*努力する伯爵様

朝から、何度もカスパーがコニーに話しかけている姿を見かけていた。それは、時間と共に頻繁になり、思わずゲープが業務から気を散らしつづけるカスパーに注意をしたくなるほどだ。
しかも、どんな話がなされているのか、次第に二人は険悪な状態になりつつある。
別部署から戻ったコニーの姿を見つけるなり、席を立ったカスパーはきつい目で顎をしゃくる。
だが、部屋の隅で小声で話す、珍しく苛立ちを隠さず髪をかき上げるカスパーに、コニーが取り合う様子は無い。

「コニー、カスパー、ちょっとこっちに来い」
二人の様子があまりにおかしく、ゲープはとうとう二人を呼んだ。
「一体どうしたんだ? お前ら」
ゲープの眉間に寄った皺に、コニーがカスパーを睨む。「お前がしつこく追い掛け回すからだぞ。カスパー」
カスパーも睨み返す。
「どうしたんだ。お前たち。何でカスパーはそんなにコニーに用があるんだ?」ゲープには、上司として言わなくてはならないことがあった。
「カスパー、お前、コニーを追い回していられるほどそんなに暇じゃないはずだ。昼に出しとくように言った爆発物設置の予測場所についての書類がまだ提出されてないって、もう二度情報分析部の奴らから電話があったぞ」
言い出さなければならないことが、腹立たしいのかカスパーは言い捨てた。
「ゲープ。コニーがその書類を返さない。朝、コニーが提出前に見せろって、言ったんだ。そのままコニーが返さないから、提出できない」
ゲープは信じられなかった。
「なんでだ? コニー。……何で返さない?」
もう用意が済んでいるはずの書類を、なぜカスパーが情報分析に回せさないのか、請求の電話の対応に困っていたゲープにコニーはにこやかな顔で相槌すら打っていたのだ。
頼りになるはずの隊長補佐は、気まずそうな顔も見せず、けろりと言う。
「返さなきゃ、カスパーが俺を追い回すじゃないか」