一部だけで、その人だとわかるパーツを多く持つというのは、人の気を惹く上で重要な意味を持つ。と、思う。

 

オーランドはホビット達と一緒になって撮影を見ていた。セットの中では、いわゆる人間組みが、真剣な顔をしてお互いの顔を見詰め合っていた。

何度も繰り返し同じ顔を要求されている。

次は、少しだけ、表情を変えた動きを要求される。

カメラの角度が変わる。ライトの位置が動く。

注文どおりの演技が繰り返される。

テイクが増えていっても、テンションが下がらない。

カメラに全身を舐められている二人は、熱いライトの下、汗ひとつ零さない。

邪魔にならない声の大きさで、次に自分が入るシーンについて、ドムと打ち合わせしながら、オーランドは撮影から目を離さなかった。

椅子が入り乱れた休憩場所と同じくらい撮影機材でとっ散らかったセットの中は、二人がいるだけで中つ国だ。

キャリアの違いはいかんともし難く、時々、あそこに入っていくことをオーランドは恐いと感じた。

自分だけがフレームのなかで浮くのではないか。と、思うのだ。この恐怖はスタートの声が聞こえるまで続く。スタートの声が掛かっても消えないときは、自分でも分かるほど酷い出来になる。

人間組は同じテンションで視線を外さない。オーランドの視線も外れない。

オーケーの声がかかった。

途端に、現場の空気が緩む。

人間組がセットから出てきた。

セットからでると、ショーンが衣装の止め具を緩め、渡されたタオルで身体を拭いはじめた。

それを笑うヴィゴも、熱そうに喘いでいる。

水を渡され、二人は交互に口をつける。

二人は二匹の大型犬のように鷹揚にじゃれあいながらオーランドたちに近付いてきた。

椅子を引き寄せ、腰かける。もう、ただの現代人だ。それもおしゃべりで、汗かきの俳優だ。

ヴィゴの正面にショーンは腰をおろした。ちょうどオーランドと背中合わせだ。

「なぁ、オーリ、キャンディもってないか?」

今晩何時までに上がることが出来るかを人間同士で仲良く賭けているかと思ったら、ショーンは、オーランドの背中をつついた。

「キャンディ?この暑いのに?」

オーランドが答える前に、ヴィゴがショーンを笑った。

「ヴィゴには、聞いてないだろ?暑いからこそ、甘いものを取るんだよ。甘いものを疲れから身体を守ってくれる」

「ついでに、病気にもしてくれるけどな」

「ヴィゴは食わなきゃいいだろ。オーリ、持ってない?」

「持ってるけど…レモンだよ」

以前、レモンとストロベリーを差し出して、ショーンは躊躇いもなくあまいストロベリーを手に取った。それを覚えているオーランドは、すぐさまショーンにキャンディを渡すことを躊躇った。

ショーンは、少し残念そうな顔をしながら、それでも、オーランドに向かって手を伸ばした。隠しになっているポケットからレモンのキャンディを取り出して振り返ったオーランドは、ビックリするほど間近にあったショーンの顔を覗き込んでにやりと笑う。

「今度は甘いの用意しとくよ」

「サンキュー。オーリ」

ショーンは、包みを破り、口の中へと放り込んだ。口の中の赤さが印象的だった。

そういう意味では、キャンディーの包み紙を弄ぶ、ショーンの指の長さも捨て難い。

キャンディのやり取りを終えると、オーランドとショーンは、それぞれの話題に戻った。背中に互いの体温を感じる近さでだ。

距離の近さは秘密の恋人同士にとって魅惑的だった。ショーンの指が、ヴィゴの視線をかいくぐり、オーランドの背中に悪戯を仕掛けていた。長い髪を時々引っ張り、衣装のベルトと腰の間に指を突っ込む。

くすぐったさにオーランドは、背中を向けたままショーンへと手を伸ばした。

待ち構えていたように、ショーンの指がオーランドに絡む。

少し汗ばんでいた。

指が、オーランドの機嫌を伺うように、接触をそっと繰り返す。

オーランドはふざけるようにショーンの掌をつねった。

ショーンの背中が、びくつく。

オーランドは、肩が笑いで震えるのに耐えた。

隣に座るドムが、機嫌のよいオーランドにますますおしゃべりのテンションを上げる。

ショーンの指が、オーランドの手の平を何度もなぞった。

くすぐったさに耐えていると、オーランドはそれが文字だと気付いた。

OK?」

と繰り返している。オーランドは、ショーンの掌に、同じ文字を書いた。

秘密の約束が成立だ。二人の指が共演者たちに内緒で絡む。

 

