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*命の価値

「そのうち、殺されるかもな」
物騒な事柄が囁かれているのは、出動のための準備を整える備品庫前だ。
隊員たちの顔には笑いが浮かんでいるが、しかし、どこか引きつり気味だ。
「あいつら、突入すれば、なんでも解決すると、思ってやがる」
新人のぼやきを否定しない4番隊員は黙々と準備を進めており、隊長であるゲープですら、緊張に顔をむつりとさせたまま、やはり、フランクの言葉を諌めはしなかった。
成績のよいチーム50は、それゆえ、現場の状況が厳しければ厳しいほど、作戦本部から出動を要請される。
そして、過酷な状態で、事件解決を要求されるのだ。
あまりにも重い空気に、予備の銃を腰の後ろのホルダーに隠すコニーが、咳払いをする。
デミアは、すぐ、追いつくからと、ゲープに声をかけると、本部へと曲がる廊下に姿を消した。



「ゲープから、本部へ。犯人を確認。このまま待機ですか? 本当に待機のままでいいんですか?」
「ああ、待機だ。お前たちの命を危険に晒すわけにはいかない。もう少し待て様子を見る」
「わかりました」



だが、しかし。
「ゲープから、本部へ。二時間前と状態は変わりません。……本当にこのまま待機でいいんですか?」
「いい、そのまま、待機だ、ゲープ」
いつもとまるで違うアンホフの言葉は、ゲープに怪訝な気持ちを抱かせた。




「ゲープから、本部へ。本部の作戦に変更は……?」
「ない。ゲープ。そのまま待機だ」



珍しく事件は、隊員たちに危険を課さず、時間が犯人たちを消耗させるに任せて解決を迎えた。


「なぁ、今日の作戦本部はおかしくなかったか?」
ひたすら犯人とにらみ合うだけだった現場から帰るゲープは、隣を歩くデミアに尋ねた。
「ん?」
「お前、出動前に、あっちに行ったな。何をしたんだ?」
「……あー。……いや、ちょっとしたジョークを披露してきた」
「は?」
思いがけない返答に、馬鹿にするなとゲープの額には皺が寄っている。
「生きて本部に戻ったら、オチを話すと約束しておいた」