおずといった感じで、生温かなものが仰向けの顔へと触れてきた。

温かな肉は顔を覆っている。目を開けると、そこにあるのは、いっぱいのゲープの尻だ。

チロリと舌をのばして真っ白な肉臀に触れると、ビクリと尻が逃げ出そうとした。動く右手でデミアは大腿部をがっしりと抱え込む。

「左がアウトだから、協力的にしてくれねぇと、お前のこと気持ちよくしてやれねぇんだってば」

肉付きのいい臀部にキスを続けながら口を開くと、ゲープは浮かせた腰をそろそろと戻し始めた。デミアの顔を跨ぐ分、大きく股を開く尻肉は、いやらしいそこをすっかりと眼前に晒している。

さっき、ゲープが洗ってくれたのと同じ、袋の辺りまでの毛がゲープは濃いのだが、そこからは、次第に薄くなり、締めつけのいい放射状の窄まりに近くなれば、縮れた毛はすっかりまばらだ。

慣れない体位に緊張しているのか、孔口はぷくりと肉が盛り上がるほどきゅっと締まっている。その辺りの毛が慎ましく薄いことを何度もからかったことがあるから、ゲープすべてをデミアに見られていることを知っているはずだった。それでも、逃げ出さない赤くそまった腿を擦り、デミアは白い尻を撫でまわす。

「ゲープ。もう少し、前に」

安定良く下ろされた白尻最は最高の感触だが、小さく窄まる穴を舐めてやるには、位置が悪い。

もじもじと僅かにゲープの尻が動き、デミアの顔の前には、処女めいた頑なさで口を閉ざす孔口が近づいた。ぺろりと舌を伸ばすと、ゲープの太腿にビクビクと力が入る。犬のように表面をペロペロとしつこく舐め濡らすと、ゲープは前のめりのなりシーツを掴んだ。

シーツに皺を寄せて付いた膝が大きく開かれている。

「ゲープ。前に倒れられると、舐められねぇ」

たっぷりと肉のついた太腿の間で揺れる袋へとじゃれかかるように唇で挟みながらゲープの腰を掴んで、体を起こさせる。

「できれば、反り返るようにして後ろに手をついて欲しいんだけど」

自分がこんなセックスしているということだけで、ゲープはもうすっかり興奮しているようだ。白い腹の縮れた叢では、今日まだ、一度だってデミアが手で触れていないものが、すっかりそそり勃ち揺れている。

先端の窪みは、もう潤みはじめており、腹をなんどもへこませ、半開きになった唇は苦しそうにすら聞こえる息を吐き出していた。

デミアは近づいた尻穴に遠慮なく舌をドリルのように尖らせねじ込んでいく。

締めつけのいい肉輪が、きゅっと舌を噛み、押し出そうと懸命な抵抗を示した。だが、ぐにぐにと舌を動かし、そこに唾を塗り広げていると、次第に最初の抵抗は力を失う。

はふっと、最初の吐息をゲープが漏らした。

 

肉の壁に沿って舌を動かすようにしながら、自由に動く右手で窄まりの表面を揉むようにしてマッサージを加えていくと、ゲープの尻には何度もきゅっと力が入った。

ゲープは、なんとか唇を噛み、声を耐えている。

十分に柔らかくなるまで、ひたすら優しく揉み込んでいた指を、唾で濡れてやらしく蠢く穴の中へとゆっくりと埋め込んでいくと、たっぷりとした尻から続く、しなやかな背中が反り返る。

舌で優しく舐め愛しながら、固い指で中の肉壁を掻くようにすると、白く重い尻がビクビクしだし、止まらなくなる。

「ゲープ。尻振るのはいいけど、あんまり動くなよ。舐められなくなるからな」

 

「あんまり、……そこはっ……!」

「ん? 入口の浅いとこ、アレでかき回されるの、好きだろ? 指と舌だけじゃ、足りないかもしれないけど」

ねじ込んだ舌と指を同時にピストンさせ、奥まで犯すと、びくびくと震える体は、ああっといい声を聞かせた。

デミアはゲープの尻穴から零れ溢れる唾液で顔が汚れることも構わず、愛しい恋人の熱い肛筒の中を弄る。

「いやだっ……そこは、イク。イキそうになるっ、……ダメだ、そこばっかりっ、っ、弄るな」

デミアは熱心に赤く充血した襞のこんもりと盛り上がる部分を責めていたのだ。だが、こんなに早くいかせる気はなかった。

正常位か、バックの好きなゲープが、恥ずかしげもなく、いやらしい匂いをさせている股を開いて、尻を押しつけて来ているのだ。

細かな仕事の得意な指は後退させ、生温かな柔肉の内部を愛撫するのは舌へと切り替えた。

ずっと体を支え続けている太腿を労わるように撫で擦ってやると、ゲープの手がその指を捕まえる。

「……デミアっ」

絡められた指は、突き出すような形になっている股の間へと導かれる。汗に濡れた大腿部が震えている。

たらりと蜜を零してしまっているものにデミアの手を触れさせ、ゲープはねだった。

デミアは、反対にゲープにそれを握らせる。

「悪ぃけど、今日は片手だから、そんなにたくさん色んな事は無理だ」

 