結局、昼間の約束が実行されたのは、夜11時を超えてからだ。

明日のことを考えれば、互いに別の寝床に入り込むことが利口だったが、オーランドは、ショーンを家へと招待した。

スクリプトについて話し合いたがるヴィゴをショーンがやんわりと断り、昼間あんなにしゃべっていたのにまだショーンを引きとめようとするPJをオーランドが車へと押し込んだ。

二人きりになり、オーランドの家の内鍵を、ショーンがかける。

ドアにオーランドを張り付かせたまま、キスで唇を塞いで、長い指が、鍵を回す。

「どうしたの?」

息継ぎの合間に、オーランドはショーンの目を覗き込んだ。

「キスしたかったってのは、理由にならないか?」

「キャンディが、甘くなかったから?」

ショーンは、表情を緩め、薄く口を開けるとオーランドに覆い被さった。オーランドは、柔らかい舌が絡みついてくるのを受け止め、舌の裏側を舐める。

ショーンが浅く息を漏らす。

オーランドはショーンの背中へと腕を回して、綺麗な肉付きを手の平でなぞった。

ショーンの綺麗な形の指が、オーランドの髪を撫でる。耳に触る。

顔を撫でていく。

オーランドは、なめらかな指の感触に目を細めながら、背中のドアについて考えた。

たった一枚の板なのに、昼間あんなにもシャイなショーンをここまで変えるのだから、魔法のアイテムに違いない。そういう意味では、鍵も重要な呪文の一つだ。

ショーンの指は、重ねている唇の周囲を辿り、両手で顔を挟むと、もっと深いキスをねだった。

オーランドは、望みどおりにする。しかし、充分過ぎないほどでやめておく。

唇を閉じたオーランドの赤い粘膜をショーンの舌が舐める。

「がっついてんね」

「意地が悪いな」

「そういうショーンって、見てるのが楽しいからね」

「余裕をかましやがる」

ショーンは、長い指を充分に活用して、オーランドの顔を押さえ込むと、ドアへと押し付け、唇を優しく挟み込んだ。

「まだ、ベッドへ行こうって誘わない気か?」

濡れた目をして、ショーンがオーランドを見つめた。

恐ろしいくらいにオーランドのプライドを擽ってくれる目だ。

たまらない気分になる。

オーランドは、唇をあひるのように突き出して、ショーンの頬にキスをした。

オーランドの身体を撫でるショーンの指に、指を絡める。

繋いだ手で、ショーンの体を撫でる。

張り詰めたピップをショーンの手で撫でる。

「いい顔してる。そんな顔しないでよ。我慢できなくなるじゃん」

「我慢してくれなんて言ってない」

「…ほんと、どうしちゃったの?嬉しいけど」

「理由がいるのか?」

「まぁ、甘いキャンディの代わりって程度でいいんだけど」

「キャンディじゃなくて、オーリが欲しいんだよ」

ショーンは、おしゃべりなオーランドの唇を、指先でなぞり、唇の上へ、「しっ」っと指を立てた。

その指の上から、唇が重なる。

「誘ってくれるか?」

「誘うよ。勿論」

指を舌で舐め、ショーンにすこし擽ったい顔をさせると、オーランドは、さっさと玄関の電気を消して、ショーンをベッドの上へと連れ込んだ。

 

ベッドの上で、ショーンがシーツを掴んでいた。

何度も握る部分が変わる。

落ち着かない。

上から掌を重ねると、指を絡めようにする。でも、しばらくすると、また、シーツの中をさ迷いだす。

仰向けにつながっていたときには、オーランドの身体を触りつづけていた長い指が、シーツの襞に隠れてしまう。

「いい?」

背中に浮いた汗を唇で吸い上げて、オーランドは、ショーンを揺さぶった。

短い声がショーンから上がる。

「いい」

意味をなさない声の合間に、律儀にショーンが言葉を吐き出す。

どんな顔で答えているのか、見たくなってオーランドはショーンの顎へを指で掴んだ。

潤んだ緑の目。上気した頬。早くなった息を吐き出す薄い唇。

ブロンドは、背中からだって見えるが、はやり顔を演出しているときが、一番効果的に生かされていると思う。

オーランドは、ショーンの中から一気に引き出し、ショーンを仰向けに転がすと、足を抱え込んでもう一度、入れなおした。

ショーンの喉から、悲鳴が上がる。甘い、甘い、耳を優しく震わす悲鳴だ。

オーランドは、気持ちのいい内部をかき混ぜて、ショーンの声を満喫した。

ショーンの指が、オーランドの手に触れ、次第に腕へと這い登る。

肘の折れ曲がる内側、擽ったい部分を、しつこく撫でる。

きついスライドを繰り返しているときには、掴まるように、しかし、ゆるく、遊ぶように腰の動きを抑えると、途端に、ショーンは、オーランドの柔らかい皮膚を擽りだす。このしつこさは、意識してないとしか思えない。

