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*優しいゲープ隊長

 

チーム50のメンバーは、とあるパーティの警護の任務に就いていた。

「あの、ひょろひょろした若い奴?」

「そう。彼は確かに若いが、かなりの腕前だと有名なバイオリニストだ」

「デミア、コニー、無線で無駄話はやめろ」

警護の責任者であるゲープは、カーテンをめくり、外の様子を窺い、点検に余念がない。

 

パーティは終盤に差し掛かっていた。

コニーたちが話していた若いバイオリニストは、噂される名に違わぬ実力を発揮し、今は長い、長い間が終わるのを待っていた。

聴衆たちは、前半の演奏でたっぷり彼の芸術性を味わい、その長い間すら、うっとりと楽しんでいた。

だが、またカーテンの裏を調べていたゲープ隊長は、そっと彼に近づいた。

すばやく若者の細い肩を叩き耳打ちする。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。続きを忘れたのなら、何か知っている曲を弾き始めればいい。みんな気付きやしないさ」

 

 

 

*芸術と予定

 

警護の打ち合わせのため、大臣宅を訪れていたコニーとデミアだったが、階段上の廊下に飾られた現代アートの前で、コニーの足が止まってしまった。

ハッとしたように絵の前で立ち止まったコニーは、絵の前を離れず、じっくりと眺め、ほうっと長い溜息を吐き出す。

「なんだ? どうしたんだ? コニー?」

「この画家の絵に、こんな場所で会えるとは思わなかった……」

コニーの緑の目は、まだ額縁から離れない。

「いい絵なのか?」

「デミア、お前はこの虚無感がわからないのか? この画家が、どうして正常な精神のままこの絶望を絵筆であらわすことができるのか、俺にはわからない。どれほどの痛みを人生で味わえば、こんな絵が描けるのかわからない。この色は、金持ちがちらりと眺めて、人生の憂鬱を味わうためにある色じゃない。この絵から感じる不安さは、生そのものの不安さだ」

「なるほど」

デミアは、重々しく頷いた。

「コニー、土曜の予定は?」

「自殺してるかもな……」

「そうか、じゃぁ、飲み会は、金曜な」