熱く滾らせたものを握ったまま、ゲープは少しためらっていたが、デミアの手がたっぷりと肉をつけた臀へと戻り、器用に動く舌がもっと自由に孔口へと出入りするため拡げるために使われ始めると、ゆるゆると動き出した。

「気持ちいいんだろ? ゲープ」

「んっ、っ、んっ……!」

次第に動きは早くなる。

「いきたきゃ、我慢せずにいっていいぜ?」

 

「あ、……デミ、ア、それっ……! ……いいっ!イク、いきそうだっ!!」

 

「締めんの、強すぎだって。ここだろ? ここんところを弄って欲しいんだろ? ちぇっ、舌じゃ届かねぇ。……なぁ、今度、乗っかってない状態でここ舐めてやるよ。そしたら、ここまで届くかも、だろ?」

 

「やっ……っ、……んっ、無理だ……もう、無理っ」

 

「だから、尻が浮いちゃ舐められねぇって。いきたいんだろ? ほら、もう少し大人しく」

 

 

「……出るっ……デミア、出る。っ……イクっ! イクっ! イクっ!!」

 

ビクビクと体をしならせ、ゲープは自分で握り込んだものの先から、たっぷりと白濁を吹き出した。

シーツに、粘土のある白い液体がぼとりと落ちていく。

 

 

はぁっと、深い息を吐きだし、跨いでいたデミアの上から下りたゲープは、しかし、まだ、もじもじと落ち着かない様子だった。

「弄られまくった尻が、物足りないってか?」

 

まさか、ゲープが頷くとは思わなかった。

だが、妄想でもなんでもなく、本当に、ゲープは頷いた。

「この腕じゃ、お前の足を抱え込んでやれないし、……じゃぁ、四つん這いになって、尻を突き出すようにしてくれるか?」

デミアは、締めつけてくる入口へと挿入を開始した。

 

 

 

 

「……お前のことが好きなんだなぁって思ったんだ」

「なんだそれ?」

思わぬ濃厚なセックスは、軽くデミアに発熱させていたが、年下の男は、枯券にかけて自分の不調をゲープに悟られないよう努めていた。

性感の満足に、しっとりと体を潤ませ、隣に横たわるゲープの手がデミアの左腕に巻かれた包帯を撫でている。

「お前がこんなことになって、」

二週間の軽傷だが、実際事故が起こった直後の現場では、瓦礫の下に埋まったデミアは、生死すら危ぶまれていた。

 

「したいことは、した方がいいし、好きだって、言ってなかったことにも気づいた」

「そんなに簡単に殺さないでくれ」

眠りにつく前の、こんな正直な時間にそんなことを言いだすゲープに、デミアは照れくさくなって笑った。だが、心の中では、この雰囲気が壊れてしまうことを恐れていた。

くるりと向きを変え、ゲープは真剣に見つめてくる。ゲープの真摯な瞳の色は、デミアがもっとも愛するものだ。

茶色は、瞬きすらしない。

 

「なんだよ。ゲープ。もっとしたいことがあるとか言いだすつもりか? もう今日は打ち止めだ。できねぇぞ」

どうして茶化そうとしてしまうのか、デミアは自分でもわからなかった。本当は、ゲープに告白をやめさせたくはない。

「違う。お前のことが好きだって、言いたい。……好きだ。デミア」

 

デミアは大きく息を吐き出した。

「……ごめん。俺も、好きだ。いや、好きです。……茶化して悪かった。……今日は本当に驚くことばっかだ」

 

気の緩んだ安堵から、つい、今日のゲープの行動についてどう驚いたのかぺらぺらとまくし立て始めたデミアは、顔を赤くしたゲープが、むっと睨んでいることに気づいて、慌てて口をつぐんだ。赤い顔のままのゲープが勢いよく覆いかぶさると、強引なキスをしていく。

「さ、熱の出てきた柔な奴は、さっさと寝ろ」

「えっ? ゲープ?」

「一番小さく、電気は付けとくからな。夜中に熱が高くなったら、起こせよ」

軟弱にも発熱してしまったことを、隊長に気付かれてしまっていたことは、デミアをがっかりさせた。

発熱の体の重だるさで眠れず、デミアはゲープに絡む。

「明日も、あんなセックスする気か、ゲープ?」

長く待ったが、返答はない。だから、聞いた。

 

「俺のこと好きなのか、ゲープ?」

「…………好きだ」

 

 

腕は痛かったし、熱でかすかな吐き気さえ覚えていたが、デミアは、全く幸福に眠りについた。

 

END