可愛らしい仕草だったが、あんまりくすぐったくて、オーランドは、笑ってしまった。

ショーンは、動きをとめたオーランドに顔を顰めて腰を動かす。

「ショーン、くすぐったいんだ。指、外してよ」

「え?」

「これだよ。この部分、くすぐったい。ずっと触ってるんだよ。我慢できないくらい、くすぐったい」

「我慢しろよ。オーリのこと触りたいんだよ」

「じゃ、別の部分にしてよ」

背中へと手を伸ばそうとしたショーンの手を止め、オーランドは、ショーンの中から硬くなったペニスを引き抜くと、それをショーンに握らせようとした。

ショーンは、抜け落ちたペニスに切ないため息をもらした。それから、じろりとオーランドを睨んだ。

「とことん、意地の悪いことがしたいって、訳か?」

「たまんない顔だからね。ちょっとだけ、綺麗な指で俺のこと可愛がってよ」

「嫌だね」

ショーンは、オーランドをベッドへと押し倒すと、その上に乗り上げた。

有無を言わせず、オーランドの上に身体を埋める。

その感触は、ショーンだけでなく、オーランドにも声を上げさせた。

ペニスを柔らかく最高に気持ちよく肉が締め付けてくる。

「すごい、サービス」

「黙れ」

「このまま、ショーンがサービスを?」

「だから、黙れって」

ショーンは、オーランドの口を塞ぎ、腰を使い始めた。

肉感的な身体がうねる様を、オーランドは、唇に触れる指に口付けならが、見上げていた。

細く開いた口から、擦れた声が漏れている。

眉が苦しいように寄せられている。

ショーンのサービスは申し分のないものだったが、オーランドは、恋人の務めとして、時々突き上げ、ショーンにも愉しんでもらった。

そのたびに、ショーンの指が、きつく握り締まられる。

内部も応えるように、熱くうねってオーランドにため息を付かせる。

ショーンは、オーランドの刺激をやり過ごすと、また、浅く腰を動かしはじめた。

コントロールのきく範囲で、遊ぶように快感を貪っている。

うっとりとした顔をしている。

オーランドは、揺れる腰を掴んで、その範囲を少しだけ大きくした。

ショーンの表情に、甘く苦しい影が浮かぶ。

腰を掴むオーランドの指に、長い指が絡む。

じっと見つめつづけるオーランドの目に気付いたショーンは、指を伸ばして、黒い目に覆いを作った。

「見せてよ」

ショーンは、返事をしないまま、腰を動かし続けた。

「顔を見せて。エロい顔してるんでしょ?見せてよ。いやらしい顔をみせてみなって」

オーランドは、目を覆う指を外そうとはせず、腰を掴む力を強くして、深く何度も突き入れた。

ショーンから、焦ったような声があがる。

腰がオーランドの上に乗り、刺激を待つように、動きを止めている。

オーランドは、ショーンの快感を計算しながら、突き上げる方向を変えていった。

「顔を見せな。人のペニスで気持ちよくなってる顔を俺に見せろって」

ぐいぐいと深く押し付け、奥に先端を擦りつける。

「ショーン、手をどけな」

ショーンは、喘ぎ以外のなにものでもない声を上げながら、オーランドの口を塞いだ。

顔中を長い指が覆う。

めろめろになっているくせに、まだ落ちてこないショーンに苛立ち、オーランドはショーンの指を舐める振りで、中指を口の中へと誘導した。そこに強く歯を立てた。

「痛っ!!」

痛みに強張ったショーンの体は、強くオーランドを締めつけた。

その波をやり過ごすために、オーランドは、益々ショーンの指を強く噛む必要があった。

「オーリ!」

全く色気のない声で、ショーンがオーランドの名を叫んだ。

目を覆っていた手が離された。光の中でオーランドを見下ろすショーンの顔が、痛みに歪んでいた。

噛まれている指は、まだ、オーランドの口の中だ。オーランドは、噛んでいる間接の部分に歯を食い込ませた。

「痛い!」

ショーンの手が伸びてきて、指がオーランドの口をこじ開けようとする。

オーランドは、ますますきつく歯をかみ合わせた。いけないな。と、思うのだが、ショーンの締め付けが気持ちよく、そして、なんというか、こういう倒錯的なことに、いけない魅力を感じなくもない。

