*運命の女

現在監視対象となっている何人かの人物についての経過観察の報告や、今後の方針について打ち合わせに、フランクが集中していないことに気付いたのは、デミアとコニーの二人だった。
フランクは、スクリーンに映る映像を見ているようだが、目は何も映しておらず、気持ちは自分の内側へと向かっている。
「おい」
軽く顎をしゃくりフランクを示すまでもなく、デミアの言わんとすることをコニーは察した。
二人は、会議後、さりげなくフランクを拉致する。
親切めかして肩を叩いたデミアの手は、フランクに屈むことを強要していたし、緩く頭を振って、尋問室のドアを示したコニーの微笑みは、そこ以外にフランクを行かせる気がない。

「フランク、どうした?」
先輩二人は、腕を組み、椅子に座るフランクを見下ろしていた。
「お前、全く集中してなかったろ?」
かなりの威圧感だ。だが、実際には、二人は、新人のフランクを本気で心配していただけだった。
ただ、どちらがフランクに心優しい先輩の姿を見せるかが未だに決まらず、二人は、フランクの頭越しに互いに瞳を交し合い、顎をしゃくっては親切なその役を互いに押し付けあっていたのだ。
だが、硬い表情をして黙り込んでいたフランクは、二人のそんな様子に気付く余裕もなかった。
いきなり大きなため息をつくと膝に頭を伏せる。
「……医者が、お前の命は後、一週間だと……」
フランクの声は悔しげで殆ど涙声だ。
「何っ……?」
フランクには任務中に天然痘のウイルスに感染した経緯があった。
陰性と出たコニーも未だ経過の報告を義務付けられているほどで、ワクチンを接種し危機を回避したフランクには定期健診の必要がある。
デミアは、コニーの顔色を確かめながらフランクに尋ねる。
「……本当なのか?」
一度恐怖を味わっているだけに、コニーの顔は強張り、青ざめ始めていた。
がばりと、フランクは顔を上げた。
「あの女、独身だって言ってたのに、医者の妻だったなんて!」