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*臨機応変

2番隊員と3番隊員が訓練所で机を並べていた時の話だ。
その日、教官は急に用事が入り、どうしても講義の時間に遅れそうだった。
しかし、訓練生たちの実施訓練開始までの猶予は短く、仕方なくマレクは講義内容をテープに吹き込み、流してくれるよう頼み、せめて最後の十分だけでも授業に出、質問を受け付けようと教室へと急いだ。
廊下を急ぎ足で歩けば、自分の声だけが聞こえ、とても静かだ。
さすがに、GSG−9の訓練生として候補に挙げられた奴らばかりだと、マレクがドアを開けると、壇上のテープレコーダーの声を、訓練生たちの机に置かれたレコーダーが録音している。
誰の姿もない。
「……あいつら!」

研修所を抜け出し、昼飯を買いに出る訓練生たちの中に、顔を曇らせるその後のチ−ム50のサブリーダーと、その反対にのびのびと飛び跳ねる3番隊員がいた。
「デミア、つい、お前の言い出した案に乗ってしまったが、やはりこれは」
「コニー、お前、時々、本当にバカだな」
テープレコーダーでの録音の首謀者は、自信満々に笑う。
「そんなんじゃ、実施研修の前に、マレクに落第をくらうぜ? これは、俺たちがどう対処するかのテストなんだよ。いつもマレクは言うだろう? 現場は臨機応変だ。お前たちに頭がついているのはその為だ!ってさ」


「在宅かどうか、現在本部が確認中だ。ここは、慎重にまず様子を見よう」
チーム50のサブリーダーであるコニーは、仲間たちの同意を求め、じっと顔を見回した。
だが、デミアはふっと顔をそらす。
「なぁ、だったら、いるかいないかあそこの公衆電話から、」

無言でゲープはすっと手を出し、携帯電話をデミアから没収した。