「痛い。痛い!」

ショーンの目に涙が浮かんだ。オーランドの顎も、きつく掴まれぎりぎりと痛みを訴えていた。

「離せ!離してくれ。オーリ、オーリ。食いちぎる気なのか」

ショーンは、歯の間から無理やり指を引き抜こうとしていた。口の中に血の味を感じで、オーランドは、慌てて噛むのを止めた。

ショーンは、指が自分の下に戻ると、歯形のついた部分をじっと見、唾液に汚れたそのままの手で、オーランドの頬を打った。

手加減されていたとはいっても、充分痛かった。

「ごめん。冗談のつもりだったんだけど…噛んでたら気持ちよくなっちゃった」

もう一度、反対側の頬を打たれた。

「ごめんってば。ねぇ…許してよ」

オーランドに跨ったまま、顔を背けるショーンに、オーランドは、そろそろと手を伸ばした。

「ねぇ、指、見せて?痛い?痛いよね。ごめんね…ショーン」

オーランドのペニスは、硬く張り詰めていたが、ショーンのペニスは、セックスの続行を望んでいなかった。

オーランドは、自分のやりすぎに内心眉をひそめて、歯形のついたショーンの指に唇を寄せた。ショーンは、音を立てて何度もキスを繰り返すオーランドを睨んでいる。

「ごめんね。痛いよね。ごめんなさい」

一生懸命オーランドは謝ったのだが、そこから先は、残念ながら、終わるための義務がルールのセックスだった。

 

二人が不機嫌なまま目を覚ました朝の日は、回りに影響を与えることもなく、時間を消化していった。

今度は、オーランドがカメラに収まっている。

オーランドは、長い髪をさり気なく優雅に見せていた。

「あいつ、才能あるよな」

ヴィゴが、顎をしゃくって、ショーンにオーランドを指し示した。

「言わないけどな。ああいうタイプは、調子にのると恐いもんなしになるから、絶対に言ってやらないけどな」

ヴィゴは、にやにやと真剣な顔をしたオーランドを笑う。片手に剣を持ったまま、くしゃくしゃになったスクリプトには、書き込みの赤が見える。

「懐いてるのに、酷い言いようじゃないか」

ショーンは、同じようにオーランドに視線を送り、美しい立ち姿をみせているオーランドを伺った。オーランドの意識は、すべて存在しない中つ国に向いていて、こちらの視線になんて全く気付いていない。

「可愛がるってのは、実力以上のとこまで煽てるって意味じゃないんだぜ?ショーン」

ヴィゴは、ショーンの態度を笑った。

「あんたは、猫可愛がりするからな」

「そうかな?」

「そうだろ。みんな誉めてくれって、あんたの周りに群がってるじゃないか…かくゆう俺もその一人だけどな」

カットの声に、エルフが駆け出す。

椅子がゴールのように、全力疾走だ。

ショーンの前で、緊急ブレーキをかけ、勢いを殺すと、そのまま、覆い被さった。

「ほれ、来たぞ。大型のワンコだ。誉めてやれよ。頭を撫でてやったら、もう一つくらい芸をするぞ」

ショーンは、ヴィゴの言い方に、苦笑を漏らすしかなかった。

ショーンにハグしたまま離れないオーランドの周りに、ホビット達も寄ってきた。

面白がって、オーランドの背中に覆い被さる。

「…重い…」

ショーンは、うめいて、被さる頭を一つづつ叩いた。

全部で4つだ。

しっかり者の、ショーン・アスティンを除いて、全員面白がっている。

ヴィゴまで、椅子から立とうとしている。

「暑い!お前ら退け!」

ショーンが怒鳴った。

押しつぶされながら、オーランドは、ショーンの耳へと言葉を吹き込んだ。

「ごめんなさい。もうしないから、許してください」

ショーンは、オーランドの頭をもう一度叩いた。

「ほら、退けって。これ以上、乗っかってると、誰のことも許してやらないからな!」

慌てたように金の髪のエルフがもがく。

しかし、如何様王が退きかけていたホビット達を押しつぶした。

椅子が激しくきしむ。勿論、人間だってうめかずにはいられない。

「ヴィーゴ!!!」

 

オーランドはショーンの機嫌を取ろうと用意していたストロベリーのキャンディを旋毛を曲げたショーンに差し出した。

他のメンバーは、撮影開始の声をいいことに、セットの中に逃げ込んでいる。

ショーンは、ちらりと手の上のキャンディを見て、オーランドへと長い指を伸ばした。

指には、オーランドの歯形がまだ残っている。

「ごめん」

「もう、いい」

「許してくれるの?」

「今晩も、オーリんちに、邪魔しに行く。覚悟しとけ」

ショーンの指がピシッとオーランドの胸を突いた。

オーランドは、かばんに詰め込んでいたチョコレートも全て差し出し、にっこりと招待の言葉を口にした。

 

END

 

 

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