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*ゲープ・ハルトシュルラウという人

 

「腹減った、腹減ったってそんなにうるさいのに、本当に明日の検診を受けるのか ゲープ?」

「あたりまえだろ。俺はどうもガンになりそうな気がするんだ。お前のためにも検診をちゃんと受けて、早めの発見、早めの治療だ」

デミアは、びっしりと書かれた検診の注意事項を斜め読みしながら、実はあきれていたのだが、さらりと言われたお前のためだという言葉に、思わず照れそうだ。

「そりゃ、ありがたいけど、お前の年で、こんだけのメニュー組むのはやり過ぎじゃねぇ?」

「そんなことあるか。せっかく検診を受けられる制度があるんだ。使わなきゃ、損だろ」

 

一年後

「今年も検診、受けんのか ゲープ」

「当たり前だ」

「そっか」

 

三年後

「すごく憂鬱だ……」

「ゲープ……お前、まだ三週間も前だぞ? 今からそんな嫌なら、やめたらどうだ?」

 

五年後

「これから、二週間、絶対にセックスしないからな、デミア!」

「はっ!? なんで? 俺、なんか、お前の気に入らないことしたか?」

「お前……去年、大腸から出血があるって精密検査を受けろってひっかかって、どれほど俺が不安な思いで苦しんだか忘れたのか!」

 

 

十年後

「ゲープ。俺が保証してやる。お前はガンになんかならない。だから、……なっ、お前、ちょっと検査でひっかかるとものすごくナーバスになって、胃に穴が開きそうになるし、検診受けるの見送れよ……」

 

 

三十年後

「今年も行くのか、ゲープ? もう、お前のそれ、……趣味だな」

「何が趣味だ。俺はガンになる体質だと思うから、早めに手を打つためにだな!」

「……わかった。わかった。俺のこと愛してくれてるんだな。ありがとな…………」

 

 

 

五十年後(ゲープ・ハルトシュルラウ、86歳)

病院のベッドにて。

「……だから、言ったろ、デミア、……俺は、……ガンになりやすいって……」

「わかった。わかったから、ゲープ!! なぁ、ゲープ!!」